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93話 アルトゥス・ボア 狩猟依頼 (4)

「そうですか? それは良かったですね。今、私の横にいらっしゃるこのお二方が、今日その肉を持ってきてくださった方々です。」


「あ! そうですか? 胆嚢(たんのう)と肝臓がとてもきれいに切れていて、手入れがしやすかったですよ!」


厚い鉄の兜の中から、くぐもった声がグラベルとニアに聞こえた。


「ウィクソン! 準備して。グラッカを今から入れてやるぞ!」


もう一人の男の声が、(おり)の内側から聞こえた。そしてその声に混じって、周囲の全員の耳を震わせる獣の大きな咆哮(ほうこう)が響いた。


咆哮が止んだ後、濃い茶色の毛と羽に覆われた獣の姿が見えた。猛禽類の鉤爪(かぎづめ)を思わせる大きな黒い爪が生えた前足が、重厚な体躯(たいく)を引いて歩みを進める。


前足とは違い、爪を隠した毛に覆われた大きく太い後足が、前足の後を追うように姿を現し、檻の中へゆっくりとした歩みで入ってきた。


前足と後足の形状が違うせいで違和感は感じなかった。むしろ、地面を蹴って駆け出すための後足と、獲物を掴んで引き裂くための前足という役割分担が、調和を成しているように見えた。


先端が尖り、鮮やかな黄色の(くちばし)と、明るい琥珀(こはく)色の虹彩(こうさい)に囲まれた深い黒真珠のような瞳が、ゆっくりと動きながら、鉄板の中に身を隠したウィクソンと、その前に置かれた手押し車の中の肉塊を睨んでいる。


広げていない翼の先端に白い羽が混じった、折り畳まれたグリフォンの翼が、前足の肩の上にあり、体躯の一部を覆っていた。


「広げれば15キュビト(7.5m)はある、とても大きな翼を持っていますよ。」


ディラスが、檻の近くに寄り、グリフォンの姿を眺めているグラベルとニアに言った。


飛ぶ獣の王と走る獣の王が融合して調和を成していると言えばいいのか、獅子と鷲がグリフォンの姿を借りてこの世に存在し始めたと言えばいいのかわからないほど、勇猛さと威厳が同時にその姿に染みつき、全ての獣の王者と言っても遜色ない姿だった。


「ぐ…グラッカ。お利口さんだよ…。僕だよ、僕。ウィクソン。ディラス様が君のためにこの…猪の肉を手に入れてくださったんだよ~」


ウィクソンの緊張した声が聞こえると、黒褐色(こっかっしょく)の毛の房が揺れる長い尾を振りながら、グラッカは大きく丸い目で肉を載せた手押し車に向かって、頭を下げて近づいた。


「そうだよ…そうだよ…君の好きなアルトゥス・ボアの肉だよ…。肝臓もあるよ。ほら、ほら~」


ウィクソンが手押し車の取っ手を掴み、ゆっくりと腕を動かして、車の中の肉塊を少しずつ床に落とした。


べちゃべちゃという音を立てて血を含んだ肉塊が床に落ちると、喉を鳴らすような音を出すグリフォンの声が、後ずさりでグラッカから少しずつ離れているウィクソンをさらに緊張させた。


どうか前回のように、肉に染みた血の匂いに興奮して暴れ出すようなことはありませんように。ウィクソンは心の中で同じ願いを何度も繰り返し、重い息を静かに吸い込んだ。


口の中は砂を噛んだようにざらざらと乾き、唾液の一滴を飲み込むことさえ辛かった。


彼がようやく口内の唾を溜めて飲み込む瞬間、その音が鎧の中に反響して大きく響くほどだった。


グラッカが自分ために用意された肉の味を確かめるために、前足を伸ばして肉塊を掴み、鉤のような嘴の先を突き刺して首の力で引き寄せ、肉片を千切って味わった。


「お二人が持ってきてくださった肉が、グラッカの気に入ったようですね。」


周囲の空気を強く振動させて喉を鳴らす音を出すグラッカの姿を、満足げな笑みを浮かべて眺めながら、ディラスが言った。


「今日はとても予感がいいですよ。今日のように気に入った肉を食べさせてお腹を満たし、機嫌を良くすれば、たまに雌馬を食い殺さずにヒッポグリフの卵が得られるんですよ。」


