5 尋ね人
異界の小さな国の一つ、『アリゼム』。
その国には、とある小さな種族の娘がいた。
名前は『リロル』、糸で作られた優しき小娘だ。
耳は普通、姿も普通だった人族は、人と同じ生活をして生きられるようになったのだが、
リロルの族は別だった。
背丈が小さく、どデカい荷物も運べないため、いつも数十人がかりで物を運んでいた。
つまりは全員器用でなくてはならないのだ。
そんな族又は家系に生まれたリロルは、何事も遠慮がちで、謙虚さが裏目に出るような娘でもあった。
でも、数十万といる族の者に愛されたたった一人の娘だ。
―そう、たった一人の。
―テルリア 街のど真ん中―
「そ、そいつは酷ぇぜ兄弟!」
「まだ本質じゃねぇよ⋯しかも兄弟は一回話を聞いた。お前さんみたいな放浪者共に聞かせたくはなかったんだかねぇ⋯一応これでも極秘なのさ。」
「へぇ⋯極秘ねぇ⋯」
生き残ってないのか、その族の民って⋯
何万人もいただろうに⋯一体何処の誰がやったんでぇ!
「やったのはエルフさ。」
⋯は?
「お、おいどういう⋯!」
「信じらんねぇかもしれねぇが、滅ぼしたのはエルフの野郎さ。しかも大族⋯やったのが女じゃないにしろ、やったことは大罪級だぜ⋯」
水仙の属するエルフが⋯?
嘘だろ、そんなことエルフが⋯エルフがするわけない!!
「あの、私正確には神族なんだけど⋯」
「あ、え⋯そうなの?」
「知らなかったの?察してくれると思ったんだけど⋯ちょっとマジになりすぎよ!」
よ、よかった⋯気の所為だったみたいだ⋯
でも酷い⋯エルフの大族基大男が何十万人もの族民を殺したんだから。
今はその『リロル』しかいないんだから、余計可哀想だよ!
でもこういう言い方をするのも失礼というか、可哀想なのかな⋯
相手からすれば、僕達は無関係な部外者だから。
「な、なぁ⋯そろそろ離れてくんないか⋯?近ぇんだよ、身体が⋯」
「周りの奴らに変な目で見られちゃほぼおしまいよ、頼むから一定の距離感を保ってくれ。」
「わかった、ごめんな。話聞きたかっただけなんだ。」
「それだけなんだったら良いんだが⋯」
「それで、あなた達はこれから何処へ?」
「そこに行こうと思ってんだ。一応タスクの依頼として入ってんだよ。」
「なら、俺達も同行する!」
「わかった!だが、変な動きはすんなよ?怪しまれるかもしれねぇからな。」
「了解!」
「(本当にわかってんのかな、こいつら⋯)」
それから僕達は、ちょっとした長旅に出た。
ちょっと試したいこともあったし、こいつは丁度いい!
この街からアリゼムの街の一角に着くまで、大体数時間はかかる。
この異界では移動の早い動物がいる。
名前は『エルルト』、ポニー系の乗り物らしいが、乗ると物凄いスピードが出る超優れ者だ。
それに乗って険しい道やらなんやらを超えていく。
「この世界にも薬草あんだね。しかも結構の数生えてら!」
「この世界のこと、ほんとに何も知らねぇんだな。この世界の樹木は基本人工だよ。」
「人工?」
「そ。まぁ正確にはエルフの女たちが植えた木なんだがな。」
「へぇ、他族の植えた森に囲まれて育ってるってわけね。」
「水仙、言い方。」
「ご、ごめん⋯」
そして、試したいことというのは⋯
「%&☆#?=@!(魔物のうめき声)」
「で、出たぜ〜!?」
「よし、ここは僕に任せなさいっ!!」
一般魔法のスキル一覧にあったものを使って敵を倒し、ランクアップなるものをしようということだ!
