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百年ぼっち魔女は、弟子に永遠を迫られている  作者: 勿夏七


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9/14

9招待された母親

 女は、自分とカルロのやり取りを、息子が魔女に洗脳されており、母親に厳しく当たるのだと周りに吹聴してまわった。

 踏んだり蹴ったりの不幸な身の上だと同情した近所の人々は、女に施しを増やし、その傷が癒えるようにと祈った。


 今日も大収穫だと笑顔でボロボロの家へと帰ると、家の前にアヴィゲイルの従者が立っていた。

 女を見つけた従者は丁寧に挨拶をした後、手紙を渡しすぐさま去って行った。

 わけもわからず受け取った手紙に、女は家へと帰り封を開けた。

 手紙の内容を読んだ女は、手紙を落としみるみる顔を紅潮させていく。

 

「アヴィゲイルがカルロを口説いたんだわ! これであの魔女にとやかく言われなくなる!」


 カルロから豪華なレストランに招待され、心が躍っている女。

 高級なドレスを購入し、指定日時に招待されたレストランへと軽い足取りで赴いた。

 

 レストランの外装は、黒を基調とした高級感漂う落ち着いた雰囲気。ガラス張りのため、内装に設置されている金色に輝くシャンデリアが一層輝いて見える。

 女がレストランへと入ると、スタッフは一瞬表情を曇らせた。だが、すぐに女へと笑顔を向け、いつもどおりの接客を心がける。


「ご予約の方ですね。部屋でお待ちください」


 女は二人より先にカルロが予約したレストランへと赴き、丁寧なおもてなしにさらに興奮度が高まっている。

 

 階段を上り、いわゆるVIPルームと呼ばれる部屋へと通された。

 部屋はとても広く、大きな建物のため見晴らしもいい。曇りのないガラス窓から景色を堪能できる。

 夜に来ればきっと誰もが羨む夜景を楽しむ事ができるだろう。

 女は金持ちになった気分でそれに浸り、ワインを持ってくるようにスタッフへと指示。

 しかしスタッフは首を横に振り、二人を待てとだけ言って部屋を出たのだった。


「なんなの今の態度! 絶対後悔するわよ」


 「私はあのカルロの母親であり、王女の義母になる女なのに!」とスタッフが出て行った扉を睨んだ。

 なぜか全てカルロがなんとかしてくれると思い込んでいる女。「あとでカルロに言いつけてやる」と愚痴をこぼしたが、柔らかなソファへと座り、景色を堪能していると自然と怒りは治まった。


「それにしても、まさか魔女が子供を育てるなんてね。完璧な男に成長しちゃって……あたしの子じゃなければ、今頃結婚を申し込んでるところだったのに」


 女はかなりの男好きだった。特に顔のいい男に目がなく、今までも多くの男を渡り歩いてきた。だからこそ、誰もが羨む容姿の男を捕まえ、子を産んだのだ。そうすれば、その美しい男が自分のものになるから。


「生まれた子供が私とも夫とも似てなくて、さらには浮気と勘違いされて逃げられるなんて。あたし、男は好きだけど、そこまでだらしなくないっての!」

 

 だが、似ても似つかぬ子に、逃亡した夫――きっと周りからの視線も相当に冷たいものとなるだろう。そう思った女は、見たことも話したこともない魔女に子を奪われたことにした。

 そうすれば同情心を誘える。容姿に自信のあった女は、「私が縋れば、きっと放って置けない」と子を奪われ、夫は逃げてしまったのだと泣き落とし。


「だって、あんなの抱いて歩いたら、私が笑われるでしょ? あの子のためにも森に捨てたのよ」


 自分のしたことは間違いなかったのだと女は、鼻を鳴らした。

 カルロを捨てた後から、周りからは散々で可哀想な美女だと思い込ませお金や食物をもらい、女は私腹を肥やした。

 それはカルロを捨てたからこその恩恵だ。自信の判断が間違っていなかったからこそ、頭も顔もいい息子が、自分の元に帰ってきたのだと嬉しそうに微笑む女。

 

「あたしが産んだからよ。魔女にそんな力、あるわけないじゃない」

 

 なお、老夫婦には素直に捨てたということを話してしまい、女としてはそこだけは失敗したなと顔をしかめていた。

 だが、老夫婦が誰にもその話をしていないことから、本当に自分を"娘だと思っていない"という発言を真に受けていない。

 実際のところ、老夫婦はすでに女を正しい方向へと導けないと、切り捨てているだけなのだ。

 しかし、それを女が察することはないだろう。


「ま、あそこまで必死に惨めな役を演じなきゃいけなかったのは、あんな子を産んだから」


 すべてあの子が悪い。そう言いたげに女は呟く。

 

「あの子を産んだ私が一番の被害者よ」


 でも、それももうこれでおしまい。女は今後の薔薇色の人生を思い描き、テーブルに用意されていた高級なお菓子を頬張りながら、ほくそ笑んだのだった――

 

 

 時間通りにアヴィゲイルとカルロが部屋に入って来た。

 二人が一緒に入って来たことで、女は二人の関係は良好なのだと誤認する。

 二人の距離や目の合わなささ、雰囲気からして鈍感な者でも気づきそうなものだが、今の女にはその雰囲気さえも正確に捉えられない。


「さあ、早く座って。あたしに話があるのでしょう?」

「ああ、さっさと始めよう」


 目を輝かせる女に、カルロは嘲笑うような笑みで対応した。それでもやはり女は気づかず、カルロから発せられる朗報を待った。

 その様子を見ていたアヴィゲイルは居た堪れない気持ちでいっぱいだ。


 スタッフがワイングラスを持ってきた。すべて同じ形のものだが、一つ一つ誰のグラスか決まっているように選んで置いていく。

 そしてワインをそれぞれに注いでいく。

 前菜も揃ったところで一度乾杯。ワインを飲んだ女を確認してからアヴィゲイルは、口を開いた。


「お義母様、カルロ様を産んだ時のこと、もう一度詳しく教えて欲しいのですけれど……構いませんか?」


 その質問に不快感もなく、勝ち誇ったような表情を浮かべる女は、おかわりしたワインを一気に飲み干してからこう口にした。


「産んですぐ、魔女の住んでいると言われる森に捨てたわ」

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