15 ボスという最強
―試練の会場―
『では、今からルール説明を始める。守らなかった場合、最初っからやり直し又は颯太一人で再度チャレンジしてもらう!』
「「「早く教えなさぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!!」」」
び、びっくりした⋯
急に三人が大きな声出すから、少しヒヤッとなってしまった。
それになんか、超顔怖いし⋯
でも、本気でそういう気持ちになってくれるのはめちゃくちゃ嬉しいんだよな。
『そこまで厳しくはしていないが、コースは自分のレーンで泳ぐのと、女子は往復一周。男子は往復三周泳いでもらう。』
「なんでよ!颯太を死なせる気なら私が相手してあげる!」
「私達だってもっと泳げるし!」
「そうですよっ!男女差別です!」
スポーツに関してはそれが普通なんだよな。
それに、水泳得意だから三周だろうがなんだろうが関係ない!
僕は余裕で泳げるぞ!
『相手なら後ですると何度も何度も言っているはずだ。数は増やさん。男女差別?何だそれは。おまえたち女子は往復一周で十分なはずだ。異論はいくらでも言って構わないが、この試練を亡き者にしようとするのであれば、俺が倒しに行く。』
「望むところよぉぉっ!」
これは抑えんとまずい系だな。
僕は水仙の両脇に優しく触れ、後ろの壁に自分の背中を強打するくらいの力で、水仙を押さえつけようとする。
が、水仙の前へ進もうとする力が強すぎて、強力魔法を使わないと誰か怪我しそうな気がする⋯
「やめろやめろっ!なんでそんなことで!毎回文句ばっか言うんだよ!僕は三周泳いだって平気だ!それに、水仙達に無理はして欲しくないし、折角の真剣勝負を滅茶苦茶にしてほしくもない!」
「なっ⋯!?颯太は本当に、心が広いわね⋯」
「本当は私達も、同じレーンで泳ぎたかったし、三周泳ぎたかったけど⋯」
「颯太さんが、そこまで言うなら⋯」
ふぅ、これで一安心。
ついでに二人の怒りも鎮められたし、ボスが変なルールを増やさない限りは大丈夫だろう。
また喧嘩しようとしたら、あるかわからないけど、剣使いの威圧スキルで止めるしかない!
『気を取り直して、ルールの説明を再開する。泳ぎは基本自由だ。背泳ぎ、平泳ぎ、クロール、バタフライ、変な泳ぎ方でも前へ進むことができれば良い。勝敗については、女子と男子の分数を秒数に直し、それをポイントとして変換させ、総合的にポイントが少なかった方が勝ちだ。審査はこちら側がする。不正はしないよう言いつけてあるので、その心配はない。誤差に関しても俺が確認し、ちゃんとした結果を発表するため安心して欲しい。あと念の為言っておくが、強力魔法を使わない場合は顔を何回か出してもいいし、男子に関しては周終わりごとに休憩を挟んでも良い。ただし、五分だけだ。それ以上休憩したら、問答無用で再度挑戦をさせる。』
ほう⋯なるほど。
僕は考える人のポーズをし、ボスの説明を真剣に聞いていた。
泳ぎは緩く、ルールが少し特殊って感じか。
そういえば言ってたな⋯点数を総合して、勝敗を決める的なこと。
普通勝負だったらポイントが高いほうが勝ちなんだけど、スポーツに関してはちょっと違うところがあるんだよな。
異界でも似たようなルールがあるとは⋯選手を気持ち良く勝たせようとする工夫があって良かった。
『開始は十分後だ。その間にストレッチなどを済ましておいてくれ!』
「すとれっち?」
「体を動かしやすくする、軽い運動みたいなものだよ。」
「へぇ〜どんなの?」
「今から皆が合わせられるように、ゆっくり目にやるから、それに続けて水仙達も動いてくれたら嬉しい。」
「わかったわ。」「わかった!」「わかりました。」
よし、皆偉いな。
しっかし、このボス⋯
やけに知ってる現界の言葉、多くない?
