飲み会は計画的に
で、ギルドまで帰ってきたんだが。
まだ、夕方まで時間がありそうなので、ジェミドの様子でも見に行ってみようか。そう思って、カウンタで鍵を返してもらい2階に上がる。ジェミドの部屋は左右に6部屋ずつある1番奥の右側にあった。
ちなみに俺の部屋は階段から入って左側2番目だ。まぁ、そんな事はどうでも良いか。ジェミドの居る部屋の前まで来て、取り敢えずノックしてみる。
「ジェミド、大丈夫か?。」
ドアの奥のほうから入っていいぞと返事があったので、俺達は部屋に入った。ジェミドはベットに座って剣を磨いていた。ぼろきれに磨き粉を含ませて少しずつみがく。その姿は、まるで歴戦の戦士そのものと言っても過言では無い程だった。
「なぁ、ジェミド。二日酔いは治ったのか?。」
ジェミドの顔色はどう見ても良さそうだが、一応聞いてみる。
「ああ、もう昼過ぎだぜ。大丈夫さ、なんだったら今晩だって飲めるぜ。」
「朝には、もう二度と飲まないって言ってただろ。」
「そんな事言ってたか?。記憶に無いがな。」
そう言って豪快に笑ったジェミドにオルデンが説教するが、馬に念仏の様だ。
「ふぅ、ユウキもなんか言ってやってくれ。俺じゃ、いつも説教してるからかまったく堪えないんだ。」
ジェミドを叱っていたオルデンがこっちにお鉢を回して来た。ならここは期待に応えないとな。
「なぁ、ジェミド多分今日も飲み会になりそうなんだが、来るか?。」
「ホントか?。行くぜ、今晩はなに飲むかな。蒸留酒は高いから、ビールでいいか。」
即答だ。本当に今まで説教されてた様には見えないが。あっ、オルデンが額を押さえている。俺も苦笑をしつつ、昼にあった事を説明する。
「あ~。だから、新しい剣を背中に下げているのか。なるほどな。んじゃ、もうそろそろ夕方だし下行くか。」
おもむろに懐から懐中時計を取り出し、ジェミドはそう言うと準備を始めた。俺も腕時計を確認して見る。確かに夕方と言ってもいい時間帯だった。そんな俺達を見ていたオルデンは、諦めた様にため息をついて苦笑を浮かべる。
「ここには、俺の味方をしてくれる奴は居ないようだ。飲みに行くのは良いが、ジェミド今日こそは飲みすぎるなよ。」
オルデンがジェミドに釘をさす。あまり意味はなさそうだな。
「よっし、用意できた。行こうぜ。」
そう言ってきたので3人で下に降りた。
1階に下りると先程の男と何人かがなにやら談笑をしている所で、こちらが近づくと彼が気づいた。今思ったのだが、彼の名前まだ聞いてなかったな。まぁ、今から聞けばいいか。
「やぁ、来たか。ユウキさん。んっ?、そちらは先程見無かったが誰?。」
ああ、さっきはジェミドは居なかったからな。そう思っていると、ジェミドが自分から挨拶していた。
「おう、俺の名前はジェミドってんだ。よろしくな。」
「こちらこそよろしく。」
「っで、そちらの方は?。」
彼と一緒にいる人の紹介を頼む。
「あぁ、そうだった。俺達はチーム組んでてな、こっちのでかいのがアンリでこっちの小さいのがトマで、彼女はシャルル。最後に俺が、アルフレドって言うんだ。」
アンリはがっしりとした戦士系で濃いブロンドを短くそろえていてトマは小柄で青い髪、足元まであるマントに杖を持っていた。
格好から察するに、魔術師みたいだ。シャルルと呼ばれた女性は長い金髪で背中に弓を背負っている。そんなに目立つ容姿ではないものの意思の強そうな眼差しは好感が持てた。一通り紹介を受けて、名乗り合うとテーブルに移る。
テーブルに着き、近くに居たクレアさんに注文を頼む。食事が来るまでの間に色々聞いてみた。
「あの場所に剣が有ったてことは、ワイバーンに挑んだって事だよな。どうしたんだ?。」
「いやぁ、あれは失敗だった。思った以上にワイバーンが強くてな。俺が腕1本折られたし、アンリも骨にひびが入ったしな。ウインドカッターを掻い潜るのは至難の業だった。なんせ風の刃だからな見えないんだ。トマの指示が無ければ近寄ることすらできなかったよ。」
「そうなのか、でもあんな高いところに剣が刺さるなんてよっぽどだろ。」
「まっ、そうだよなぁ。トマのおかげでなんとか近づくことが出来たんだが、近づくと噛み付きや尻尾の攻撃でちまちまと攻撃するしかないからな。トマとシャルルが後方支援してくれたからなんとか生きて帰ってこれた。あの剣は、尻尾の攻撃を受け流そうとしたらら剣ごと持ってかれちまってな、その時に腕もやられたのさ。」
「ほんとあのまま続けていたら間違いなく死んでたな。まぁ、それのおかげで大損しちまったがな。」
アンリがため息を吐きながら言う。
「たしかに、治療費も馬鹿にならないですしね。登った時にブラックベアーを倒してなきゃ、大赤字だった。」
トマがそう同意し、
「それでも、とんとんでしょ。これで剣まで新調してたら赤字だったじゃない。ほんとありがとね。」
シャルルさんがお礼を言ってきた。
「お役に立てたのならよかったです。」
そう返していると、クレアさんが大量のジョッキを持って現れた。
「お待ちどうさま。注文のビールです。」
器用に両手で7つのジョッキを置くと、また厨房の方へと戻っていった。
「ではっ、乾杯しますか。乾杯!!。」
