設定&カスタマイズ
彼女はラストが差し出してきたアイコンに触れる。
いつのもゲームのような感覚。光の洪水に襲われ、目を開くと目の前に今の自分が浮いていた。辺りを見回すと、周りは森の中にポッカリと空いた空間とでも言うのだろうか?木々の間から光が降り注ぎ、芝生のような草がキラキラと光っている。
「ここは向こうで使う身体を作る聖域のようなものだ。キャラクター設定と名前の設定を行う最初に訪れる場所…と言う感じか?」
ラストの言葉に頷き目の前の自分を見るが、鏡を見るのとは違いリアルでもう一人自分がいるのを見るのは、違和感がありすぎて落ち着かなかった。
「とりあえず、自分の形を弄っていく事でキャラクターを造らせようと思う。」
目の前の自分に寄り添うようなラストは、造形がキラキラしい上に平凡な自分と並ばれると引き立て役にもならないほど釣り合いが取れないなぁ…と全く関係ないことを考えつつ彼女は相槌を打つ。
「まずは種族。これは3つだ。ハイヒューマン・ハイエルフ・ハイビースト」
ラストの言葉に合わせて、自分の姿が変わる。
ハイヒューマンは変化なし。
ハイエルフは耳が尖ったが、他は変化なし。
ハイビーストは人間の耳が消え、何故か猫耳に猫のしっぽが生えた。
「こちらの世界の種族は大まかに分けて、ヒューマン・エルフ・ビーストと魔族の4つ。魔族以外の寿命は100年ほど。魔族は別物と思ってもらいたい。前の3種族の上位種族として君達は存在することになる。寿命は10倍の1000年。
こちらの1日24時間は一緒だが、1日はそちらにとって4時間と6倍の速さで進む。1週間は7日。1ヶ月は30日360日で1年だ。
一応上位種族の設定としては、5歳から外見年齢を止められるし、それこそ仙人のような年寄りになるまで成長を止めないようにすることも出来る。寿命の間は好きな外見年齢を保てるということになる。しかし、上位種は掟で100歳になるまで異空間で過ごし出てこない、つまりはチュートリアル終わってフィールドに出る時には皆100歳以上でのスタートということになる。
ログアウトしてるあいだは、異空間に戻っているという事になっているが、実質次にログインするまで、身体は異空間に保存されている。
放置プレイも出来るが、簡単な単一動作になる。もちろん結界をはれるレベルにならないとできないことにしている。理由としては、もし誰かに話しかけられても、返事返すことなどできないから、最初から近寄れないようにするために結界を張るのが理由だな。
…そうだな、種族の特徴としては、各種族にあまり差はないが、エルフはMPが多く、ビーストはHPが多い。ヒューマンはバランス型といったところか。
こっちの世界は単一の言語しかないため上位種族は皆話せるし、書く事ができるようになっているからそれは安心してくれ。
後、メニュー画面を開くことができるが、それは日本語なり英語なりその人の母国語で表示される。周りからは、画面が見えないため、虚空をなぞっているように見えることになる。」
ラストの説明の間、何故かハイビースト姿の自分が「にゃんにゃん」言いながら楽しそうに踊っているので、気が散って仕方ないが、まぁ、難しいものではないのでちゃんと聞けたと思う。
「あと、男女も好きに選べる」
猫耳付けたまま自分を男にしたら、こんな感じなんだろう的な姿になる。だが、やはり「にゃんにゃん」言いながら踊っているので恥ずかしいというか、何と言うかやりきれない気分になる。
その感情が彼女の顔に現れて微妙な表情を形作っているので、ラストは笑いながら元の姿に戻してやった。
「因みに、ちゃんとした肉体を持っているから、性交もできるが、許可制にする。」
一瞬『どんなエロゲ』と彼女が思ったことは内緒だ。
つまりHしたけりゃ神様に「Hさせてください」と許可を取らなきゃいけないと言う事だろう。
利点としては、レイプされないし、できないというところだろうか。