プールもストレッチも異界では聞かないような言葉だし、ルールもやけに本物のルールに忠実だ。
ちょっと変えてるところもあったりするけど⋯
「(にっひっひっひ⋯作戦、実行だァ!)」
「すみません!ちょっとトイレに行ってきてもいいですか?」
『あぁ!良いぞ!』
「1、2、3、4!」
「「「5、6、7、8!」」」
「(通るぜ〜!)」
ん?なんか、スプレーみたいな香りが⋯
まぁ、プールだから、そういう変な香りがしても無理ないよな。
「次は、腕のストレッチ〜!」
―会場 トイレ―
「こちら鵜男、こちら鵜男。プール全体の魔■■れの■プ■、準備完了。そっちはどうだ?」
「こっちも完了ってんだ、バーカ」
「〜^ー^〜(完了)」
「よし、皆準備が早くて良かったぜ〜連絡してんのは二人だけだけどな。実力主義じゃない奴らにはこの程度の人数と施しで十分だ。颯太だけでも殺して、俺が名を挙げてやる!」
「あ?そんなことさせねぇよバカが。報告はオーレがするって言ってんだろバーカ!」
「(ꐦ°᷄д°᷅)殴))))(報告は僕がする)」
「ちっ、どいつもこいつも傲慢だな⋯まぁいい。とにかくやるぜ!」
―会場―
『(フンッ、わざとらしい仕掛けを⋯)』
「どうした?急にボスのあんたがソワソワし始めて⋯」
『なんでもない。ただ羽虫が集っていた為、駆除しようとしているんだ。』
「(どうせ嘘だね。ボスだろうとなんだろうと、嘘を付いてる人の心を少し見抜ける私にとってその程度の嘘、すぐに見破れる。)」
「へぇ〜、そうなんだ。」
ん?ハイドがやけにボスを煽ってる感覚がする⋯
ボス側がなにかしたのか?なにかあったのか?
「ど、どうした?ハイド⋯」
僕はハイドに近づき、ヒソヒソっとハイドの企みを伺った。
ハイドのことだから、どうせなにか気付いたんでしょ!
そうに違いない!
「どうやらこのボス、身内でなにかあって、それでバタバタしてるみたい。さっき心の中を覗いたらわかった。」
『(み、見破った⋯?まさかな。)』
「なるほど、相変わらず天才だなハイド!」
「そ、それ程でも〜!」
おっと、さっきの会話聞かれてたみたいだ⋯
出来る限り、怪しまれないようにしないと。
「というか、少し気になったんだけどさ⋯」
「なに?」
「ハイドの人族、糸幹人族って糸で作られてるのに、さっきの水でなんにも起こらなかったのはなんで?」
「聞きたい?」
「言いたくなかったら良いんだけど、少し気になるかも。」
「わかった。少し話してあげよう!実は糸幹人って、糸の幹みたいな人って意味で名付けられたみたいなんだって。だから最初会ったとき、颯太の足ぐらいの大きさだったんだよ!」
「僕の方ぐらいに大きくなったのは?」
「颯太の作ってくれた料理のおかげ♪」
「嬉しい〜!」
好感度が最初会ったときからあんまり変わらないのは変だと思ったけど、(好感度はなんとなくわかっているみたい 現在1000%)出会ったばっかりだったし、そういう体質なら仕方ないよな。
僕はハイドの全てを許そうっ!
それより、ボスの方はどうなんだろう⋯
色々なトラブルがあって、立て込んでるみたいだけど。
『(これは仕掛けた奴の首を早めに突っぱねなければダメだな。あの糸幹人族の娘は会ったことがないが、どうやら疑り深さ関連のスキルを使っているみたいだからな。)』
『すまない、少し席を外す。俺が返ってくるまで、ストレッチを続けていってくれ。』
僕も行こっと。
ハイドが疑っている時点で、相当の事件が起きていることは確かだからな。
「ちょっ!?何処行くのよ!」
「ボスに着いていく。水仙達も来てくれ!」
「あっ、そのためだったのね!勿論行くわ!」
「颯太ならそう言うと思った。さっきの咄嗟の話題転換も、ボスの目を誤魔化すためだったのわかってるし!」
「ま、待ってくださ〜い!!私も行きますから〜!!」
―会場 敵側更衣室―
「(フッ、来ましたね。)」
「どうも。どうやらお怒りのようですね⋯なにかありましたか?」
「なにかありましたかじゃない⋯君、なにか仕掛けたろ?」
「仕掛けた?なんのことです?」
「とぼけるなよ!不正幹部!!」
「(なんて酷いことを、これは想定外だっ⋯!)」
「不正幹部なんて、疑り深いんじゃないんですか?」
「君以外考えられんぞ?」
「(何故他の幹部は疑わない⋯?)」
「他の幹部がやったという場合も⋯!」
「他の幹部を疑うとは、信念もなにもなってない!降格したいのか?他の幹部は皆別の所にちゃんと待機しているところを俺は見た。その後も様子をチラッと覗いたが一瞬たりともその場を離れなかったぞ?」