「だからアルトゥス・ボアの肉を依頼されたんですね。」


「ええ。そうなんですよ。それでもグリフォンの羽で作った高価なケープや貴婦人たちのための羽飾りを作っても、毎日こうして食べさせることはできません。気持ちとしては毎日こうして食べさせてあげたいんですけどね、おほほほ。ヒッポグリフの卵が高く売れるのが、せめてこうして時々食べさせられる理由でしょうか? 平素の羊や山羊の肉代だけでもかなりお金がかかりますからね。」


「そうでしょうね。」


檻の中のグラッカが赤い血を含んだ肉を飲み込む姿を眺めながら、グラベルが言った。


「どれくらい高いだる? グリフォンの卵。」


卓に座って二人の会話を聞いていたニアが、ディラスに尋ねた。


「おほほほ…。正確な値段はなく、時によって違うんですが。うーん…グリフォンの卵はドラスラット金貨2000枚からスタートでしょうね…」


「うわ……高いだる。」


「そうですね? 育てるのも大変で、馴らすのはそれ以上に難しいんですよ。私どもの商会でも、グリフォンの卵よりヒッポグリフの卵をお買い求めになるお客様の方が多いんです。さっきも言ったように、馴らすのも簡単でサイズも小さいですからね。」


「ヒッポグリフの卵はそれじゃあいくらだる?」


「ヒッポグリフの卵は700金貨からです。卵の色によって値段が変わるんですが、5000金貨を超えるものもあります。それでもヒッポグリフの卵一つを手に入れるためにかかる費用と、雌馬が食い殺されない幸運まで伴わなければ手に入らないんですよ。」


「ごめんだる…。お金が足りないだる。」


ニアがしょんぼりした表情で頭を下げて言った。


「(本当に買うつもりで聞いてたのか!?)ニア……」


「おほほほ。大丈夫ですよ。すでに孵化(ふか)済みの幼いヒッポグリフ三頭と、春に産んだ卵も主が決まっているんですよ。ニア様がお買い求めになるとおっしゃっても、私どもでは用意された卵がありません。ニア様がお買い求めになるなら、恐らく一年ほどお待ちいただくことになります。まだこの世に生まれてきていない卵も主が決まっているんですよ。」


ディラスが笑いながらニアを慰めた。


「ふむ…グラッカがお持ちになった肉をとても美味しそうに食べているのを見ると、今日は新しいヒッポグリフの卵が生まれそうな良い予感がしますね。」


ディラスが檻の中のグラッカの姿を眺めながら言った。


「ディラス様。失礼でなければ、今檻の中にいるグラッカの姿を描かせていただけますか? それと、ヒッポグリフの卵の絵があれば、または直接見て描けると嬉しいのですが…」


グラベルが低い声でディラスに言った。


「お? 絵を描かれるんですか? いいですよ。いくらでも描いてください。ヒッポグリフの卵も直接見て描いてくださって結構です。ただ、ここへ持って来ることはできませんので、場所を移動していただくことになります。」


グラベルの言葉に、ディラスが檻の中のグラッカに釘付けだった視線を移しながら言った。


「精密に描くわけではなく、下描きだけですので、それほど時間はかかりません。」


グラベルがディラスに感謝の意を込めて頭を下げて挨拶し、腰の帯からインク瓶とペンを取り出しながら言った。


グラベルがこうして異世界の文物を記録しようとするのには、彼の個人的な性向の影響もあるが、他にも理由があった。


グラベルの空中荘園(くうちゅうしょうえん)には、パロスという名の仲間がいる。年老いた老人の姿をした魔法使いで、言霊術師(げんれいじゅつし)でもあるこのNPCの仲間は、自分より知識と知恵に優れた主にのみ仕えるという設定のため、当時のグランド・ワールド・オンラインのプレイヤーたちが加入を試みたが、知っておくべきゲーム内のロアの要求値があまりに高いせいで、大半の人が仲間としての加入に失敗したNPCだ。


