▼〖プレイ理由〗
国王の言葉に、フィーロウの肩はびくりと跳ねた。まさか、隠していた事がバレている?手に握っていたコントローラーが僅かに震えているのは、焦りか、それともただのゲームの機能か。
「イセカイジンの施した魔法は既に多くが動かなくなり、消えていった。しかし、このオトメゲームのみは未だに残り、稼働し続けているのだ。“儀式”の条件が揃った時、当代の国王夫妻の夢に“オトメゲームを起動させよ”という啓示が飛ぶ。
お前は最近、学園のとある女子生徒と仲が良いらしいな?今はまだ、学友の範囲であると報告は受けておるが。」
彼女の名前はスージー・アドル。
茶色の髪と青い目が特徴的なスージーはアドル男爵家の長女で、フィーロウとコルヤークシャが通う学園の特待生である。
彼女はフィーロウ達より1つ下の学年だが非常に優秀であり、教師の覚えも良い。男爵家の出ながら生徒会に選ばれる程だ。多少のやっかみはあれど、他の生徒との関係も良好で、勿論その中に生徒会長のフィーロウと副会長のコルヤークシャも含まれて、いる。
「お前は1度でも夢想したのではないか?
その娘が、己の隣に立った姿を。」
確かに、自分はスージーに心惹かれている。
大輪の薔薇の如く、他を圧倒する美貌のコルヤークシャとは違う、咲く花のような可憐な愛らしさ。だがもし、もしコルヤークシャではなく、彼女が王妃として横に立って共に歩む〖もしも〗。
しかし、フィーロウは恋に溺れて全てを投げ出せる程愚かではない。オトゥムゲール王国の第一王子、いつか国王となる存在。だからこそ、スージーへの恋心は胸の奥へしまい込んで、絶対に態度には出すまいと思っていたのに。両親へ報告されてしまう程、“儀式”を受けなければならない程になっていたのか。
「イセカイジンが罰を与えた時、何よりも王子の婚約者への不義理に怒っていたらしいからな。心が揺れただけでこの“儀式”は起こるのだ。」
「……自分が未熟なばかりに、申し訳ありません。」
~ピコン!~
『我が息子が下位貴族の小娘に入れあげているようだが、努力が足りないのではないか?』
『……私が未熟なばかりに、申し訳ございません。』
『貴女は王家に嫁ぐ自覚が足りないのではなくて?愛人程度、受け入れて御覧なさい。』
『はい、承知致しました……。』
そんな親子の会話の最中、フィーロウの操作する公爵令嬢が婚約者、つまり王子の浮気について国王夫妻から責められるシーンが画面に表示されている。親によって決められた、自分達の意思を挟めない契約でありながらも懸命に相手を支え、愛そうとする公爵令嬢。それなのに王子は自身を省みず、その親である国王夫妻は義理の娘になる令嬢の味方に立つ事はない。
もし自分や両親が底無しの愚か者であったなら、実際にあり得たかもしれない未来を直視させられている。
「なぁに、お前がここまで愚かではない事くらい分かっておる。……夢想するだけに留め、心の奥へ隠したお前は、過去のワシよりよほど立派な王子だ。」
「そういえば、このオトメゲームを起動させるのは25年ぶりだと……まさか、父上も?」
ハッとして、フィーロウは背後に座る国王へ振り向いた。国王夫妻からのお叱りイベントが終わったのでダンスレッスンを選択した後だったが、フィーロウはもう画面を見なくても曲を聞いただけでperfectを叩き出せるようになってしまったから問題ない。
すっかりプロになってしまった息子の視線から目を逸らし、遠い目をした国王は静かに言葉を吐き出した。
「……ワシも、若かったのだよ。」
彼の場合、オトメゲームで最終年を迎えるまでに1週間も要した事は内緒である。何なら王妃(当時まだ婚約者)も監視としてゲーム鑑賞に同伴していただなんて……少なくとも、国王として、父親としてのプライドがあるのだから言える筈がないのだ。