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マーメイドウィッチ  作者: いろはうた
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忘却の歌

うっそうとした森の中を馬で駆け抜けることができず、


馬を歩かせることでゆっくりと森の中を移動していた。


ツタがあたり一面に映えており、馬の脚に絡みつくのだ。


もう少しで、目的の村が見えてくるはずだ。


タイヤ―という、地方伯爵のタイヤ―伯が治めている土地だ。


王都からもそう離れておらず、海辺に位置する大きな町だった。


他の辺境の地にある村とは違い、日々の食べ物に困るほどの生活ではないが、


王都と比べるとその生活水準は低い。


それが、フレヤが一年ほど前にタイヤ―を訪れたときの感想だった。


何年もかけて、国中のほぼすべての町と村を回った


フレヤだからいえることだ。


少しずつ視界が明るくなってくる。


緑の向こうに見えるのは、大きな門だった。


レンガで作られた立派な作りをしている。


その門の前に、いつもはいないはずの見張りの兵のような


男が二人立っていて、フレヤは森の中で馬の足を止めた。



「チノ、止まって」



背後でチノが馬を止める気配がした。


相手はまだこちらに気付ていない。


どういうことだろう。


この村は、このようなうっそうとした森におおわれているせいで


あまり盗賊などの襲撃は受けないはずだったのだが……。



「あたり、のようだな」



馬を静かにフレヤの隣に並べたチノがポツリとつぶやく。


フレヤもうなづく。


ここも革命軍の息がかかっているのだろう。


おそらくあの見張りの兵も革命軍の者に違いない。



「どうするんだ?」


「チノならどうする?」



まさか問い返されるとは思わなかったらしいチノが


しばらくの間黙る。


数拍のちに彼は口を開いた。



「おれならば、正面から入る」


「どうして?


 それだと咎められるのでは?」



チノは首を振った。


彼には何か策があるらしい。



「今回はおれがなんとかしてみよう。


 めずらしく姫君が臣下を頼ってくれるからには……」



すこしからかうような調子を含んだ声音に


フレヤは思わずチノの顔を凝視してしまった。


視線に気付いたチノは押し黙る。



「あなたでも、冗談を言うのね」


「おまえ、おれを何だと」


「冗談よ」



それだけ言うと、フレヤは馬を進めた。


見張りの兵がこちらの姿を認識して顔を険しくした。


チノには後ろの森で待機してもらっている。


フードを深くかぶり、相手からは口元しか見えないようにする。


目と髪を見せなようにするためだ。



「止まれ!!」



すぐに反応した見張りの兵たちが槍を振り上げて声を上げる。


フレヤはすぐに馬の足を緩める。



「何者だ!!」


「私は、メノウ様にお目通りを願いに来たものです」



フレヤは目を閉じて、少しだけフードを上げる。


閉じた瞼を兵達に見せつける。



「私は目の見えぬ哀れな者。


 ゆえに、メノウ様にお会いすることで


 少しでも心の傷を癒そうと」



とんでもなく棒読みだった。


フレヤは唐突に歌いだした。


小さな声だが、兵達に聞こえるように。


突如歌いだしたフレヤを兵たちは怪訝な顔で見つめた。


しかし、兵たちは徐々に目の焦点が定まらなくなっていた。


ゆるやかに槍が下ろされる。



「これは失礼いたした。


 どうぞ中へ」


「ええ、ありがとう。


 あなたがたも、このことは忘れるように」


「かしこまりました」



馬に乗ったまま巨大な門をくぐりぬける。


後ろから蹄の音が聞こえる。


すぐに、チノが馬を寄せてきた。



「どういうことだ」


「歌よ」



フレヤは前を見たまま答えた。


先ほど歌ったのは忘却の歌。


何もかもを忘れてしまう歌。


眼前に広がるのは、レンガ造りの家が立ち並ぶ町だ。


あちこちの煙突から煙が上がっている。


たしか、鍛冶屋が多い町だったか。



「おれが言っているのはそういうことではない。


 おれがやると言っただろう」


「いつまでもあなたに頼るわけにはいかないわ」



フレヤは決して振り返らなかった。


振り返れなかった。


この力は、チノにまで影響を及ぼしているに違いないのだから。


しばしの沈黙の末、ぽつりと声が落された。



「すまない。


 おまえはその力を好ましく思っていないのに


 使わせてしまった」



だから、そんな声で謝ってほしくなどなかった。

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