第1話 東方緋想天
とある東方の同人誌に憧れて、自分も天子と衣玖の物語を……!と、見切り発車してしまった。
不定期な更新となるでしょう。2014/9/5
その日は、幻想郷各地で異常気象に見舞われた。
妖怪退治の専門家、博麗の巫女が居を構えている博麗神社では局地的な地震に襲われて神社が倒壊してしまったり。
幻想郷各地の空で緋色の雲が確認されたり。
かっかと照らす太陽が光を当てていたと思えば、突然の霧雨が服を濡らしてしまったり。
大粒の雹が地面を騒がしく打ち立てたり。
雲一つない快晴だというのに狂ったような強風が吹き荒れたり。
このクソ蒸し暑い夏の下で大雪に見舞われたり。
台風を匂わせるような暴風雨が山の中腹で荒れ狂っていたり。
体から滲み出る緋色の気の正体を訝しんだり。
とにもかくにも、幻想郷では正体不明の異常気象がそこに住む人々を襲ったのであった。
幻想郷に住む人々に悪影響を及ぼす災害。
人はそれを、
―――“異変”と呼ぶ。
◇
見渡す限りの広大な大地
四季折々の植物や花が咲き乱れ、雲一つない蒼穹の空が上空を占める。
燦然と輝く太陽の下ですくすくと育っている植物群が穏やかなそよ風に茎を揺らされる。
辺りの風景は穏やかそのものであり、それどころか曇りをどこかに置いてきてしまったかのような穢れなき世界であった。
おおよそ現実のものとは思えないこの世界は、現の理想を体現したような場所であった。
それはまるで桃源郷のようで。
「暇」
そう、ここは現世とは隔絶された神聖な域。
天界である。
「暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇ひまひまひまひまひまひまひま……」
「神聖さがまるで欠片も感じられない下品な言動は控えてもらえませんか」
「“ひま”って何回も言い続けると“まひ”って聞こえてくるわね」
「控えろつってんだろ言葉通りビリビリさせてやろうか?」
天界の、正確には“有頂天”と呼ばれる天界の一角に二人の影があった。
一人は草原に寝そべって近くの雑草をプチプチ抜いているまだ幼さを感じられる長い青髪の少女。本物なのかどうかイマイチ謎な桃を帽子につけ、その帽子を大きな赤色のリボンのついた胸の上に載せていた。黒色のロングスカートには純白色の垂れ掛けがファッションの一部となっており、それでは足りないのか七色の無駄に目立つ飾りをつけていた。
もう一人は片割れと違って奇抜さはなかったが、伝説上の天女が身に纏っていたと言われる緋色の羽衣を着用していて、ある意味豪快だった。腕の辺りまでその羽衣がひらひらしており、もう一人と同じようなロングスカートの存在が霞んで見えた。青髪の少女を見下ろすように近くの岩に腰かけていた。
寝そべっている青髪の少女は比那名居天子といい、この広大な天界を統べる総領の娘である。その威厳さは欠片ほども見えない。
岩に腰かけ天子に向けて暴言を吐く少女は永江衣玖といい、龍神に仕える龍宮の使いという妖怪である。圧倒的身分の天子に対して欠片ほどの敬意も抱いていない。
「そんなことより、いいんですか総領娘様」
「何がー?」
「“異変”なんて起こして。幻想郷中の気質を片っ端から集めてその変化に気づいた者に“異変”解決に差し向ける―――そんな自作自演の三文芝居に地上の者を巻き込んで」
「いいのよ暇で暇で仕方ないのよこっちは! それに地上には“異変”解決の専門家だっているんでしょ? ええと、惑星の巫女だっけ」
「博麗の巫女ですよ、博麗! は・く・れ・い! どこにそんな地球規模の巫女がいるんですか」
「そうそれそれ。そいつに任せれば解決のためにこの“異変”に食いついてくれるでしょ。暇潰しができるわ!」
「ですが、博麗の巫女が気づかない場合もあるでしょう。特に今代の巫女はろくに仕事もしない相当な出不精だと聞きます。面倒くさがって来ない可能性だって考えられますよ?」
しかし衣玖の発言を天子はちっちっちと人差し指を振って無言で否定した。むくっと起き上がって立ち上がり、両手を腰に当てて勝ち誇ったような表情で言う。
「ふっふ~ん♪ 実はそうでもないんだなこれが!」
「(ドヤ顔うぜェ……)へえ、そう言える根拠は?」
「聞きたい? ねえ聞きたい!? 聞きたいよね!?」
「(マジうっざ……)」
