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68話 農園 (1)

空を向かって伸びた巨大な赤い木々の間に、ディアラの馬車が見える。そして馬車より先に進み、手振りや声で馬車が進むべき道を示すガラドの姿があった。


ガラドの案内に従って森の道を進むと、最初に一行が赤い木の森に到着して馬車を走らせた時より、はるかにスムーズに移動できた。


「そんなに遠くありませんよ。おそらく昼食は農園に着いてから食べられると思います。」


ガラドが馬車の横を歩きながら言った。赤い木々の隙間から見えるラテラ山が、昨日の姿より少し大きく見えていた。


「ガラドおじさん、最近農園はどうですか?」


ガラドが顎髭(あごひげ)を撫でながら、ディアラに言った。


「モロヘイヤか……。前に味わった時はかなり苦かったのを覚えてる。大陸の南で育つ作物だから、この土地の気候でちゃんと育つかどうか分からないわね。」


「キシャやアルーンでは王家の野菜として貴重に扱われるけど、僕の口には苦すぎてね……。スープにしてもあのねばねばした感じがどうも馴染めなくて。農園の方も最近の天気じゃ寒すぎるから、リシア様のおっしゃるには温室で冬を越させるそうですよ。」


ガラドがモロヘイヤの苦味を思い浮かべながら、農園で育てているモロヘイヤについてディアラに話した。


「ニア。イクスターンで食べたことない? 今話してたモロヘイヤっていう野菜。イクスターンはキシャに近いじゃない。」


「う~いぃ、モロキアは食べないんだる。苦すぎて嫌いな草なんだる。」


ニアが記憶に強く残った苦味を思い浮かべ、舌を出して首を振る仕草でリブに言った。


「え? モロキア? モロヘイヤのことを聞いたんだけど? モロキアってまたどんな野菜?」


「モロキアがモロヘイヤなんだる。モロヘイヤがモロキアなんだる。」


「それ何よ……。なんで同じものを二つの名前で呼ぶの……。」


リブが肩をすくめて顔をしかめ、首を傾げながら言った。


「きっと南の砂漠の三王国の中で、アルーンではモロキアと呼び、キシャではモロヘイヤと呼ぶからでしょうね。」


「うおん……。」


「うお……。そうなんだ。」


リブとニアが小さな知識を得た反応を示し、声を出した。


「うは~あくび。それにしても農園に行ったらおいしい食べ物があるよね? 最近は昨日のキノコと盲目魚もそうだけど、おいしいものばっかり食べてるから食べ物に不満はないけど、でも農園って言うと結構期待しちゃうよ。」


リブが頭を掻きながら、ガラドをじっと見つめて言った。


「へへへ。期待していてください。他のところじゃ見られない大きなジャガイモとか、甘くて香ばしい味が強い麦とか、果物も普通のものよりうちの農園の果物の方がずっとおいしいですよ。農園ではミツバチも飼ってるから、蜂蜜酒も味わえますしね。」


ガラドが大きく笑みを浮かべてリブに言い、馬車の馬の手綱(たづな)を握って木と木の間の空間が広い場所へ馬車を導いた。


「もう少しですよ。」


ガラドの案内を受けてしばらく赤い森の木々を抜けると、ラテラ山の長く伸びた麓の端、赤い木々の間に木を伐って立てた高い柵が見えた。


「これが赤い木の森の最後の木です。あっちの端に柵が見えますよね? 予想より早く着きましたね。」


ガラドが指差した先には、おおよそ6キュビト(3m)高さの柵とその下に棘の藪を植えた、侵入者(しんにゅうしゃ)からの保護のための木の壁が見えた。


「時々現れる鹿たちのせいで農園の外周(がいしゅう)に囲ってるんですけど、ディアラ様が前に来られた時よりさらに遠くへ移して立て直しましたよ。」


「ええ。棘の藪で植えたのね。最近も鹿や狼が問題なの?」


「農園の近くじゃ狼は見かけにくくなりましたよ。その代わり鹿たちはまだあの柵を飛び越える奴が出てきて、畑の近くには格子状の柵を立てなきゃいけなくなりました。」


「それでもよかったね。昔は狼たちのせいで見張り塔を立てたのを覚えてる。」


「ええ。あの昔の柵があった農園の内側にまだ立ってますよ。狭くて太った人が登るのに不便なのを除けば、まだジャガイモ畑と麦畑の近くにあります。そう言うと、ちょうどあそこに太った僕の友達が見えますね。」


ガラドが馬車の前方に見える壁の出入り口に寄りかかっている男を指差して言った。


「お~い! ガラド~! 今来るのか!」


腹が先頭に立ったようにずんずん歩いてくる恰幅(かっぷく)のいい男が、明るい笑みを浮かべて馬車の方へ近づいてきた。


「ロパー! 久しぶりに見たけど、まだ太ってるな。」


ガラドに向かって両腕を広げて近づき、両手でガラドの肩を叩く男。でこぼこした肌、ぽっこり出た腹、頭油が付いてつやつやした栗色の髪が帽子から飛び出している姿だった。


「はっはっは! お前の体からはキノコの匂いが日増しに強くなってるぞ。そしてこの方たちは……。どなたかな?」


「隠れ月騎士であるディアラ様の一行だよ。ヴェス・ディナスへ向かう途中に寄られたそうだ。」


「そうか? へへへ。久しぶりのお客さんだな。どうぞお越しください。」


ロパーが挨拶のために帽子を脱ぐと、禿げ頭(はげあたま)が世間に出て挨拶するようにきらりと輝いた。日差しが当たると周りが一瞬明るくなったようだった。


「ディアラです。リシア様は農園にいらっしゃいますか?」


馬車からディアラが降りてロパーに挨拶した。そうして互いに挨拶を交わした後、農園へ向かう木の柵の門が開き、ロパーがガラドに柵の修繕を手伝って日が暮れる前にと言いながらガラドを捕まえた。





