異世界降臨と初戦闘は?
さらさらとやさしい風が前髪を撫でる。木陰からもれる木漏れ日の光が、瞼のうちにある瞳に届き意識を刺激する。彼は、まどろみから目覚め瞼を開く。
「うっむうっっ」
起き抜けの頭はいっこうに働かず、目の前の光景をただぼんやりと映すだけだった。初夏のような、暑いとは言えないからりとした空気。とりあえずと、体を起こし周りを見渡す。そこには見渡す限りの鮮やかな緑と大地の息吹を感じさせる茶色、そこらじゅうに聳える巨木とそこに差し込む光の筋は幻想的で思わず見とれてしまった。
《私の声が聞こえてますか?》
爽やかな優しい鈴の音のような声が耳に響く。
突然の声に急いで立ち上がり、キョロキョロと辺りを探してみる。周りに人は1人も居ない、それどころかこんな自然の中だというのに小鳥のさえずりさえなかった。すこし不気味に思いつつ身構えていると、また声が聞こえた。
《落ち着いてください。私は其処に居ません》
(ここに居ない?どう言う事だ?)疑問に思いつつ声を上げた。まずは意思疎通しないと進まなそうだ。
「あんたは誰だ?そしてここはどこなんだ?」
するとすぐに返事が返ってきた。
《私はこの世界の上位神で、ミッテと言います。此処は何処かと聞かれると、何と言って良いんでしょうか》
「神様?ほんとに居たのか・・・でも、ここが分からないってどういうことだ?日本じゃないのか?」
神様なんてもっと上から物言いしてくるもんだと思ってたが、どうも違ったようだ。こちらが落ち着くようにゆっくりと語りかけてくる。
《いえ、此処は貴方の居た世界ではありません。此処はアルベリアンと呼ばれています》
「アルベリアン?聞いたこと無いな。って事は、ここはいわゆる異世界なのか?」
《はい、その通りです。今居るこの森はモント共和国内のニズク山と呼ばれてますね》
衝撃の事実をさらりと告げるミッテと名乗る声。
「山?確かに僅かだが上に向かって傾斜している様にも見えるが」
《何か聞きたい事は有りませんか?あまり時間が有りません》
「なぜ?」
急に時間が無いといわれても困るんだが。ここには、俺とミッテしか居ない。頼れるのはミッテしかいないのだ。って言っても厳密にはミッテがこの場には居ないが。
《今の私が世界に干渉するには私と波長の合う、者に協力してもらわなくてはなりません。ですが、波長の合う者は少なくその者にも負担になります。特別な装置があれば声を届けるくらいできるのですが》
と言うことは、俺が波長が合うって事か。今の所、負担を感じては居ないが時間が無いなら急いで聞かなくちゃならない事を纏めなくてはと、考え始める。
今更だが、なぜ俺がここに居るのか聞か無くてはならないだろう。あとは、この世界がどう言った所なのかと言った所だろう。そう考え、声を出そうとしたところで向こうからの声が先に出た。
《先に何故貴方が此処に居るのか答えなければ為りませんでしたね。それは、貴方の居た世界の神が貴方を此方に送って遣したからです。今までも、貴方の居た世界から人を送って貰う事は有ったのですが、向こうから送られてきたのは初めてです。此れまでは、此方から頼んで送ってもらっていたんです。あと、此方は貴方の知識にあった中世と同じと考えて貰って構いません。ただ、そちらには無い魔法がありますが》
今さらっと魔法の言葉が出たな。ってか俺の知識って事は俺の思考が読めるのか。道理で、耳で聞いているというより頭に直接響くような気がするのか。まぁ、そんな事より今まで色々有り過ぎて忘れていたが、帰れるかどうか聞かなくてはと思った矢先、次の瞬間その考えが打ち砕かれることと為った。
《残念ですが、貴方は元の世界に返ることは出来ません。此処は貴方が居た世界より下位の世界なのです。水が低きに流れる様に、上位世界には行く事が出来ません。ですので、貴方には此方で生きて頂きます》
