転生した乙女ゲー世界で好き放題する地雷系ヒロインみみたん☆ミ
「また……起きました。……今週で三件目です」
王都を一望する、城の一室。
次期王妃としての政務を任されている私の執務室に、騎士団に所属する事務官の声が沈痛に響く。
広げられた報告書には、現場を検分した画師の手による、凄惨な写生図が添えられていた。
「……そう、ですか」
近頃、王都を騒がせている”史上最悪の連続爆破事件”。
一か月ほど前から発生したその事件は、いまだ解決の糸口が掴めず、被害者は増え続ける一方だった。
「それで……今回も、手がかりは『無し』でしょうか」
幾度目かになる私の同じ問いに対し、事務官は暗い顔で俯く。
「……申し訳ありません」
絞り出されるようなその言葉に、私は痛みに耐えるようにこめかみを指で押さえた。
手元の報告書に視線を落とす。
そこに描かれた凄惨な現場は――つい先ほどまで、市場として賑わっていた街中の一角だった。
ほんの数時間前まで、そこには買い物を楽しむ老婆や、元気に走り回る子供たちの姿が、たしかにあったはずなのだ。
”彼”から贈られた婚約指輪が重く感じられ、私は無意識にそれに触れる。
公爵家に連なる者として、そして”第一王子エドワード”の婚約者――未来の国母として。
私、エレノア・パラトネルには、この国の治安と秩序、そしてここに住む人々の平穏な日常を守る義務がある。
「現場に残された魔力から、まだ何も?」
「……はい。魔力の残滓から、恐らく『火』と『光』系統の複合魔法によるもの……とは判断されるのですが……。それが、まるで複数名の魔力が混ざり合ったかのように歪で」
事務官が言葉を濁らせる。
「……それに、似ていることはあっても、事件ごとに毎回異なる魔力なのです。……とても個人の特定は不可能です」
複数名の魔力が混ざり合ったもの……。その上、毎回異なる魔力……。
魔力には固有の特性があり、それはいわば個人を特定する指紋のようなものだ。
当然、改竄することも、その痕跡を完全に消し去ることも叶わない。
だからこそ魔法犯罪は簡単に足がつき、犯した者はその罪から逃れることはできないはずなのだが……。
しかし今回の事件は、その常識を根幹から揺るがす異常事態だった。
「目撃者は? 被害者からの証言は何か得られましたか?」
「……それが、『何も見ていない』そうなのです。爆発の瞬間、周囲に術者らしき影はなく『急に足元が爆発した』と。事件当時、現場に居合わせた者たちにも確認しましたが、みな同様に『不審な人物はいなかった』と。……まるで、透明な人間がいるかのようです」
魔法とは術者が放つもの。
なのに、その術者が見当たらない。
「”見えない”魔法使い、か…。」
私は溜息を漏らすかのように呟く。
果たして本当にそんなものが存在するのか。
あるいは、幽霊の仕業とでも言うのだろうか。
「幸いまだ死者は出ていません。被害者は共通して『足、あるいは下半身』への攻撃を受けています。怪我の程度に差異はあれど、命に別状はありません。ただ…」
「ただ?」
「失ってしまった足はもう元に戻らないかと……。回復魔法とて、欠損した部位を再生させるほどの力はございませんので……」
力なく項垂れる事務官に、そっと目を伏せる。
「……」
私は写生図を指でなぞる。
抉れた石畳には、熱で溶け出した脂肪と、焦げた肉、飛び散ったであろう血液が、真っ黒な染みとなって地面にこびり付いていた。
この場所で、人々の日常が無慈悲に焼き切られたのだ。
「地雷屋……」
今、王都を震わせているその通り名。
地面より雷を穿ち、恐怖を振りまく死の商人。
いつしか市井の民は、史上最悪のテロリストとして畏怖を込めてそう呼び始めた。
正体不明、動機不明。
単独犯なのか、あるいは組織によるものか。
分かっているのは、ただ無慈悲な爆発と共に、人々の歩み(日常)を奪い去るということだけ。
「この件は、エドワード殿下にも報告を。……それから、最近流行っているという『奇妙な遊戯』についても調べておいてください」
「……? 奇妙な、遊戯ですか?」
「ええ。夜会や酒場の裏で、年若い娘たちに男たちが財を貢いで『遊んで』いるという噂よ。事件との関連は薄いでしょうけれど……民の間に良からぬ風潮が広まるのは見過ごせません」
「……承知いたしました。至急、各方面へ手を回します」
事務官は深く一礼し、足早に執務室を後にした。
重みのある扉が閉まり、静寂が戻った執務室で、私は一人立ち上がる。
窓際へと歩み寄り、視界を遮るカーテンを開けて窓の外を仰いだ。
遥か眼下に広がる王都は、豆粒のような人々が行き交い、一見すれば平和そのものに思える。
その景色の片隅で、一人の少女が、年の離れた紳士と腕を組んで歩いているのが見えた。
珍しい桃色の髪。
父親に甘えているのだろうか、随分と仲睦まじく微笑ましい光景に、自然と口元が綻ぶ。
「……この平和を守るためにも、必ず解決せねばなりませんね」
その決意を自分に言い聞かせるように呟くと、私は山積みの書類が待つ机へ向き直った。
★
☆
*
「ね~、みみ。あたらしいアクセサリ~ほしい~」
桃色の髪を揺らし、少女が男の腕にすり寄る。
「ぬほほ、いいともさ。な~ンでも買ってあげるよ、みみたん」
「うれしい~。みみ、おじさま大好き~」
少女は、媚びるようにその発育の良い肉体を擦りつけながら、あどけない笑顔を男へ見せる。
(あは。このおじさんも、まじちょろ……笑)
少女の皮を被った彼女は、愚かな男から流れ込んでくる魔力を快楽で覆い隠し、その身へ奪い吸収していく。
その足元、流行の編み上げ靴が、楽しげに石畳を鳴らしていた。
――これは『国を守るため奔走する公爵令嬢』と『最悪な異世界転生者』による、壮絶な戦いの記録である。
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※この作品はAIちゃんとの共同執筆作品となります。




