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▼〖オトメゲーム〗


 フィーロウは、この国の国王夫妻の第一子として生まれた。文武両道で容姿端麗、婚約者はオトゥムゲール王国で王家の次に権力を持つとされるアテーマ公爵家の長女、コルヤークシャ。優秀で真面目、自身を支えてくれる美しいコルヤークシャは次期国王フィーロウにとって完璧な婚約者であり後ろ楯。フィーロウもまた、彼女と共に支え合ってこのオトゥムゲール王国を盛り立てていく……はず、である。



フィーロウ殿下……。


「スージー……。」



 だがフィーロウの心の中には、コルヤークシャとは身分も見た目も何から何まで違う、とある少女が佇んでいるのであった。














ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「フィーロウよ…“これ”は我がオトゥムゲール王国の王族に伝わる伝説の魔道具(アーティファクト)『オトメゲーム』。

未来の国王が道を違えそうな時に使う、遥か過去の先祖から伝え続けられてきた贈り物なのだ。」


「これのどこが魔道具なんですか!?」


「ワシも詳しくは知らんよ。

“イセカイジン”という不思議な力を持った神によって、我等の祖先へ与えられたアイテムなのだからな。」


「魔道具といったらもっとこう…。」



 まだこの世界に魔法や神秘があった頃、オトゥムゲール王国の王族に贈られたのがこの魔道具『オトメゲーム』…らしい。


 困惑しつつも、フィーロウが国王の指示通りにコントローラーのボタンを押すと、画面が切り替わり、デフォルメされた小さな少女が現れた。真上から描いたような不思議な絵の部屋の中で、コルヤークシャと同じ銀髪の少女はピコピコと音を立てながら立っている。少女がいる部屋の外は黒く塗りつぶされていて不気味だが、そこには横に長い謎の棒や、不思議な数値がいくつも表示されている。



「フィーロウ、突っ立っていないで早く公爵令嬢としての勉強やレッスンを始めなさい。時間は有限よ。」


「いや、私は『オトメゲーム』なるものに初めて挑むのですよ!操作の仕方だって…!というか、何故私が公爵令嬢としての勉強を!?」


「まあまあ、まずは勉強から始めてみなさい。

令嬢の部屋に机があるだろう?

十字キーを押して、そこにカーソルを合わせて…○ボタンを押すと項目が出るから、必要と思う教科を選んで受けるんだ。」


「こ、こうですか…?」



▼ダンスレッスン

~ピコンッ!~



「ほぉ、まずはダンスからか。」


「いえ、まだこのゲーム?とやらがよく分からないので…。」



 画面が切り替わり、令嬢は広い部屋に移動したらしい。そこには先程までいなかった、令嬢にダンスを教えるのであろう講師らしき人物がいる。



『それでは、本日の課題曲です。』



 講師の言葉が表示されると、また無機質な音楽が流れ始めた。オトゥムゲール王国では有名な曲で、フィーロウもコルヤークシャと一緒によく練習した曲だ。今でも舞踏会では必ずといって良い程踊る。練習し初めた頃は、幼いコルヤークシャがフィーロウの足を踏んで、何回も謝ってきたんだっけか…。今でこそ彼女は完璧だが、そうだった。勉強は得意だったが、ダンスを苦手としていた。



『「何をしているのですか!!!」』


「ッ!?」


▼~Miss!~

▼~Miss!~

▼~Miss!~



 過去を思い出していたフィーロウへ向けられた王妃の声と、画面に表示された講師の言葉が被る。


 ハッとして画面に意識を戻すと、○や✕といったマークが曲に合わせて現れては“Miss”と表記されて消えていく。どうやら、現れたマークに合わせたボタンをタイミングよく押さなければならなかったらしい。


 曲ももう中盤、慌てて押すが、焦ったフィーロウは中々タイミングよく押せない。結果、ほとんどまともに踊れなかった令嬢に講師は大激怒。鞭で打たれてしまった。画面が暗転し、どこか疲れた様子の令嬢が部屋に一人で佇んでいる。



〖ダンスレッスン〗

優雅さ+1

体幹+1

体力-10


“鞭打ち”

体力-30


~ピコンッ!~



「あぁ、鞭打ちで令嬢の体力ゲージが下がってしまったわね。」


「あの、体力とは…?」


「あの右上に表示された緑の棒よ。そしてその下の丸い時計は残り時間。」



 どうやら、フィーロウのミスのせいで令嬢の体力はかなり減ってしまったようだった。体力がこのゲームにとって何を示すかは分からないが、減ったままなのは良くない事なのだろう。婚約者に似た小さな少女を自身のせいで疲れたままにしておくのは忍びない。



「母上、体力を回復させる方法は…?」


「庭に出たりして休息を取ったり、部屋で眠ったりする事よ。眠った方が回復量は多いわね。」


「分かりました。」



 フィーロウは王妃の言った通りに、部屋のベッドにカーソルを合わせて“睡眠”を選ぶ。両親の言葉やゲームの内容を合わせて考えると、どうやらこれはレッスンを繰り返し、令嬢に必要な数値を上げるものらしい。王妃は「〖ルート〗王妃」と言っていたのでおそらく王妃に必要な分まで数値を上げないといけないのだろう。だんだんと画面がぼやけて暗くなっていく。令嬢の落ちていく瞼を表現しているのであろう。今日は失敗してしまったが、次からは…



『起きろ!この未熟者がッ!』


~バシッ!~


「なっ!?」



 激しく画面が揺れたかと思ったら、怒り狂った様子の壮年の男性が令嬢の部屋にいた。どうやら彼女の父親の公爵らしく、令嬢は彼に叩き起こされたらしい。



『この国の第一王子の婚約者でありながら、

勉強を放り投げるとはなんたる体たらくか!

我が娘とは思いたくない!』



 公爵から威圧感のある非常に厳しい言葉が飛ぶ。そういえばコルヤークシャの父であるアテーマ公爵は王政派であり、王家に絶対の忠誠を誓っている。娘よりも王家を優先するアテーマ公爵はコルヤークシャにとても厳しい。一度、アテーマ公爵がフィーロウの足を踏んだコルヤークシャを叱っていたが、とんでもない剣幕だったのを覚えている。



『今日のノルマをこなすまで眠る事など許さん!

死ぬ気で王子に尽くすのだ!!!』



 そう言って部屋から出ていった公爵の背を無言で見送った令嬢の背を、フィーロウも黙って見ているしかなかった。彼に残されたのは、疲れた少女に数々の勉強のコマンドを選択する事だけだったのだから。




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