「よし、少し恥ずかしいが⋯唱えてみよう!」
【地球伝火〈アースメラバーン〉!!(火属性 一応無詠唱)】
「;。:・;@p;:・;p:@⋯(倒れる声)」
「やった!効果抜群!」
「す、すごいなぁ⋯魔力の数値が無限だったとはいえ、これ程とは⋯元はあんた、お偉いだったんじゃないか?」
「それはないですね、前世の記憶なんぞ覚えている人は居ないに等しいですから。(さっきのは試しただけだしな)」
「それもそうだが⋯ここまで実力が出せるんだ!相当凄い体つきに決まってる!」
神経質でやせ細ってるんだけどね⋯
―ストネアという遠い街の一角 森―
「今日も野宿か⋯」
「肉もあれば調味料もある。(調味料は現実世界から持ってきた)よし、ササッと料理してやろう。」
まず、現実世界の鍋を用意。
火を起こしつつ、他の準備をする。
調味料は出来る限り少なめに、そこらに生えてる植物を加工した全体的に自作のものを用意。
肉はやっぱ、サシが入ってて美味しそ〜う!
まぁ、業務スーパーとかで買ったものなんだけどね。
作る料理は勿論、自炊カレー!
水の量の調節等は僕でやる。他の人に任せるとぐちゃぐちゃになりそうだからね⋯
材料は出来る限り食べやすいように、乱切りしつつも手の握りこぶし半分辺りのサイズを基準に切る。
固いものから入れて、柔らかくするために長く煮込む。
その間に米を炊く、炭にならないように時間に気を配りながら準備をする。
コメの研ぎ方はザラにならないようにする。
汚れはなるべく残さない、これ重要!
そして、米を研いだら色々セットして、釜に入れる!
米を炊くのは何時間かはかかるから、カレーの準備だ!
水は入れすぎず入れなさすぎずが一番丁度いいだろう。
スパイスは異界にも当然のように生えているクミンやコリアンダー、ターメリックを使用。
そして、隠し味として珈琲牛乳という、現実世界でいうコーヒー牛乳を入れ、コクを出す。
具材がグツグツいう過程を見るのはやっぱりいいもんだ!
大体煮えてきたから、火を止めて、暫く待とう。
米ももうすぐで炊けるし、完成が楽しみだ。
―しばらくして―
両方できたみたい!よし、皿の準備だ!
なるべく深皿で、耐熱性があってしっかりしてる、趣のある物がいいよな。
うーむ、魔法で作ってみるか。
確か一般魔法の一部には、自然に好きな皿を生成できる便利な魔法があったはず⋯
【自然生成 皿 無詠唱】
こ、これも無詠唱!?すごいな一般魔法⋯
では、生成してみよう。
両手の掌を中央に翳し、力を引き出す。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
『ポン!』
よし⋯人数分生成できた⋯
「お前さん、よう頑張ってんな〜」
「無理はしないでね!私も手伝うから!」
いや、水仙に任せるとやばいことになりかねないから、気持ちだけ受け取っておこう。
水仙には申し訳ないけど。
「だ、大丈夫⋯これでも一応人間ですから⋯」
「そ、そう⋯?」
ふぅ、これでなんとか乗り切った⋯
―またしばらくして―
米が炊けたみたいだ!
カレーの具もいい感じ!
盛り付けは米のほうが多いけど、なるべくルーが少なくならないよう調整する。
よし、出来た!
これを人数分作って、出来上がり!
「お〜!美味そうだなぁ!」
「そう言ってもらえて何より!」
焚き火も事前にしてあるし、足元がちょうどいい暖かさになってて良いね〜!
我ながら完璧だっ!
「ってことで、いただきます!」
「「いただきます!」」
なんか子供っぽいかなと思ったけど、これはこれで違和感ないか⋯?
「それでは、早速一口⋯」
『パク』『もぐもぐ⋯』
「う、美味っ!!」
すべて完璧な調合!
ちょっと見するかなと思って身構えてたけど、案外どうにかなるもんだなぁ⋯
具材は柔らかすぎず硬すぎずの丁度良い具合で、めちゃくちゃ美味しい!
ルーもスープカレーみたいになってなくて本当に良かった〜!
