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92話 アルトゥス・ボア 狩猟依頼 (3)

邸宅(ていたく)の入り口とは反対側の裏庭。ディラスが、遠くに見える白い建築物に向かって歩いている。ディラスの前を歩き続ける背中を追って歩いていたにもかかわらず、遠くに見える建物の大きさが変わらないため、距離感がおかしくなりそうなほどの巨大な建築物だった。


開けた視界に、白く傷一つない石で作られた円形の噴水が見える。爽快に空に向かって噴き出す水流を見て、噴水の横を通り過ぎながら詳しく見てみると、噴水の中には濃い水苔(みずごけ)がこびりついた小さな彫像(ちょうぞう)たちが、中央の大きな水流に向かって小さな水流を噴射している。


上から下へ落ちる自然な水の性質を逆手に取った噴水が示す、美しくも神秘的な光景について、人間が作り出した美しさも自然の美に引けを取らないと、周辺に咲く花々とよく手入れされた庭木を指さしながら、ディラスが自分の庭を通り過ぎる客人たちに語った。


塀の外に遠く見えるハセット山を背景に美しく整えられた庭園の道を歩いているうちに、いつの間にか目の前には遠くから見えていた建物に近づいていた。


「中へお入りください。」


建物の入り口の横に立ち、ディラスが(てのひら)を広げて扉の内側へ二人を案内した。


建物の中へ入り、内側を眺めるグラベルの目に映ったのは、右側の丸く曲がった壁面に沿って曲がった長い廊下だった。そして左側には太い黒い鉄格子(てつごうし)が、向こう側の広い空間と廊下の間を隔てていた。


狭く暗い廊下に比べて、檻の中は明るかった。明るい光が入る天井へ視線を移すと、太い黒い鉄格子以外には降り注ぐ日光を遮る壁が存在しないためだとわかった。そしてそんな日差しが檻の中の大きな岩と地面を温めていたせいか、温かなぬくもりを含んだ空気が鉄格子外の廊下へ吹いてきた。


檻の内部には大きな岩以外にも、枝を切り落として倒された黒褐色の太い樹皮(じゅひ)の丸太があり、埃が簡単に舞わない程度の適度な粒の土が小さな小石と混じって檻の床に敷かれていた。


岩と土、そして倒れた木だけではあまりに寂しく見えるからか、檻の中のあちこちに植えられた緑の葉の植物たちも見える。


普通の家畜を飼う檻とは思えない様子に、グラベルが檻の内部をもう少し細かく観察しようとした時、誰かの声が聞こえてきた。


「お越しになりましたか~、ディラス様。」


建物の中に響く足音を聞き、二人の男が挨拶しながら近づいてきた。二人は外の天気とは似合わない短い衣服を着ており、体中のあちこちに長い藁がくっついていた。


「お~、そうだよ。この方たちが持ってきてくれた子たちのための肉を確認しに来たんだが~、どうだい?」


「ええ…。ちょうど今し方馬車から降ろして、調理長のウィクソンが準備中です。質がとても良い肉ですよ。」


「とても新鮮でしたよ。捕らえてから半日も経っていないようで、血抜き(ちぬき)もせずに持ってきてくれたおかげで、グラッカがとても喜ぶでしょうね。」


「おほほほ、それなら良かったよ。せっかく来たんだから、奴が食べるのを観て帰ろうかと思ってるんだが…。お二人のお時間がよろしければ、一緒にご覧になりますか? 報酬金は待ってる間にこちらへ持ってこさせますよ。」


「待つのは構いません。」


ディラスが飼っているグラッカという名の生物の正体が気になったため、グラベルは快くディラスの誘いに応じた。


ディラスの前に歩く二人の男が素早い歩みで速度を上げ、他の仲間を呼んでディラスが指示した茶と食事の準備をしようとした。


「直接こちらへ持ってきていただいて申し訳ありません。」


「え?」


「普段なら冒険者ギルドから持ってきてくれるのを待つ方なんですが、追加金を掛けたとはいえ・・・。直接持ってきてほしいという面倒な依頼をしてしまいましてね。」


「あ…ギルドから追加金の理由について説明を聞きましたので、構いませんよ。」


「そうですか。説明がしっかりされていたとは幸いです。素早く新鮮なアルトゥス・ボアの肉を手に入れたくて、そういう依頼をしたんですが、予想以上に早くグラベル様とニア様が手に入れてくださったんですよ。」


