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16 白黒勝負

 ―会場 プール―


 プールの水面が、ゆらゆらと揺れている。

 僕もこれくらい冷静になれる人間として生まれていればよかったなと、心から思う。

 まぁ、今更そんな事考えても、意味はないとは思うけど。

 上から照らされる光が少し煩くて、ある意味暗く静かなものと感じた。

 僕は馬鹿なのか、と自問自答のターンに入る前に、試練は開始してしまう。

 猶予がない世界なんて、窮屈過ぎて嫌悪感を抱く。


 僕は、こんな暗い人間じゃない。

 さっきまでの威勢を今更のように取り戻し、煩い心臓の鼓動を抱きしめる。

 そして、真空に似たこの会場に笛が鳴り響いた。


 「さぁ始まった!勇敢な彼らに向けられた最初にして最後の試練、水泳!実況を務めさせて頂きますは、このアジトでの最高のボスで有り続ける者です。どうぞ宜しく!」


 笛と同時に、僕達は一斉にプールに飛び込んだ。

 プール自体に変なところは今はない。

 そもそも、相手がどんなことをしてたか、僕はいまいちわかっていなかった。


 ん?ちょっと待てよ?


 確か、ストレッチ中の時に頭魚野郎が通ったと同時にスプレーに似た変な香りがした。

 とすると⋯頭魚野郎はプールに何かを仕掛けた。

 それは恐らく、僕達を溺れさせる効果のあるスプレー。

 しかし、そんなスプレーあるのか?

 いや、一般魔法がやたら便利すぎるからわんちゃん作れる。

 としたら考えるべきは効果だ、恐らく魔法の効果を切らす特殊スキルかなんかを使ってるんだろ。

 は?魔法の効果を切らす⋯?

 お、おいそれって!!


 「⋯ぷはぁ、一周往復が終わったってくらいか⋯お〜い!三人と⋯」


 「「「⋯」」」


 顔を伏せて、倒れている⋯?

 く、くそっ⋯

 くっそぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!


 「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!」


 僕は馬鹿だった、三人に試練をやらせるのがまずいことだって⋯

 わかってたのに⋯

 僕のせいだ、先に気づけたはずなのに⋯

 すぐに気づかず三人を⋯

 僕は、守れなかった。

 なにも、守れなかった。

 守ってやれなかった。

 僕がしたのは、全部遊びだ。

 変な感情が滲み出たせいで、他人に迷惑をかけるような⋯

 そんな、人形と遊ぶようなことしかしてこなかった。

 三人のためになることを、何もしてやれなかった。

 僕はこの世で一番馬鹿なやつだ⋯

 僕はこの世で一番怠惰なやつだ⋯

 僕はきっと死ぬべき人間だ⋯

 懺悔したって三人は帰ってこない、そんなことわかってる⋯

 でも、大切な人が自分のせいで消えることになってしまうことが何より許せなくて、悲しくて。

 もどかしくてやりきれない。

 自問自答を繰り返し、僕は咽び泣き、天国の三人に届かないような情けない叫び方をした。

 喉が枯れ、焼け切れるぐらいに。

 僕の夢は、脆かったんだな。

 そんな気持ちで満ちた。

 

 そして悲しみ怒り憎しみ憤り、頭の中で感じたものは十人十色だ。

 それも全部、三人と魚のクズ野郎に対してのものばかりだった。

 今すぐにでも魚のクズ野郎のあの顔面を殴って、ごめんなさいと死ぬまで言わせたい。

 でも、そんなことしたら⋯

 三人が許してくれないだろう。

 そんな行為正しくないと⋯

 


 「(あ、暴走しそう⋯)」


 「ごめん!目に水が入るのが怖くて⋯一回入ったんだけど、すぐに出ちゃった⋯!」


 ⋯え?


 「怒られるのが怖かったの⋯だから顔を伏せて、倒れたふりを⋯」


 はいぃ⋯?