*****


ラテラ山の最も遠い麓の下に位置する隠れ月騎士団(かくれづききしだん)の農園。外周の木の柵を過ぎ、平らに踏み固めた土道の上を走る馬たちの足取りが軽い。


収穫が終わった畑で(すき)を引いて土を耕している二頭の大きな馬が見え、収穫前の緑の葉が茂った作物が育っている畑も目に入る。


ラテラ山の高所から流れ落ちる小川の水が溜まるよう広く掘った溜池(ためいけ)の上では、数羽のアヒルがクワックワッと鳴きながら頭を水面下に沈め、小さな魚を狩る姿も見えた。


ディアラが日差しを遮る帽子の広い庇を掴み、遠く道脇の一角に集まっている人々を見ている。


「リシア様~。」


手綱を引いて馬車を止め、ディアラが収穫の終わった土が耕された畑に集まっている人々に向かって、リシアという人の名前を大きく叫んだ。そして止まった馬車から降りて歩きながら、もう一度叫んだ。


「リシア様~。私よ。ディアラよ~。」


「ディアラ! 久しぶりね。」


集まっている人々の間から一人の女性がディアラに向かって近づきながら言った。


ディアラと同じ濃い青色のローブを着ていたが、広い庇の帽子は被っていなかった。ローブの上からも現れる優雅な体つき、長く細い脚。そして金髪のショートヘア、バイオレットの瞳の大きな目。柔らかく微笑んだ目の下の小さなほくろが印象を深く残す、美しい容姿の持ち主だった。


「ヴェス・ディナスへ行く途中です。ラタク様が機会があればこの農園に寄って状況を見てほしいっておっしゃって。」


ディアラが両手を差し出し、近づいてきたリシアの手を握りながら言った。


「ラタク様が? 農園に戻ったらこれまでのことをまとめた記録を見ていただければいいわね。でも今、畑の地力を回復させる魔法を準備中だったの。ディアラが来てくれたから、手伝ってもらいたいんだけど、どう? 大丈夫?」


「ええ。もちろんです。地力回復(ちりょくかいふく)魔法陣(まほうじん)かしら? ちょっと杖を取ってきます。」


ディアラが再び畑脇に止まった馬車へ戻りながら言った。


「お願いね、ディアラ。」





*****


少し後。ディアラとリシアの二人が広い畑の両端に立っていた。


二人の間には杖の先で地面に描いた魔法陣があり、その魔法陣の上には農園の人々が描かれた魔法陣に沿って白い粉を撒き、畑の上に描かれた魔法陣の姿がはっきり見えるようにしていた。


「それじゃ、始めましょう。ディアラ。」


リシアが言葉を終え、ゆっくり目を閉じて両手で握った杖を地面に立て、精神を集中した。続いてディアラもリシアと同じように杖を立て、地面の魔法陣にマナを流し込む。


収穫の終わった犂で耕された畑の上に描かれた白い魔法陣の上に、青い光が覆いかぶさり、次第に隙間を埋めていく。


『こんなに大きな魔法陣の魔法を詠唱するなら、マナがたくさん必要だろうに……。』


遠くから二人の地力回復の魔法の詠唱を見守りながら、グラベルが思った。


しばらく二人の魔法使いは魔法陣を埋めていく過程を見守った後、詠唱が完了した魔法陣が脈動するように光を繰り返す姿を背に、ディアラとリシアの二人は農園の人々に支えられながら畑の端に置かれた脚が短く座面の長い椅子に座り、頭を地面に向けたまま荒い息を吐いていた。


「ふうう。ありがとう、ディアラ。おかげでずっと早く終わったわ。」


激しく息をしていた息を落ち着かせようと長い息を吐いたリシアが、ディアラに言った。


「これほど大きな魔法陣を……お一人で詠唱なさろうとしていたのですか。大したものです、リシア様。はあ……はあ……。」


頭を下げて地面に落ちる汗の滴を見ていたディアラが、再び頭を上げてリシアに言った。


「うふふ。時間がかかって疲れても、私がしなきゃいけないことだからよ。」


リシアが席から体を起こしながら、ディアラに言った。


「じゃあ、仕上げをお願いね。私はここに訪れたお客さんたちと一緒に先に帰るわ。」


「は~い、リシア様。私たちが仕上げて戻ります。」


「おい、みんな。早く残りの鍬かけして戻ろうぜ。」


農園の人々の短い見送りを受け、リシアがディアラより先に馬車へ歩き、他の一行と挨拶を交わした。


「馬車は私が駆るわ。ディアラ。」


「ええ。お願いします。リシア様。」


青白くなった顔色で馬車にディアラが乗りながら言った。


再び馬車が動き、農園の畑の間の道をディアラの馬車と一行が進んでいた。


「これまでの成果や日誌はすでに記録してあるけれど、もう少し詳しくまとめてお渡しするわ。ディアラ。ラタク様がご満足なさるだけの成果は、十分にあるのよ。」


ディアラに向かって音もなくにっこり笑いながら、リシアが言った。


「ええ。でもリシア様は本当に大丈夫ですか。あんなにたくさんのマナを使われたのに……。」


「地力回復の魔法はいつも使ってるから慣れてるんじゃないかしら? 私もディアラがいなかったら今日は自分の部屋から出られなかったわね。もう一度、ちょうど来てくれたディアラに感謝しなきゃ。」


リシアが目尻を下げてディアラの顔と視線を合わせ、答えを言い、再び馬車の綱を握って前を向きながらディアラとの会話を続けた。

赤い森の奥、農園でのひとときを描いた話 でした

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