「他種族・魔族・下位種・上位種同士・同性同士どれでも子供を作ることは出来るが、これも許可制だ。
上位種同士でも子供は下位種として生まれてくる。上位種を下手に増やす気はないのだ。これは譲れない必須条件になる。子供が作れることはこの世界がゲームだと思っている者には知らせるつもりはない。それと、上位種族としての子供は転生の器としてしか生まれないので、それを望まない限り上位種は増えない。もちろんこれは相手はいらない。ある程度年齢が行ったら作れるようにしている。」
もう一つの人生だとは言え、暫くは18禁ゲーム扱いにしそうな気がしたので、そういった許可を取るつもりはなかった。だからラストの言葉には適当に頷いておく。
「さぁ、まずは自分を作ってみてくれ。ベースは自分だが、結構自由に弄れるはずだ。」
客観的に自分を見る。身長は平均より少し高めの167cmこれはこのままで良いだろう。年齢は20歳丁度ぐらいにする。髪は漆黒のストレート腰より下ぐらい、肌は割と白い方だから日本人らしい黄色を薄くする。白人って言うほどではないが、日本人の肌より白い感じだ。
目はちょっと大きめにする。これだと童顔になってしまうので、顔自体は細目の卵型。目の色は悩んだ末に青よりの紫と赤よりの紫のオッドアイ(厨二チックだが)にしてみた。
睫毛も多めに更に長くし、伏し目にすると何とも言えない色気が出た。
唇は厚さも大きさも今の状態のまま、一般的な口より少し小さめで、唇もちょっと薄い。しかし、紅を引かなくてもプルプルのつやつやほんのりピンク色に変更。
手足はスラリと細く長く、お尻も小さくきゅっと上げて、ウエストは細く引き締め、胸は大きすぎず、小さすぎずのCカップ位。
指も細く爪も形も整えて…ってこれ誰だ?ってくらいに変わる。
ベースは自分でも、ここまで弄れば、可愛らしいなかにも美しさがあり、子供っぽさは全く感じられない美人になった。なんとなくだが、ラストと並んで立っていてもそこまで違和感はなくなっていた。
「綺麗にできたね。結構な美人さんだ。」
(笑顔のラストに美人と言われても、綺麗さが段違いだから、あんまり嬉しくないというか…目から鼻水がっ…)
彼女の心の葛藤は置いといて、ラストは「ふむっ」と何かを考えているようだ。
「名前はサーラ、ハイヒューマンか…では、フルネームは『サーラ・H・アレキサンドライト』だね。」
なんと自分で決められる名前は一部だけらしい。ファーストネームを決めたらその後に上位種を示すHが入り、最後に鉱石(宝石とかも含めるらしい)の名前が入る。
それは自動で入るように見せかけて、ラストがキャラの外見を見て個別に決めるようだ。もしかしたらかぶる事があるのかもしれない。
「キャラが決まったようだな。では、次は武器かな?まずは、片手剣・槍・弓・杖というとこだろうか?使い熟していくと、スキルアップして派生武器が使えるようになる…例えば、片手剣だったら両手剣や双剣といった具合に使える武器が、それに見合ったスキルが使えるようになる。魔法や技といったものは、スキルアップしていくと自然に使えるようになる。レベルアップしていけば筋力や体力・精神力などが上がっていくが、武器は別にスキルアップしていかないと強い技や魔法は使えないから注意するように。
ゲームのようなモーションアシストが働くようになっているから、武器を手にしたことのないものでも、自然に動くことができるようになっている。」
武器は決めてあった。どのゲームでも最初に手を出すのが剣。そして次に魔法を覚えて魔法剣士になるのが好きだったのだ。
今やっていた幻獣使いは、サブキャラがメインキャラに取って代わった悪い例のようなもの。ちゃんと魔法剣士はメインとして存在していた。
剣を選ぶと、格好も多分初期装備と言われる装備に変わる。木綿のシャツとスラックスみたいなパンツ。革であろうブーツと籠手、胸当てと肩当て頭は額あてのようなものを付けている。