 「私も、紳士でありながらも溺れるのが嫌でして⋯」


 ま、ま⋯


 「紛らわしいわおんどりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


 「「「ひぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!」」」


 「(')%%#'(`**`{('('%&%'%&!!!!!!(訳 どれだけ心配したと思ってるんだ!僕は心配で心配で仕方なかったんだぞ!?三人が居なくなっちゃったから僕も居なくなろうとしてたくらいなんだぞ!?まぁ僕の命なんて三人に比べたら軽いから、三人のためだったらこんな命いつでも差し出すけどさ!(ry」


 「「「(怖い⋯)」」」


 「おいおい何やってんだよそこの馬鹿共〜!!」


 「「「「あん?」」」」


 「な、なんだよその目⋯!怖いじゃねぇか⋯」


 「お前が仕掛けたんだろうが!っていうか、お前ボスに認められるために試練の相手になったんじゃないのかよ!!」


 「あぁそうだ!なにか悪いか?」


 「偉そうに言うわね。」


 「私達の力ならその魚のようなのっぺりの顔面潰せるけど?」


 「紳士を舐めないでくださいね。」


 さっき僕を怒らせたことすっかり忘れてんなこの天然三人⋯


 「三人は一回黙ってて。」


 「「「す、すみません⋯」」」


 「なら、何故不正なんてするんだ?正々堂々やれば良いだろ!後の幹部戦でボコして終わりだけど。」


 「⋯溺れさせて倒したら、ボスに認められるかなって。」


 「不正を許さないボスが、そんなこと許してお前を認めてくれるわけないだろ!!」


 「お前たちじゃボスには敵わないんだよ!!優しさの面でも強さの面でもどんな面でもな!!」


 「こいつぅぅっ!颯太をさんざん言い回してぇぇぇ!!」


 「静かに」


 「ご、ごめんなさい⋯」


 「確かにお前のボスは強い。そして優しさも何処かに感じられた。ルールに厳しかったり、戦いを出来る限りなくそうとしたり、声だけ聞こえるけど、お前が不正する前のボスの様子はやけにご機嫌だったし。だからこそ、お前が不正する意味はなかったってことの証明に繋がるんだ!僕達じゃボスには敵わない?そんなことくらいわかってる!だって、お前のボスは何事も真剣で、僕にはないものがある!だからこそ立ち向かうんだよ!!ハイドの人族の仇討ちのためにもな!!お前だって幼い頃はそうだったろ?」


 「お、幼い頃⋯?」


 ―数十年前のアジトにて―


 「やっぱり、貴方様はお強いですね⋯!」


 「ボスだから当然だ。だが、お前も強いではないか!」


 「貴方様のような高貴な方と戦えているのですから、強くならないわけがないですよ!」


 「ハッハッハッハ!そんなに褒めてもなにも出ないぞ!」


 「あ〜!クッキーだぁ!!」


 「ほっ!」


 「ぐはぁ〜っ!!」


 「隙あり、だ!」


 「いたたた〜!ひ、卑怯じゃないですか〜!」


 「最近お前が強くなりすぎて、攻撃がなかなか当たらんかったから、当たって良かったぜ☆」


 「なんですかそれ!ってか、嘘言わないでくださいよ!俺、全然叶わないんですから!」


 「へっ、バレたかっ!」


 「へっ、バレバレですよっ!」


 ―再び会場―


 「(そうだ⋯俺はあの時、敵わないから立ち向かって、敵わないからたくさん話しかけて、それでもあの方の優しさや強さを知ってここまで来た⋯散々しごかれて、一日あの方の前で泣くこともあったけど、それでもあの方は優しさを忘れなかった⋯俺は優しさという存在を忘れて、戦うことの楽しさを忘れて、側近に立ってしまっていたんだ⋯あぁ、俺の馬鹿!!何やってんだ!!)」


 「スプレーの効果、仕方ねぇから消してやるよ。」


 【消去スキル】


 お、さっきのでなにか変わったな?

