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思考と魔法と考察

この世界に来て10日が過ぎた。まぁ、ぼちぼちやってるさ。昨日もオルデン達と、村の西ある草原で魔物を討伐したし。


まだまだ、知らない事や見た事も無い物などいっぱいあって毎日が驚きの連続だ。何より驚いたのは、魔法の仕組みについてだ。


つい、3日ほど前にこの村に来た行商人が持っていたある本を譲ってもらったことに由来する。その本は大分くたびれていたが表紙にこう書かれていた。【魔法の使用とその作用について】


まさしく、魔法の制約に関することや魔力の行使における作用が書かれており魔法使いにとって大切なことが載っていた。だが、普通このような本は魔法使いは読まないらしい。なぜなら、魔法使いは自分で魔法を行使して確かめた方が早いからだそうだ。


その為、小難しい事が書かれている本は好まれない。しかも、魔法の使用に関する魔方陣は載っていない為、一般の人も求めることが無い。


この世界における魔方陣は設置式で、描いた魔法陣に魔力を流し込んで魔法を行使する。これならば、思考せずとも魔力を流せば使える為に一般に広まったものの、描くのに時間がかかりさらに一定の効果しか得られない。効果が強い物ほど描く量が増え、戦闘には向かず生活に特化した物になったらしい。


さらには魔力は本人から離れれば離れるほど弱くなっていく為、長距離の発動には向かなかった。それそのものは個人の魔力量で解決出来るがその為には多くの魔力を篭めなければならず、その方法では効率が悪すぎて使い物にならない。


そのため、魔法使いは単独行動は取らず前衛と一緒に戦うことが一般的だ。だが、解決には程遠いが効率を良くする方法を考え出した魔法使いが現れた。その魔法使いが使った魔法は【固定化】と呼ばれる物で、発動した魔法を持続する為の魔力を軽減することが出来る。


また、固定化を施すことで発動距離を伸ばすことが出来る。たとえば、魔法使いの標準的な魔法【ファイアボール】これは魔力を炎に変換させ球体を描くように巡らせる魔法だが発動から相手に飛ばし相手に当たるまで魔力を篭め続けなければならず結構な消費量になるが、発動した時に固定化を掛ければそのままあまり魔力を篭める必要が無くなる。


誘導するのに魔力は必要だが、一般的に必要な魔力量の2分の1程度に軽減できる。それにより1人で2倍近くの戦線維持が可能になる計算だ。まぁ、そう単純には行かないだろうが、もし1対1の場合同じ魔力量なら圧倒的に有利になる事は自明だ。


だが、固定化は一般の魔法使いの間では広まらなかった。なぜなら固定化を使用するには、物理現象について正しく理解しなければならず魔術専門の学校を出たとしても1割程度しか使用出来ない程なのだ。まぁ、この文化レベルで言えば1割でも凄いことだろう。


実際、魔法は効果をうまくイメージ出来れば使用できるため物理など知らなくても使うことが出来る。その為に科学が発展しないのだ。


そもそも、魔力とは何なのか説明できる魔法使いは少ない。これは、この本を読んでから疑問に思って聞いて回って解ったことだが生まれた時から感じることが出来たことに所以するだろう。何の疑問も持たず、日常的に魔法を行使する世界で生活すればそう云う物として認識されたに違いない。


これこそ、この世界じゃない魔法も魔力も無い世界から来た俺だからこその視点だ。確かにこの世界に来た時からある、なんとも言えない違和感が魔力なのだろう。それが解った時、どうにかしてそれを使おうと思った。


使うのには苦労したが自転車の乗り方と同様に動かし方さえ解ればあとは簡単で、魔力を身体から出しながら1箇所に纏めそこに火のイメージを付加するとボォっと火がついた。


イメージしたのはライターの火ぐらいな物だったんだが30センチ位の火が出来てしまいあわてて消したのはご愛嬌だろう。宿で本を片手に実験していたがこれでは火事を起こしてしまうと、それからは村から離れた誰も居ない草原などで実験していたんだ。


実験の結果わかったことは、魔力はある種のエネルギーと言っても過言では無く、ある意味、パラジウムみたいな物として俺は認識している。パラジウムは他の物質と混ぜることでまったく違う物質を作ることが出来るので有名だ。魔力は意思の力により形を変え現象として姿を現す。物質と現象ではまったく違うが何より本人の認識が大切なのでこの考えで落ち着いた。


