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82話 リシア (3)

「血の魔法…って…コラックスの魔法のことですか?」


「ええ! よく知ってるわね。北の鳥人(ちょうじん)たちの中で、黒い羽の種族が好んで使う魔法よ。」


リシアが目を細めて笑みを浮かべながら言った。


「水の魔法とは似てるけど…違うわ。もっと大きな力が感じられるの。氾濫(はんらん)する川のような力じゃなくて、何か別の…。強烈な力よ。」


リシアの足元に横たわるラントの死体から、暗い赤色の血がリシアの手のひらに向かって湧き上がり、丸く固まり始めた。


「どう? 一人の死体からこれくらい出てくるのよ。それでもマナが尽きかけてる魔法使い一人くらいなら、十分に殺せるから、そんなにがっかりしないで。」


リシアの瞳は揺らぐことなく静かだった。表情一つ変えない顔でディアラに向かって、右手で握った剣の先を向けると、広げた左手のひらの上に浮かぶ血の球体から、細い血の筋が地面に流れ落ちていた。


地面に落ちた血が微かに震え、うごめき始めた。血の塊が分かれ、細長く伸びて、はっきりした形を現した。


やがて地面の上には、目玉のない滑らかな赤い蛇が数十匹姿を現した。血で作られたその蛇たちは、一定の速度でディアラに向かって這い進み(はいすすみ)始めた。


―スルルル―


石の地面と血の蛇たちが擦れ、湿ったべっとりとした音を立てた。


やがて一番前に到達した数匹の蛇が、ディアラの足元でゆっくり頭を上げ、口を上下に開いた。


口の中には、針のように尖った赤い歯がびっしりと並び、隙間からは濃い血が流れ落ちていた。


その瞬間、数匹の血の蛇たちが体をまっすぐに伸ばし、口を大きく開いてディアラに飛びかかった。


―シュッ シュッ シュッ―


飛びかかる赤い蛇たちに向かってディアラが杖を振り回す。速い速度で空を切り、青い光を放つ杖の先端に触れた血の蛇たちが形を失い、血の滴を飛び散らせながら消えていった。


しかし、ディアラに向かって曲がりくねった体を伸ばし、雨のように降り注ぐ無数の赤い蛇たちの攻撃を防ぎきるのは、ディアラの敏捷(びんしょう)な動きでも無理だった。


「ううっ!」


腕と脚、肩。噛みつける場所ならどこでも構わず、赤い蛇の群れがディアラに飛びつき、噛みついた。


体のあちこちから感じる痛みにディアラが呻き、空き地の地面に向かって体を投げ出した。


「あははは! そんなに簡単に剥がれないわよ!」


リシアが左手に残る、今はとても小さくなった血の球体に魔力を加え、自分の体のあちこちの傷を癒した後、ディアラに近づきながら言った。


明らかに決まった勝負の行方に、リシアの顔には余裕の笑みが浮かんでいた。


「そろそろ終わりにする頃よね?」


ディアラにさらに近づいたリシアが言った。彼女の前には、うごめく数匹の赤い蛇に噛みつかれて、かろうじて杖を握って立っているディアラがいた。


「はあ…はあ…まだ…です。」


リシアの赤い蛇たちの影響だろうか? その瞬間、ディアラの耳に低く鮮明な囁きが聞こえてきた。


『逃げて。』


『今…早く逃げて。』


細い息遣いが耳たぶを撫でる感覚と共に、リシアの息遣いがまるですぐ傍から漏れ出るようにはっきり聞こえた。


ディアラの心が二つに分かれる。割れた心の隙間を割り込むように耳元に聞こえる幻聴に続き、リシアの姿がディアラの目に映る。


幻覚。ディアラの肩に手をかけて後ろから姿を現したリシアの姿が見える。


ディアラの顔にリシアが近づいてくる…そしてさらに大きく聞こえてくる囁き声がディアラの心の中の恐怖を掻き乱した。


「今じゃなかったら遅いわよ。」


小さな声で細く息を吐きながら出す声が、ディアラの耳の中をくすぐるように染み込んだ。顔の近くに感じる唇の距離さえ現実味があった。


『全部幻覚よ。』


彼女は息を切らしながら荒い息を吐き、ディアラは両手で握っていた杖を片手で持ち直した。自由になったもう片方の手から小さな炎が飛び出し、その炎は一瞬で脚に巻きついていた血の蛇の一匹を焼き、灰に変えた。


