いつかの日に・・・
「しらない天じょ・・・・なわけないか」
見知った宿の天井を見ながら起き上がる。その部屋は8畳ほど大きさの二人部屋でシングルサイズの木で出来たベット二つに小さな四角いテーブルと木製の丸イス、あとは荷物をしまう鍵付きの戸棚しかない。
ここに来て、はじめての冬がまもなく終わろうとしている。この世界にきてはや8ヶ月、最近はようやく落ち着いてきた。といっても、いまだ知らない事の方が多いし何よりこの世界<アルベリアン>のをすべて見て廻ったわけでもない。まあ、この広大な世界を徒歩で廻ろうとすれば、死ぬまで続く旅になりかねないし、それですら終わるかどうかすらわからなのだ。今のところ、する気はないが。
そういえばと、隣のベット見ると分厚めの布に包まる様にして熟睡する相棒がいた。もうそろそろ、1階の食堂が開くころだと時計に目線を送り、<6時42分>と表示されているのを確認すると、相棒をたたき起こす為にベットから立ち上がり相棒が包まっている布に手をかけ、一気に剥ぎ取る。
そこには、輝くような金色の髪と色素の薄い年齢相当の(16歳らしい)うっすら微笑みを浮かべているような愛らしい顔が見える。窓から差し込む光から逃げるように寝返り打ち、う~う~唸っている。野宿しているときにはすぐ起きるのにと、内心ため息を吐きつつ肩を揺らす。
「起きろ~朝だぞ~」
「あ~さ~なの~?」
少し薄目を開けつつこちらを胡乱な目で見てくる。少しつり上がった目元、藍色というより空色に近い瞳は視線を彷徨はせつつ、間延びした声で聞いてくる。
「ああ、朝飯の時間だ。ほら、さっさと着替えて顔洗いに行くぞ」
手ばやく着替えてタオルを肩に掛ける。そのまま部屋を出て廊下を右へ、階段の方へと狭い通路を歩きそのまま1階に下りるとバッタリと宿の女将さんと出会う。
「おはようございます。井戸借りますよ」
「ああ、おはよう。もうご飯出来てるから」
「今日の朝飯はなんですが?」
「昨日、あんた等が取ってきた肉あったでしょ?晩ご飯には間に合わなかったからね、そのぶん下ごしらえに時間掛けたから自信あるよ」
「そうなんですか?それは、楽しみですね」
「あれ?ユウもう顔洗ったの?あ、女将さんおはようございます」
メイが階段から降りてきた。もうすっかり目ざめたようだ。綺麗な金色の髪は肩の辺りで少し跳ねてしまっているが、いつもの事なので気にしない。最終的に三つ編みになってしまうしな、だからと言って別に三つ編みも嫌いじゃ無いが。
「おはようメイちゃん。ほら、あんたも顔洗っといで」
はいと返事して裏にある井戸にメイと向かう。ここでは水道なんて立派な物は無い、昔ながらの滑車式の井戸だ。紐付きの桶を井戸に落としカラカラと引き上げる。引き上げた桶をたらいにそそぎ、顔を洗う。冬の水はかなり冷たい、しっかり洗うと指先の感覚が無くなってきた。寝癖がついた髪も一緒に軽く濡らして後ろに流すように梳かした。適当に撫で付けたとことで切り上げてタオルで拭く。隣で顔を洗っていたメイが寒い寒いと手に息を吹きかけている。そんな姿も絵になるが見ている俺も寒いので、早く中に戻ろう。
食堂に入りカウンタで朝飯を貰い、席についていただきますと呟く。
今日の朝ごはんは昨日狩った牛系の魔物<へビィバファロー>と言う魔物で、見た目が醜悪な割りにその肉は美味という物だ。数日前から近くの草原に出没し討伐依頼が出ていて近くを通ると無条件で襲ってくる。敵が強かろうが弱かろうがお構い無しって言うのは、魔物とはいえ動物なのだからどうなのかと。その群れを狩った俺たちは角や皮、そして大量の牛?肉を持てる限り剥ぎ取り、帰って市で皮と肉の大半を売り払うと、その足でギルドの支店(酒場に併設されている)に向かい依頼達成条件の角を出して賞金を貰ったのだった。
