大寒波の中での生足JKに物申す
「うお~さみぃ~」
制服の冬服の上に厚めのコートを着ているのに、寒さで体が震えてしまう。
高校生男子の信濃 篤深は、頬に触れる冷たい感触に気が付き空を見上げた。
「つーか雪降ってるじゃん。ここ滅多に降らない地域なのに!」
「大寒波が来てるらしいからね。しょうがないよ」
篤深と並んで歩く高校生女子の赤森 有珠里は苦笑する。篤深より寒く感じて無さそうな雰囲気である。
「篤深君、マフラーと手袋はどうしたの?」
「寝坊しそうになって慌てて出て来たから忘れちゃったんだよ」
「うわ~よりによって今日。そりゃあ寒いよ」
コートだけでは圧倒的に寒さ対策が足りていない。この日はそういうレベルで寒い日だったのだ。
「有珠里は暖かそうで最高だな!」
「暖かくは無いけど寒くはないかな」
足元までの超ロングコートに、マフラー手袋ニット帽のフルセット。インナーはヒートテックでポケットにカイロをしのばせておけば完璧だ。
「それだけ着込んでもそうなのか……あ、そうだ!」
篤深は鞄から何かを取り出し、有珠里に差し出した。
「これは……耳当て?」
真っ白でふわふわした暖かそうな耳当てだった。
「ニット帽を耳まで被るときつくて髪型が崩れやすくなるから嫌だって前に言ってただろ。これを使えばニット帽を緩く被っても耳を守れるし、しかもニット帽で守るよりもあったけぇぜ」
確かにそれは有珠里にとってありがたい一品だった。
だが受け取って良いのか躊躇する。
「篤深君が使った方が良いでしょ。そんなに寒そうにしてるんだもん」
寒い寒いと震えている相手から防寒具を貰うだなんて申し訳なく思うのは自然なことだろう。
「いや、俺の事は気にしないでくれ」
「でも……」
「有珠里に使って欲しいんだ。有珠里に暖かくなってもらいたいんだ」
「篤深君……」
真剣な瞳でそんなことを言われたら悪い気はしない。有珠里はそれを受け取って耳に装着した。
「どう……かな?」
「超似合ってる!可愛いぜ!」
「ありがとう」
大寒波の中で、真夏のような笑顔を浮かべて喜ぶ有珠里。
それはもちろん耳だけではなく心まで温かくなったから。
「それじゃ、いこ」
「え……有珠里?」
「これで少しは暖かいよね」
「あ、ああ」
耳あてのお礼。
有珠里は篤深に身体を寄せ、腕を組んだのだ。
少しでも温めてあげるために。
付き合い始めて一か月。
大寒波のおかげで一組の高校生の仲が深まったのであった。
おわり。
「だからそういうのがキモいって言ってんの!」
「お前らがそんな格好してるから悪いだろ!」
「なんだなんだ。騒がしいな」
「ケンカしてるのかな?」
篤深と有珠里が教室につくと、複数人の男女が激しく言い合っていた。
「おはよう。なぁ、何があったんだ?」
篤深が近くの女子に質問すると、その女子は嫌悪感を隠そうともせずに顔を顰めて教えてくれた。
「おはよう。男子が女子のことをやらしい目で見て来るのが我慢できなくなったの」
「なんじゃそりゃ」
男子なんてそういう生き物だろ。
とは思ったがそれを口にして火の粉を自ら浴びに行くような愚かな真似はしない。
「やらしい目って言っても色々あるだろ。直接の原因は何なんだ?」
「これ」
「足?」
その女子は自らの足を指さした。
「こう言ったらなんだけど、そんな視線なんて前からあっただろ。どうして今になって問題になったんだ?」
むしろ夏場の方が露出が多くて嫌な視線が増えて気持ち悪く感じそうなものだが。
「こんなに寒いのに生足出したら、見てくれって言ってるようなものだろ!」
「男に見せるために出してる訳じゃない!」
「男子が教室であの話をしてたのが原因」
「なるほど」