野外学習のとき、普通に分量ミスってスープカレーができちゃってたからなぁ⋯
上手くいって嬉しいよッ⋯!
スパイスもいい感じに効いてるし、米も良い!
やっぱ自炊カレー最高だなぁ⋯!
あ、みんなの反応聞いてなかった!
どうかな⋯?って、涙!?
「こ、こんな美味いカレー食ったの、生まれて初めてだぜ⋯」
「ほんと、最高だぜ兄弟⋯」
「私、今まで質素なものしか食べてこなかったから、こんなに真心の詰まったカレー食べられるの、本当に嬉しい⋯!!」
そ、そんなに喜んでくれるなんて⋯
やっぱり、作った甲斐があったなぁ〜!
―またまたしばらくして―
「ふぅ⋯食った食った〜!」
一応、一般魔法の一部の魔法でテントを張っといた。
夜中に襲われないように、魔除けのシールドも張っといた。
これで、起きたらみんな死んでたなんて光景を見ずに済む!
「おやすみ、水仙。」
「おやすみ、颯太。」
こっちでも一応眠りにつけるらしい。
やっぱり、寝るってのは心地が良いな〜
心も体も休まるから、人間の常識行動の中に入ってて本当に良かった。
―寝床から数メートル離れたところ 草むら―
「⋯誰?客?呼んでないけど⋯」
「zzz」
「まさか、またエルフの奴らが⋯?私を放っておいてって言っておいたはず⋯!」
「zzzzzz」
「ん⋯?人間?何だ人間か⋯でも、急に襲ってくるかもしれない⋯私はまだ幼いから、狙われやすいってお母さん言ってた。今はもう居ないけど⋯」
「zzzzzzzzz」
「寝てる⋯?これはチャンス⋯!寝てる間に襲って、色々お金にしちゃおう!」
「zzzzzzzzzzzz」
「でも、それにしては技術が進んでるものばっかりだ⋯この数百年の間に、こんなに人間の技術が進んでいたなんて、私もその過程を見たかったなぁ⋯」
「zzzzzzzzzzzzzzz」
『ガタガタガチャガチャ⋯』
「な、なにこれ⋯液体なの⋯?ドロドロとしてて気持ち悪い⋯」(シールドを破れている)
「zzz⋯ん?」
「な、なにこれ美味しい⋯!コクがあってまろやか、いや、後味にスパイスを効かせている⋯しかもここら辺ではなかなか嗅がない香り⋯この人間たち、料理もできるんだ⋯」
「⋯」
「⋯」
目と目が合ってしまった。
誰かはわかんないけど、誰かに遭遇してしまった。
でもその時の僕は寝ぼけていたから、すぐに⋯
「何だ夢か。」
と言って二度寝してしまった。
「⋯見つかってしまった、でもすぐに寝たから暫くは大丈夫だろう。それより⋯⋯」
この人間、やけに惹かれる。
何故かはわからない。
人間である以上、好意なんて持ってはいけないとは思う。
でも、なんだか惹かれる。
顔が良いのかな⋯?香りが良いのかな⋯?
それとも、声⋯?
わからない⋯けど、魅力を感じるのは確か。
そして、自然とその人間の体に触れて、その横に横たわっている。
その光景はまるで、懐かしの家族の光景⋯
偵察に来ただけだから、服も何も来てない状態。
この人間の足ぐらいはある背丈を人間の布団の中に忍ばせ、妖艶な体と長い髪を下半身の服の繊維一本一本に絡ませる。
このせいで簡単には逃げられないのはわかる。
でも、離れられない⋯
私という衝動で動く生物が、離してくれない。
裸とか、そういうのどうでもいい。
とにかくこの人間の体に縋り付きたい、甘えたい。
そして、一緒に冒険してみたい。
そんな傲慢さが、私とこの人間の糸を生み出したといえる。
「どうか、離れないで⋯二度と⋯⋯」
そのまま私は、眠りについた。
起きたら襲われること、わかってるのに⋯
現在の『利炉硫』が颯太に抱いている好感度は100%以上。
もう"二度と"離れることはないだろう。




