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マーメイドウィッチ  作者: いろはうた
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ワルツ

シウに手を引かれて大広間の中央まで導かれるようにして足を運ぶ。


緊張しすぎて、ドレスの裾を何度となく踏んでしまいそうになりながら


毅然として見えるように精一杯ふるまった。


シウの視線は強い。


本人にはきっと自覚はないのだろうが、その瞳で見つめられると


身を焦がされてしまうような錯覚すら起きる。


ゆるやかに音楽が流れだした。


フレヤはステップを踏み出した。


ふわりとドレスの裾が揺れる。



「うまいではないか。


 おとぎばなしの人魚姫も踊りの名手だと聞いていたが」



シウはフレヤが警戒しすぎて緊張していることも


すべて見抜いたうえで軽口をたたいてくる。


周りからは話しているように見えないようにしているため


ただフレヤを優雅にエスコートしているようにしか見えないのだろう。


じわりと掌に汗がにじんだ。



「どうしてあの時メノウのところにいたの」



駆け引きなどしていられなかった。


あまりに直球すぎる質問にシウは唇の端をゆがめるようにして笑った。



「そうせくな。


 今はゆるりと舞を楽しむときであろう」



のらりくらりとかわされて苛立ちが増す。


この男はわからないことだらけだ。


聞きたいことがたくさんある。


しかし、聞いたところで今のように軽く流されてかわされてしまうだろう。


音楽がひときわ大きくなり、フレヤはくるりと回った。


髪に飾られた絹のリボンがふわりと宙に舞う。


この男、やたらとリードがうまい。


ステファンと同じかそれ以上かもしれない。



「どこで踊りを習ったのかしら?」


「これでも皇族だ。


 人並みには踊れる」



そういうとシウはぐっとフレヤを引き寄せた。


腰に回る強い腕が、拒むことを許してくれない。


フレヤは至近距離からシウの瞳を見つめた。


魔性の瞳。


見ているだけでくらくらする。


なんて美しい男だろう。


だが美しいだけで、心の琴線には触れなかった。



「やはりか」



流れる優美な音楽に紛れて、シウがぼそりとつぶやいた。


やはりその魔性の瞳からは何を考えているのか全く読み取れなかった。



「今なんて言ったのかしら」


「別に大したことではない」



すげなくそう言われてしまったが、引き下がれない。


無意識のうちにステップを踏みつつ、なんとかシウから距離を取ろうと試みる。


しかし、背に回った大きな手のひらはびくともしない。



「何も言ってくれないのね」


「そのいらだった顔を見るのがこのうえなく楽しいからな」



笑みとともにそう返され、ますますいらだちが増す。


この男、顔だけはいいが性格は最悪だ。


氷姫、とあだ名がつくほどの鉄面皮で有名なフレヤの感情を


読み取れるのも腹が立つ。


やたらとダンスがうまいのもしゃくに触った。



「いい顔を見せてくれた礼にいいことを教えておいてやろう」



ふいにシウがその顔から笑みを消した。


そうなると凄みのある美貌が一層際立つ。


フレヤはくるりと一回転しながら、シウから目を離さないでいた。



「なにかしら」


「まずひとつ、我には汝と同じくたぐいまれなる力を有する」



フレヤの歌の力は各国まで広く知られている。


おそらく、歌の力のことをさしているのだろう。



「あなたも私と同じく人間以外の血を持つものなら、まぁそうでしょうね」


「我の力は目だ。


 目を見ただけで、相手は我に従う。


 我は我以外の異形の者にも幾度か試してみたが我の力は人間にしか効かなかった。


 事実、我は汝にも霊力を込めて目を見たが何も起きなかった」



フレヤは足を止めてしまいそうになるのを必死でこらえた。


フレヤは自分以外の異形の末裔にこれまでほとんどあってこなかった。


ゆえに、その事実を知らなかったのだ。


歌の力は人間にしか効かない。


フレヤはその言葉を胸にとどめておくことにした。


シウの言葉は信用しきれないが、いまの感じだと事実なのだろう。



「もうひとつ、メノウの言葉には従うな」



さすがのフレヤもこれには顔をこわばらせた。


冷たいものが背筋を流れる。


どういうことだろう。


シウは、メノウの屋敷に入っていったから、


メノウの仲間かもしれないと思っていたのに。


その表情を見て、シウは眉をひそめた。



「汝、まさか……」



割れんばかりの拍手があたりを包む。


フレヤははっとしてあたりを見渡した。


いつの間にか音楽は止まっていて、大広間にいる人々は王女と遠国の皇子に拍手を送っている。


フレヤはあわてて一礼をした。


しぶしぶといったようにシウも一礼する。


フレヤは自分の手をシウの手からもぎ取るようにして抜くと、


急いでその場を立ち去った。

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