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百年ぼっち魔女は、弟子に永遠を迫られている  作者: 勿夏七


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2/14

2青年の友人

 カルロが去って十年。

 最初のうちは静けさが心地よかったアタナシアだが、五年が過ぎた頃から、その静けさが逆に「静かすぎる」と感じるようになった。

 

「少しの間、面倒を見ただけのはずなのに……」

 

 埃をかぶったままの赤子用の本や遊び道具を眺め、アタナシアは静かに息を吐く。

 カルロは手のかからない子だった。うるさくて困ることもなかったのだが、それでもやはり少し寂しい。

 

「どうせ皆、私を置いて先に逝くのだから……一緒にいないほうが、気楽に決まっている」

 

 そう、何度も自分に言い聞かせてきた。


 ◇

 

 そんな森に、突然三人の人間が訪れた。

 歩けど歩けど、魔女の家は見つからない。

 

「本当にこの森にカルロを育てた魔女がいるのか?」

 筋肉質の男・ワイアットが呆れた声で言う。


「カルロが言ってたじゃない。魔女はこの森の奥にいるって」

 大きなリュックを背負い息を切らす女・エリンが、地図を指差す。

 

「じゃあ、もしかして俺たち、意図的に惑わされてるとか……?」

 

 眉間に皺を寄せるワイアットに、眼鏡の男・トレバーは澄ました声で返す。

「試しに入った奴が追い出されたって話もあるし、あり得るな」


 そんなトレバーの澄まし顔を見て、エリンは頭を抱える。


「やだやだこれ届けないと帰れないよぉ」

「それは大変だな」

「ぎゃー!!!」


 木の上から突然降りてきた声と人影に、ワイアットとエリンは同時に悲鳴をあげた。


「子供はうるさいな……」

「僕たち成人してます」


 ワイアットとエリンが腰を抜かす中、1人冷静にツッコミを入れたトレバー。

 トレバーは目の前の魔女――アタナシアの姿を捉え、静かに眼鏡を掛け直した。

 

「それは悪かった。それで、私に何か用かな。カルロのご友人……?」

「えっと、私たちカルロを勝手に尊敬している者です。魔法学校の同期で――」


 エリンがカルロと知り合った経緯を説明しようとしたところで、ワイアットは目を輝かせた。


「今日来たのは、カルロが尊敬する魔女に会いたからっス!」

「なるほどね。……会えたからもう帰るか?」


 心底面倒臭そうなアタナシアに、エリンは慌てて引き留めた。

 

「ま、待ってください。もう少しお話を……」


 リュックから取り出した鳥籠に、アタナシアの目が興味深く光る。


 その鳥籠の中身は――小さなドラゴンだ。


 エリンが魔女に会ってみたいとカルロに話したところ、小さなドラゴンを三人に「持って行け」と渡していたのだ。あまり多くは語らなかったが、カルロは「魔女はドラゴンを飼ってみたいと話していた」と。


「君たちを歓迎しよう。そのままそこに立っていて」


 アタナシアが指を鳴らすと、瞬時に家の前に到着。三人は目を大きく見開く。


「す、すげー! 一瞬で複数人を飛ばすなんて!」

「ああ、俺たちには無理だな」


 尊敬の眼差しで見るワイアットと、平静を装いたいのだろうが、興奮して手が震えているトレバー。

 エリンは驚きすぎてただただ目を瞬かせていた。

 

「魔力量が足りなくとも、魔力を込めた石があれば誰でも可能だ」


 アタナシアは持っていた魔力石を三人に手渡して、あっけらかんと言う。

 アタナシアから渡された青く光る魔石を、エリンは見つめ、トレバーは計測器を手に小刻みに震えながらも興奮を抑えられない。

 エリンは輝く魔石に目を奪われたまま、アタナシアに質問した。

 

「魔石ってかなりお高くないですか?」

「ああ、そうか。普通は買うのか……」


 通常、魔力回復に時間がかかるため、魔力量の多い魔法使いが注入した魔石は非常に高価だ。そのため、魔法の使えない金持ちか、膨大な魔力を必要とする機関ぐらいしか手に入れられない。


 トレバーは計測器の数値を信じられないといった様子で、震える声で問いかけた。

 

「もしかして……これ、自作ですか?」

「それは私の魔力を注入しているものだ。魔力量も少なく一度きりしか使えないが……記念にあげよう」

「こ、こんな高価なものいいんですか?」


 エリンは角度を変えたり手触りを確認しながら、アタナシアに問いかけた。

 だが、アタナシアは「大したものではないよ」と平然と言う。

 トレバーは計測器に表示されている数値を何度も確認してから、アタナシアを見た。


「……ほ、本当にこれ、少ないんですか?」

「ああ、私の魔力量の1パーセントしか入っていない」

「1パーセントでこの量……?」


 魔石をひたすら触っていたトレバーは興奮が抑えられなくなり、口元を手で覆っている。

 

「俺はトレバーみたいに測れないけど、すげー量なのはなんとなくわかる気がするぜ……」


 ワイアットはトレバーの興奮加減に少々引き気味だ。

 

「魔力量って増やせるのかな……」


 エリンは魔石を大切にポーチへと入れた後、空に浮かぶカップやポットを眺めた。

 お湯も瞬時に沸かし、人数分揃えるその姿に、エリンは感嘆のため息を吐いた。

 無尽蔵のごとく魔法を使うアタナシアが羨ましいのだ。

 

「器を大きくすれば魔力は増やせる。ただ、カルロのやっている引き継ぎ転生が一番手軽だろう」

 

 引き続き転生と聞き、いち早く反応したのはワイアットだった。ワイアットは魔力量が少ないため、一度器を大きくするためにいろいろ調べたことがあったからだ。

 

「う、嘘だろ!? あれが一番簡単なのかよ!」

「あれ以外なら……魔力の多い魔物狩か、膨大な金を払って器の大きさを強制的に拡大する方法だな」


 驚愕する三人。魔力の多い魔物狩りや高額な器の拡張より、ずっと簡単――

 アタナシアは軽く言うが、その背後には深い信頼と経験の重みがあった。

 

 三人は圧倒され、カルロがどれだけ努力しているか、加えて魔女の力の凄さを改めて実感するのだった。


 

 アタナシアの家を訪れた三人は、森の奥で道に迷い、苦しんでいたのが嘘のように、軽快に森を抜けていった。


 彼らの姿が見えなくなったことを確認してから、アタナシアは柔らかいベッドへと体を沈める。

 久しぶりの他者との会話に、アタナシアは疲れ切った表情で、凝り固まった頬を揉んだ。


「表情筋が、死んでるな……」


 息を吐き、伸びをしながら天井を眺める。

 またこれから数年は誰かと話すこともないだろう。そう思いながらそのまま眠りについた――

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