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涙のViolence-final

誰もが幸いと言うべきだったのだろう‥


何故か被害の訴えもなく僕は簡易裁判所判事の前に刑務官を伴って手錠つきで聴取

を受けていたが、民事訴訟に及ばなかったという事になる‥


前面後退型薄毛の彼は、御白洲の前で罪人は目を泳がすものだと定義していた

ようで、不遜な僕に苛立つように言ったものだ‥


「子供相手に暴力を振るうとは非常識も甚だしい‥君は反省しているようにも

見えないな!」権威に対して堂々と凝視するな! とばかりにギョロリと睨んだ。


反省?‥彼には容認できない幾つかのタイプの一つが僕だった‥

獣野郎やサイコ相手に民主主義とは笑わせる‥


そう思う僕は、彼の好まざるところ最第一の異常者には違いない。

ついでに言わせてもらうならな‥


歴史に在る通り、経済破綻最後策の大戦や‥魔族の画策する紛争で

不均衡な経済を回す事や、追随する御前達こそ最極悪だと

僕は思っているんだから不遜な筈さ‥


大事を招く小事の子供だからこそ、駄目なものは駄目とする命懸けの大人がいる

危険を知らせるべきだろう‥犬や熊なら一咬みしても、あの世行きだぜ‥


風に吹かれて難なく生きてきたものには、到底知り得ない天然の法則だよ‥

と思っちゃっている‥


「正直なところ‥理不尽に入院させられたり殺されたり、温和しく受け入れる

自分ではありませんね‥」そうした言句に激怒した彼は‥


自身の権限が及ぶ最高罰を僕という不埒者に科して、三十万の罰金刑と

十二日間の拘留延長になっちゃったよ‥


留置所に帰る車中で、同情した警察官が僕に打ち明けた‥


「ああ言う餓鬼どもは、もっと厳しくすべきだなんだよ‥

俺もこの間、蹴られたけどね‥手を出さないのを良い事に、


蹴ったがどうしたよ! おー何かできんならやってみろよ! そんな調子でね‥

投げ飛ばしたかったよ正直なところ‥」

 

現場から遠くなるほど現実認識が不明瞭になるものだろう‥


どうであろうと僕はさ、何時だってMother Mary comes to me

Speaking words of wisdom, let it be‥



―――


「今度、事務所に訪ねて来なよ‥」別れの時、彼はそう言って所在を伝えた。

(いや、いや、いや、いや、‥) 不思議の縁とはこうしたものなのか‥


それで落ち目ヤクザの構成員になりましたって展開も、そりゃそれでも

よく在る世の中でしようけど、んで一億総ヤクザ?‥あらー

いったい僕は何と闘い何に抗おうとしているのか?


