助けるのはいい事なのか
もう間も無く夕闇に包まれる森の中で少年と少女は魔物と対峙していた。少年は30センチ程の刃渡りのショートソードとバックラーを隙無く構え、少女は腰ほどの長さの杖を魔物に向けていた。
俺は、その少年少女から約50メートル程の木から様子を窺っている。けして変質者の真似事では無く、少年達に手助けが必要かどうか見るためだ。そして、その対峙している魔物は、牛に良く似た魔物で見た目は水牛に近く大きさは二倍ほどで立派な角が印象的だった。
その魔物が2、いや3頭ほどだろうか、そのどれらも切り傷らしき物が見え死ぬ寸前の物まで居た。だが、その魔物達は傷ついている身体に気づいていないかのように鼻息荒く戦意も衰えていない。少年達に一番近い一頭が不意に突進してその立派な角をかち上げる様に首を仰け反らせる。
その様子に、俺は何時でも手助けが出来るように大剣を抜き様子を見る。
前衛の少年は角にバックラーを合わせ視界を遮ると横に滑り込むように回り首元にショートソードを突き立てた。だが浅かったのか致命傷にはならず、魔物は首を捻る様にして少年に攻撃しようとしたが、少年はショートソードを引き抜き後ろへと飛び去る。
なかなかうまい攻撃だ、うまく魔物を翻弄している。もし、俺に同じ事をやれと言われても無理だな。俺なら大剣で叩き潰すか首をねじ切った方が早いからあの戦法でやる必要は無いし。
それにしても、あの少年が駆け出しの冒険者なのだろうか?。もしそうなら、駆け出しではなくいっぱしの冒険者に見えるんだが。もしかして、後衛の少女が駆け出しで、少年が護衛かもしれない。あれだけ動けるんだからそう見るのが自然だろう。
ちょうど、一匹目の魔物が少年のショートソードで切り倒された。だが、そのすぐ後に魔物が迫ってきている。一匹目の魔物が死んだことを確認している少年は気が付いていない様だ。危ないと思ったその時、後衛にいた少女から淡いが力強い魔力の迸りが見えた。
次の瞬間、放出された魔力は矢の様な形を取り、ヒュッっと空を走り迫る魔物の眉間に当たった。威力が低かったのか、魔物は少し怯んだだけだが、その間に少年の体勢が整い魔物の奇襲が失敗に終わった。
魔物はなおも突進と突き上げを繰り出すが少年にいなし、かわされて有効打が出せない様だ。その間も少年と少女の攻撃で弱らされていく。最早魔物は一匹だけとなった。いつの間にか今にも死にそうだった奴が死んでいたようだ。
魔物は、今にも息絶え絶えで、もうそろそろ勝負が着くだろう。そう思っていると、またもや魔物は少年に向かって突進した。対する少年はバックラーを突き出し受け流しの構えを取っている。だが、ここで予想もしなかった事が起きた。
今まで魔物はぶつかる時にその立派な角を用いて突き上げをしていたのだが、それをせずに受け流した少年の攻撃にも気にせず通り過ぎたのだ。その狙いは、突進の少し先居た少女だろう。それに気づいた少年があわてて追いすがるも突進で勢いづいた魔物に追いつかない。
突進される数瞬後を思い描いたのか顔から血の気が失せ震えている様に見えた。後数秒で少女にぶつかってしまうと言う時、僅かな風きり音が辺りに届き、魔物が吹き飛んだ。なんとか間に合った様で一安心のため息が出た。
少年がいきなり消えうせた魔物に驚き周りを見渡しながら少女の方へ近づいて行く。もう魔物も居ない様だし、いっちょご挨拶でもしますか。剣も回収しなくちゃならないしな。と、言うわけで、木陰から身を表す。
少年と少女に近づくと周りを見渡していた少年が先に気づき、あわててこちらにショートソードを向け警戒した声で尋ねてきた。
「あんた、誰だ」
俺は、その問いに応えず、少年達に一定の距離を開けて向こう側へと向かい大木に魔物ごと刺さった大剣を無造作に引き抜く。魔物は腹を貫通する様に大剣が刺さっており、もう息をしていなかった。
