73話 農園 (6)
白い細い煙が立ち上っていた。
揺らめきながら部屋を満たしていく、香りを帯びた煙は、リシアが座る席の前の卓上に置かれた香炉から昇っている。
天井へと昇る二筋の細い煙の向こうで、目を閉じ、ゆっくりと呼吸を繰り返しながら、顔の近くに漂ってきた煙を優しく払うディアラは、唇を固く結んだまま、今日農園の娘リルゥに起きた出来事について考えていた。
ガラドとグラベルが農園の外でワレンの馬車を探しに出た後、ディアラはリルゥを抱いて農園に戻り、まずは落ち着けるため体についた血を洗い流し、ロングハウスの二階にある小さな部屋のベッドに横たえて、少女が目を覚ますのを待っていた。
リルゥはベッドの上で眠っているように見えたが、きつく寄せられた眉と額に浮かぶ小さな汗の粒が、少女が今日味わった苦痛を再び感じているのではないかと心配になるほどだった。
そうして長い間リルゥの傍にいたディアラとリシアが部屋を移ったのは、グラベルがワレンの馬車を農園まで運んできたという知らせが届いた後だった。
ラントとロパーがいつの間にか馬車の傍に立っていて、グラベルから状況の説明を受けていた。リシアは二人に、ワレンに起きたことについて少しでも手がかりが得られるよう馬車の調査を頼み、二人の青いローブの隠れ月騎士はリシアの書斎へと向かった。
「どう思いますか、ディアラ」
リシアは卓上の香炉の上に腕を伸ばし、柔らかな手つきで自分の方へ香りを孕んだ煙を引き寄せながら、ディアラに尋ねた。
「野獣の仕業でもないし……ゴブリンだったとしても、盗まれた物がないと聞きました。それにグラベル様がおっしゃった血溜まり……そして床の血痕。あの場所で消えたのはリルゥの両親二人だけです。理解できないことばかりで……」
「ええ。見たところ馬車の状態はあまりにも整然としていました。少なくとも人間の仕業ではないのは確かだと思いますが……」
「子供が気を失う前に、怪物が自分の両親を襲ったようなことを言っていました。だから目が覚めたら、その『怪物』と呼んだ存在について答えが聞けるはずです」
ディアラが小さく息を吐きながら言った。
「そうね。リルゥが目を覚ませば、ディアラの言う通りすべてがはっきりするでしょう。でも……その子に聞くというのは、胸が痛むわ。またあの瞬間を思い出すことになるのですもの……」
リシアは目尻を寄せ、リルゥが目覚めた後のことを考えて言った。
「だからこそ、それまではあまり深く考えないようにしています」
「では、今この香りがお役に立つでしょう。『テン』と名付けられた、ドワーフの国で育つ香木なの。彼らの言葉では『何かを掴む』という意味だそうだけれど……皮肉な意味らしいわ。」
リシアは目を細めて香炉を開け、小さな木片を追加しながら、ディアラに説明を続けた。
「忘れたいから香を焚くのも、また何かを掴んでいることになる……ただ、この香しい香りを楽しめばいいの。面白い言葉でしょう? 私に香を教えてくれたドワーフの師匠が伝えてくれた言葉なの。」
「はい……リシア様のおかげで、心が少し軽くなりました。ありがとうございます」
ディアラの表情が、先ほどよりずっと柔らかくなっていた。そして息を吸い込むと、濃い香りが広がった。雨が降る前に感じる匂いと、小さな花の甘い香り、心地よい夜明けの情景がディアラの頭に浮かんだ。息を吐くと、心の中で絡まり合っていた問題が、その息と共に流れ出ていくような気がした。
そのとき、部屋の外からノックの音とともに男の声が聞こえた。
「リシア様、ロパーです」
「ラントもおります」
二人の声が響くと、リシアは閉じていた目を開けて答えた。
「どうぞお入りください」
リシアの言葉が聞こえるとすぐに扉が開き、二人の男が入ってきた。
「二人がお話しされているところに失礼します。私は席を外します。リルゥのところに行っていますので、どうぞお話しください」
ディアラが立ち上がりながら言った。
「私たちがお二人の会話の邪魔をしてしまったのなら申し訳ありません。ただ、早くお伝えした方がいいと思いまして」
ロパーは手に持っていた拳大の小さな布袋を、卓上の香炉の横に置きながら言った。
「その前に、ディアラ、この香炉を持って行ってください。リルゥにもきっと役に立ちます。そしてお二人はこの袋について話してください」
リシアは卓上の香炉を持ち上げ、ディアラの手に渡しながら言った。
「では、失礼します、リシア様」
ディアラは部屋を出て行き、静かに扉が閉まる音がした。リシアは再び手で合図をし、卓の横に立っていたロパーとラントに座るよう促した。
「これをご覧ください、リシア様。先ほどワレンの馬車の中で見つけたものです」
ロパーは袋を縛っていた紐を解き、中身が見えるようリシアの方へ押しやりながら言った。
「これは……農園の種ですね」
リシアは袋の中から一握りの種を掌にのせ、じっと見つめながら言った。
「はい。病害虫に強い小麦の種です。馬車のいちばん奥の小さな箱の中に隠されていました」
「隠されていたとは限りませんよ! あまり早とちりしないでください、ロパー!」
ラントが声を荒げて割り込んだ。
「はっ! 早とちりだと? いったい何が早とちりだというんだ! 種の袋がワレンの馬車から出てきて、しかも荷台のいちばん奥の小さな箱に隠されていたんだぞ!」
ロパーががらっとした声でラントに向かって言い返した。