自分が追加金を払った分、冒険者ギルドでも依頼品を直接持ってきてくれる理由についてしっかり説明されていたかを確認するディラスの商人としての細やかさが、満足のいく答えを聞くと、満足げな微笑みを浮かべてグラベルとニアを建物の奥へ案内した。


ディラスと共に長い廊下を歩くと、狭い廊下の壁が広がり、ふかふかの背もたれがある高級そうな椅子と、太く短い柱の上に置かれた長方形の白い大理石の卓が見えた。


壁には特別な装飾なく小さな魔石灯(ませきとう)が一つ内部を照らしており、檻の奥を眺められる空間にも同じ形の魔石灯がいくつか明るく光を放っていた。


「うちの子たちの姿を見に来られる方々のための場所です。こちらにお座りください。」


ディラスが卓の側の椅子を掌を広げて指し、グラベルとニアに座るよう勧めた。


「ところで、どんな動物を飼っていらっしゃるんですか?」


「お? あ・・・。これはこれは。私が言ってなかったですね。」


グラベルが座りながらディラスに尋ねると、その言葉を聞いたディラスがびくりと肩をすくめ、大きく見開いた丸い目でグラベルを見つめながら言った。


「申し訳ありません。これは…おほほほほ。てっきりご存知だと思っていたもので…」


ディラスが困ったように小さな笑い声を上げた。


「グリフォンです。世の中で一番美しい動物ですよ。」


ディラスが鉄格子近くへ近づき、ゆっくり首を回して檻の中を眺めながら言った。


「グリフォン? 今グリフォンとおっしゃいましたか?」


「ええ…グリフォンと言いましたよ。今日持ってきてくださったアルトゥス・ボアの肉も、うちの商会で飼っている子たちのために依頼したものです。冬になる前にぷくぷく太らせておかないと、健康に冬を越せませんからね。」


「グリフォンを…売っていらっしゃるんですか?」


ゲームをしながらよく耳にした馴染みの名前で、鳥の頭と獅子の体を持つ動物を想像しながら、グラベルがディラスに尋ねた。


「ん? ええ。僕はグリフォンを扱う商人です。売ることも買うこともしますが、主に売っていますよ。ただもう少し詳しく言うと、主に扱うのはグリフォンと馬の間に生まれるヒッポグリフです。」


「ヒッポグリフ…ヒッポグリフ…馴染みのない名前ですが、説明をお願いしてもいいですか?」


グラベルが頭の中で回るヒッポグリフという単語を繰り返し、閉じた両目の間を人差し指の先で押さえていた。


ヒッポグリフ。グランド・ワールド・オンラインや他のゲームでも聞いた名前だったが、神話の幻獣の名前ということ以外に特に思い浮かぶものがなかったため、もっと詳しくヒッポグリフという動物について話を聞きたくてディラスに説明を依頼したのだった。


「お~、僕としては嬉しいですよ。グリフォンとヒッポグリフの話なら、十杯のお茶と二十回の食事を経て過ごせるほど長く話せますよ。」


世の中の文物(ぶんぶつ)に関する話なら普段の様子とは明らかに違う気分で向き合うグラベルと、グリフォンとヒッポグリフに限ったが二つの美しい動物についての話なら何度もの夜と昼を過ぎても続けられるディラス。


二人の間で、心配と空腹が混じった表情で目を見開いて二人を交互に見ているニアがいた。


「ちょうどお茶と食事が来ましたね。座ってゆっくりお話ししましょう。」


部屋と繋がった通路から料理の皿とパンとお茶の載った盆を持った下僕たちの姿を見て、ディラスが再び卓の横の椅子へ歩みを移した。


少し後。空になった皿の上に甘い実の果物と甘く蜂蜜に漬けられたデザートが置き換わり、ディラスはその間せわしなく口を動かしてグラベルに、自分が所有する三頭のグリフォンについての自慢を並べ立てていた。


