77話 カヴナク (1)
空に向かって高く伸びる赤い木々が並ぶ森を、落ち葉のサラサラという音を聞きながら、グラベルはしばらくラテラ山に向かって歩を進めた。
『だんだん繋がる気配が薄れていく・・・。これは困ったな。』
周囲を感知するマナにさらに集中して動くグラベルの速い歩みに、焦りが表れている。
グラベル周辺に根付く木々の様子が変わったことを知り、農園近くの赤い木の森から抜け出していることを悟った。そしてラテラ山に向かってさらに歩を進めるほどに、粗く厚い樹皮が割れたまま曲がったように曲がる木々が目に入り始めた。
異質な形状の中で、グラベルが追跡してきた暗く不気味なオーラの痕跡が続いて繋がっていた。
赤い森とは全く違う様子の森、湿気をたっぷり含んだ厚い雲の中に留まるような濃い霧の群れが木を巻き、繰り返し割れながら森のあちこちに霧の川が流れていた。
グラベルが歩を一歩ずつ進めるたびに、ねっとりした霧の塊が散らばり、グラベルが進む道から避けていく。
森のどこかから聞こえる老婆の笑い声のような鳥の鳴き声が響き、続けて眼前を阻む濃い霧を掻き分け、ただ黒く濁ったオーラの痕跡を道しるべに歩いていた中、グラベルの前方遠くに大きな黒い影が見えた。
『なんだ? ものすごい大きさだが・・・? 霧のせいでよく見えない。』
白っぽい霧の向こうに巨大な黒い影を発見したグラベルが、視力を強化してくれるマナ脈の力を利用して、遠くに見える黒い影を詳しく見ようとした。
『ん? こんなところに家が? 農園の人々が利用する山小屋か?』
霧の向こう遠くに見えたのは、適度な大きさの木で作られた家だった。小さな窓たちと家の木の壁を這い上がって育った蔓の薄紫色と白色の花が美しく咲いている小さな木の家だった。
『痕跡があの家に向かって続いている・・・。ならばガラドさんを傷つけたのは一体何だ?』
人の体にそんな大きな牙の跡を残し、肉を抉り取る大きな口を持つ怪物だと想像していたグラベルが、黒い痕跡が続いて向かう木の家の様子を見て混乱した。
予想外の状況に直面したが、しばらくその場に立って遠くに見える霧の中の家を眺めていたグラベルが、再び霧を掻き分けて歩き出した。
『何であれ、直接対峙してみなければ・・・』
最も恐ろしいのは想像の中で作り出した自分を最悪の状況に置いた敵だと考えたグラベルが、一刻も早く敵と対峙するために動いた。
『家の中に誰かがいる・・・』
蔓の花が咲いている家に向かって近づきながら、グラベルがマナを発散して家の内部からスルスルと流れ出る凶々しいオーラを放つ存在の正体を確認しようとした。
広げたマナで感知した家の内部はシンプルな構造だった。広い一室の部屋にその部屋の真ん中に置かれた長い食卓と二つの大きな椅子。そしてそのうち一つの椅子に座っている凶々しい黒いオーラの主。
黒い煙のような気配に囲まれて形状を判別しにくいが、細長く長い指と細い腕で食卓の上に満載に並べられた皿の上の食べ物を掴んで食べていた。
グラベルがさらに詳しく家の中の存在を観察しようとした瞬間、グラベルの耳に声が聞こえてきた。
「そんなに外にばかりいないで、入ってきたらどう~?」
全身の神経を逆立てるようなぞっとする声が響いた。ガラス窓を爪で引っ掻くような不快な音。それでも耳に向かって聞こえてきた声には、久しぶりに訪れた客を歓迎する喜びが込められていた。
「ふむ・・・」
グラベルが家に近づき、ドアを押し開けた。そして家の中に向かって足を踏み入れる瞬間、ここに来る前、生命の炎を失って倒れていたガラドの姿をグラベルは思い浮かべた。
好意的な関係の誰かが死ぬということ、殺された姿を目にするというのは、決して良い経験ではない。