「確かな証拠はないじゃないですか! その……ワレンさんの子供が勝手に入れたのかもしれないし、奥さん……ええと、名前はなんだったか、まあ名前はどうでもいいですけど。ワレンさんが自分でこの袋を馬車に隠したとは言えないでしょう」
「ちっ、話にならん。いくら強弁したって、もう農園の連中の間じゃそんな屁理屈は通用しねえよ。ちゃんと説明してみろ」
二人の間に会話が途切れたところで、リシアが重く沈んだ空気を切り裂くように口を開いた。
「この種の袋については、農園の他の皆さんにも話を聞いて、どのようにしてここにあったのかを調べます。それまでは、農園の人々の間で誤解が深まらないよう、お二人で努めてください」
手に持った種の袋の紐を巻き直して卓に置きながらリシアが言うと、ロパーとラントは大きく息を吐き、荒れていた感情を抑えようとしていた。
「はい……そうします。おっしゃる通り努力はしますが……すでに人々の間に深い溝ができてしまっていて、簡単に埋まるかは……」
「うーむ……もう何人もワレンの馬車を見ているからな……」
ロパーとラントは部屋を出る際、リシアに一礼し、顔をしかめながらそれぞれが今後出会う人々に伝える言葉を考えていた。そして扉が閉まった。
『思った通りにはいかないものね……』
リシアはこめかみの痛みを押さえるように手を当て、椅子の背もたれに深くもたれかかった。
*****
小さな部屋の中。
ディアラが部屋に入ると、連れてきたリシアの香炉から立ち上る香りが、静かに部屋に広がっていた。
部屋の片側の壁に寄せられたベッドの上では、リルゥが小さな寝息を立てて眠っている。ベッド脇の小さな卓に置かれた香炉と、その横の椅子にディアラが座り、眠るリルゥの様子を見守っていた。椅子の背もたれに体を預け、目を閉じていたそのときだった。
——ぎぃ……
短い軋み音とともに扉が開き、リシアが部屋に入ってきた。扉が勢いよく閉まらないよう取っ手を押さえ、ゆっくりと閉めてからディアラのところへ歩み寄った。
「リルゥの様子はどうかしら?」
部屋が狭かったため、リシアがディアラに近づくのにそれほど歩数は必要なかった。
「ずいぶん良くなりました。汗も減り、息づかいも穏やかになっています」
ベッドの横に立ち、リルゥを見下ろすリシアにディアラが答えた。
「とても驚いたでしょうね。あれだけの血を……」
リシアは眠るリルゥの髪を優しくかき分けながら言った。
「ええ……小さな子には、荷が重すぎる出来事でした」
「女神様のご加護があって、無事に帰ってこれたのかもしれませんね……」
リシアは髪を整えながら現れたリルゥの耳たぶに光る紋様を見て言った。
「つい先日、八歳になってラチャ・ワリアの神殿で女神様の祝福を受けたそうなの……」
リシアは目を細め、リルゥの頭を撫でながら、ディアラに耳たぶの光る紋様について説明した。そして会話を続けた。
「数日前、この祝福の紋様を私に見せて、明るく笑っていたのに……目が覚めても、今の状況をどう受け止めるか心配なの……」
「ガラドおじさんが、他の皆さんと一緒にリルゥの両親を探してくれていますから」
馬車が発見された場所の話を聞いていた二人は、捜索にあまり希望が持てないことを知っていた。だからこそ、二人の間に重い沈黙が落ちた。
「ディアラは幼い頃から隠れ月神殿で育ったとおっしゃいましたよね?」
「はい。物心ついた頃から神殿で育ちました」
「では、リルゥが受けた女神の祝福についてはご存じかしら?」
「知っています。神殿の外で出会ったほとんどの女の子が、この紋様を私に見せてくれましたから」
ディアラは過去の記憶を思い出しながら答えていたが、その記憶はあまり良いものではなかったのか、少し寂しげな表情を浮かべた。
「あ、ところで……あの種の袋の件はどうなりましたか?」
「二人にあまり言い争いをしないよう頼んで、リルゥが目覚めて状況を説明してくれるまで時間を稼いだのですが……改めて思うと、この子が目覚めても種の袋については何も知らないでしょうね……」
「やはり……」
「ええ。農園の人々の分裂はさらに深まるでしょう。ようやくラタク様に手紙を送って、事態を調整していただけるまで待ってほしいと皆をなだめたのに……」
リシアは下唇を噛み、眉を寄せて言った。そして長く息を吐きながら続けた。
「優良品種の作物は、それだけ価値があるものですもの。農民の生活に関心のある領主であれ、自分が徴収する税に関心のある領主であれ、どちらにせよ種を欲しがるでしょう。農園ができた当初からここにいる人々は、そうした私欲を持つ者たちと顔を合わせたくないのよ。」
「残念なことです……もう少し時間をかけて待てば、皆が望むものを手に入れられるのに。こうなってはラタク様が農園を作られた意味が……」
ディアラは互いを理解しようとせず、待とうとしない農園の人々を思いながら言った。
「もっと欲しがることもなく、失うことを恐れることもない心が大切……」
「私はあらゆる快楽の監視者である。溢れぬよう監視する……」
「よく覚えていらっしゃいますね、ディアラ。この神殿の教えを、農園の人々にも理解してもらえたらいいのに」
隠れ月神殿で学んだ教えを、静かで落ち着いた声で交互に唱える二人の声が響いた後、部屋にはベッドで眠るリルゥの穏やかな寝息だけが残った。
『何かを掴む』ための香が、皮肉にも失ったものの大きさを際立たせる




