どこかで、なにかがないている
鯨の鳴き声のような、そんな音が聞こえた気がした。
『楽しいことよりもさ、悲しいことや嫌なことみたいな、マイナスなことの方ばっかり考えちゃうよね』
『…ちゃんと考えてみれば、どちらかといえば楽しいことの方が多かった気がする』
『ね』
『なんでそうなっちゃうんだろ』
『…うーん。分かんない』
『あー。あれかも、この先に期待しないためなのかも』
『ん?どゆこと?』
『そのさ、プラスの記憶も、マイナスの記憶も、どっちも同じように残るならさ、今よりもしんどくなっちゃうじゃん』
『あー…ね』
『最初から期待しなければさ、傷が浅く済むし、それが外れたら嬉しいし』
『…自分勝手だね、私たち』
『ね。勝手に、自分に不幸なことばかり起きたと思ってる。楽しいことも嬉しいことも、たくさんあったはずなのに。…自分を守るために、それを思い出さないようにしてる』
『あのさ、突然、昔の恥ずかしい思い出が出てくることあるじゃん』
『うっ、シヌ』
『あれさ、思い出し笑いよりもよくあるよね』
『今恥ずかしくて死にそう』
『私も、自分で言っててバカなこと言っちゃったと思った』
『…こういうの、誰にでもあるよね』
『そうだね』
『…あ。楽しいこと思い出すとさ、今と比較しちゃって、寂しくなったり、辛くなることがあるかも』
『…あー』
『ほら、恥ずかしい記憶とかはさ、もうあんなことにはならないようにしようって思うじゃん』
『うん』
『楽しいことっていうのは、思い出しても、あんまりいいことないのかも』
『かもね』
『…あのさ。聞こえた?さっきの声』
『聞こえた』
『どうして鳴いてるんだろ』
『分かんない。私たちが考えることじゃないよ』
『そうかも』
『楽しかった記憶はさ』
『うん』
『なんのために思い出すんだろ』
『さぁ?』
『……まぁ、今が不幸だからとかなのかな』
『理由なんてないのかも』
『こうやって考えても、私自身の体、脳のことなんてなにも知らないしね』
鯨のような声が、消えた。
消えたように感じた。
過去にやった失敗を思い出して、うっ、てなることあるよね。
まじで死にてぇ…。




