武器屋で買い物を
小鳥達の喧しいさえずりで目覚め、少し痛む頭を抑えゆっくりと起き出す。見慣れない部屋を見渡すと、通りに面する窓の隙間から朝日が射し込んでいた。木製の窓を開けて外を見ると清々しい空気が部屋に流れ込んでくる。大きく背伸びをして肩を伸ばし身体を解す。
少し体臭が気になった。元々、体臭は薄いほうだといわれているが昨日、1日の殆どを歩いたり走ったりしたのだ仕方ないだろう。風呂を借りねばと思い、ふと、そもそも風呂が有るのかどうか知らなかった。まぁ、今から聞けば良いだろうと部屋を出る。
1階に降りるてカウンタに向かうと、もう仕事を始めているジョブソンさんに挨拶する。
「おはようございます、ジョブソンさん。聞きたい事が有るんですがいいですか?」
目上の人に対する礼儀はしっかりとしないとな。これでも社会人だったしこれくらいちゃんとしておけば心証もいいだろう。
「ああ、おはようさんユウキ。昨日も思ったがやけに丁寧だな。冒険者でここまで丁寧な喋りする奴なんていないぞ。どこぞの貴族かと思うくらいだ。まぁ、貴族は俺なんかに丁寧に喋らんがな。でっ?、なんのようだ?。」
貴族か、あんまり丁寧なのも下手な誤解をもたれそうだが癖になっちまってるしな。徐々に変えていくしかないよな。
「あの、ここに風呂ってありますか?。あるなら借りたいんですけど。」
「風呂か、あるぞ。昨日説明したんだがな。結構酔っていたみたいだし聞いてなかったみたいだな。んじゃ、もう1回説明するからな。1回半銀貨1枚で風呂の鍵が借りれる。そして風呂場だがここの奥にある。青い札が掛かった方が男湯だからな。間違っても赤い方に入ろうとするなよ。まぁ、鍵が無きゃ入れんがな。たまに鍵を掛け忘れる奴がいて面倒が起こるがお前も気をつけろよ。」
豪快に笑いながら忠告してきた、そんな事するつもりは無いが。
「解りました。んじゃ、これでおねがいします。」
そう言って、銀貨を差し出すと、お釣りの半銀貨と鍵と手ぬぐいを渡してくれた。礼を言って奥に入り、青い札の掛かった扉を鍵を開けて入る。そこは狭い脱衣所で、棚にかごが置かれているだけの殺風景な所だった。
服を脱ぎかごに入れて、風呂場に入る。6畳ほどの風呂場はモザイクタイルが壁一面に施されており、さながら森の中にいるような錯覚を起こした。なかなか趣味がいいな。
奥に広々とした風呂があり右側の壁になにやら書かれていた。【ここに魔力を流すとお湯が出ます】なにやら小さな魔方陣らしき物の上にそう書かれていて。魔方陣をぺたぺた触れてみると、触れた時だけ少しだけ魔方陣からお湯が出た。
面白いなと何度も触ったりして遊んでいたが、あまりお湯が出ない事に飽きて、本題の風呂に入る事にする。石鹸など無い為、お湯で流しながら身体を洗う。最後に掛け湯をして、湯船にゆっくりと入ると、思わず声が漏れる。
「ああ~いい湯だ~。」
しばらくお湯を楽しみ、あがって身体を拭き着替える。脱衣所から出て鍵を閉めるとカウンタに戻り手ぬぐいと鍵を返す。
「いや~いい湯でした。」
俺がそう言うと、ジョブソンさんがそれは何よりだと返してくれた。
風呂に入ってすっきりしたら急に腹が減ってきた。そのまま、何か食べれないかと聞くとまだ食堂が開いていないらしい。だから人が居ないのかと納得し、食堂が開く10時まで部屋で時間を潰すことにした。
部屋に戻り手持ち無沙汰で、歩き回ったりベットに座って剣を眺めたりして暇を潰すと下がにわかに活気づき始めた。腕時計を確認するともうそろそろ食堂の開く時間だった。そのまま下に降りてみると、早くも数人がテーブルに着き食事を取っていた。
では俺も、とカウンタで料理を注文する。まだどれがどんな料理かわからないが、適当に選んでみる。当たりだといいんだが、そうこうする間に料理が出来上がり目の前に来た。
来た料理は大盛りのサラダと何かの肉料理だった。いただきますと心の中で唱え、食べ始めると階段からオルデンが姿を現した。
何だが少し顔色が悪いようにも見える。オルデンはこちらに気づくと隣に座り、料理を頼んだ。
「おはようユウキ。なんだ、ずいぶん調子がよさそうだな。」
「おはようオルデン。さっき、風呂に入ったからな。調子もばっちりだ。ジェミドはどうしたんだ?。」
ジェミドが降りて来ないことを聞いてみる。昨日、飲み過ぎていたみたいだから寝坊でもしたのかと聞いてみる。
「ああ、今頃ジェミドはベットで唸ってるさ。依頼を成功させるといつも飲みすぎるんだ。何回やったら懲りるんだろうな。」
そう言ってオルデンはちからなく笑った。あんたも二日酔いの顔してなにを言ってんだか
と、心の中で思いつつこちらも苦笑で返す。
こちらが食べ終わり、食後のコーヒーらしき物を楽しんでいると、オルデンも食べ終わったのか、話しかけてくる。
「ユウキは今日どうすんだ?。俺達は2、3日休暇を取るが。何かする事でもあるのか?。」
「取り敢えず、武器屋かな。拾った剣の鞘がないからどうにかしないと。」
昨日拾った剣は刀身を上着で覆ってあるが何時までもそうして置く訳にはいかないだろう。
「そうか。武器屋の場所は知ってい・・・る訳ないか。しょうがない、俺が連れてってやるよ。」