「いや! 今倒れなきゃ!」


一瞬で歩みの速度を上げて駆け寄ったリシアが、再びディアラの肩に向かって血に染まった骨の剣(ほねのけん)を突き出した。


ディアラがそれに応じて杖を振り、最初の攻撃を弾いたが、すぐに再び飛んでくるリシアの剣がディアラの太ももを斬り、血を噴き出させた。


続いて攻撃を止めず、杖を握っていた腕を、そして再び肩に深く剣先を突き刺した後でようやくリシアがディアラの肩に刺さった剣を引き、脚の傷のために座り込んだディアラを睨む彼女に言った。


「ほーら。気が向いたらいつでも終わらせられるって言ったでしょ? じゃあ、最後はもっと大きくて派手なのにするわ。」


笑みを浮かべた顔でリシアがディアラから離れ、数歩後ろに下がった後、目を閉じて集中し、地面から長い骨をつなげた長い棒を呼び出し、手に握った。そしてその棒を地面に立て直した後、再び魔力を集中して周囲の乾いていない血を棒の先端に集めた。


「もっと傷を付けておけばよかったかしら? ん…。それじゃ遅いみたいだから、今回は私の血を加えてやるわ。」


言葉を止めたリシアが、鋭く立てた爪を使って反対側の腕を鋭い指先で斬り、傷を付け、赤い血を流れさせた。


まだ尾と胴体をうごめかせてディアラを噛んでいる血の蛇たちが、再び黒い血に変わり、リシアが地面に立てて握っている長柄(ながえ)の先端に向かった。


深く斬られたディアラの傷からも、地面に撒かれた血からも、リシアの腕の傷からも。大小の血の滴と血の塊が集まり、柄の先端で形を成した。


緩やかな曲線で内側に向かって曲がった鎌の刃だった。


骨で作られた長い柄の先端に、赤い巨大な刃がついた大鎌が完全に形を整えると、リシアが満足げな表情で血でできた大鎌の刃を眺めた。


「ふう~ん。やっぱり明るい色の血が混ざると、もっと美しくなるわね。違う?」


大鎌を両手で虚空に向かって振り回した後、再びディアラに近づき、刃の最も鋭い部分をディアラの首に向かってゆっくり近づけた。


そうして完成した自分の武器を眺めた後、リシアが言った。


「これくらいなら隠れ月(かくれづき)の騎士を殺すのに十分な武器よね? じゃあ…。さよなら。」


囁くように言い、最後を前にしたディアラの眼差しはどうだろうか?という小さな好奇心に、座り込んで脚の傷を手で押さえているディアラの目とリシアが向き合った瞬間だった。


命の最後の息を吐き出した眼差しとは思えない様子だった。一瞬、不安感がリシアの全身を包んだ。そんな不吉さに、手に握った鎌の柄を引き戻そうとした。しかし両腕に力がこもらない。むしろ腕が引かれて後ろに引っ張られるように引き戻される。


「一体…何が…」


腕から形容しがたいほどの大きな痛みが感じられた。そして遅れて、凄まじい熱気による灼熱感(しゃくねつかん)が感じられる。


首を回して自分の腕を見ると、狐の形をした炎の塊が自分の腕を噛んだまま、揺らめく炎の尾を振っていた。


「召喚獣?!」


リシアが発した一言の叫びと共に、自分の腕を噛んでいる炎の形をした炎の獣を剥がすためにディアラから離れ、後ろに大きく跳躍した。


「こんな炎くらい!」


リシアが叫びながら立っている地面に向かって手を伸ばし、魔法を唱えようとした瞬間だった。


―ドカーン―


空き地の壁を叩いて響く轟音。爆発したディアラの魔法フォックス・フレイムの音が聞こえ、爆発の反動で弾き飛ばされ、空き地の岩壁にぶつかって倒れていたリシアがゆっくり体を起こした。


「ディアラ~!!!」


炎に焼かれて焦げたローブと壁面に擦れた傷、そして消えてしまったリシアの右腕。


口元に流れる血を拭かずに出した怒りの叫びに、小さな血の滴が地面に向かって飛び散る。


青ざめた顔のリシアがよろめく足取りでディアラに近づく。


リシアの背後からフォックス・フレイムが現れた理由は、そんなに複雑な方法を使ったものではなかった。


グラベルから学んだペントラ深度の魔法フォックス・フレイムを、マナ集めの紋章(もんしょう)で補助して空き地に入る際に唱えておいたのだ。


マナ集めの紋章、またはカルノの紋章。


魔法陣に唱え手が直接マナを注入して発動させるのではなく、大気中に広がるマナを集める紋章をフォックス・フレイムの魔法陣に加え、時間差の遅延発動(ちえんはつどう)で魔法を起動させたものだった。


洞窟の道から出て最初に目に入ったリシアの狂気のように溢れ出る殺気を見た瞬間から、ディアラは彼女との戦いは避けられないことを悟った。


ペントラレベルの深い魔法を直接唱えるのはリスクが大きすぎると判断したディアラが、リシアに飛び込んで杖を振り下ろす前に空き地の入り口に唱えた3つのフォックス・フレイムの魔法陣。そのうちの一つが発動してリシアの腕を噛んだのだった。