そんな特殊な条件を要求されるNPCが、グラベルの仲間になった。物語を聞くのが好きで、読むのが好きで、新しいことを知るのをゲームの喜びの一つとするグラベルは、グランド・ワールドのほとんどのロアを知っていたため、パロスを加入させるのに大きな困難はなかった。


しかし、加入後に新たな問題が生じた。パロスの加入条件であるゲーム内基本ロアの80%以上を知っているという条件を満たすのは問題なかったが、この80%がNPCの親密度あるいは忠誠度という数値の最大値と同等だという設定も、パロスというNPCの設定だった。


グランド・ワールド・オンラインの仲間NPCの親密度というのは、プレイヤーとどれほど親密かを示すもので、設定されたNPCの性向がプレイヤーの交流にどれほど満足しているかを数値化したものだ。


この数値は、仲間NPCの能力開放とその仲間NPCの全体的な能力の発揮に影響を与える。


だから80%という親密度は、それだけパロスのNPCの能力を完全に発揮できないという意味でもあった。加入後89%まではその数値を上げたが、100%になる前に一緒にプレイしないというグラベルの不可解なゲーム的潔癖(けっぺき)のため、グラベルもパロスというNPCが持つ力を完全に把握していなかった。しかし、100%の親密度を達成したいという渇望は、異世界に来た後も依然として残っていた。


いつになるかはわからないが、自分の空中荘園に戻る時を備えて、パロスに伝える異世界のロアを簡単な絵と文で記録するのが、グラベルにとっては一つの習慣になっていたのだ。


もちろん、自分自身も知識の蓄積(ちくせき)を直接目で見て触れられるように文書で保管することの楽しさもあったため、そうして生まれた習慣に喜びも感じていた。


少しの時間が流れ。場所を移して、ヒッポグリフの卵が保管されている小さな部屋に、グラベルは座っていた。そして座っている卓の上には、ディラスが直接持ってきた銀色の大きな箱の中に、柔らかい布の切れ端たちと共に収められた、白、灰色、栗色(くりいろ)が混じった模様のヒッポグリフの卵があった。


さらに少しの時間が経った後、グラベルの手には、グラッカの姿とディラスと共に移動した場所で描いたヒッポグリフの卵の絵が描かれた紙が握られていた。


ヒッポグリフの卵の絵を描いている時、グラベルの横でディラスがヒッポグリフの卵について一つ面白い知識を教えてくれた。


ヒッポグリフの卵は、生まれてくるヒッポグリフの毛色と同じ色が卵の表面に現れるそうだ。だからその色と模様によって値段が皆違い、それぞれ独自だと言っていた。特に何の模様もない純白の卵は、普通の卵より数倍高いそうだ。


「アルトゥス・ボアの肉が必要な時、別途連絡を差し上げてもよろしいでしょうか? もちろんギルドに依頼したより報酬を上乗せしますし、荷馬車も別途送ります。」


相手にとっては難しいお願いかもしれない言葉と共に、一方の手の甲をもう一方の手で擦りながら、絵を描き終えて席から立ち上がるグラベルに、ディラスが近づいて言った。


「ええ。一時は旧市街地の商店街の方のティアバード宿屋の3階に滞在する予定ですので、いつでも依頼してください。」


「おお。そうしていただけるんですか? ありがとうございます。これはとても…安心できますね。心強いですよ。おほほほ。」


ディラスがグラベルにさらに近づき、喜びを表現するようにグラベルの手を掴んで振りながら言った。


その後、ディラスの傍らに近づいた下僕から客人が訪れたという言葉を聞いた後、ディラスと彼の依頼を果たした冒険者二人は、邸宅の外へ向かった。


近いうちにまた会うことを約束して別れた。


金貨をもっと貯めて戻ってくると言うニアの言葉が、邸宅を去る二人を追って、別れの挨拶をするディラスの耳に届いた。

パロスのために異世界のロアを記録するグラベル。彼の地道な習慣が、いつか大きな力になるかもしれません

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