それを聞いた俺は、ガックリと項垂れ絶望を味わった。だがそこで、ある事を思い出す。異世界トリップしかも上位世界から来たって事はテンプレで言う所のチートな能力があったりするのか?そう考えると、なんだかやる気が出てきた気がする。
《確かに、貴方が此方に来たことで力を得ているでしょう。ですが、私から貴方に与えられる能力は殆どと言って良いほどありません。なぜなら、貴方の中に私にも判らない力が宿っていて、その力が殆どの領分を占めています》
わからない力ってなんだ。っと心の中で突っ込みを入れつつ、これから必要になるであろう言葉や文字に対する物は教えてもらえるのか心で聞いてみた。何て言っても、意思疎通は重要だしと、前会社に居た中国から来た伴君も最初は大変だったとしみじみ思う。
《その程度なら大丈夫です。今のままでも、話すのは問題無いでしょう。文字の方も判る様にしておきますね》
そう言った直後に頭に急激な負担が掛かり、まるで知恵熱の様な症状が出た。っと言っても、ほんの1~2分で収まり溜め息が出た。なぜか今は頭がすっきりしている。ミッテが言語のほかになにかしてくれたのだろうか。
《もうそろそろ時間のようです。あと、ポケットに入っているものは冒険者ギルドのカードです。身分証の代わりになっているので失くさない様に気を付けて下さい。この山を越えた先に1番近い村がありますのでまずは其処を目指してみては如何でしょうか?。では何かあれば神殿でお会いしましょう。あっそうでした、魔物も出ますのでそちらも御気を付けて・・・・・・・・・・・・・・》
そう言い、ミッテの声が聞こえなくなった。しばらくすると徐々に周りの音が聞こえ出し、木のさざめきや鳥達の鳴き声が戻り始める。最後に気になることを言っていたような気がするが、ギルドカードの方が気になり、先程まで気がつかなかった、ポケットのふくらみに手を入れてカードを取り出す。金属の様な光沢の白いカードで、大きさは免許証をふた周りほど大きくした物だ。
そこには、こう書かれていた。
表には、
名前 加賀美 結城
種族 人間
年齢 21
出身 _________
性別 男
ランク F
裏には、
ちから A-
すばやさ B
ぼうぎょ C+
まりょく F
しゅうちゅう C+
??? EX
称号 【異世界神の情け】【異邦人】
と書かれていた。
ひと通り見て思うことは、ちからA-って馬鹿みたいに高いし、???ってなによって事だが、ミッテがいないから聞けないし、これは人に合ってから聞くしかないかな。
「取り合えず、山頂を目指すか」
そう呟き、気合を入れる。俺は山頂を目指し登り始めた。目の前に広がる大自然を見ながら歩み始める、巨木の間には光が届きにくいのか、木と木の間は結構な間隔があるにも拘らず膝ほどの植物しかない。歩きやすくて結構なのだが。
小1時間ほど登った所で、ある事に気づく。上にあがるにつれて、少しずつ勾配がきつくなっているが、少しも息は切れないし疲れないのだ。少し走ってみようかと、小走りで駆け出し徐々に速度を上げていく。坂を登っているというのに、元の世界記録保持者もびっくりの速度が出た。体感では80Km位は出ているんではないかと思うぐらいだ。
あっという間に山頂付近に着いた。そこは、殆ど木が生えておらずサッカーコート程の開けた場所になっていた。ここまで、魔物に合わなかった訳ではない。っと言うより目の端にチラッと映っていたのだが、かなりの速度が出ていた為に魔物が追いつけずに居ただけの事だ。だが、目の前に居るのには逃げられそうに無い。こんなこと言っていてなんだが、現在絶賛現実逃避中である。
そこには、鋭い牙に長い首、肩から先がこうもりの翼のようになっていて、筋肉が盛り上がった太い足と巨大な鉤爪、そして長い尻尾とまるで、ワイバーンってかむしろワイバーンな姿がこちらに大きな翼(端から端まで6mはありそうだ)を広げ威嚇している。これはまずい。ってか、不味すぎる。こっちに来て1日も経たずに死ぬのは勘弁して欲しい。
