3 異界
―異世界? 草原⋯?―
扉の先に広がっていた世界、それは⋯
だだっ広い草原が存在する世界だった―
「現実世界じゃ殆ど見なかったな、こんな景色⋯」
「それはそうね。異世界はこういう景色がいつも広がっているものよ!」
「そ、そうなのか⋯」
僕の住んでる国がどれほど荒んで廃れているのかがよくわかった。
にしても、街は何処だろう⋯
草原ばっかりだと、本当に異世界に来たのか心配になる。
「ね、ねぇ⋯?街って、何処にあるの⋯?ってか、この世界に街って本当に存在してるの⋯!?」
「存在してるけど、最初は大体こんなものなのよ!⋯⋯多分。」
「多分!?!?」
怪しい⋯この人本当にこの世界のすべてを知ってるのか!?
こういう時は、マップ先生に頼―
「あれ、あ、あれぇ⋯あれぇ⋯⋯?」
買うしかねぇんだった、街に行くために⋯
そもそも、財布も金もなければ金と同格の価値である物も持ち合わせていない⋯
どうすりゃ良い⋯詰んだぞ、これは絶対に詰んだぞ⋯!!
「迷える子羊たちよ⋯困り事のようだな、我が力を貸してやろうか?」
雑草が風でゆらゆらと揺らぐ中、何処からか強そうな声がした。
な、なんだ⋯?龍が来るのか⋯?妖精が来るのか⋯?謎の人が来るのか⋯?はたまたこの世界における神がおいでなすっちゃうのか⋯!?
「あ、貴方様は誰なのでしょうか⋯!」
「我の名を聞くとは、余程我のことが好きなのだな!?」
いや、気になっただけで好きじゃないんだけど⋯
ってか、姿現せよ!!
「我の名は『セルニア』、この草原の主だ。」
「って、ことは⋯姿は現さない感じなんですか?」
「そうだ!決して現さん!!何故なら我の姿を見たものは、魔力切れのような状態を起こす。それは嫌だろう?」
「そ、そうですね⋯」
魔力切れなんて聞き馴染みのない言葉、漫画でしか聞かないからどういうものなのかがわからない⋯
「因みにお前が我の声を聞けているのは、現界の者に付与される特殊スキルのお陰だぞ。」
水仙が紹介してくれたやつか。
早速役に立ってるみたいだ。
「先程、力を貸すと言っていましたが⋯それはどういうものなのでしょうか?」
「本来の道を示す、可視化という特殊スキルを付与しようと言うことだ!付与すればお前も移動が楽だろう!」
可視化魔法⋯この草原の世界は偽物ってことか。
でも、態々偽物の世界で歓迎されるのは、なんか歓迎されてない気がするんだけど⋯
「なるほど、つまりこの世界は、貴方が作った偽物⋯というわけですね?」
「少し違うが⋯まぁそんなものだろう。」
なにか、含みのある言葉だ。
言えないことでもあるのだろうか。
「取り敢えず、今から可視化スキルをお前に付与する。好きに使うが良い。」
それに何故か、聞き覚えのある声と口調だ。
この世界に僕の知り合いがいるのだろうか⋯?
「わ、わかりました!有難う御座います!」
「良い返事だ。それでこそ⋯俺のむ―」
その後は、声が途切れて聞こえなかった。
俺のむって、どういうことだ⋯?
僕は考えたまま固まる。
これが俗に言う、賢者タイムってやつか。
「良かったわね!可視化スキルなんて聞いたことないけど⋯この草原から出られるわよっ!」
「う、うん⋯そうだね⋯」
僕はさっきのことが引っかかって、水仙に冷たい返答をしてしまった。
それに、心の何処かで、ずっとここに居たいと思う気持ちが現れてしまった。
水仙の言い方も変だ。
最初はこの草原を気に入っていたような様子だったけど、さっきの言葉の言い方はまるで僕の気持ちに合わせているかのよう。
もっと言うと、早くこの草原から出たいと訴えているかのよう。
これらが何を意味しているか、僕にはわからない。
だけど、何故か嫌な予感がする。
喉元を貫かれるような、苦痛を味わう予感が⋯
「どうしたの?急に固まって⋯」
「な、なんでもないよ!!んじゃあ可視化スキル使って、街に行こうか!」
水仙を疑いたくはない。
でも、なにか変だ。
いつか分かると思って今は割り切るけど、また同じような出来事があったら問い詰めよう。
「えーと、どうすれば良いんだ?異世界に繋がる扉のときみたいに、力を引き出せば良いのか?」
取り敢えず、僕はまた中央に両腕の手のひらを翳し、声が掠れて喉が尽きるまで叫んだ。
「―うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!」
―シーン
「⋯あれ、無駄骨?」
もう一回やってみる。
「―うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!」
――シ〜〜〜〜〜ン
何も起きない⋯
今や僕は喉と声が死んで、吐き気もしてきて、気がついたらぶっ倒れてそうなくらいの満身創痍状態。
「だ、大丈夫⋯?」
水仙はやり方を知ってそうだったのに、心配だけで一切手伝おうとしない。
水仙、君は上の方々からなにを学んだんだ⋯
「大丈夫⋯じゃ、ない⋯」
しかしどうしよう⋯
手を翳して叫んでも、何にも起こらない。
何かしらの言葉を言わなければならないとしても、別の行動をしなければならないとしても、
あの自称草原の主から何も諭されていないから、どんなことを言えばいいかとかどんな行動をすればいいのかとかすらもわからない。
「くぅっ、開いて⋯くれればぁ⋯⋯」
僕は瀕死の状態で嘆いた。
いや、決して攻撃されたとか溺死しそうだとか感電死しそうだとか焼死しそうだとかそういうのではない。
過労死しそうなのだ。
「ひ、開けよぉぉっ⋯」
情けない懇願の言葉が、草原中に小さくもしっかり響く。
すると急に目の前が変化し、気づけば景色は見知らぬ街へと変わった。
まったく、最初のはいらなかったでしょ!!