互いに知り合い、話を交わしながら過ごしていた相手が生命を失った。
不快さと怒りの間どこかにグラベルの感情が位置していた。
ガラドの死について理由を尋ねられる相手がこの前にいる。グラベルが少し躊躇した歩みを再び動かし、部屋の中に向かった。
「キヒヒヒ。こんなところに訪れる人がいるとは思わなくて、食事中だったんだけど、一緒に食べない? 料理の材料に何が使われたか気にしないなら食べてもいいよ。おいしいんだから。」
グラベルが部屋に入って姿を見せると、長い食卓の端から両腕を広げて部屋の主が言った。
「結構です・・・」
「そう? キヒヒヒヒヒ。材料が何かも聞かないんだ? 気にならないの? 私は君について気になることがたくさんあるのに?」
耳まで繋がっている大きな口が笑いながらグラベルに言った。そしてその口ほど長く裂けた大きな目。目の大きさに比べて点一つを置いたようなその中にいる小さな瞳。
グラベルが知る世界のどんな生物の牙とも違う、密に長く生えた牙、そして広く平らに端が外に曲がった顎。黒赤い色の厚い革のような皮膚には粗く油気のない毛が長く生えて肩と脚を覆っていた。
そんな眼前で座っている存在の怪異な外見を詳しく眺めながら、グラベルが部屋の一角に立っていた。
「そんなに立ってるだけじゃなくて、座ったらどう? この家に二つしかない貴重な椅子だよ。キヒヒヒヒ。座って~座って~!」
「そうしましょう。」
食卓に近づいた椅子を引いて引き出し、グラベルが座った。
調味料を塗って黒褐色に良く焼かれた肉料理が盛られた皿、脂の多い肉片が浮かぶ朱色のスープ、黒い小さな鉄鍋の中に野菜と共にじっくり煮込まれた肉が見える料理。
その他にも食卓のあちこちに立てられた酒瓶と底の深い皿の上に置かれた果物が見えた。
豊かに良く整えられた食べ物が満載の食卓の向こうにいる存在から目を離さないまま、グラベルが落ち着いた口調で言葉を掛けた。
「まずはお互い自己紹介をするのがいいでしょう。私はグラベルです。」
「ヒ・・・紹介か、いいね。私のことを呼ぶ名前はたくさんあるよ。悪の誘惑者、悪魔、悪鬼、悪霊、鉤爪の獣、1001の宮殿にある80000の部屋の住人・・・」
カヴナクは口元を歪めて静かに笑った。
「でもそのたくさんの名前の中で『私』を正確に~言ってくれる音の組み合わせはまさに~オ~~! カヴナク。カヴナクが私の名前だよ。だからこれからは私をカヴナクと呼んでくれればいいよ。グラベル。」
おしゃべりな悪魔の自己紹介に重く部屋を回っていた緊張感が少しは解けそうだったが、グラベルは依然として両目をカヴナクに固定したまま、いつでも腰に差した剣を抜き出せる準備をしていた。
「ではカヴナク、質問一つしてもいいでしょうか?」
「ん? いくらでも~今日はおいしい料理がお腹を満たしてくれたから機嫌がいいんだ!」
尖った黒い爪の先で額の隅に生えた角を掻きながらカヴナクが言った。
「ガラドさん・・・。いえ、農園近くの赤い木々が育つ森で人間を殺したのはあなたですか?」
「あ? あ・・・そうだよ。私が殺したよ。」
「理由があったんですか?」
「あったよ。理由を聞きたいの? 聞きたいよね? 気になって聞いたんだろう? じゃあよく聞いて。理解しにくいかもよ。」
「・・・・・」
「準備できた? って言ってもそんなに期待しないで、そんな大した理由じゃないから。」
カヴナクが頭を仰け反らせて長く舌を伸ばし、二本の指の長い爪の先で掴み上げた肉片を乗せ、一気に舌を引いて肉片を飲み込んだ後、再び口を開いて話し始めた。
