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マーメイドウィッチ  作者: いろはうた
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揺れる瞳

結局、フレヤはアルハフ族の前の長に会うことを許され、


さらに滞在の延長も許された。


フレヤの横顔には、前のような淀みはもうなかった。


面会の帰りに、ふと、人影が目の端に映った。


昨日の兵たちだ。


フレヤはその方向に向かって、歩き出した。


その背後からチノが歩いてくる。


数か月間に、王国を歩き回ったことを思い出す。


あの時もこうして歩いていた。


民のために、自らの足で。


いつもは一人だったのに、その後ろを影のように静かに


だけどしっかりと支えついてきてくれる存在ができた。


足が止まった。


兵たちもこちらに気付いたのだ。



「王女殿下……」



彼らの視線がチノのほうへ向かった後、再び戻る。


やはり、彼らはアルハフ族に抵抗があるようだった。


フレヤはちらりとチノを振り返った。



「チノ、少し外してくれる?」



途端にチノからの無言の圧力。


おそらく、心配、してくれているのだと思う。


兵たちはフレヤを連れ去ろうとした者たちだ。



「彼らには、私の力が、効く」



短いけれど、有効な言葉だった。


さっと兵たちの顔色が変わった。


彼らは王宮の者たちだ。


フレヤの歌の力を、その威力をよく知っている。


チノはそれを見ると、何も言わずその場を離れていった。


その姿を横目で確認した後、フレヤは兵たちに向き直った。



「あなたたち、名は」



立っているままだと相手を威圧してしまう。


そう気づいて、衣の裾をさばいて地に膝をついた。


草の青々としたにおいが鼻をかすめた。



「い、いけません、王女殿下!!」


「名を聞いているのだけど」


「は、ひっ!!


 マシューです!!」


「エリッシュです!!」



フレヤは眉を寄せた。


表情が乏しい分、どうも昔から人を怖がらせてしまう。


しかし、それをフレヤが不機嫌であると捉えたらしい


マシューとエリッシュは真っ青になった。



「ああ、怒っているわけではないわ。


 あなた達と、話がしたくて」



二人は聞きなれないものを聞いたかのように怪訝そうな表情を浮かべた。


フレヤは言葉を探し選びながらぽつぽつと話した。



「マシューとエリッシュは、アルハフ族をどう思ったかしら」



唐突な問いかけだった。


急ぎすぎた質問だっただろうか。


だが、まどろっこしいやり方は好きではない。



「どう、といいますと……」


「彼らは、野蛮かしら?」



二人は黙り込んだ。


唇をかみしめ、言葉に迷っている。


フレヤは、静かにその様子を見つめた。



「あいつらは……普通の人間とは違う血が流れている」



押し殺された声だった。


静かに失望が心に広がる。


フレヤは瞳を陰らせた。


アルハフ族は何も彼らに乱暴をしていない。


むしろ、寝るための場所であるテントや衣服を貸し出し、


食べ物さえ分け与えていた。


縄で奴隷のように兵たちを縛りもしない。


アルハフ族は、王国の人間に何も思わないわけではないはずだ。


理不尽な迫害を受けたのだから当然だろう。


それでも、彼らは施しを与えた。


フレヤとチノの存在もあるだろうが、それでも彼らは譲歩してくれている。


しかし、何十年にもわたる偏見からは逃れられないということか。



(もともと無理があった作戦だしある程度は仕方ないわ)



しかし、フレヤは彼らの瞳が揺れていることに気付いた。


自分が今まで言い聞かせられてきたことと事実の差に


心が追いついていないようにも見えた。


決して、兵たちも何も感じていないわけではない。


沈黙が落ちた。


風が木々を揺らす音のみが聞こえる。


目を伏せて考え込む。


どうすれば、彼らの意識を変えられるだろう。



「そうだわ」



ふとフレヤはあることを思いついて、その場を勢い良く立ち上がった。

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