冬の女子の生足談義をしていたら、それを聞いてしまった女子がブチ切れてしまったというのがケンカの直接の原因だった。
「あ!信濃!お前も言ってやれよ!」
「そうだそうだ!男なら分かるだろ!」
「おい馬鹿、俺を巻き込むな」
女子に嫌われるだけならまだしも、有珠里に嫌われるのは辛い。
ゆえに逃げようかと思ったが、まさかのところから味方が来た。
「信濃君はあんた達みたいにやらしい目で見て来ないわ!」
「そうよ!いつもちゃんと顔を見て話をしてくれる!」
「何故か好感度が高かった件」
てっきり男子という括りで扱われるかと思い焦っていたが、むしろ女子がフォローしてくれて困惑する篤深。有珠里の方をチラっと見ると嬉しそうに笑っていた。
「信濃お前……!それでも男か!」
「そうだそうだ!お前だって女子の胸とかスカートとか足とかチラ見してるくせに!」
「いやそれは無い」
「「「「嘘だ!」」」」
お前ら女子相手だと声を震わせてビビりながら反論してるくせに、俺相手だと全力で否定してくんのな。
「ざまぁ。あんた達が異常なだけだってこれで証明されたわね」
「信濃君は女子の格好をエロじゃなくてファッションとして見てくれてるのよ」
「いや俺もその格好はどうかと思うぞ」
「「「「え!?」」」」
いつの間にか篤深が女子の気持ちを理解している素敵な男子扱いされていたが、女子の味方をしているつもりなど全く無かった。
「やっぱりお前も同志だったか!」
「だから違うって言ってるだろ」
「可愛いから冬でも生足出したいって女子の気持ちわかってくれてるんじゃなかったの!?」
「だから違うって言ってるだろ」
篤深は男子の味方でも女子の味方でもない。
だとすると誰の味方なのか。
「はぁ~~~~お前らほんっっっっとうに分かってないな」
深い深い深い深い溜息を吐いて、篤深は大げさに顔を左右に振る。
そして力強く右拳を握って宣言した。
「女子が一番可愛いのは、全身もこもこぬくぬく姿に決まってるだろうが!」
「「「「は?」」」」
「「「「は?」」」」
男子も女子も、全員がまぬけな顔をして混乱していた。
一体篤深は何を言っているのだろうか、と。
「素足を見せるのがエロい?可愛い?くだらない。全くもってくだらない。一番可愛いのは足元までしっかり覆った暖かい服装なんだよ!」
「う、嘘だ!男なら女の肌に興奮するはずだろ!」
「そうだそうだ!」
真っ先に反論して来たのは男子だった。
だがそんな反論など、鼻で笑って吹き飛ばす。
「ふん。お前らこれを見てもそう言えるのか?」
「え?私?」
篤深がビシっと指さしたのは、まだコートを脱いでいない有珠里の姿。
足元までコートで覆われた彼女の姿は、まさに篤深が主張する暖かい服装だった。
「有珠里の服装が、俺の理想の姿だったから告ったんだよ!」
「そうだったの!?」
衝撃の告白に有珠里は驚くが、篤深は全く気付いていない。
「頭を覆う帽子、耳を温める耳当て、口元を守るマスク、首回りの隙間を消すマフラー、上から下まで完璧にガードする厚手のコート、手首まで覆う長めでもふもふの手袋。これぞまさにもこもっこ!女子の可愛さを表現する最高の擬音はぬくぬく!有珠里は神が遣わした天使!いや、女神そのもの!超可愛いだろ!」
「「「「…………」」」」
「「「「…………」」」」
突如始まった篤深の熱い演説にクラス中が静まり返ってしまった。それは聞き入っているというよりも、何がどうなっているのかという困惑によるものだった。
「し・か・も、だ!有珠里の素晴らしさはそれだけではない!室内に入り、コートを脱ぐ。するとどうだ。彼女はぬくぬっくな厚手のタイツを履いているんだ。生足なんかじゃなく、室内でも暖かい服装を心がけている。理想の女性でしかない」