「結論から言うと、腹が減ったから? 気まぐれって言うべきかな? 見た通りいつもこんなにおいしく調理された料理を食べているとさ。ん、何て言うかな。あの生々しい捕食者への恨みと獲物の生命に深く牙を食い込ませる感触が恋しくて、そしてその牙が食い込んで生まれた恐怖がたっぷり染みた肉が食べたくなるんだよ・・・」
カヴナクが両手で食卓の上を指差したり、眼前の虚空を噛み砕く仕草を見せながら続けて言葉を繋げた。
「だからすぐ思いついたら飛び出して狩りをして、再びこの席に戻ってきたってわけさ~い。シシシシシ。」
カヴナクが長細く薄い牙を露わにしながら笑った。
「では馬車に乗っていた家族を・・・」
「ダメだよずっと君だけ質問するのは。今度は私が質問する番だよ。」
カヴナクがグラベルの言葉を遮って言った。
「君。正体は何だ? 人間の姿をしてはいるけど・・・人間じゃないだろ。ん~?」
以前の声とは違い、笑い気など全くない低く沈んだ声でカヴナクがグラベルに尋ねた。
「そうでしょうか? 私には十分人間の姿に見えますが。外見と中身が違うわけでもないですし。」
椅子に座って自分の腕と脚を見下ろしながらグラベルがカヴナクに答えた。
「ふん・・・それなら・・・!」
カヴナクが体を前に傾けながらグラベルに向かって腕を伸ばした。
すると薄いどころか長細く骨が見えるほど痩せた腕のあちこちから灰色と黒色の鋭い骨がカヴナクの肉を突き破って出て、グラベルに向かって先に進んでいた細く尖った黒い爪の後を追って伸びていった。
-カァァァン-
部屋全体を響かせる轟音が聞こえた。
「ほらね。人間なら今この手に心臓が貫かれていなければいけないんだよ。」
食卓を横切って革のように厚いカヴナクの肉を裂いて出てきた骨たちの間に黒い血が床にジュルジュルと流れ落ちていた。
奇怪に変わって醜く見える長く伸びたカヴナクの腕が向かった先の端には、グラベルが左手で鞘ごと持ち上げたソード・オブ・イースト・エンドがカヴナクの攻撃を防いでいた。
「では今度は質問してもいいでしょうか?」
「ああ。そうだね、あまり答えになってないけどね。」
床に折れて落ちながら腕から落ちた骨と爪を残し、再び元の痩せ細った姿に変わった腕を触りながらカヴナクが嘲るようにグラベルの言葉に答えた。
「少し前、農園の近くで馬車に乗っていた家族を狩ったのもあなたですか?」
「いや。本当に久しぶりに狩りをしたんだよ。そして私は調理された食べ物が好きみたいだね。これからしばらくは多分狩りはしないつもりさ。」
グラベルが小さなため息を吐き、カヴナクが吐き出した自分の予想とは違う答えに、つい今し方自分に向かって飛んできたカヴナクの変わった腕と爪の攻撃を防いだ後、食卓の上に置いた剣の柄の端を触りながらしばらく考えに沈んだ。
「それでも今日は話し相手がいて楽しいよ! キヒヒヒ。普段この料理を出してくれる料理人は無口なんだよ。毎回無言で料理を食べるのをじっと目も瞬きせずに見つめてから去るんだから? せめて今日はその料理人も忙しい用事ができたって早めに去っちゃったから寂しかったよ。」
カヴナクが食卓の上に紫色の葡萄酒を高く持ち上げ、その下に置かれた口の大きな銅の杯に注ぎながら言った。
「ん・・・。そうだよ、食事の席に付き合ってくれたんだから、私が面白い話一つをしてあげるよ。どう? どう? そんなに長くないよ、聞いて聞いて。」
カヴナクが大きく満杯に注いだ葡萄酒が入った杯を置きながら言った。そしてグラベルの答えを待つ間もなく話を吐き出し始めた。
霧の中に現れた謎の家と、おしゃべりな悪魔カヴナク。彼が語り出す『面白い話』の正体とは……。次回の展開も、どうぞご期待ください