どのゲームにも言えることだが、初期装備というものは、どうしてこんなにダサいのだろうか?色も形も好みではない。早くレベル上げてもう少し良い装備が欲しいところだ。
「あと、製作系もあるが、造船や建築といった大物の制作は、上位種に向いてないものとしてできないようになっている。そうだな、大きく分けて5つ。
防具系・武器系・アクセサリー系・薬系・料理系この中にも細かく系統は分かれるが、こんなもんか。
採取・採掘・釣りとかもあるな。
好きに選んで楽しむのもいいだろう。
あぁ、ゲームによくある、どこでも使える倉庫といった便利なものはないが、アイテムボックスが一定の条件内だったら、ほぼ無限に入るようになっているから安心してくれ。
狩りに行く時の注意だが、魔物は負や魔の塊だから、倒しても砂のように消えてしまうが、時々ご褒美的なアイテムがドロップし、アイテムボックスの中に自動的に収納される。これを集めて武器や防具を作ると良いものが出来るかもしれん。
あと、魔獣は獣が負や魔に犯されて出来た存在だから、砂にはならんから、捌く事ができるように精神操作しておく。魔獣の負や魔だけを綺麗に浄化できれば、騎獣やペットなどにも出来るから試してみるのもいいだろう。」
神妙に話に聞き入っている彼女に、ラストはクスリと笑みを漏らすと、出来立てほやほやのサーラの頭を撫でる。
「今から我が世界に行くが、まず教会に出る。魔法円の中に出現するが、完全な死亡を防止するために、左手の小指を切り落とさなくては、円から出られないようになっている。
もちろん痛みはないし、円の中から出れば神官が回復魔法をかけてくれるようになっている。
小指は聖水入の小瓶に詰めて神官に渡せば、神官が管理し、どこかで殺されても小指を元に復活出来る。
上位種の種と呼ばれるが、これは特別に選ばれた神官のみが扱うことができ、その教会は何があっても害することができないようになっている。
フィールド等で死んでしまったら魔獣のように塵になり消え死体は残らない。その後多少のタイムラグは出るが、上位種の種が光り神官に復活を促す。
神官は小瓶から種を取り出し魔法円の中に入れる。円の中で種から一気に身体が再生するという仕組みだ。
そして死んだ時の装備等は、そのまま転移して新しい身体に装着されるので、丸裸になることも装備を失うこともない。
もちろんバトル中の身体に受ける痛みも軽減してある。四肢欠損は目に見えないが似たような状態になる。例えば、腕を切り落とされたら、見た目的には腕は付いたままだが、動かすことはできない。回復ポット・薬草・薬・回復魔法でフル回復した時に回復する。一種の状態異常だな。
血は出るが傷を治せばHPが減り続けることはないし、貧血にもならない。
後は、上位種が増えることによって、その者の負や魔もこの世界を犯していくものになる。魔物も増えると思うが、それを踏まえて頑張ってもらいたい。
…あぁ、上位種の事は歴史を弄ってあるし、神殿には通達してあるから、簡単に受け入れてもらえるはずだ。
とりあえずは大体こんな感じだが、ゲームとしていけそうか?」
滔々と語られたが、大体のゲームも設定は似たようなものだし、なんとかなるのではないかと彼女は考える。
まぁ、色んなゲームを凝縮したような感はあるが、やり込みタイプの人間には面白く思えそうなゲームではないだろうか?一人で色々と試しながら攻略して…ラストとゲームらしく設定していこうというところだろうか?
先ずは精神だけをこの身体に入れて、他世界に行き、また帰ってこなければならないのだ。
それをクリアしないと、彼女は明日地球で不審死していることになる。
ため息をついて、これから自分になる身体を見る。多少は面影があるので、愛着も湧きやすそうだ。
「では、良いか?」
「はい。行きます。」
そうして彼女は目の前の身体に吸い込まれるような感覚を味わい、意識を失った。