|かなり説明くさくなってしまったが《しかもかなり端折ってだが》、そんなことより飯、飯。燕麦パンとスープ、あとサラダに塩、胡椒の利いた肉が山盛りになっている。かなりおまけして貰えた様だ。こってりとした肉と、サラダが箸休めと(ナイフとフォークだが)なっていくらでも食べられそうだった。
たらふく食べて食後のハーブティーを啜っているとちまちまと食べていたメイが食べ終わったようなので話しかける。
「今日はどうする?また、討伐系探すか?」
「う~ん、それも良いけど。もうそろそろ春になるでしょ?だから、今後の移動も含めての情報を集めましょうよ」
「そうか、後3日もすれば暦の上では春だもんな」
たしかにまだ朝晩は寒いが日中はだいぶ暖かくなりつつある。旅の再開を考えなきゃならん時期だ。そのためには情報が必要で、聞くのは商人、それも旅商人がいい。そう考え頷きながら答えた。
「っで?次の目的地はどこなんだ?」
次の村か街かは知らないが、どの位の日数が掛かるかで準備すべきものも変わってくる。と言っても、見た目は軽装の旅人な感じになるだろうが。俺が持っているショルダーバック、見た目は小さいが、空間魔法が掛かっていてかなりの収納能力を持っているから運ぶのは簡単だ。ちなみに、メイも同じようなものを持ってる。結構な値段がしたが、かなり便利なのでしょうがない。必要経費という奴だ。
「ねぇ、聞いてるの?ボーっとしちゃってどうしたのよ?」
「いや、なんでもない。っで?なんだっけ?」
「は~~っ。もぅ、もう一度言うからちゃんと聞いてよ。次の街は、<リギンガーデン>って言うところで、この、<サムズの村>から歩いて4、5日ってとこなだけど」
ちなみに、サムズの由来は初代村長との事。前に女将に聞いたんだが、村の場合、村長の名か特産品の名が多いらしい。
「そっか。んじゃ、とりあえず市に行くか」
「うん、それじゃ行きましょ」
そう言ってメイは立ち上がり食器をカウンタのほうに持っていく。俺もそれに倣い食器を返すと部屋に戻り一応装備を整え、っといっても剣を背負ってベルトを止めただけだ。メイも準備が出来たようなので、外に出る。宿の前の赤茶けた道を左に行った先に小さいながらも広場があり、そこに3軒ほどの露天がある。そこで情報収集と言うわけだ。露天は木と布でできた壁の無いテントといった感じで、保存の利く食料品やら布やらを扱っているのだ。
「よう、おっさん久しぶり」
「おう、坊主たちなんか欲しい物でもできたか?」
何度も言っているが俺はこれでもオッサンに片足を突っ込んでいる年齢なんだがこのおっさんは坊主としか呼んでくれない。
「まあね、保存食ある?あと、リギンガーデンについてなんか知らない?」
「保存食ならこれがお勧めだな、リギンガーデンか・・・あそこは特に無いが、そういえばそこに行く道中に盗賊が出たって話を聞いたぞ」
「じゃあ、それを一週間分もらえますか?あとそれは、いつごろの話なのですか?」
メイが身を乗り出した。まぁ、盗賊などどこにでもいるもんだが。メイは正義感がやたら強くその手の輩に容赦しないからな。もしあったら、間違いなく血祭りだろう。
まぁ、俺もかかってきたら容赦はしないがww
「あいよ!銀貨6枚と貴銅貨3枚だな、あんがとよ。だいたい、4日位前だな。襲われた奴が言うには、いきなり奇襲されたんだが何にも取られなかったと、だが矢が飛んできてすぐ横に刺さったときは死ぬかと思ったそうだ」
「それでも、何も取られなかったって運がいいな。はいお金」
ショルダーバックから皮袋を取り出しお金を払う。
「ほんとにね、奇襲で逃げられるなんてよっぽど弱い奴らなのね」
ちょっっメイお前ひどww
「ほらよ!なんか最近こっちに流れてきた連中らしい。そういや、リギンガーデンの事聞いてきたって事は行くのか?」
「ああ」