それを、そのまま持ち上げて少年達の方まで戻り、少年達の前で魔物が刺さったままの大剣を地面へ突き刺して言った。
「危なかったな。大丈夫か?」
「あっああ、だ大丈夫だ」
少年が応える。魔物が刺さったままの大剣を目の前に見せられ、呆然としながらも、それでも少し残った思考が先程の魔物の突然の消失はこの所為かと理解する。それでも、なぜこの村に冒険者が居るのか疑問に思い質問する。
「なぁ、あんた冒険者なんだろう?こんな所で何してるんだ?」
「何って、そりゃぁ依頼を受けていたんだが。何かあるのか?」
「そりゃぁそうなんだろうが。いや、そう言うことじゃなくてさ、何でこんな寂れた村に居るのかって事だよ」
「ああ、なんと「ありがとうございます!!助かりました」
少年と話しているといきなり少年の横から少女が割り込みお礼を言ってきた。
「ああ、どういたしまして。こう言うのは助け合うもんだろう?気にするな」
言いながら近くで見ると、中々可愛らしい顔をしている少女で栗色の髪に多少下がり気味の眦に茶色の大きな瞳が愛らしい娘だ。そして、少年と良く似ている。少年も栗色の髪に少し細めがちながらも茶色の瞳は良く似ており、これはもしや兄妹かと思い尋ねて見る事にした。
「いきなり不躾で悪いんだが、もしかして君達二人は兄妹か?」
「あっはい、そうです。私が姉のイキュアでこっちが弟のアキュラです」
「俺はアキュラよろしくな」
そう言って手を差し出すアキュラずいぶん馴れ馴れしいな。まぁ、この稼業は人見知りには辛い仕事だしな。初めて会う人間と契約しなくちゃ為らないし当たり前と言えば当たり前か。
おっとそう言えば、先程もアキュラがイキュアの護衛かと勘違いしてしまったが、ここでも少し勘違いしていた様だ。兄妹は兄妹でも姉弟の方だったとは。イキュアは目測で150センチ程にしか見えず、アキュラは俺より少し小さい位で170センチはあるだろう。
どう見てもアキュラが年上に見えるが歳を聞いて驚いた。イキュアは17歳でもう成人していて、アキュラはまだ15歳で冒険者に成り立てなんだそうだ。因みに、又聞きだが冒険者は15歳でなれる。
それ以下は依頼を受ける事は出来ず、冒険者にはなれない。昔は10歳からだったらしいが15歳以下だと致死率が極端に高く将来有望な者達が簡単に死なれては困ると今の年齢制限まで上がったんだそうな。
それでも、知り合いや親などが冒険者であった場合幼い頃から手伝わされている場合が多く駆け出しでもそこそこ腕を持っている奴も居る。あとこの世界って言うか、この国では、16歳で大人として扱われる。これは、どうでも良かったな。
「そうか、あっそういやまだ名乗ってなかったな。俺の名前はユウキ。さっき言ってた通り冒険者をやっている」
「やっぱりそうですか先輩ですね」
「でっ?さっきのは何をしたんだ?何かの魔法?それとも剣術の一種か?」
「こら、いきなり何聞いてるの。そう言うのは軽々しく聞いちゃ駄目でしょ。弟がいきなりごめんなさい」
「大丈夫。特に大したことしてないし」
「なっ?大丈夫だったろ?大したこと無いってどうやるんだ?俺にも出来るかな?」
「ん~どうだろうな?取り敢えずやってみるか」
そう言いながら、大剣を魔物から引き抜いて軽く血を飛ばす為に振るうとアキュラはキラキラとした目で此方を見ていた、それを横目に見つつ遠投の構えを取り、近くの大木に向けて槍投げの方法で投げた。
多少力み過ぎたのか一瞬バンッっと音が聞こえ剣が大木に刃の根元まで刺さりつばの部分で樹皮を削りながらも止まった。それを見届けて後ろを振り返ると、をあんぐりと開けたままのアキュラとイキュアがいた。
だいぶ遅れましたが投稿します。それにしても、メインヒロインがまだまだ出ないなんてどれだけって感じですが、実際予定ではまだまだ先になりそうなのです。ご容赦ください。