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マーメイドウィッチ  作者: いろはうた
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町の中は、あたりから金属音が聞こえた。


鍛冶にいそしむ音だ。


この音がこの街を支えている音なのだと思うと、


なんとも不思議な感じがする。


なるべくきょろきょろとあたりを見渡さないように、


目の動きだけで周囲を観察する。


人々は忙しそうに歩き回り、フレヤには目もくれない。



「どうする気だ」



珍しく隣に並んで歩くチノがやや硬い声で言う。


この町にはおそらく間違いなくメノウがいる。


そのせいで気を張っているのだろう。



「メノウを探すわ」



沈黙は金属音にかき消されてしまう。


フレヤは会話を続けながらもメノウっぽい娘がいないか


視線だけであたりを観察する。


どの家もがっしりとしたレンガ造りの丈夫なものが多い。


道を行く人々の衣服も上等とまではいかないが、


清潔で簡素なものが多かった。


やはり、ひどく貧しいというわけではなさそうだ。


少なくともフレヤが今まで見て回った貧しい村とは違う。



「探すって、具体的には何をどうするんだ」


「地道に探すわ」


「探して、見つけたらどうする」



矢継ぎばやに質問がくる。


それだけ心配してくれているということだろうか。


ちらりとその横顔を見ると、チノもちょうどこちらを見た時だった。


真正面から視線がかち合ってどきりとする。


その瞳は真剣そのものだった。



「おまえの身を第一に考えて行動し……」


「わかっているわ」



フレヤはチノの言葉を遮るようにして言った。


もの言いたげなまなざしが己を射抜いているのがわかったが


気付かないふりをする。


何故かはわからないが、チノの顔を正面から見れなかった。


かたくなに前を向くフレヤの視線の先にふと一つの家があらわれた。


ごく一般的なレンガ造りの家に見える。


しかし、不自然に人がよりつかず、


その家の戸口には警備兵がいた。


フレヤは不信に思われぬよう、その家の前を通らないように


さりげない風を装って、右の角を曲がった。


脚が進む。


景色がゆっくりと後ろに流れていく。


道行く人々とすれ違う。


頭だけは異常な速さで動いていた。


思考が巡りに巡っていく。



「……か」



チノが何かを言ったことすらも気づかない程に。


我に返ってチノの横顔を正面から見つめてしまう。



「なんて言ったの?」


「やめないか」



チノの表情はいつもと変わらない。


その視線はまっすぐ前を向いている。


しかし、その言葉の端には焦りのようなものを


押し殺した気配があった。



「どうしたの」


「嫌な予感がする」



チノは目を細めて虚空を睨んでいた。


その姿がやけに獣じみていて、思わず見つめてしまう。



「具体的に何が、とはいえないが


 今日は引き返した方がいい気がする」



その口調があまりにも重く真剣だったので


フレヤは足を止めた。


それに気づいてチノも歩みを止めて振り返る。


瞳にはやはり焦りが滲んでいた。


何か話したげな表情を見て、フレヤは細い路地にチノをいざなった。



「どういうこと?」


「今思えばあまりにもことが上手く進みすぎている」



低くせわしない調子で告げられた言葉にフレヤは目を見開いた。


思い返してみると確かに全てがあまりにも順調だった。


情報を集めて、すぐにメノウがどんな人物か特定できた挙句、


本人の拠点地であろう場所をすぐに見つけ出せるとは。


考えれば考えるほど順調だった。


順調すぎるのだ。



「おそらくおれたちは、情報収集の時に少々派手に動きすぎた」



これは、罠だ、チノの唇が言葉なく動くのを見て


背筋に冷たいものが走る。


相手はこちらの何枚も上手ということなのだろう。


メノウはここにいるのではない。


おそらくフレヤが来るのを待っているのだ。



「それでも、私は行くわ」


「っ、おまえ……!!」


「待っているのならばなおさら。


 そうでもしなければ、きっと向こうから私の元にやってきたでしょう」



チノが押し黙る。


きっと同じことを考えていたのだろう。


フレヤは心の中で覚悟を決めた。


やはり行くしかないのだ。


たとえこれが罠だとしても。



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