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百年ぼっち魔女は、弟子に永遠を迫られている  作者: 勿夏七


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12/14

12青年の再出発

 アヴィゲイルとの話が終わり、アタナシアは「やっと解放された」とでも言うように、ソファへと体を投げ出した。


「もう五十年分くらい人と話した気分だ。顔が痛い」

「アタナシアが会話をしてなさすぎるだけだろう」


 カルロは旅支度を済ませた後、アタナシアの付き合いで、グラスに注がれたワインを一口だけ飲んだ。


「アタナシア、俺は後どのくらいで不老不死になれると思う?」

「そうだな…………」


 アタナシアは手をかざし、カルロの器を確認する。

 

「引き継ぎ転生を五回くらいか」

「意外と少ないな」

「すでに数をこなした君だから言えることだろうな」


 引き継ぎ転生は、慣れれば楽勝という類には含まれない。

 理由としては、引き継ぎ転生の方法は毎度違うからだ。

 死に場所や死ぬタイミングを見極める必要があり、少しでもズレてしまえば、この世界に生まれ落ちることが不可能となる。

 それほど困難なものなのだ。

 それを恐怖に怯えず、弱音も吐かずこなせるのはカルロくらいだろう。


「無理はするな。慌てて命を落とすな。いいか、途中で好きな相手やずっと暮らしたいと思える場所ができたら、必ず教えてくれ」


 そうすれば、もう彼を気にかける必要もなくなる。いつか、完全に忘れることができるだろうと、アタナシアは思った。

 

「気にかけてくれるのか?」

「このくらい当たり前だろう」


 指だけを動かしカルロの鞄へと何かを入れていく。

 カルロは鞄から木の皮に包まれたものを取り出し、アタナシアを見た。


「これは?」

「私お手製の保存食だ。それと、これも渡しておこう」


 ドラゴンの鱗を使った首飾りだ。お世辞にも綺麗とは言えない、ただ鱗に穴を開けて紐に通しただけのものだった。

 だが、カルロは愛おしそうにそれを見つめた。

 

「大事にする」


 鞄に仕舞い込もうとしたその瞬間、小さなドラゴンが「キーッ!」と威嚇の声を上げ、翼を広げて体を大きく見せた。

 カルロは驚きながらも、ドラゴンを見つめた。


「……いたのか」

「こら、恨みはあるかもしれんが、元々ドラゴンはこのために欲しかったと言っただろう?」

「キュウ……」


 しょんぼりとしたドラゴンはカルロをじっと見つめた後すごすごと二階へと飛んでいってしまった。

 気を取り直して、アタナシアは鱗を指差した。


「それは肌身離さず身につけておいてくれ。もし誤って死んでも、生き返ることのできる特別性なのだから」


 ドラゴンの鱗は煎じて飲めば活力が湧き、大きな力が使えるようになると言われている。

 また、魔法をかけることで別の用途で使える方法もある。それが復活の魔法だ。


「まさか俺の捕まえたドラゴンが、俺のためだったとはな……」

「そうだ。人慣れしていなくて、あまり私以外がいると現れないが」

「だから今まで見たことがなかったのか」


 捕らえられ、籠に入れられ、それが怖かったのだろう小さなドラゴンは、放し飼いで過干渉ではないアタナシアを気に入っている。

 

 鱗は小さなドラゴンから少しずつ分けてもらったもの。まさか自分を捕らえた相手への贈り物に使っているとは思いもしないだろう。


「アタナシア、君は不老不死になる時なぜ二十代を選んだんだ?」

「……年齢で何か制限されることもないし、一番無理もできる歳だと思ったからだ」


 アタナシアを知っている者なら、どんな見た目であろうが酒や煙草も売ってもらえるだろう。だが、知らない者に幼い容姿でそれらを頼んだら、きっと売ってもらえない。

 まあ、その時だけ魔法で容姿を偽ればいいだけの話なのだが……面倒なアタナシアはそれも見越して、容姿年齢を魔法で固定しているのだ。

 

「なるほど。じゃあ俺も二十代にしよう」

「そうだな。それがいいだろう。……本当に不老不死になって、私と一生を過ごすつもりか?」

「今更だな。そのつもりだよ」


 気が変わった。などと言う雰囲気のないカルロに、思わずアタナシアはため息を吐いた。

 

「こんなババアを好きになるなんて、カルロは本当に変わった人間だ」

「そんなことはない。アタナシアを知ったらきっと誰もが好きになってしまう。だから、君はずっとここにいてくれ」


 さらりと独占欲を見せるカルロ。

 恥ずかしさを紛らわすために、思わず平手打ちを食らわせそうになったアタナシアだった。

 なんとか手に入れた力を抑え、深呼吸。


「……君が死んだら、私はまたひとりなんだからな」

「大丈夫、帰る」


 優しい声色で、微笑みかけてくるカルロにアタナシアは顔を真っ赤にした。

 アタナシアは生まれてこの歳まで、恋愛をしたことはなかった。

 だから甘い雰囲気に耐性がなかった。


「アタナシアは素敵だ」

 

 追い打ちをかけるように、カルロは優しく低い声色で耳元で囁く。

 ひどく動揺したアタナシアは、扉を全開にして換気をし、そしてカルロを家から追い出した。

 アタナシアは裏返った声で、迫力のない声で言い放った。


「もう、帰って来るんじゃないぞっ!」

 

 今日、孤独だった青年が、初めて心から大笑いした日となった。


 

 カルロの産みの母親や、求婚者たちの騒動がようやく落ち着き、カルロは再び旅立った。

 アタナシアはようやくまた平穏を取り戻した。

 

 カルロからの手紙も減ってきたことから、魔法学校で知り合った生徒達と楽しくやっているのだろう。

 もしかしたら良い人や良い場所を見つけたのかも。そうアタナシアは勝手に想像する。


 相変わらず小さいままのドラゴンの世話をして、動物達と一緒にのんびりと贅沢に時間を使う。

 今日は外で昼寝をしようと用意したハンモックに寝転がる。小刻みに揺れるそれは眠るのにちょうど良い。

 そうやってカルロの手紙を気長に待つようになった。

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