「ええ」
「そうか、気をつけろよ。って言ってもお前らには必要ないな」
そう言ってガッハッハと笑うおっさん。
「気をつけますよ。俺は何事も慎重にがモットーですがら」
「でも、あん時はずいぶん豪胆だったじゃねぇか」
「それは、何度も言っているようにメイの奴が飛び出して行っちまったから仕方なくですよ」
なんだかメイがこちらを睨んでいるが気にしない。気にしちゃいけないんだ。
「それでも、俺は助かった。ホントありがとな」
「その話はもういいです。んじゃ、俺たちはもう行きます。またどこかで逢えたらいいですね」
「おう、またどこかでな」
買い物も終わりギルドのほうに向かう途中後ろに怒気が・・・・
誰だかはわかっているが、振り向きたくないな~と思っていると、やはりメイが文句を言ってくる
「さっきのまるで私が猪突猛進みたいじゃない!!」
「否定できないだろ?いつも一人先走っていくし、危ないからって言っても問題ごとに突っ込んでいくしな」
「私って、そんなに迷惑掛けてる?」
悲しげな声の響きが俺の心をグサリと抉るが、ここはちゃんと言っておかねばと心を鬼にして言う。
「迷惑ってほどじゃないが、よく考えて行動しろって。困っている人を助けるのはメイの美徳だが、話を最後まで聞かずに飛び出していくのは悪い癖だぞ」
うん。分ってはいるんだけど。と言っているが今のところ直る兆しは見えていない。行動力があるということは素直に羨ましいが、いつも巻き込まれ解決する俺のみにもなってくれ。おっと、ギルドに着いた。古い木製の扉を開け中に入りテーブルの脇を通り奥にある掲示板を見に行く。先程の盗賊の討伐依頼出てないかな、
う~~~ん・・・・・・・・・・・
出てないみたいだ。リギンガーデンで出してんのかね。しょうがないとりあえずカウンタに行こう。
カウンタに並び2名ほど前に並んでいたが直ぐに順番がきた。ここ一ヶ月このギルドで稼いでいたため、すっかり顔なじみなったおじさんが声を掛けてくる。
「お?ユウ珍しいな二日連続で来るなんて、なにかあったのか?」
いま俺達は、一度依頼を達成した後1~2日は休みを取る様にしている。毎日依頼をこなしても問題ないが、他の冒険者の仕事を取り上げかねないために自重しているのだ。前にそれで問題になったし。
「ええ、もうそろそろ春になるんで。次の街にでも行こうかと、その挨拶に・・・」
そうか、残念だとカウンタのおじさんは笑って手を差し出し握手して、これからも頑張れよと声を掛けてくれた。ここみたいに小さい村だと酒場や宿屋と一緒になっているところが多い。メイとも握手を交わしたのち、ギルドを後にする。宿に戻ると、窓を拭いている宿のご主人がこちらに気づいた。
「おかえりなさい。早いですね、あっ昨日はお肉ありがとうございました。」
「いえいぇ、急なんですけど俺たち明日旅にでるんです。そのために、準備しないといけないですからね」
「そうですか、もう春ですからね。見送る者にとってはさびしい季節です。でもまぁ、新しい出会いもありますしそれも楽しみでもあるんですが。」
そうですね。と言って部屋の中に戻り明日の出発に備える。夕食を食べ終えすっかり暗くなった空を窓べから見上げる、澄んだ空気の雲ひとつ無い中に月がポツンと浮かんでおり、なんだか寂しそうに見えた。それを見ながら、今までのの出来事を思い出す。
出会いと別れ。
判っていても別れは悲しく寂しいものだ。それが、今生の別れとなれば尚更だった。まぁ、死別した訳ではないが二度と会えない事は確かだしな。この世界で生きるしかない俺にはどうしようもない物だ。でも・・・・思い出す位・・・・・いいよな・・・・・・・
空の上、月の柔らかな光がこの世界を包み込んでいる気がした。
前に投稿したものを書き直したので、投稿します。余り変わって無いかも知れません。