「ありがとな。んじゃ、準備してくる。」
コーヒーを飲み干し、代金をカウンタに置くと部屋に戻る。準備と言っても剣を持っていくだけだが。剣を持って下に戻り、カウンタに出かけると声をかけ鍵を預ける。
すぐに、オルデンが準備を整えて降りてきた。2人でギルドを出て、道を右へと進む。木造の建物の間を話をしながら歩くとあっという間に着いた。武器屋は店先に剣と槍が飾ってあった。扉が開け放しており、中に入ると先客がいるようだ。
先客は店主と話をしており、オルデンとこちらの番になるまで店の中を見ている事になった。色々な武器が棚や底の深い傘立ての様なものに立て掛けられていて、見ているだけで興味が尽きない。
男ならこの感覚に解ってくれるだろう。ホームセンターとかの工具を見て廻っている感覚に近い。あれは何かを作り出す物だがこれは誰かを傷つける為の物と、違いはあるが。剣の棚を見ていると先客が帰るようだ。
気づいて店主の方へと行こうとすると、なぜか先程の先客がこちらに向かってきた。
「なぁ、あんた。その剣如何したんだ?。」
いきなり声を掛けられてびっくりしていると手に持っていた剣を見せてくれと金髪の大柄の男が頭を下げて頼まれた。
「いいけど。その剣は昨日ニズク山で見つけた物だが何かあるのか?」
剣を渡すと、彼は巻いていた上着を外して剣を見た。そして何か確信したのか頷くと俺に剣を返してきた。そしていきなり膝を床につけると土下座しだした。
「頼む。その剣を俺に譲ってくれ。言い値で払うから。」
いきなり土下座した彼は大声で懇願して来る。何故だと聞くと、それはこの前ワイバーン討伐に行った時に負けて泣く泣く置いてきた物だという。そしてこの剣は父親から譲り受けた物でとても大事にしていた物だったようだ。
「俺には、もうそれしか親父の遺品が残っていないんだ。頼む。」
そう言われると返してもいいような気がしてきた。そこでオルデンに目線を送ると、お前が拾ったのだからお前の物だ好きにしたらいいと言ったので剣を返すことにした。
「立ってください。これはあなたにお返しします。」
立ち上がって剣を受け取るといくらだと聞いてきたので御代は要らないと言ったら、そうはいかないとなぜか口論になってしまった。
いらない、必ず払うと、いい加減疲れてきた頃、さっきから黙っていたオルデンがいい方法があると言ってきた。
「それはな、こいつに飯を奢って貰えばいいだよ。剣の代金としては足りないがユウキは持って来ただけなのだから、それでいいだろ?。」
それを聞いて、いい考えだと納得し大柄の男に言うとしぶしぶだか納得してくれたようだった。夕方にギルドで落ち合おうと約束すると剣を大事そうに抱えて帰っていった。
ふうと、疲れてため息を吐くと店主が話しかけてきた。
「よう、大変だったな。見てる分には面白かったが。」
そんなに面白いもんかね。その前に止めてくれよと思っていると、オルデンがこれで剣がなくなってしまったな何か新しい武器でも買うか?と、聞いてきた。
「それなら、なにがいい?。王都の様にそんなに種類は無いが見てってくれ。」
と笑顔で勧めてきた。なにが良いかと考え、取り敢えず剣で頑丈なのと注文を出す。そうすると店主は予算はいくらだと聞いてきたので、金貨5枚と答える。今ある全財産の半分だ。
「金貨5枚か、ならこれなんてどうだ?」
そう言って店主が取り出したのは剣が2本と刀が1本だった。刀があるのかと驚きつつまず、刀の方を取り鞘から抜いてみる。これは野太刀だな、長い全長の刀で、刃についてはよく解らないが綺麗な刀身が窓から入る日差しに煌めいた。かっこいいと思いながら鞘に戻して机に置く。
次は、短い方の剣を取り抜いてみる。刃は両刃で短く40センチ程で淡く銀色に輝いた。接近戦での振り回し重視って感じだな。こちらも机に戻して最後の剣を取る。
こちらはひたすらでかいって印象で、150センチに迫る全長の両刃の剣で刀幅も20センチ位で厚さも2センチ程だった、それでも軽々持ててしまう自分のちからに驚きつつよく眺める。これは、切るより鈍器としての使い方も出来そうだ。
「どうだ?、気に入った物はあったか?。」
店主が聞いてきたので、この中でちから押しに向いているのはどれと聞くと、迷わず最後に選んだ剣を指差した。ではそれでと言って代金を払う。金貨4枚と半金貨1枚貴銀貨2枚だった。でかい買い物だったな。剣を受け取ると、おまけだと鞘に通す皮のベルトをくれた。
礼をいって、武器屋を出る。さっそく腰に着けてみるがどう考えても鞘が地面を擦ってしまう。
「ユウキ。それは、背中に背負う奴だぞ。わざとだよな?。」
オルデンが笑いをかみ殺した様に言ってくる。わざとだよと顔を赤くしながらいそいそとベルトを付け直す。背中に斜めに背負うと肩口に柄が覗いていた。まだ笑いを抑えているオルデンににらみを利かせると、あわてて聞いてきた。
「でっ?予定は狂っちまったが武器屋の用事は済んだし如何する帰るか?。」
そうだな、と返してギルドに向かって歩き出した。
今日もやっと書き上げもした。目が疲れてぼやけて見えないのには参りました。