なんでつけたのさ!紛らわしいっ!!
―テルリア テルリア商店街―
「可視化スキル、便利ねぇ〜」
「って、水仙はなんもしてなかっただろ!!」
「あ、ごめん⋯私そういうのわかんなくて⋯」
まぁ、無理もないか⋯
でも最初は厳粛そうだったのに、異世界に入った途端にこんな天然さんになったから、少し違和感は覚えてる。
許容しないといけないってのはわかってるけどね。
「⋯取り敢えず、地図を買おう。ここか何処かわかんないと詰むからね。」
「あれ?颯太ってお金持ってたっけ⋯?」
「⋯あ、そうだった。」
力を使い果したら、記憶ってすぐすっ飛ぶよね〜
誰にでもあるよね〜
どうしよう、また振り出しに戻った⋯
何回目だよっ、クソッ!!
「一応私は金貨15枚くらいは持ってるけど⋯」
「割と持ってんな⋯ってか、持ってんなら早く言ってよっ!」
「いやぁ〜言うの忘れてて〜⋯」
大丈夫か⋯?この女⋯
「おい!そこの若いもん!外人さんか?」
後ろからおっさんとも子供とも言い難いイケオジ系の声が聞こえる。
屋台みたいな店がズラーって並んでるから、その中の一つの商人さんなのかな?
「ま、まあ一応。」
「なんで後ろ向きながら返事するんだ?恥ずかしがり屋なのか〜?」
人と話すのなんか久しぶりだから緊張してんだよっ!!
って言いたいけど⋯そういうこと大声で言うと恥かくだけだからなぁ⋯
さっきの草原の主は人という実態がなかったからまぁ良かったものの、
実態があって男でしかもイケオジ系となると、やはり話すのは慣れないな⋯
「慣れてないので、人と話すの⋯」
「なるほど、そんなら⋯後ろを向いたまま買い物をするってのはどうだ?」
うん、もっと恥ずかしいわっ!!!
いくら頭の可笑しいガキとかでも、後ろ見ながら買い物なんてしねぇよっ!!
⋯と思ったが、そんな文句ばっか垂れてるとこの先の異世界生活が支離滅裂な感じになりそうだから、素直に前を向いて買い物します。
変な意地張ってすみませんでしたっ!!
「なんだ、前向けるじゃねぇか。よかったな!」
「は、はい⋯」
なんか、こんな簡単なことが出来なくて、出来ると褒められるの、変な感じするな⋯
でもこの人、さっきの喋り方からして、僕達の買いたいものがわかってるみたいだけど⋯
って、地図が売ってある!?!?
気づかなかった⋯いや、後ろ向いてたからだけど⋯⋯
「金、持ってねぇみたいだなぁ⋯仕方ねぇ、タダにしておいてやる!」
「えぇぇぇぇっ!?」
地図が売ってあるプラスタダだと!?
なんだこのイケオジ⋯優しいかよ!!
「い、いいんですか⋯?」
「うちの売ってるもん買ってもらえるんならそれだけで俺ァ嬉しいんだよ!その代わり、大事に使えよ〜?」
「はい!!もう、黄金のようにツルピカの状態を死ぬまで継続するぐらい大事に大切に使います!!有難うございましたっ!!」
「あ、ちょっと待て!!名前、聞いとらんかったな⋯!お前さん達の名前はなんだ?」
名前を聞くなんて、ほんと珍しい商人さんだなぁ⋯
「僕の名前は、水宮颯太。ちょっと遠くの世界で絶望的に暮らしてるいい年したガキですっ!!」
やっべぇ⋯興奮しすぎて変な自己紹介しちゃったぁ⋯
「ほ、ほう⋯よくわかんねぇが、カッコいいことだけはわかるぜ!(?)」
気遣いもしてくれるとは⋯この商人さん、いやイケオジ⋯相当イケオジしてんぞ!
「私の名前は水仙。少し近めの世界で陳腐に暮らしてるいい年したガキです!」
お、同じような自己紹介を⋯!こやつ、本当にノリが良い!
「似たような自己紹介だが、お嬢ちゃんも可愛いことだけはわかるぜ!(?)お前さん達の名前、すっかり刻み込んどいたよ!ありがとな〜!」
「こちらこそ~!」
暖かい日差しが僕達を照らす異世界の中、出会いと別れを繰り返し⋯
旅をする―!
可視化スキルは、以前の『オモイノチカラ』によって開花されたものである。
この世界では、商人は商品の値段を勝手に変えられる。だから、上限などを国が決めることは面倒くさいからしないらしい。
この世界の『銅貨』『銀貨』『金貨』といったお金の価値は、現実世界で換算すると10〜20万ほど。