こちらが動かずどうしようか迷ってると、こちらが動かないことに業を切らしたのか、ワイバーンは鎌首を仰け反らせ勢いを付けて大きな牙を覗かせ首をこちらへと伸ばしこちらに首が届く直前に頭を半回転させ大口を開ける。その勢いに驚き、足に力を込め後ろにむかって飛ぶ。
「がっっ痛ぅっっ」
余りにも飛びすぎて広場?の端にある巨木に背中を強かに打ちつけた。その割りに痛くは無かった物の、癖で痛いと言ってしまった。少し恥ずかしい。体勢を立て直しそこから、ワイバーンを窺うとその場から動かずグルルルとこちらに威嚇するだけだ。
これはチャンスかもしれない、近寄らなければ大丈夫のようだ。と、広場の端をワイバーンに威嚇されつつじりじりと進む。その間もワイバーンを窺っていると、大きな翼をはためかせ始めた。これは飛ぶ予兆かと身構えると翼に淡いエメラルドのような靄が集まり始め、ワイバーンはこちらに向かって翼を振り上げた。
振り上げた翼の先からエメラルド色のブーメランらしき物が無数に飛んでくる。かなり早いがそこそこ距離があった為、横に飛んで避けると今まで居た場所が鋭い斬撃が打ち込まれたかのように巨木は斜めに切れ地面は抉られていた。チクリと左腕が痛み、半袖を捲ると僅かだが血が滲んでいた。
「ふふっ洒落にならんな」
おもわず笑ってしまった、避けなかったら上半身と下半身がサヨナラするとこだった。これで逃げるわけにはいかなくなったな。近づけば牙や爪が離れたらかまいたちと来たか、こりゃ詰んだな。
もう逃げるのは諦めよう。なんとかして、倒すしかなさそうだ。
その間も、ワイバーンは翼を振り上げかまいたちを放ってくる。それを右へ左へと飛んでかわしながら策を練る。
「避けてるだけでは埒があかないな、だが近づくのも危険だし」
近づけば間違いなくかみ殺す為にその長い首を伸ばすだろう。何か無いかと周りを見渡すとそこにはかまいたちの当たった岩が砕け破片になった石が転がっており、ひとつ手にとってみた。ソフトボールほどの大きさの石は驚くほど重さを感じさせない。それをワイバーンに向かって力を込めて投げてみた。
ブォンと風を切りながら石は胴体に当たると、すこし表面を削りかすかに赤い血が滲む。当たった衝撃に耐えられなかったのか石は粉々に砕けてしまったが。それでも、むこうは攻撃を受けることが驚きだったらしく翼を止まってしまい、かまいたちが止まる。
これはいけるとまた石を拾い投げつける。数回、数十回と繰り返すと、そこ此処から血が流れ始めワイバーンはとある行動を取り始めた。
膝を落とし何かを守るように身を丸め始めたのだ。なにか大切なものが腹の下辺りにあるらしい。ここぞとばかりに動かなくなったワイバーンに石を思いっきり投げつけた。なんだか可哀想な気もするが、ここで殺せないようならこの先、生きて行けないだろう。
俺はまだ生きていたいし、その為にはこれが必要なら、やるしかないのだ。手近に石がなくなると、その辺にある小さい岩を(と言っても両手でなんとか抱えられるくらい)持ち上げてみた。重くは無いものの、大きくて持ちづらくよろけてしまった。
石による攻撃が止んだ事に気づいたワイバーンが、首を持ち上げようとした所で体勢を整えた俺の渾身の投擲がきまる。勢い良く手から離れた岩は放物線など描かず、ただ真っ直ぐにワイバーンの胴体に半分ほど刺さりそれでも勢いが無くならなかったのか仰向けにドスンと倒れ、地面が僅かに揺れた。
もがく様に巨大な足をバタつかせ、最後の咆哮か血を吐きながら耳を劈くような叫び声を轟かせた。次第に動く足にも力が無くなって最後にはぴくぴくと痙攣するだけとなった。
この時、初めての戦闘は俺の勝利で幕を閉じた。
なんとか書き上げました。まだまだ、構想が固まりきっていません。ボンクラ具合に拍車が掛かってますね。すこし更新に間が空きそうです。毎日新しい設定が生まれるのは考えていて楽しいのですが、いかんせん纏まりに欠けるこの頭を如何にかしたい今日この頃。
誤字、脱字、報告お待ちしております。