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 従者に呼ばれ、“儀式”の部屋から出て行った王妃は日の沈む中、庭師達によって整えられた庭へと足を運んでいた。庭のガゼボには先客……息子であるフィーロウの婚約者、コルヤークシャが座っていた。王妃は義娘になるであろう少女に美しい笑みを浮かべる。



「ごめんなさいね、コルヤークシャ。

わざわざこんな時間に城まで来てもらって。」


「いえ、アテーマ公爵家の娘として、王妃様からの招待に馳せ参じるのは当然です。」


「あら、“王子の婚約者として”とは言わないのね。」



 王妃のわざとらしい言い方に、コルヤークシャは負けず劣らずの笑みを浮かべながら紅茶を口に運ぶ。



「今、フィーロウ殿下は“儀式”の最中ですから。」


「うふふ……貴女のそんな所、好きよ。」



 “儀式”の内容について、詳しい事は国王夫妻と臣下、神官の極一部……そして、第1王子の婚約者しか知らない。

世間一般、主に貴族内での“儀式”の認識は、〖こなせた者は素晴らしい施政者となり、脱落した者は王族からも籍を抜かれ、ただただ墜ちていく〗といった物だ。

オトゥムゲール王国での長い歴史の中で、実際に追放された王子も何人かいるらしい。


 故に、フィーロウがもし“儀式”をこなせずに終わってしまったのなら、コルヤークシャは王子との婚約を破棄し、婚約者のいない歳の離れた第3王子か……もしくは別の高位貴族へ嫁ぐ事となる。



「まさか、フィーロウが脱落すると思っているの?」


「いいえ、殿下の優秀さは良く存じております。


それに父も喜んでおりましたわ。

『“儀式”を受けるという事ならば、フィーロウ殿下は優れた王となる事が決まった!』と。」


「アテーマ公爵はあの子を少し買い被りすぎね。」



 アテーマ公爵の忠誠心が高いのは良いが、彼の君主となるフィーロウは父親に似て、王となるには少しばかり真っ直ぐすぎる。だからこそコルヤークシャが隣にいてくれれば安心出来るのだが。



「親子はやはり似るのねぇ……あの時の、国王陛下のやらかしよりはずっとマシだけれど。」


「それは……“儀式”についての説明の際に話して下さった、あの件ですね。」


「そうよ、陛下がオトメゲームをする切欠になった事件。

女狐……というか、生まれたての子猫かしらね。

まんまと引っ掛かってくれたものだわ。」



 国王がまだ王子だった頃、彼はフィーロウのように下位貴族の令嬢に恋をした事があったのだ。だが、フィーロウの時と決定的に違ったのは、まず令嬢の性格だろう。


 件の男爵令嬢は、可愛らしい見た目とは裏腹に溢れんばかりの野心を持っていた。そんな令嬢が、この国の第1王子からの好意に気付いたらどうするか。


 なんと、当時まだ王子の婚約者だった現王妃に堂々と喧嘩を売ったのである。立場も圧倒的に上の令嬢の茶会に招待状も無く乗り込み、「わたしは王子サマに愛されてるけどアンタは?」と、正面から喧嘩を売ったのだ。



……結果は言わずとも明らかだ。

「王子の親しみやすさと優しさから勘違いした男爵令嬢が、婚約者の侯爵令嬢にとんでもない無礼を働いた。」として、彼女は事件と共に片付けられた。男爵家はお取り潰しとなり、現在は貴族の話題にも上がらない。



「そのお話を聞いて、フィーロウ殿下が恋した相手がスージー・アドル嬢で良かったと再認識しましたわ。

彼女は利口ですし、正しい選択が出来ますもの。」


「私達も報告は受けているわ。確かに、アドル嬢は賢いわね。私の時の子猫とは大違い。」



 一方、フィーロウが恋をしたスージーは何となく、王子(フィーロウ)からの視線が前と違う事に気付いていた。「もしや好意を抱かれているのでは?」そう認識したスージーの行動は早かった。違和感を抱かせない程度にゆっくりとフィーロウと距離を取り、常に誰かと行動をし……コルヤークシャから何か言われる前に、先手を打って彼女に謝罪と“降伏”をした。


 スージーとしては官吏として王城で働きたかったので、国王になるフィーロウとの醜聞も、王妃になるコルヤークシャからの敵視もお断りだったのだ。


 スージーが慌てず騒がず、静かに引いたのが良かったのだろう。ゴシップ好きの品の無い貴族が「フィーロウ殿下の禁断の恋!」などと面白おかしく喋っているだけで留まっている。そんな彼等もただの噂程度にしか思っておらず、本気では無いだろう。



「後は、フィーロウが“儀式”を完遂させるだけね。

今回は本当にごめんなさい。」


「いいえ、王妃様。

私、殿下に怒りなど抱いておりませんわ。

この婚約は政略ですし、殿下も年頃ですから他に目移りする事もありましょう。」



 王妃の、母親としての謝罪にコルヤークシャはにっこりと微笑んでみせた。コルヤークシャ・アテーマは本当に怒っていない。いや、むしろ。



「むしろ……感謝しております。」


「感謝?」


「えぇ。

フィーロウ殿下の好みが分かりましたもの。」



 婚約者の心を奪われても、むしろその相手の仕草や表情を研究し。次は確実に仕留めて御覧にいれますわ、と楽しげに笑うそんな義娘を見て。



「これからもこの国は安泰ね。」



 王妃もまた、満足げに笑っていたのだった。









~ピコンッ!~

テーッレッテレッテレーッレッ

レーレッテレッーレーッレーレーッ


〖GAME CLEAR〗


~ピコンッ!~


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