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マーメイドウィッチ  作者: いろはうた
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尋問

急いでその場を去りながら、ちらりと後ろを見てみる。


シウが笑みを浮かべながらゆったりとフレヤを追ってきていた。


それはもう楽しそうな笑顔だった。



(あの男、本当に性格が悪い……!!)



フレヤが困っているのを見て、心の底から楽しんでいる顔だあれは。


フレヤはむきになってさらに足をはやめた。


あちらのほうが足が長いからどうがんばってもいつかは追いつかれてしまう。


周囲に視線をさまよわせると、一斉に手が差し伸べられた。




「王女殿下、次は私と踊っていただけませんか?」


「いえ、次は私と」


「どうか、王女殿下」



見目麗しい貴公子達が次々と手を差し伸べてくる。


しなやかな手は上等な白手袋に包まれていた。


フレヤは彼らの顔を見上げた。


目を見ればわかる。


彼らはフレヤを通して己の栄光だけを見つめていた。


フレヤは足を止めて彼らに向き直った。


彼らの顔に、一斉に喜色が広がる。


フレヤはにこりともしないで言い放った。



「わたくし、一曲踊ったら少し疲れてしまったの。


 もう、さがらせていただきます」



貴公子達が笑顔を浮かべたまま固まっているのに見向きもしないで


フレヤはくるりと背を向けて歩き出した。


















吐息が漏れた。


自室まで走ってきたのだ。


自室の扉に手をかける。


コルセットをきつく締めすぎたせいで息がうまくできない。


フレヤは酸欠でくらくらする頭を扉に押し付けた。


なにを、やっているんだろう。


最後に親孝行をするつもりが、逃げ出してきてしまった。



「こんな、はずじゃなかったのに……」



驚くほど弱々しい声が漏れた。


自分はこんな人間だっただろうか。


こんな感情のままに動く人間だっただろうか。


いや、違う。


もっと自制が聞いていたはずだ。


計算高く、理性に従って動けていたはず。


なんて情けない。



「もっと……賢く動かないと」



フレヤはゆっくりと頭を上げた。
















フレヤは深くフードをかぶりなおした。


あたりは静けさに包まれていた。


舞踏会の喧噪は遠く過去に消えていた。


あのあと、生暖かい目でメイドたちに見られた。


おそらく、シウに恋をしてそのほかの貴公子達のダンスの誘いを断ったのだと


勘違いされているのだろう。


ものすごく訂正したいがこうなったら、その勘違いも利用するしかない。


だから、シウのもとに数日いく、という置手紙を残してきた。


メイドたちの阿鼻叫喚が目に浮かぶようだが、考えないようにする。


フレヤは夜の闇に紛れて、城をそっと抜け出した。


衛兵たちが門を守っているのを横目で確認してから、馬屋のほうに急いだ。


その身を包むのは乗馬服だった。


手に持っているのは数日分の食料と水だけだった。


王宮の台所からくすねてきたものだった。


なるべく物音を立てないように気をつけながら、馬屋にやっとたどり着いた。


ほっとして愛馬の鼻面を撫でようとした。



「どこに行くおつもりですか、王女殿下」



びくっとフレヤは指先を震わせた。


丁寧な口調なのに、ひどく投げやりな響きがこもっていた。


ゆっくりと振り返ると闇に紛れるようにして、チノが立っていた。


全く気配に気づけなかった。


皮肉げな口調にははっきりとしたいらだちが混じっていた。


その表情は機嫌が悪いのを隠そうともしていない。



「チノ……」


「どこに行くつもりか、ときいているんだ」



鋭く問われて、とっさに上手な嘘がつけなかった。


かすかにうろたえたフレヤを見てチノは目を細めた。



「おおかた、男のもとか」



嘲るような声にフレヤははっとした。


チノが別人のように冷たい目でこちらを見ていた。



「なにを、言って……!!」


「先ほども、男どもに囲まれてまんざらでもなさそうだったしな」



チノが、フレヤを傷つけるような言葉をわざと選んでいるのを感じた。


空には少しだけ欠けた満月が浮かんでいる。


おそらく先祖のオオカミの血が騒いでいるのだろう。


フレヤは押し黙った。


今のチノに何を言っても無駄に違いない。



「だんまりか。


 沈黙は肯定ってことだな」


「……チノには、関係ないわ」


「そうかよ」



フレヤはチノから目をそらした。


暗かった視界がさらに暗くなった。


驚いて正面を見るとチノの瞳が驚くほど近くにあった。


はっとして横を見ると、すぐ近くにチノの腕があった。


とっさに後ずさろうとするが、背には馬小屋の壁がある。


チノの腕が檻のように囲って動けない。


フレヤはひどく動揺した。


やめて、と拒否の言葉がのどもとで引っかかって出てこない。



「おれは今、ひどく気が立っているんだ。


 下手に抗わないほうが身のためだぞ」



ぐいっと顎をつかまれて、無理に視線を合わされる。


酷薄なまなざし。


獲物を見つめる獣だ。



「それで、どこへいくんだ?」

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