「だから僕は、敢えて言いますよ。グリフォンは人間が飼い馴らすことのできる最高の生き物だと。騎士を背に乗せたグリフォンの姿こそ、エステタ王国の象徴ですよ。」


「イクスターンで見たことあるだる。グリフォン。」


「お~お。そうですか。うちの商会のお客様の中にもイクスターンにおられる方がいますよ。昔はグリフォンを乗る人は戦場の指揮官である貴族の方々だけだったので、そんなグリフォンを乗って広い視界で軍を率いて戦場へ出るのが貴族の指揮官の素養だと考えられていましたけどね。最近はそんな貴族の方々以外にも、イクスターンの裕福な方々がグリフォンを買っていかれるんですよ。」


グラベルに興奮した口調でグリフォンについて語るディラスの表情が明るく見えた。


「それでもやはりグリフォンは勇猛な空の騎士の専有物(せんゆうぶつ)という認識が強いですね。戦場の指揮官が空の上から戦場を見下ろせるというのは、凄まじい利点だそうですよ。


それに比べてヒッポグリフは戦場より、広い庭のある邸宅とその庭の上空を飛んで空の景色を楽しむ貴族や金持ちが乗るという認識が主流ですね。まあ・・・だからといってヒッポグリフが戦場で使われないわけじゃないんですよ。グリフォンより素早くてサイズも小さいので、熟練した斥候兵(せっこうへい)が愛用するのがヒッポグリフでもあるんですから。」


言いたいことが多すぎて、話の途中で素早く息を吸い込みながらディラスの話が続いた。


「いくらグリフォンと馬の間に生まれたヒッポグリフといえども、馬に比べて飼い馴らすのもずっと厄介で、主人を選り好みするので、気に入らない人を乗せたら容赦なく鞍から振り落として飛んでいってしまう奴なんですよ。そして普通の馬じゃなく、空の上からヒッポグリフに振り落とされるということは。死を意味するんですよ。」


「ディラス様。グラッカに与える肉の準備ができました。そして他の部屋にも・・・。準備を整えておきました。」


下僕の一人がディラスに近づき、腰を曲げてディラスの耳元に小さな声で囁いた。


「ちょうどいいですね。この辺りで僕の自慢であるエステタ最高のグリフォンの姿をお見せしましょう。グラッカを入れてくれ!」


席から立ち上がったディラスが、グラベルとニアに一緒に檻の奥をよく見える場所へ行くよう手振りで勧め、檻の鉄格子の方へ近づいて大きな声で叫んだ。


-ギギギギギギィ-


檻の奥の巨大な鉄扉が開く音が聞こえた。


「ディラス様! 今日受け取った肉の状態がとても良いです。」


開いた重厚な鉄扉から出てきたのは、全身に鉄板の鎧を纏った男だった。


普通の兵士や騎士、または冒険者たちが着用する鎧とは全く違う、奇妙な形の鉄板鎧だった。


その鎧を着て、赤い肉塊を満載した手押し車を押して出てくる男の姿は、一見人間というより鉄で作られた巨大な鎧が自ら動いているように見えた。


鎧はまるで何枚もの武具を二三重に重ね着したように、重なり合った鉄板でできていた。


その中でも胴体を包む胸甲(きょうこう)は特に目立つほど厚かった。単なる防御を超え、グリフォンの鋭い(くちばし)や鋼のような爪が突き刺さっても貫通しないほど厚く頑丈な金属板が全身を覆っていた。


彼はまるで鉄でできた甲羅を前後に被った亀のように、地を踏むというよりよたよたと進んだ。


一歩一歩が重く鈍重(どんじゅう)だったが、まさにその『重さ』こそ、彼が相手にする存在がどれほど脅威的なのかを物語っていた。


ただ肉を運ぶだけにこれほど重武装の鎧が必要だという事実自体が、この場所で飼育されるグリフォンがどれほど危険な存在かを語っていた。

今回は幻獣グリフォンとヒポグリフについて触れてみました

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