「……こんなふうに終わらせる…わけにはいかないわ。」


赤く充血したリシアの両目から、痛みの実である赤い涙の滴が頰を伝って流れる。


震える残った片腕を前に伸ばしながら、泣きじゃくるように言うリシアの声がディアラに聞こえた。


「肉体は一時的に借りる部屋のようなもの、わたしの完全な所有の部屋は理性のみである。」


リシアに向かってディアラがかろうじて力を振り絞って大きく叫んだ。


「……」


隠れ月の寺院での教えを込めた言葉を唱える声がリシアに届くと、ディアラに向かって歩いていた彼女の足取りが止まった。そして力が抜けてその場に座り込んだ。依然として腕はまっすぐ伸ばされ、広げた手のひらはディアラに向かっていた。


「今さら…そんな教えは…必要…ない…わ…」


リシアの手の上に濃い赤い光の魔法陣が広がる。


「完全なわたしのものは理性! つまりわたしの精神だから、肉体が破壊されたり衰えたり…」


涙を堪えながらディアラが寺院の教えを続けざまに叫んだ。


傷から流れた血のせいだろうか、それともあまりに多くのマナを使ったせいだろうか?


赤い魔法陣を広げているリシアの姿がぼんやりと見える。


次第に視界がぼやけていく。


「もう戻れないわ。」


小さく聞こえてくるリシアの声。


完全に視界が黒い闇に覆われる前にディアラの目に入ったのは、フォックス・フレイムの魔法陣から召喚された二匹の炎の狐がリシアの背後から現れ、彼女の肩と伸ばした腕に向かって飛びかかる姿だった。





*****


冷たい風が吹き荒れる(ふもと)の道の上、ディアラの馬車がガタガタと馬車の車輪の音を立てて進んでいる。


冬はまだ遠いのに、遠くの山の上から溶けない万年雪(まんねんゆき)の小さな雪片も風に乗り、道端の草や旅人たちの頰と髪に降り積もる。


農園を離れる前にディアラは多くの言葉を言わなければならなかった。そして多くの言葉を聞かなければならなかった。


リシアとの戦いの後、傷ついた体を動かしてようやく洞窟を抜け出したディアラは、再び森の真ん中で意識を失って倒れていた。


そして再びディアラが目を開けた場所は、農園の部屋に置かれたベッドだった。


グラベルの回復魔法で体の傷はなくなっていたが、心の中には重苦しいものが残っていた。


その後ディアラはベッドから起き上がり、農園の人々と石像を護送する仲間たちにリシアとの出来事について話した。そしてグラベルからガラドの死とカヴナクについての話を聞いた。


最初は皆信じられなかった。いや、信じたくなかった。


ラントの死体、そしてリシアの死体がある洞窟の中で、さらに深い洞窟の奥で発見された、リシアに犠牲となった数多くの人の名前が刻まれた骸骨が並んだ彼女だけの地下墓所(ちかぼしょ)が発見された後でようやく、残っていたディアラの言葉を疑う人々が説得された。


そうしてある程度の混乱が収まった後でようやく、亡くなった者たちを偲び、悲しむ時間を持つことができた。


一日がどう過ぎたかもわからないほどに時間が流れた。しかし翌日、ディアラは再び馬車の上に上がらなければならなかった。


農園の仕事はロパーと農園で長い時間を共にした人々が彼を助けて後始末をすることになり、ディアラと一行はヴェス・ディナスに向かうために農園を離れた。


理解できないことがたくさん起きた。馬車の手綱を握ったディアラが遠くに見えるラテラ山の上空を眺めながら道を進んでいた。


ディアラにとってはあまりにも冷たい風が吹く一日だった。





番外編:グラベルとリシアの会話


池に映った月を眺めながらリシアが言った。


「私は水に映った月が好きよ。頭を上げて見上げる本物の月は…。私にはまぶしすぎるわ。そして怖すぎる。だから本物の姿をそのまま水の上に見える月で、私には十分よ…変かしら? それなら、鏡に映った自分の姿を見るのはどう? 鏡に映った自分の姿を見るのは。変じゃないでしょ? 唯一自分自身を見られるのは、何かに映ってよ。月はそうじゃないけど…。水の上に映った月は私に近いわ…。あの暗くて遠い空よりずっと近くにいるように感じて…。だから好きよ。」

「眩しすぎる真実より、静かに揺れる影に救われる夜がある。」

リシアが愛した『水面の月』は、彼女の孤独を唯一受け入れてくれる鏡だったのかもしれません。

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