けど鬱屈としている獄中の僕を慰撫して守護したのは、紛れもないその世界の

組長で、その実は、気まぐれを起こさせる内奥にある

"憑依"した女神そのものだったけどね‥


彼には或る種の魅力を感じさせる人物で、気にはなったが、

勿論の事、僕は極道には向いていない。


どのような組織であれ、人を束ねて統率するものは、生まれながらにして

特異な位の生命境涯だが、それも此処では余談としようね‥


―――



犬達も遠吠えをする事を知る人は‥多くはない‥

人の都合で姿さえ変えられても、体を流れる太古の血脈を頑固に踏襲している。


時に不安を、時に寂しさを、時に哀しみを歌い上げ、同調した同胞は呼応して、

合唱し、狼であったもの達の心を融合へと誘う‥



狗娘達の中には、再会する喜びの余りにオシッコをチビるものさえいるんだよ‥

それは服従の儀式を歓喜の表現に変えたボディランゲージなんだけどね。


たった一~二時間の別離でさえ短くは無い彼等にとって、


長期不在後の再会は、まるで祭典の様相を表す‥

彼等にとっての外界は一歩踏み出した時から奪命の罠に充ちているからね‥

人はそれを直視したくないのだろう‥


彼等の輪に融けて僕も再会に暫し熱狂する‥それが彼等のルール‥


彼等に囲まれて目を閉じる‥種々の失望と怒り、負の力有は内蔵の細胞甦生を

阻害するものだから、彼等の不安を取り除き慰撫の力を放射する‥


まるで電池を直列すれば平均化するように、彼等の思念は自らの命を削りながら、

僕の体を駆け巡り、損傷した細胞を点検し、甦生させていったよ‥



―――



「どうして、其処までする必要があるの?」犬の保護活動をしている貴藤美雪が

眉間を曇らせて僕を叱った‥


年齢差があると言うのに、逆に彼女は何時も僕を子供のように(たしな)める‥

互いに好意に似た感情を持ってはいるのだろうが隠し続けてはいる‥


それは彼女が既婚者であり、互いに越える事のない壁を築いていたからだ‥

そう絶対にそれを越える事はない友人だ‥



高い信念を持っている彼女でさえ僕の行動は理解し難い、代務してくれる従業員が

存在したとは言え、親会社の責任者に一言も無く失踪してしまったのだから、


後始末はそれなりに手間ではあった「傷害で留置されてました」とは言えない。


仕上げは残っていて相手の出方次第では、全てを友人達に託さなければならない

事態も想定できるから、狗娘達の事を信頼している貴藤美雪に打ち明けたのだ‥




彼女の知性は時に嫉妬を呼び起こし、時に僕を緊張させる存在だった‥

見せて貰ったアルバムの中の小学生であった彼女は、いつも猫や犬を抱いていた。


中学の修学旅行の時でさえ目敏く子犬を見つけては、抱き締めて振り返る姿が

友人達に依って写真に残されていたくらいだ‥


それは幾千幾万の昼と夜を"愛し合った妻"美華子と全く同じ光景だった‥


―――



僕は傷害した少年宅を唐突に訪れた。


「あんな奴ずっと留置所に入れときゃいいんだよ!」


僕が釈放された事を知った胡蝶蘭と刺繍したジャンパーをリータに奪われた少年は

母親に、そう言い放ったそうだ‥


その母親は当初、僕に蔑みの視線を投げたが、差し出した慰謝料をみるなり

ニンマリと笑いを返したが、少年は終始俯いていて僕の目を見る事は無かった。


暴力の末に傷害事件となれば、それまで無機質だと思っていた筈の人々が、

一斉に動き出して加害者を罰しにくる事を、鰐口少年は学んだはずだ‥


どういう力が働いたのか、ヤクザと言われる親爺は一度も僕の前には現れずに、

鰐口本人と祖母が対応に現れた。


彼女は全ての経緯を知って秘かに心を痛めていたのかも知れない。

或いは全てが偽情報だったのかも知れない‥



逆に僕の行為と存在こそが周囲を驚愕させていたのかも知れなかった。



祖母は「うちのこの子も悪かったのだから‥」と僕に言った‥

保障総額で百万程度の損失だったが馬鹿馬鹿しい出費だった事に違いはない‥


加害者を演じた僕は、神にさえ不遜な男だ‥

「もうこんな馬鹿な事はやめさせて、仲良くできるよな?」

鰐口少年に最終確認をして、彼は黙って頷いた‥


彼等が荒れて求めているものは、何時の時代だって必死になってくれる大人で

あり、駄目なものは駄目と正しく伝えてくれる"手本"の筈だ‥


手遅れになる前の早いうちだからこそ必要な事だった‥僕はそう思っている。




―――


平穏な日々は戻っていたが、その一~二ヶ月後に二人の刑事が僕の家を訪れ、

温厚な表情で幾つかの質問をした後に、簡単な世間話をして帰って行った‥


その後、この同時期に二件の襲撃事件があった事を知らされた。


被害者は胡蝶蘭グループの関係者だったそうだが、警察も真剣に取り組まなかった

のだろうか犯人は捕まらなかった。


そう言えば‥朝礼の時に確認された包帯をしていた胡蝶蘭グループの数が多すぎる

報告を聞いてはいたが、それほど気にもしなかった。


いずれにしても襲撃者がいたという事だ‥


アノニマス/ガイ・フォークス現象‥今でもそんな言葉は無いけどね。

そう言えば解り易いかな‥

襲撃者となる怨みを持つ者は多かった筈だよ。


何処へ飛んで行くか分からないトカレフが火を吹く事も無く幸いな事だった‥

行政などの機関が組織的な対応をした痕跡は無く、


互いに面識も情報の交換も皆無だったが、個人として教育者と警察官の双方に、

協力者は存在した。


その後、この中学での暴力団を模倣する連鎖的少年集団は壊滅した。


この二件の自殺に関わった加害者側生徒数人の

近況を風の便りに聞いた時‥振り返れば賞罰は明らかだった。


竜太等のliveに因縁を付けに来た生徒は、やがて結婚し夫婦して親と同居していた

が、手伝っていた父親の土木業が倒産し負債を抱えたうえに、


居候と感じていた嫁を気に入らないとする母親が離婚させて、追い出したと言う‥

一家揃って惨憺たる有様だという事だ‥


僕を「もっと留置しとけ」と言った少年は、結婚もして子供も儲けたが、

リフォーム業の失敗で、金の切れ目が縁の切れ目となり、離婚して親権を失い

親元に転がるように帰ってきたそうだ‥


一々に調べている分けではないから真偽のほども、他の五十名ほどの近況も

実には分からない‥

この先も人の運命は閉じられるその日までは、分からないものだろう‥



対照的だったのは九条竜太の運命だ‥

当時の彼は学力も高いとは言えず、定時制高校も失敗して正業にも就けず、

ガードマンや惣菜屋のアルバイトなどを繰り返して、

周囲に心配させていたものだったが、


同級生だった女子と結婚し十数年の時を経て、三人の子宝にも恵まれ大企業傘下

の中小企業で次長(部長の下)になっていた事だった‥


当初、彼女の叔母は短大まで生かせた娘を、なんで中卒なんかにやるんだと

両親に言っていたそうだと聞かされていた僕は、溜飲を下げたものだった‥


生まれや体裁を最大一の価値とする風潮は心底、染まり上がっている時世で、

並の努力では無かった事だろう‥


部下を可愛がり上司に可愛がられた運命の萌芽は、何を以て

何処で変転したのだろうか‥


「社長になるには四億いるそうですけど、俺はなります!」正直‥涙が滲んだ‥




それから僕は、電動自転車を買ってリータとベールの運動をするようになった。

小学生との約束もあったが、彼女達に衰えが見え始めたからだ‥


僕の守護役に相当なエネルギーを消耗したかのように老けてしまった‥

それでなくともリータは医者に癌宣告されたにも係わらず三年も生きていたのだ。


いや彼女達こそ、僕の受け取るべき災難を背負って逝ったのではないか‥

そう思える僕達のHistoryだった‥


彼女達の為に、家のリフォームを或る時期に地元の業者に依頼したのだったが、

施工にやってきた三人の若者が、僕には聞こえていないと思ったのだろう‥


「あのオジさん?」「うん‥そう」との囁きが漏れ聞こえてきた‥

一ヶ月ほど彼等は良い仕事をして行った‥


そうして貰われっ子ウランと捨て犬アンジュが僕の処に現れた頃から、

"ふたり"に全てを託すように、十頭の狗娘達は次々と此の地を去り始め‥


僕の心は、何より‥涙の涸れることがなかった‥










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