「(く、くそっ⋯!あいつら嘘をボスに話して関係者じゃなくさせたっていうのか!?裏切り者め⋯そこまでやれとは言っていないぞ!)」
「な、何故そこまで疑うんですか⋯!僕は、今まで謀反など起こしたことはなかったというのに!」
「どれほど嘘を付けば良いと言うんだ!俺はもう、君に失望したよ⋯今から試練を取りやめにし、君を降格させたあと、あの者たちに二名の幹部を戦わせる。幹部の場所でせいぜい嘆いていると良い。」
「(そんな屈辱、受けるわけにはいかない⋯なら、ならばもう!大会を強行させるしかねぇな!!)」
【転移魔法】
「往生際の悪い幹部だ⋯!」
―再び会場―
「さぁ、ここからは強制試練として、貴様らを溺れさせる⋯俺だけが勝つ試練をしてもらう!!って、あれ?あいつらは⋯?」
「お前が、ボスが用意してくれた試練を全てをめちゃくちゃにしようとした犯人か!」
「私達が気付いたからには、もう逃れられるなんて道はないわ!」
「さっさとお縄に付きなよ。犯罪者さん?」
「ルールを聞いても不正の手を止めようとしなかったんですね。不本意ではありますが、ここで倒しておかなければ⋯」
「僕達は、ボスに変わってお前を降格させる!覚悟しときなよ、頭魚野郎!!」
「ぐっ、ぐおあぁぁぁぁぁっ!!どいつもこいつもぉ、俺の邪魔ばっか⋯ふざけるなぁぁぁぁ!!ボスのことを一番知っているのは、ボスの一番の側近に立っているのはぁ、この俺だってんだよぉぉぉぉぉ!!」
「静まれ!!」
「「「「!?」」」」
ね、念力!?
口と身体全体が金縛りにあっているかのようになって動かない⋯!
こんな力も、持っているのか⋯?
このボスは⋯!
「(くっ、しくった⋯俺達のボスは、念力スキルを持っている職を持たない一般人族⋯その時点でかなりの地位に君臨するお方だというのに、今の技や他の技は、適用しない人間など存在しないものときた⋯そんなスキルを所持しているボスは、俺達にとって一番の未知で一番の脅威だったな、すっかり忘れていた⋯!」
「スタート位置に着け」
「「「「!?」」」」
まただ⋯しかも今度は転移で、五人全員を定位置にビシッと立たせている⋯
口は皆動いてるみたいだし、喋れているみたい。
僕も動くし、喋れる。
一度に魔法?かスキル?職の技?の効果を重複出来るわけではないみたいだ。
だが、身体は依然に動かない⋯
動こうとすると身体の中に電流が流れて感電するっ⋯!
まるで、動けない人形が雷に打たれて焼け焦げる、そんな感覚に近い⋯
ってか、城壁の周りに流れてたあれって電流を通すような水だったのか⋯
全然気づかなかった⋯!
「な、何をする気⋯?」
「先程諸君ら、盗み聞きをしていたろう?俺はそのような行為は大嫌いなんだ。だから、無理にでも試練を行ってもらう。ルールは基本変わらないがな。」
そりゃあバレるよな⋯
足音とか聞こえてたかもしれないし、話を聞いていなかったらさっきみたいに堂々と参上しないし。
その辺も考えりゃよかったな。
「三人共、ごめんよ⋯」
「謝ることないわよ!全てはそこに居る頭魚野郎が悪いんだから!」
「私は颯太のこと、心から好きだから⋯颯太のこと嫌ったりなんてしない!」
「私も、颯太さんのこと⋯出会って仲間になったときからずっと好きなんです⋯!だから、私は最期まで颯太さんを嫌ったりしません!」
み、皆⋯!
あまりの嬉しさに滝のような涙が流れ、思わず体をモゴモゴと動かしてしまった。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
数回電流を受けた体は、痛みなど不死身の如く消え、気合がぐんぐん湧いてきた⋯!
そして三人の憐れむ表情を横目に、僕は誠心誠意をボスに見せつけるように目線を合わせた。
「やはりお前は、強いな。」
ボスと視線が合い、二度も三度も見た期待の目線を向けられ緊張気味だが⋯
何が仕組まれていようが、僕は挫けないし倒れない!
三人に出来る限り心配をかけさせたくないから!
絶対に頭魚野郎に勝って、幸先いいスタートを切ってやる!
「勝つぞぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」
「「「お、おーーーーーーーー⋯!!!!!」」」
緊張が解れた。
なんだか体も軽い気がする。
縛られてはいたけど⋯
だがしかし、熾烈で淀んだ頭魚野郎の私欲が、僕達をじわじわと襲うこととなる。
つづく