まるで危ない薬物を摂取しているのかと思えるくらい快感に悶える篤深。まだまだ彼の勢いは止まらない。
「惜しいのは靴!校則さえなければ、内側がもふもふの長いブーツを履いてもらいたいのに。くっそおおおお!」
嘆く篤深、茫然とするクラスメイト。
「長いブーツ、くっさいから良いよね」
そして突然出現した罪深き一人の男子。
「…………」
「「「「…………」」」」
「「「「…………」」」」
それは篤深の演説をストップさせるには十分な威力があった。
「と、とにかく、もふもふに包まれたぬくぬくな女性が世の中で一番可愛いんだよ!」
しかし篤深は無かったことにして強引に続けることにしたようだ。
「大寒波最高!大寒波最高!永遠に続けば良いのに!一年中冬!冬!冬!露出なんて不要!夏なんてクソ喰らえ!夏になったら夏眠するから冬になったら起こしてくれ!はぁっ、はぁっ、はぁっ」
満足げに息を切らす篤深。
言い争っていた男子と女子は、お互いにチラチラ視線をぶつけ、無言のまま軽く頭を下げて解散した。このまま言い争う気分では無くなってしまったのだ。
「あれ、なんだもう終わりなのか。お前らの熱いパッションを聞けるかと思ったのに」
残念そうにつぶやく篤深。
その篤深が登校して最初に話しかけた女子が、今度は有珠里に向かって嫌そうな顔のまま話しかける。
「あんたの彼氏、最高に気持ち悪いけど、あんた的にはどうなの?」
「あっ!」
今になって篤深は、自分が盛大にやらかしてしまったことに気が付いた。
キモがられると思い隠していた性癖をこれでもかと力強く暴露してしまったのだ。別れを告げられてもおかしくない。
おそるおそる有珠里の様子を確認する。
「う~ん……」
彼女はこめかみに右人差し指をあて、目を閉じて考える。
たっぷり時間をかけて、未だコートを脱がずぬくぬくのまま考える。
「ギリギリセーフ、かな」
「いよおっしゃああああああああ!」
最悪の結末が回避されて大喜びする篤深。
「マジ?ありえなくない?」
近くの女子が何かを言っているが気にしない。有珠里に嫌われず、これからも彼女のぬくぬくを間近で堪能できるのであればそれで良い。
「でも一つだけ条件がある」
それがどんな条件だろうが、今の関係が変わらないのならそれで良い。
この時はそう、思っていたのだが。
「さ、ささ、さむ、寒い……」
「うわ~すっごい寒そう」
「う、うう、有珠里。流石に今日コート無しはきついッス」
「だよね~」
放課後。
より一層寒波が強くなり雪の量も増えてきた中、篤深は制服姿で下校していた。
コートは教室においてきてある。当然あまりの寒さに歯をカチカチならして震えていた。
「や、やっぱり、怒ってる?」
「全然怒ってないよ」
「そ、そうか……」
罰として寒さに耐えろと言われているのかと篤深は思っていたのだが、有珠里は怒っていない。むしろとても良い笑顔を浮かべていて、嬉しそうだ。
「な、なな、なんか、良い、こと、あった、の?」
「うんとっても」
「何か、聞いて、良い?」
話をすることで少しでも寒さを忘れようと必死な篤深。
だがそれによりとんでもない事実を聞き出すことになってしまった。
「実は私、寒さを我慢する男の子が大好きなの」
「へ?」
寒さを我慢する男の子。
それは彼女の目の前にいるではないか。
有珠里もまた、篤深に負けず劣らず怪しい性癖の持ち主だったのだ。
「ああ、篤深君可愛い。もっと震えて。もっと耐えて」
「ひいいい」
「安心してね。私は冷え性だからこれからも篤深君が望むようにぬくぬくな格好をするから」
「さ、最高、だな」
「でしょ。だから篤深君も最高の格好、頑張ってね」
付き合い始めて一か月。
大寒波と生足討論のおかげで一組の高校生の仲が深まったのであった。
おわり。