そして俺はなぜか魔力を視る事が出来た。まぁ他の魔法使いも見ることこそ出来ないらしいが肌で感じることで解るみたいだ。ちなみに、普通の人は自分の魔力はわかるが自分以外となると解らないらしい。


同じ魔法を使っても篭める魔力量で威力が増減するが何より大切なのは思考することイメージを限りなく本物として扱うことで魔力をセーブしながら同じ効果が出せる。


また、本人の資質による所も大きくてイメージとしては蛇口を思い浮かべてみるのが解り易いと思う。この蛇口は1人1人大きさが異なり一度に放出できる限界が異なる様で蛇口が大きければ大きな魔法が使えるのだが、良い事ばかりではなく弱い魔法の加減が難しいといったデメリットもある。


俺はその蛇口が大きいみたいでライター程度の火がどうにも出来ない。練習によってある程度は小さく出来たがそれでも10センチ程度の物しか出来ていない。


そこで思ったのはでは何故、一般の戦士であるオルデン達が身体強化の魔法を使う事が出来るのか、一般の人間では蛇口が細く殆どの魔法が使用出来ない。だが魔力を放出せずに体の中に練りこみ身体に向かって魔法を使うことで身体強化が出来上がるからだ。その為、戦士系の人たちは大なり小なり身体強化にお世話になっている。


これにもメリットとデメリットがあり、身体に直接使うということは身体能力を向上させるが、身体の限界は決まっている為それ以上に使うと身体が壊れてしまう。それは鍛えている方が出力も出やすく身体も壊れにくいので戦士系にはぴったりだが、魔法使いなどが使うと自身の魔力量に対して身体が追いつかないためあっという間に自滅してしまう。


その為に魔法剣士は殆ど居ない、それを目指したとしてもどっちつかずの中途半端になってしまうのが落ちだ。だが、俺には科学的な知識が一応ではあるがあるため魔法を正しく認識でき効率的に使うことが出来た。この収穫は大きいだろう。だが、ひとつ問題が残ったままだ。


それは魔法を使うたびに身体的にでは無く精神的に疲れるという事だ。これには辟易している。使いすぎると身体はまったく問題ないのにも係わらず立っているのも億劫になってしまう。トマに聞くとそう言うものですと笑われてしまったが、どうにかできない物だろうか?。


どうにも、ここでは情報の集まりが悪い。ここは片田舎もいい所だからしょうがないが、やってくるのも出て行くのも冒険者や行商人ばかりでなかなか有益な情報にめぐり遭わない。


もっと栄えている所に行けば違うのだろうが、どこに何が在るのかも解らない状態では行くことすら出来ない。ましては旅の仕方もわからない為、まずそこも調べなければならないだろう。


そこを念頭に動いてみようか。そう考え、今日の実験も終わりにしようと腰掛けていた小さな岩から立ち上がる。もうそろそろ、日が翳り始める時間帯で青空とオレンジ色が交わる西の山々がとても綺麗だ。あと、1時間もしない内に宵の口に入ってしまう。


夜は魔物の活動が活発になるから早く帰らねばと、座っていた辺りを確認して歩き出した。本格的な夏の香りが風に乗って顔をくすぐる。日本と違い湿度が低く過ごしやすい気候で日中は日差しが厳しいが朝や夕方は過ごしやすくありがたい。


草原を歩きながら俺はこの世界で何をしたいのだろうとぼんやりと考える。目先のしたい事はいっぱいあるが、最終的にどうしたいのかが解らない。突然この世界へ来てしまったのだ。それも仕方ないとは想うものの、どうにもすっきりしない気持ちが心の中で蟠り燻り続けていた。


村の家々の暗い明かりがちらほらと見え始める。取り敢えず何か美味しい物でも食べれば気持ちも落ち着くだろうと、心情を希望的観測で蓋をする。思わず苦笑が出た。


「大丈夫。なんとかなるさ。」


1番星が南の沈みきらぬ空に輝いていた。

なんだか暗い雰囲気で終わってしまいました。そんなつもりは無かったのですが。 4月7日誤字修正 ご指摘ありがとうございます。

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