▼〖クリア〗
「やぁ、コルヤークシャ。
今回は急な呼び出しだったのに、来てくれてありがとう。」
「ご機嫌よう、フィーロウ殿下。
婚約者からのお誘いですもの、喜んで駆けつけますわ。」
“儀式”から数日後、無事に試練を乗り越えたフィーロウは王城にて、コルヤークシャと2人きりの茶会を開いていた。
ゲーム内での数々の選択肢を乗り越え、ようやく“公爵令嬢”は王妃として王子の隣に立てた。
両親からの許しを得たフィーロウは、睡眠不足で死にかけの身体に鞭を打って神殿に赴き、例の“詩”を暗記して何度もやり直しをくらいながら叫び。
屈強な大神官から合格を貰った瞬間にそのまま気絶し、丸々2日間眠っていたらしい。
喉の調子も戻り、何とか動けるくらいまで回復したフィーロウが真っ先に行った事、それがコルヤークシャとの茶会だった。
「私はお側にいられませんでしたが、フィーロウ殿下は“儀式”を見事にこなされたとか。お疲れ様でした。」
「いや、私は……そもそも私の心が未熟だったからだ。
聞いてほしい、コルヤークシャ。」
「なんでしょう?」
「私は……スージー・アドル男爵令嬢に恋をしていた。
だが、今は違う。」
フィーロウも今まで遊んで過ごしていた訳ではない。勉強も鍛練も欠かす事無く行ってきたが、やはり令嬢の、しかもゲームとなると勝手が違う訳で。
オトメゲームによって、フィーロウの心に変化が訪れていた。それは婚約者であるコルヤークシャへと、想い人であったスージーへの思い。勿論、コルヤークシャの歩んできた公爵令嬢としての人生を軽んじていた訳で無いが、ゲームのプレイを通して、見る事の無かった……いや、コルヤークシャがフィーロウに見せる事の無かった裏側を見た。
「君が今まで重ねてきた努力を、ほんの少しだけ体験したが……どれだけ自分が未熟だったのか、思い知らされた。
そんな君を正面から見ず、当たり前だと思い込んで、余所見をした己の不甲斐なさに腹が立っているんだ。」
「殿下、そんな事はありませんわ。
ご自身を卑下なさらないで下さい。」
「……すまない、君にそんな顔をさせたい訳では無かった。」
コルヤークシャはほんの少し顔を悲痛そうに歪めて、フィーロウの手をそっと握る。その柔らかな手の温かさに、フィーロウはフッと軽く息を吐いた。
「こんな私の、隣に立ってくれるのは君しかいない。
これからも、側にいてくれないだろうか。」
「えぇ、えぇ!勿論ですわ!」
その時、フィーロウ王子は初めてコルヤークシャの、自然な柔らかい笑顔を見た。
第24代オトゥムゲール王国国王にして、稀代の名君と謳われたフィーロウ王の隣には、常に“オトゥムゲールの薔薇”と呼ばれた賢妃、コルヤークシャ妃がいたのだという。“儀式”と呼ばれる試練によって固く結ばれたとされる彼等夫婦はいつまでも仲睦まじく、2人でオトゥムゲール王国を益々発展させていったのだとか。