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退魔術第二世代《コンプレックス・レイヤード》

「チトセ?……」不意をつかれた俺はチトセの顔を覗き込む。その瞳を見つめた時、彼女が伝えようとしていることを理解する。そして俺はチトセに答える。


「うん、そうだよな。急がないと。何があっても魔王を倒しに行くって、決めたんだよね」


 チトセは小さく頷く。彼女の言葉で目を覚ますことができた――俺、何を悩んでいたんだ。そのことはメセナローズも同じだったようだ。迷いのある表情は消え、いつものような凛々しい表情へと戻っていた。キッと口を閉じ、射すくめるような視線で前を見つめると、彼女は俺の背中から抜け出しファステムと向き合う。


「私達は魔城へと向かいます。それと、ガラヌゥグ火山の入り口は崩れてしまいました。今はそこから出ることはできません。魔城へ行き、何としても魔王を倒すつもりでいます。それまでの間、何とか持ちこたえてください。あるいは、私たちに付いてくるというのならそれでも構いません。お任せします、ファステムさん」


 毅然とした口調で、メセナローズは全ての言葉を一気に吐き出す。そして頭を深く下げると、大股で奥の方へと歩き出す。さすがメセナローズ、イケてる女の子ハンサム・ガール。惚れるぜ。


 ファステムは少し悲しそうな、寂しそうな顔をする。俺はそれに気がつかないふりをする。チトセと二人で軽く会釈すると彼の前を通り過ぎ、メセナローズに続く。ファステムは迷っているようだった。その気配を背中から感じる。

 ここに入ってきた横穴とは反対側に、急勾配で下っている通路がある。きっとそれが洞窟の最深部にある魔城へと続く道だ。広間の明かりに慣れた目にはまるで、虚無へと通じる穴のように見える。


 そして、そこへ踏み入れようとした、その瞬間だ。


「……何?」メセナローズが呟く。


 足元に感じるザワザワとした振動、それと同時に穴の奥から忍び寄る気配。ピリピリとした空気の振動、そして生臭い匂い。そして微かに空気が動くの感触。俺の中にある第六感が警告を発する。


「危ないっ!」後ろからファステムの叫ぶ声。


『ザッ、ザッ、ザッ、ザッ…………ザザザザザザザザ』


 その瞬間、メセナローズと俺は大きく飛びのく。そうしなければ、一瞬にして喰われていただろう。


「アルスレイナっ!?」そう叫ぶチトセは俺に抱きかかえられている。


 まるで、昏く深い蟲の巣穴を突っついたかのようだった。這い出してきたのは何十体、何百体の《這闇》、そして《魔獣》。赤と黒の死神(ギュワ・ンズ)新月に舞う昏き楔(サヴァト・ゲロゥド)漆黒を喰らいし牙(ビルダ・ヒュープ)――ありとあらゆる種類の魔物。それが折り重なるようにして、次から次へと現れる。


「こうなってしまうのですよ! 奥へ向かおうとする度に無数の魔が! この波状攻撃に私達のパーティーはやられて……いやホント!」


 そう叫ぶファステム。初めて聞く、彼の落ち着きの無い声だった。


「ゴゥド……ザレツ……ザン……顕示、緑蕪の段」

「ゴゥド……ザレツ……ザン……顕示、疾風の段」


 俺とメセナローズはそれぞれ《児手柏》と《メセナローズ》を構えると、干渉共鳴術式ライナックを展開する。メセナローズのナギナタには既に、《ライナック》の完全術式呪文をかけてある。


「チトセは俺とメセナローズの間に!」


 そう言われる前に、彼女は既にお互いに背中預けて迎撃態勢を取る俺たちの間に入っていた。ファステムの方を横目で見ると、彼を取り囲んだ飛行魔と土人形の一団が、今まさに襲いかかろうとしている時だった。


「ゴゥド……ザレツ……ザン……顕示、瞑星の段」


 ファステムは十字槍に大地の精霊術をかけていた。それは紫色に輝く鋼。彼は僅かに腰を落とし槍を構える。その姿を見た時、俺は目を瞬く。彼の姿が一瞬ぶれたように見えたからだ。


「瞑星の段、《厳龍》!」


 術者を中心に旋風が湧き起こる。それは砂塵を巻き上げ、魔物を巻き込み、そして翻弄する。ファステムは動く。ぶれたように見えたのは目の錯覚では無かった。恐ろしい速度で動と静を繰り返すファステム。その度に這闇や魔獣は十文字槍と交差し、そして鬼脾を両断され、消えていく。


「第二世代退魔戦闘術『コンプレックス・レイヤード』……しかもかなりのアレンジが加えられている……」


 喧騒の中、微かに聞えたその声の主に振りかえる。メセナローズだ。退魔術第二世代――確か以前、メセナローズに聞いたっけ。そしてザドレイドが実演してみせた、限りなく多くの手数で攻撃を加える戦闘術だ。

 しかし、感心している暇は無かった。俺とメセナローズのところにも無数の魔物。一瞬の油断もならなかった。攻撃、防御、攻撃、また防御――時に混合精霊魔術を織り交ぜ、群がり来る這闇を倒していく。しかし、折り重なるように次々と押し寄せる這闇、魔獣、そして這闇。


 その攻防は無限に、そして果てしなく続くように感じた。


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