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ナ・ゴローニュ

 三人の冒険者がうちの店を訪れた二日後、俺はナ・クラレイドから西の方にある高台へと向かう坂道を歩いていた。


 振り返ると眼下にナ・クラレイドの街が見渡せる。時折、街の方から流れてくるのは心地良い潮風。そう、この街はクラレイド湾沿いに広がる湾港集落だ。


 観光地としても有名なこの街には緩やかにカーブした海岸線が広がっており、いくつもの坂道は丘陵地帯へと続いている。


 ナ・クラレイドを一望できるこの場所は、俺のお気に入りの場所。海にはいくつもの漁船や貨物船が行き来しており、港にも何隻もの大型客船や商船が停泊しているのが見える。これら大型商船のうち何隻かは、外洋を渡ってやって来ているのだろう。


 そして、カタナを始めとするナ・ゴローニュの刀剣も重要な交易品の一つとして各国の有力者、そして外洋を渡って大陸の方へと輸出されている。


 俺が向かっているのはナ・ゴローニュの本拠地、老師『デュスタ・ゴローニュ』が住まう鍛冶屋の集落だ。


 俺たちの世界で使われる武器の一つ『カタナ』と、その中におけるナ・ゴローニュの位置付けは別格だ。カタナは刀工集団の系統によって形態や特徴がはっきりと分かれている。俺達はそれらを大ざっぱに5つの系統に分類している。


 首都である『カーナ・エンペスト』。そしてそこからから各地に伸びる街道。都で確立したカタナの製作方法と様式はその後各地へと広がり、各地方で独自の発展を遂げる――それが、カタナの大ざっぱな歴史だ。


 〈ティモ・ロスタ〉


 ここが刀工集団の一大拠点で、最大勢力を誇る。もちろん、流通しているカタナも、この地方の工房で作られているものが最も多い。それ故に、その作風は姿、造り、焼き、全てが『頃合い』で『過ぎた』という部分がない。カタナの原料である玉鋼、その元になる良質な砂鉄が豊富に取れるっていうのも、ここが最大勢力になっている理由の一つ。


〈タロ・エンペスト〉


 都の中に居を構える刀匠と彼らの作風、その両方の意味を持つ。彼らは帝や貴族、宗教関係からの注文でカタナを打つ場合が多い。そのため、実用品というより儀礼用のカタナや宝刀としての需要が殆ど。その作風は優美で上品なもの。もちろん、見た目だけではなく刀剣としても一流品だ。


〈ツィード・テンプル〉


 ここは質実剛健、力強い作風が多い。都から東に少し下ったあたりで作刀されているカタナの作風だ。もちろん、切れ味も鋭い。

 なにせ、ここには国教でもあるアクナ・ツィードの総本山がある。アクナ・ツィードが抱える僧兵軍団――そう、泣く子も黙ると噂される最強武装組織『紫十字軍』。彼らの正規武装としてのカタナの製作を一手に引き受けているのがここ。

 アクナ・ツィードの豊富な資金力、紫十字軍による実戦からのフィードバックと、刀匠たちの切磋琢磨の末に到達したのが彼らの極意だ。


〈ラナズ・ミノス〉


 紛争地帯であるラナズ平原。ここでは100年以上、血で血を洗う抗争を繰り広げている。それと共に発展したのが、ラナズ・ミノスという刀工軍団。まさに戦争の道具、彼らが作刀するのは殺人剣だ。雑兵のための使い捨ての数打ちモノを多く供給している一方、名だたる武将が愛用し、彼らが家宝として重用するような業物も多い。


 そして、新進気鋭の我ら――


〈ナ・ゴローニュ〉


 我らが打つナ・ゴローニュの刀剣。その姿は荘厳華美にして、クラークハウド遺跡に残る大理石像の如き完全調和を見せる。 しかし、ひとたび振るえば大魔獣〈ログノザデュワ〉の牙すら一刀両断にする。その切れ味は鋭く、そしてバライノ牛の皮をなめして造った鞭のように強靭。

 目の肥えた大将軍の鑑賞にも堪えうる美しさと、戦場で最後まで刃こぼれしない実用性を兼ね備えた、最強のカタナだ。


 その中心が、老師デュスタ・ゴローニュ。齢100歳を超え、今なお健在である。彼に従事している俺達十人の刀匠が十人の哲人デカト・ワイズマンと呼ばれている者たちだ。

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