ジョッキを高らかに上げたアルフレドが乾杯の音頭を取った。
「「「「「「乾杯っ!!。」」」」」」
乾杯をして1口飲みテーブルに戻す、やっぱりうまいな。そう思っていると、トマが話しかけてきた。
「ユウキさん、ワイバーンをどうやって倒したんですか?。たった3人で、しかも3人とも戦士ですよね。」
どうやら、オルデンやジェミドと一緒に倒したと思われているようだ。考えたらそうだよな、ひとりで倒すなんて非常識もいいとこらしいし。
昨日の1件で俺も、学習したぞ。ここははぐらすのが吉だな。そう思って、オルデンにむかって視線を飛ばすとオルデンも頷いた。だが、空気を読めないジェミドが否定した。
「いやぁ、俺達は何もしてないぜ。ユウキが1人でワイバーンを倒したんだ。俺達はブラックベアーに襲われているときに助けてもらってな。ほんと助かったぜ。」
「「「「はっ??」」」」
アルフレド達が驚きすぎて固まってしまった。もう見飽きたよそういうの。いち早く復活したトマがあわてて聞いてきた。
「ひっ、1人で倒したなんて嘘ですよね?。」
「ああ、嘘じゃないぞ。しかも無傷でな。」
またもや空気を読めないジェミドがなぜか、自慢げに話す。あぁ、どんどん深みに嵌まっていく。
「無傷でっ?。本当にどうやったんですかユウキさん。」
ええい、もう野となれ山となれだ。
「いやぁ、岩をぶつけただけだよ。」
そう言うと、またもや呆然とするアルフレドたち、だからその反応はもう飽きたって。
「だが、岩でどうやってたおすんだ?。」
それはもっともな質問だが、岩をぶん投げて当てたとしかいえないしなぁ。どう説明したもんか。そう考えていると、トマがなにやら思いついたようで聞いてきた。
「もしかして、ユウキさんは魔法剣士ですか?。土系の魔法の中に岩を操作する物もあったはずです。でも、戦士の人が身体強化以外に戦闘中で魔法を使える人なんて始めて見ました。」
何か勘違いをしてくれた様だ、面倒だからそれで行こう。だが、戦闘中に戦士が身体強化以外の魔法が使えないのは何か理由があるのか?。取り敢えず聞いて見ねば
「それはどうして?俺のいた国じゃそれくらい普通だぞ?。」
聞き出すために、嘘をつく。少し心が痛むが、情報収集の為と割り切ろう。俺がここじゃない大陸から来たと説明する。
「え、そうなんですか?。身体を動かしながら魔法の為の思考をするのは大変だと思うんですが。」
詳しく聞くと、魔法の執行には効果を思い浮かべながら魔力を込めて放つ物らしい。なお、詠唱となる言葉は必ずしも必要ない様だ。イメージしやすくするのに一役買っているみたいで、殆どの場合詠唱するらしいが。
だから前衛の戦士が戦いながら使うのには適していないらしい。ちなみに、身体強化は魔力を身体の中で循環させて、身体を補助するものだから、そこまでイメージは必要ないらしい。
逆に、そちらの魔法はどういった物かと聞かれたが思考の中で補助の為の魔方陣を描いて、魔力で浮かべて効果を出す物としておいた。昔見たファンタジー物でこんな設定があったなぁと思い出しながら話しておいた。
「へぇ、ほんと為になりました。ありがとうございます。」
新しい魔法の話に熱心に聞いていたトマが笑顔で言って来たので、嘘を言った手前じくじくと心が痛んだ。だからこの魔法をこちらの人が使えるかは解らないからなと、一応断りを入れておく。
「はい。でも、研究の余地はありそうですね。これが広がれば前衛の人も魔法が使えてパーティーの負担が減ると思いますし。」
そうか、頑張れとだけ返してエールを送る。そうしていると料理が来たみたいだ。
クレアさんが持って来た料理は、何かの肉のから揚げみたいな物と、パンそして具沢山のスープにサラダと美味しそうな物かいっぱいあった。
から揚げもどきを1口頬張ってみると、少し硬めではあったがまさしく鶏肉のから揚げであった。下味のついた鶏肉はひと噛みするたびに旨みを出しとても美味しい。これは食が進む。そして、ビールともよく合って皆、ビールのお代わりをしつつ大いに食べた。
「あぁ~腹いっぱいだ~。いやぁ、飲みすぎた。」
すべての料理を食べ終え、2時間程たった頃。宴もたけなわになった頃に解散することとなった。何でだろう、昨日よりひどい惨状が広がっていた。生き残ってるのは、俺とオルデン、アンリだけだった。
そりゃあ、あんだけ豪快に飲めばこうなるよな。お代をオルデンが自分とジェミドの分を、アンリが残りの分を払い、歩けないトマとアルフレドを担いでふらつくシャルルとともに近くに借りている宿へと帰って行った。
俺達も部屋に戻るかといった所で、ジョブソンさんが近づいてきた。
「すまんが、ちょっといいか?忘れてたんだが今日も泊まっていくんだよな。今晩の分を貰ってなかったから今もらえるか?。」
そういえば、今日の分を払っていなかったな、面倒だから3日分を先払いしておこうか。そう思って、3日分の代金貴銀貨2枚と銀貨1枚を渡す。
「ちょうど、3日分だな。帳簿つけなきゃな、おやすみ。」
そう言って、ジョブソンさんはカウンタに戻って行った。おやすみなさいと返した俺達はまたも飲み潰れたジェミドを引きずりながら2階にある部屋に戻っていった。