天子のウザさに辟易しつつもその表情を隠そうともしない衣玖の態度に天子は気づいていなかった。お気楽なのか、単なる阿保なのか。ご機嫌の天子はいかにも言ってほしそうな表情をしていたため、衣玖は片手をひらひらさせて「はいはい聞きたい聞きたいチョー聞きたいですわ」と至極適当に返事していた。
しょうがないわねー、と天子はもったいぶるようににやにやしている。衣玖はそれに対して早く言えや、と少々ご機嫌斜めだ。
「それじゃ言ってあげるわ! 実はね、博麗の巫女の神社に地震を起こして跡形もなく倒壊させておいたの!」
「……は?」
「いくら頭の中が楽園でも、自分の家を壊されちゃあ黙ってはいないでしょ」
「いやいや、そういうことではなくてですね」
「平気よ平気! 地震を起こしたのは神社だけだから、それ以外の場所には影響は出ていないわ。気質による影響は出てるでしょうけど」
「………」
この不良天人は…、と喉元まで出かけた言葉を衣玖は寸前で抑えた。衣玖は頭を抱えたい衝動を、こめかみを押すことで何とか耐えた。
いくら大地を操ることを生業とする比那名居一族だからといって、暇潰しのためだけに地震を起こすなんてどうかしている。職権乱用もいいところだ。
地震は定期的に発生させることで、大地に溜まったパワーを拡散させている。その周期は自然が決めることであり、単なる人一人が恣意的に決めていいものではない。むしろ、そういうのを管理するのが比那名居一族の役割だというのに……。
はあ、と深い溜め息を吐く衣玖。
起こってしまったものはもうどうしようもない。これからのことはもう成り行きに任せるよりほかに方法はない。せめて、自分の身に火の粉が降りかからないようにこの大馬鹿からしばらく離れていることぐらいだろう。あと、このドアホが回生するように、博麗の巫女にボッコボコにされることを願うくらいか。
「(自分は無関係ですよーっと……とにかく離れましょうか)」
衣玖がこっそり天子の元から離れようとしたときである。
「こんにちは、ごきげんよう」
目の前の空間がぱっくり開き、その中から日傘を差した女性が現れた。その女性は、丁度衣玖が離れようとした進行方向に現れたため、奇しくも衣玖は退路を防がれる形となったのだ。
自然と舌打ちが漏れ、衣玖は仕方なく天子の方へ戻る羽目になったのだ。
「貴方が、今回の“異変”の首謀者の天人ね」
「アンタは……まさか、剥製の巫女?!」
「博麗です総領娘様! てかあんた絶対わざとだろ!」
またもや間違える天子にいい加減キレる衣玖。そのアホ丸出しの会話を、突然現れた謎の女性は目をスッと細めて聞いていた。
謎の女性は怒りを抑えるような、噴火寸前の火山のような危うさを体から滲ませていた。
衣玖は直感した。この人マジギレしてる、と。
「私は八雲紫。博麗の巫女ではないわ。そんなことより、博麗神社を倒壊させたのは、貴方?」
「だったら……どうなのよ?」
天子は目の前の女性の怒りに気づいていないようだった。衣玖は己の能力の「空気を読む程度の能力」で八雲紫の怒りに気づいたが、天子にはそんな相手の感情の機微を感じ取れる繊細さはなかったようだ。
というより、あからさまに博麗の巫女じゃないって聞いた瞬間から気怠そうな態度になっていた。博麗の巫女以外に興味がないのであろう。
そんな天子の傲岸な態度が、八雲紫の怒りを買ってしまった。
「完全に、忽然と、とっとこの世界から住ねッ!!!」
突如見せた八雲紫の憤怒の表情と共に、天子と衣玖の目の前に巨大な空間の裂け目が生まれた。それは彼女がやって来たときのような、スキマのようなそんな生易しいものではない。正真正銘の空間の亀裂だった。
「うっ……!?」
「うわ―――!」
猛烈な勢いで空間から吸引が始まる。その吸い込みは尋常ではなく、大地を操る力を持つ天子や空を自由に飛翔できる衣玖の力を持ってしても抗いきれない莫大な力の奔流だった。
「「ああああああああぁぁっぁああぁぁぁぁああああああああああーーーーー…………」」
二人は成す術もなく、空間の亀裂に飲み込まれていき。
闇の一部となってしまった。
「……………………ちょっと、やりすぎちゃったかしら?」
「でも、まあ、あれくらいやらないと気が済まなかったし」
「ま、精々頑張ってね。……違う世界でもね」
ここまでは東方成分多めでした。既にキャラは崩壊しています。
これからはがっつり東方関係なくなるので!そこんとこよろしくゥ!2014/9/5
なろうでも投稿してみました。投稿の中心となるのはハーメルン様ですのでご容赦を。2015/1/19