第三首 ホワイトデー -參の句- 昔々の物語。
「”若紫”はお前、”三木みさと”という一人の男に、恋焦がれても、良いのかえ?」
短くも、わちしの精一杯の問いかけに、みさとは感嘆の声を漏らしただけで、彼の表情は、出逢ったときと同じように固まってしまっている。……返事は、すぐに、此方の袂へ届けられそうもない。
「……みさとやい、わちしの噺を、聴いてたも?──ただのわちしの、独白故に、構えることはせずともよい。」
みさとは神妙な面持ちを少しばかり解くと、「わかった。」とだけ返してきた。
「うむ、誠、その心遣いや、ありがたきこと。」
……わちしは、これからみさとに、わちし自身のこの胸の内と、昔日の真実とのありのままを伝えることに、少なからず緊張を覚えながらも、しかしその前に、わちしの噺に耳を傾けてくれるというみさとへの、感謝の言葉だけはしっかりと伝えた。
「それはまだ、あのじじ様が、生きておられた、ときのこと────。」
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今は昔、わちしは、平安京の世にて生まれ育ち、生きていた。
わちしのことを源氏様は、”若紫”とお呼びになり、それはそれは、大層好んでくださった。
愛して、くださった。
傍らにはいつも女子がついて回るほどの才色兼備を誇る源氏様であったが、それでも、わちしを好いてくれていた。
なにものにも代えやうのない"幸せ"がそこにはあった。
……しかし、いと麗しきこの日々は、唐突にその幕を下ろしてしまうのだった────。
────第参首 -肆の句- ニ續ク。