絵師
原題『図工』 作者・不詳 「公記」二八六(幻術)三にあるのを舞台を現代へ移してアレンジした。
参考は岩波文庫「唐宋伝奇集・下」 今村与志雄 訳
勉学にも交友にもほとんど見向きしない大学生が、あるサイトで一枚の二次絵画像をダウンロードした。非常に可愛らしい少女が描いてあった。大学生はその絵師のサイトのコメント欄に投稿した。
『3次元にこんな人はいない。どうしたら、生命を与えられるだろうか。それができたなら僕は彼女を妻に迎えたい』
ところが、絵師はこう返信してきた。
『私は神の絵描きです。この画像の娘にも名前があります。萌萌という名前です。その名前を100日の間、昼も夜もぶっ通しで呼び続けるなら、絶対に返事をしてきます。そうしたら、百の家より集めた装飾具を灰にして、それを混ぜたお酒を飲ませてください。きっと彼女は生きかえります』
大学生は絵師のコメント返信通りに百日の間その名前を呼び、昼も夜も絶やさなかった。すると、返事があった。
「はい」
大学生は急いで百家珠酒をプリントした画像に注ぐと、遂に生きかえった。
「呼んでくれて、ありがとね。わたし、あなたのお世話をしたいわ」
一年が経って、男の子が産まれた。
子供が2歳になったとき、大学生の唯一の友人が忠告した。
「それはお前の妄想だよ。それに彼女は俺の嫁だ。とにかく、素晴らしいフィギュアくらいならあるからせめて3次元はそれで我慢しろよ」
その夕方、友人は大学生にフィギュアを届けてきた。
そのフィギュアを家に持って帰って来ると、萌萌は涙を落して言った。
「わたしは富士山に祀られていた神霊だったんだけど、勝手に擬人化されてしまった上に、あなたがわたしの名前を呼んだから、その願いに逆らえなかったの。でも、あなたが今わたしを疑ったから、もうここにはいられないわ」
そう言い終わるや否や、子供を連れて画像にもどり、先に飲んだ百家珠酒をかわいらしく吐きだした。画像をよく見ても、そこに子供が一人加わっただけで、すべてがもとのままであった。
ハーレムとか何とか、非実在少女を蒐集する人がいるけど、実はそうした男たちを手玉とった彼女らこそが逆ハーレムを形成しているのではないだろうか(問題提起