勇者の寝言 第20夜 「怖いよ~」
俺の名前は、マトン・スクィーバー、騎士だ。
ちょっとしたことから、相方の勇者とけんかをしてしまった。
「マトンはどうしてそう言うこと言うの?」
「だって、勇者、そろそろ経験値も上がって、報酬も増えたから、
別部屋にしたっていいんじゃないのか?」
「僕は、マトンと一緒の部屋がいいよ」
「なんでだよ?」
「なんででも! もうこの話は終わり」
その晩、勇者の寝言は少し違っていた。
「お母さん、怖いよ~。
ねぇ、どこへ行ったの?」
その叫びは、まるで、地獄の中を彷徨う少年そのものであった。
「お母さん、どこ? どこなの?」
悲痛な叫びが部屋に響く。
「ねぇ、ねぇってば、、、」
泣き崩れた勇者の姿が想像できる。
俺は、朝日がかろうじて見える程度にカーテンを開ける。
勇者がその明かりに反応し目を覚ます。
「おはよう、マトン」
俺は、勇者のベッドに近寄り、頭を撫でてあげる。
「どうしたの?今日に限って優しいね」
「もう少し、側にいてやるから、安心しろよ」
「何か気持ち悪いよ」
「こいつ、人の好意は素直に受け取れって言うんだよ」
俺は勇者を小突いた。
勇者にどのような過去があったかは分からない。
それが、また俺を悩ませることとなるのだ。




