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百年ぼっち魔女は、弟子に永遠を迫られている  作者: 勿夏七


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3/14

3青年の家族

 魔法学校の生徒が来てから数日が経った。

 

 アタナシアが二度寝しようかと迷っていると、窓を小鳥が五回、コンコンと叩いた。

 森に侵入者が入ってきた合図だ。

 魔法で知らせることもできるが、小鳥が自分の仕事だと思っているため、毎度律儀に知らせに来る。そのたびにおやつを与えているので、おやつ目当てなのだろう。アタナシアもそれを察して、いつからか多めに持たせるようになっていた。

 

 また誰か来たのかと億劫に思いながらも、無視を決め込むことのできないアタナシア。

 魔法でサクッと準備を整えてから、鏡に侵入者を映し出す。

 そこには大きな荷物を抱えた老夫婦。

 迷い込んだのか、アタナシアに会いに来たのか――夫婦の会話を聞こうと黙っていると、婦人は「こちらで合っているのかしら?」と小首を傾げた。


 老人には優しく。そう教えられていたアタナシアは、すぐさま老夫婦の前に姿を現す。


「迷ったのか?」


 言葉を飾らず挨拶もしないアタナシア。だが、老夫婦は気にしておらず柔らかな笑みを浮かべた。


「あらあら、美人さんだねぇ」

「君がカルロの育ての親かい?」


 じっと老夫婦に見つめられ、アタナシアは小さく頷いた。


「まぁ、そうだな」

「やっぱり! 喋り方がそっくりねぇ」

「親がこれなら、彼の性格も納得だなぁ」


 楽しそうに笑い合う二人のペースに、アタナシアは戸惑いを隠せない。

 老人には優しくしろと教えられてはいるが、彼女にとってそれは得意なことではなかった。

 むしろアタナシアはすでにこの二人よりも生きている。しかし、子供のような性格のまま育ち、今では何もかもが止まっているため、このマイペース具合は肌に合わないのだ。


「……私に、用か?」

「ああ。君にお礼をしたくて来たのだ」


 大きな荷物を見せながら、老夫婦はニコニコと笑う。

 

「お礼? カルロにではなく私に、か?」

「カルロはね、僕たちの娘の子だ」

「……そうか」


 まさかカルロの母ではなく、母の両親がやってくるとは思いもよらなかったアタナシア。

 どのような言葉をかけていいかわからず、相槌程度の反応しか返せなかった。


「娘はね、祝い金が欲しいって言ってきたんだよ。孫ができたって」

「……それで?」

「……そしたら、生まれた子を『私の子じゃない』って捨ててしまった」


 その時、アタナシアはすぐに理由を悟った。両親に似ていないせいだ――。胸の奥が、ざわつき嫌な感覚に襲われた。

 だが、すでにカルロを見ているのだから、似ている似ていないはわかっているはずだ。アタナシアが言う必要もないはず。それなのに、アタナシアは言い淀む。

 動揺するアタナシアに、老人は「でも」と言葉を続けた。


「カルロが魔法学校に来てくれたおかげで、娘の子だと判明したんだ」

「身元もわからない子を置けないからね……。だから入学のとき、血を調べたんだよ」


 老婆は皺だらけの目尻を押さえながら小さく嗚咽した。

 

「……あの子は、私たちの孫だったんだねぇ」

 「生きていてよかった」と心の底から老夫婦は涙を流した。


「捨てられた子とはいえ、私たちの孫。大きくなった孫を見られて、私たちは嬉しかったの」

 だから貴女にお礼。と老婆は上品に笑った。


「わざわさありがとう……。せっかくだ、カルロの送ってくれた写真や動画を見てほしい」


 最初のうちは手紙だけだった。しかし、魔法で作られた写真機を購入したからと、景色を送ってきた。街や雑貨、生き物なども頻繁に送ってきた。

 だから、今ではたくさんの映像がこの家に残っている。

 

「あら、いいの? 二人だけの秘密ではなくって?」

「カルロは気にしないはずだ」


 老夫婦を家まで連れて、手紙含め、カルロから送られてきたものを見せた。

 老夫婦は感極まって大泣きし、アタナシアは泣き止ませるのにかなりの時間を消耗したのだった。


 ◇


 老夫婦を送り、また日が経過した。

 いつも通りの朝――とはいかず、アタナシアは冷や汗をかいていた。


「やめろっ! ……夢、か」


 アタナシアはハッと目覚め、飛び起きる。冷や汗を拭いながら、ソファで寝落ちしていた自分に気づいた。テーブルに置かれた紅茶は冷え切り、一口飲むと、その苦みに思わず顔をしかめる。


 カルロの友人や祖父母に会ったからだろうか。アタナシアは久しぶりに、あの日の夢を見た。それは決して楽しい夢ではない。


 過去――アタナシアは魔法学校で、友人と良好な関係を築いていると信じて疑わなかった。しかし、友人である彼女は、常にアタナシアを妬んでいた。


 彼女が何日も苦しんで解いた難題を、アタナシアは澄ました顔でさらりと終わらせる。彼女が想いを寄せる男たちは、もれなくアタナシアにばかり興味を持つ。惨めな気持ちになりながらも、彼女はアタナシアのそばに居続けた。


 ある日、彼女はアタナシアに打ち明けた。


「あたし、不老不死になりたいの」

「不老不死? 無理だろ。八十年も生きてる校長先生ですら達成してないのに」


「そうね。だから、私は引き継ぎ転生に目をつけたのよ」

「……なるほど。器を大きくしてからってことか」


 興味深そうに頷くアタナシアを見て、彼女は初めて勝ったような気がした。

 それから彼女は学校を自主退学し、不老不死を目指して引き継ぎ転生を繰り返した。

 特定の場所とタイミングで死ぬという、実にシンプルな方法で。


 そしてある時、彼女は人気のない場所にアタナシアを呼び出した。


 「アタナシア、貴女はまだ、あたしのことを友達だと思ってる?」

 「もちろんだ。……どうしたんだ、急に」

 「あたしはずっと貴女が憎かった。だから……実験台になってよ!」


 彼女はそう叫ぶと、支離滅裂な発言と共に不老不死の呪いをアタナシアにかけた。

 呪いは発動したが、彼女は魔力不足でその場で命を落とし、アタナシアは永遠に年を取らない体になってしまったのだった。


 アタナシアは深いため息を吐いた。

 何度忘却呪文を唱えようとした。だが、彼女のことを忘れたくないアタナシアは、いまだに彼女の影に苦しめられていた。


「……? カルロから?」


 ふわりと空から降ってきた手紙。

 カルロの手紙のおかげで気が逸れ、アタナシアは無意識に口角を上げたのだった。

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