戦闘以後
「はぁはぁ、死んだか?」
倒れたワイバーンを見つめ、警戒しながら少しづつ近づく。歩く足がなんだかぎこちない。緊張が少し解けたのか、膝が笑っている。プルプルと生まれたての小鹿のような感じの膝に両手でバシッっと喝をいれるが今にも倒れそうだった。
仰向けに倒れ腹の辺りに岩が刺さっている姿はまるで小山のようだ。その刺さった岩の辺りから今もだくだくと血が溢れ出でおり鉄の匂いが辺りを支配する。
ちなみに、俺は爬虫類は飼おうとは思わないものの嫌いではない。
痙攣さえしなくなった、その巨体の目の前まで来て恐るおそる血を避ける様に触れてみる。まだ温かい、そりゃぁ今まで生きてたんだものと自分に突っ込みを入れつつあちこち触って歩きまわる。
温かく分厚い皮を触っているとなんだか、いまにも起き上がって来そうな妄想に襲われた。
冒険者ギルドがあると言う事は、このワイバーンも討伐?対象になっているかも知れない。なら、討伐証明を持っていけばお金をもらえるだろう。その為には、ワイバーンを証明するものを持って行くしかない。それがどこだか知らないが、普通牙か、爪、あと尻尾くらいか。こいつなら翼って線もあるかも。
ちょうど腹の方に居たため、足に近づき野太い爪を掴むと取れないかと引っ張る。すると、メリメリと嫌な感触が手に伝わり遂にはもげた。もげた拍子にバランスを崩し尻餅を着いた。
少し悪態を吐き立ち上がると、もう一方の爪ももぎ取って頭の方へと行き牙も剥ぎ取る。それを、ズボンのポケットに入れた。かなりはみ出したが、ポケットの蓋?を閉めると落ちそうになかった為、良しとする。
一頻り取り終えると、先程までワイバーンが護っていた所にたどり着いた。そこには、木を噛み砕いたような大鋸屑のような物が敷き詰められており、その中央にはダチョウの卵を大きくした卵が2つほど収まっていた。
「こんな大きさの卵なんて見たの初めてだ。」
ダチョウの卵なら、昔小学校の実験室に飾られていたのを見た事はあるがそれよりもふたまわりほどでかい。白い殻に黄緑色の模様が浮き出ているがこれがまさしくワイバーンの卵で間違いないだろう。確証は無いが。
さて、どうしようか。
選択肢としては3つ、1つ目このまま放置、そのうち他の魔物に食べられるか生まれたとしても生き残れないだろう。2つ目生まれる前に潰し殺す、万が一生き残ったとすると人が襲われるかもしれない。最後は持って帰る、これが大本命。RPGとかだとワイバーンとかで空を移動するしな。
ただ、俺に育てる事は無理そうだ。今まで犬とか猫などの動物すら飼った事すらないし、第一何を食べるのかすら想像つかん。
たぶん、調教士辺りがいるだろうからそこに売ればいいと思う。いなかったら売れるかどうか判らないがギルドとかで引き取ってくれないかな。最悪駄目なら、潰すしかないが。
まぁ、取り合えず持って行こうと持ち上げるが、両手に卵。あんまり力を入れると割れそうだ。今すごく卵用のパックが欲しくなった、こんなにあれがあんなに素晴しい物だとは思わなかった。でもまぁ入らないだろうが。そんな事を考え苦笑する。
この光景を人が見たら、危ない人認定されてしまう。だって考えても見ろ、ワイバーンが倒れている前で両手に卵を持って笑っている姿。だめだ、黄色い救急車を呼ばれても文句言えない。
何かで運べないかと探すが何も見当たらなかった。しょうがないと、上着を脱ぎ裾を縛り卵を並べて包んでみた。半袖の為、縛るとおぶるような物には出来なかった。片手で持てるようになっただけましかと考え、それより大事なことを思い出した。
俺がここに居るのは何の為だ?そんな事は決まってる。この先にあると言う村に向かうことだ。でも、その方向がどの方向か戦っているうちに判らなくなっていたのだ。
周りを見渡すが、自分の居る所こそ開けている物の広場の終わりには20メートルを越えるかというほどの巨木が生えており、余り見通しは良くないというより視界が制限されていると言った方が正しいだろう。
どうにかして、村のある方向を確認せねば、まともにたどり着けるかわからない。
「そうだ。上から見れば一発じゃね?」
ちょっとバックステップしたくらいで有り得ないほど飛んだのだ、垂直飛びでも相当飛べるはず、っとさっそく実験。結果は、まぁ成功と言えるんだろうが失敗したとも言えた。
足に力を込め、屈伸状態から一気に膝を伸ばす。重力を振り切るようにものすごい速度で空へと飛び出した。巨木を少し越えた辺りまで飛ぶとすぐに上昇が終わり自由落下が始まる。ものの数秒で地面に着地した。
ほんの数秒では、見れる範囲は少なく、何度も飛ばなくてはならない事に気づきため息を吐きつつ卵は手に持ったままだと割れるかと思い、10歩ほど離れた所に置いておき、そして何度も飛び上がる。
数十回、繰り返しただろうか、落ちる時の胃が持ち上がるような感覚に気持ちが悪くなりつつ、なんとか村の方向がわかった。太陽の向きを考えるとこの山から南西の方向にあって、ここからだとかなり小さくうっすらとだが人工物である家らしきものが見えた。
「うっぷ、これで、なんとか、なりそうだな。少し遠いが、なんとか、なるだろう」
目的地が見え、安堵とこれで人と逢えるかもとテンションが上がってくる。
良しと、気合を入れ卵を包んだ服の所まで歩き右手で持ち上げる。そのまま南西の方へ広場を歩きだすと、端の巨木の下から5分の1ほどの所に鈍く光る物が見えた。
それは、深々と巨木に突き刺さった剣で柄の部分の他は殆ど見えず柄頭が鈍く銀色に輝いていた。取ろうと思い、巨木に向かってジャンプし柄を左手で掴んで木に向かって軽く蹴りを入れる。木が軋む音が聞こえ、ズルッと剣が抜けた。着地して剣を見ると小ぶりの片手剣だった。
刃の長さは肩から先と同じくらいで、鈍い銀色に光り所々刃が欠けている。その刀身は細く軽い。自分の力が異常だから、はっきりと判らないが、体感的にはペンと変わらないくらいに思える。
卵と剣を持ち替え右手で持つと、軽く振ってみる。上から下へヒュンと空気を切り裂いた。なんか凄そうだと木に向かって試し切りしてみる。
袈裟斬りしてみると刃の半分位まで簡単に入り、途中で止まる。斜めに入った線が途中で僅かに太くなっていて刃が垂直に入らなかったことが原因だと思われる。
こんな物なんて初めて握ったから当たり前だとひとりごちる。
剣を使うなら誰かに教わら無ければならないかもな。気を取り直し抜き身の剣をベルトに差し、山を降りることにした。
かなり短いです。