 馬鹿な僕でも一瞬でわかった。


 「勘違いすんなよ!まだ俺は、お前のこと認めたわけじゃねぇからな!」


 「あぁ、知ってるよ!お前との真剣勝負、楽しみにしてるぞ!」


 「おう!わかってるよ!」


 生意気な笑顔までも変化した。

 まるで、幼い頃の自分を思い出して立ち直った強気な奴みたいだな!

 僕は彼の成長に耽って、自然と涙が出てしまった。


 さて、あとは三人か。

 ゴーグルの存在をすっかり忘れていた、天然達。

 どう対処すべきか⋯

 あれでいっか!


 僕は赤を抱えた満面の笑みを浮かべながら、ずーっと震えている三人のもとに近づいた。


 「んで?そこの三人は、どういう罰を与えたらその天然水をマグマに変えてくれるのかなぁ?」


 「な、何言ってるかは全然わからないけど⋯怖いことを言ってるのは何となく分かるわ⋯」


 「ど、どんな罰が⋯」


 「はぇぇっ、お許しを⋯!」


 「君達に与える罰は⋯」


 「「「ば、罰は⋯?」」」


 「一分で更衣室からゴーグルを取ってくる罰!!はい!いってらっしゃい!!(怒)」


 「「「は、はいぃ〜!!!!」」」


 これでよし。


 「幹部である鵜男を、変えてくれてありがとう。あいつ、最近ライバルが増えたことで変なことばっか企むようになってしまったんだ。他人を蹴落とすとか、馬鹿にしてくる奴らを虐めてやりたいとか、そんな事ばかり考えるようになったんだ。本当にありがとう。降格は取り消すとアイツに言っておかなければ。」


 「どういたしまして。」


 って、え!?

 あいつ鵜男っていうの!?

 名乗ってないんだけど!!

 まぁ、僕達もあんまり名乗ってないんだけど⋯


 「あと⋯盗み聞きして、すみませんでしたっ!!僕が考えたことなんです⋯僕が責任を取ります⋯!」


 「そのことはもう気にしてない。存分に真剣勝負を楽しめ!」


 「有難う御座いますっ!」


 「タメ口でいいぞ。」


 「あ、あ⋯」


 「ハッハッハッハ!面白い少年だな!」


 「って、少年じゃな〜い!」


 「すまんすまん!笑」


 あの天然三人も来たみたいだ。

 かなり体力を消耗したようだ、この一分という時間の間で。


 「はぁ⋯はぁ⋯はぁ⋯と、取ってきたわよ!」


 「ゆ、ゆるじて⋯」


 「疲れました⋯もう泳げません⋯」


 「⋯一分ジャスト。まぁ良いだろう。ちゃんと付けなよ!疲れただろうけど、往復一周だけだから!強力魔法あるしなんとかなるって!」


 「「「そ、そんなぁ〜⋯」」」


 ―しばらくして―


 「休憩も終えたようです。それでは、再開しましょう!」


 笛の音が再度鳴り響いた。

 僕は静かに飛び込み、先程と同じバタフライで、魚雷のような速さで泳ぐ。

 相手の早さはわからないが、恐らく同じ二週のはず。


 《コースの長さ 80,03m スタートから十秒》

 〈颯太 現在二週の半分 残り240m〉(←恐らく魚雷より速い)

 〈鵜男 現在二週の半分 残り239m〉(これは颯太と鵜男には見えてません)


 泳ぐしかない、やるしかない!!

 最大限速く泳げるように、僕は手足と体をチーターの如く動かした。


 「(くっ、相手の距離がわからないのは不便だな⋯だが、これは真剣勝負だ。距離なんてもの、わかってしまったら卑怯者と同じだ!!)」


 〈水仙 変な泳ぎ 残り72m〉

 (ハイド クロール? 残り75m〉

 〈因子 バタフライ 残り62m〉


 「(意外と、泳げるわね⋯)」


 「(くろーる?ってこれで良いのかな⋯?)」


 「(す〜いすい♪)」


 つづく

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