65話 誰かが後をつけてくる
グランドマーケットの外れ。レバドスの平原の道の上に、馬車とともに暗い夜道を進む一団の姿があった。
ディアラの馬車と、その傍らを並走する四頭の馬が、華やかな夜のない草原の上に広がるグランドマーケットから出て、十字路の北へ伸びる道を駆けていた。
広々と開けた暗い夜道の上を、繰り返し転がる馬車の車輪の音と、ダクダクという馬の蹄の音が響き、馬車に並んで走る馬たちの蹄の音も馬車の車輪音と混じり合い、静かな夜の草原に広がっていく。
馬車に吊るされたランタンも点けず、月と星の光に頼って道を進む一行の耳には、ヒュウヒュウという冷たい風の音が届き、ぞっとする夜の寒さを肌に感じさせた。
数時間前。キシャの羊でニアとの食事を終え、ディアラの馬車が停めてある場所にグラベルが戻ってきた。
リブとケインも、黒トナカイの毛皮を売り払って戻り、一行全員が揃うと、ディアラが夜がもう少し深まってからグランドマーケットを発つことを皆に提案した。
グリックがグランドマーケットに滞在しているのは、不安要素だった。本人の口からもう石像を狙わないと言っていたとしても、その言葉の真偽はわからないため、悩む時間も惜しんで、むしろ早くグランドマーケットを離れるのが良いというのがディアラの判断だった。
毛皮を売って大金を手に入れたリブとケインは、ゆったりと市場を回って金貨を消費する機会を逃したのが惜しかったが、ディアラの言葉に従い、荷物を整えてすぐに出発の準備をした。
馬車を守っていたためグランドマーケットの様子を見物できなかったディアラとイリスが気になったのか、出発前に市場の露店街に寄ってきたグラベルが、二人のためにイリスの剣鞘とディアラの杖に飾り付けられる、紺青色と深紅色の房付きの装飾品をそれぞれ渡した。
二人はどちらも飾りの色が綺麗だと言い、感謝の言葉を述べた後、手渡された贈り物が気に入ったのか、すぐに自分の剣鞘と杖に装飾品を付け、その姿をしばらくぼんやりと見つめていた。
そうして出発した道の後ろから聞こえるグランドマーケットの路地で響く音楽の音がだんだん遠ざかり、露店と通りを照らす灯りが小さく見え、市場の外れで巨大なムールムックの大きさに再び驚きながら、一行は馬車を駆って北へ向かった。
「グラベル様。もしかして……」
リブが馬の進む方向を曲げてグラベルの傍らに近づき、小さな声でためらいながら言った。
「はい? 私に何かおっしゃりたいことがありますか?」
グラベルが手綱を引いて速度を落とし、リブを振り返りながら言った。
「うん……グランドマーケットを出てから、あの後ろの方でついてくる小さな影があるんだけど、気づいてました?」
「え? いえ。私たちと同じ方向へ道を進む商人や旅人じゃないんですか?」
感じられない敵意に、ただ同じ方向の道を行く人だと思ったグラベルがリブに答えた。
「それが……その可能性は低いと思うんですよ。私たちみたいに特別な理由がない限り、こんな遅い時間に道を進むなんて。やっぱりグリックの部下のひとりじゃないかと思って。普通は夜になると道を進まずに野営するものだし……あ、もちろん急ぎならいくらでも夜道を進むことはできますけど。」
リブが慎重に、囁くように小さな声でグラベルに自分の考えを伝えた。
「それなら、私が直接行って確認してきます。」
マナを集中させて、遠く離れた小さな黒い影を、グラベルが馬上から上体を斜めに曲げて眺めた。
視力を強化するマナの脈にマナをさらに集中させると、暗かった夜の下の草原が昼のように明るくなり、色を失った草木や小さな花々さえ色を取り戻したように見えた。黒い空に浮かぶ月があまりにも眩しく見え、その傍らの星の光も目が痛くなるほど明るく輝いていた。
グラベルが眉をしかめてマナの脈のマナを制御すると、遠く離れた場所からディアラの馬車を追う黒い影の姿も鮮明に視界に入ってきた。
自分の体躯よりはるかに大きな背負い荷と、自分の身長より長い両手剣。赤い鱗のドロコ。
ニアだった。楽しげな足取りで地面を蹴りながら歩き、口を開けて鼻歌を歌いながら道を進む姿がグラベルの目に映った。
「あ……私が知っている人です……グリックの斥候じゃないみたい。」
「え? (あんな遠くの小さな影が見えるの?) じゃあ……同じ方向に行くなら、むしろ一緒にいきましょうって誘ってみてください。何か理由があるかわからないけど、夜に道を進むのは危険ですから。」
リブが首を傾げた後、目を細めて首を前に突き出し、暗闇の中の遠くに見える小さな影の正体を確認しようとしながらグラベルに言った。
「はい。それなら、私が行って合流を勧めてきます。」
グラベルが馬を駆って前方へ向かい、そんな事情をリブがディアラとイリスに説明すると、皆が馬を止めてグラベルを待った。
「ニア~、こんな遅い夜にどこへ行かれるんですか?」
手綱をゆっくり引いて馬を止め、グラベルが暗い道端に立ち、ぼんやりとグラベルを見上げて背負い荷の紐を両手でぎゅっと握っているニアに尋ねた。
「カルカ、グラベル! う……うわ、偶然だる。こんなところで会うなんて。あははは! 私……私は北にある村へ行ってただる。」
「ふむ。私たちの後を追ってきたわけじゃないんですよね?」
グラベルが目を細めて口元に微笑みを浮かべ、ニアを追及した。
「あ……いやだる。北にある村に……うん……北の村に美味しい料理をする酒場があるって聞いて、行ってただるよ。」
ニアの瞳が揺らめきながら震えていた。行き場を失って左と右を忙しく行き来する瞳が、グラベルに多くの言葉を代わりに語っていた。
「(少しからかってみようか?) 北のどの名前の村ですか? 私も昨日のフムシャみたいに美味しい食べ物なら、もう一度ニアに紹介してもらいたいですね。」
「え……うん……北スタルンに。」
「北スタルンに?」
「北。北……北スタルンに、大王肉の酒場だる。」
揺れる瞳でぼんやりした表情を保ったまま、口だけを動かしてグラベルの質問に答えているニアだった。
生まれてから一生をイクスタルンで過ごしたため、イクスタルン以外の村や都市の名前をニアは知らなかった。
「なるほど。それならその北スタルンまで一緒にいきましょう。私たちは今日事情があって朝まで道を進む予定なんですが。大丈夫ですか?」
「もちろんだる。カルカと一緒に道を進みながら話すのは楽しいだる。」
「じゃあ。前で待ってる人たちに早く行って合流しましょう。他の人たちを紹介してあげますよ。前に話した私の剣術の先生のイリスも前で待ってるんです。」
「うお! カルカの剣術の先生!」
ニアの歩調に合わせるためにグラベルが馬から降り、ニアと並んで道を歩いた。
「そういえばニア。教えてあげたマナ脈の名前と位置は全部覚えましたか?」
「あ……まだ全部覚えられなかっただる……多すぎて……。」
蚊の鳴くような小さな声でニアがグラベルに答えた。
その後、一行に紹介されたニアは彼らと同行することになった。そうしているうちに、グラベルが「カルカには嘘をついてはいけない」という言葉に、ニアは少し迷った後、静かに自分の行動を告白した。最初はグラベルと一緒にディアラの馬車に行ってマナ脈の名前と位置が書かれた紙切れを受け取った後、トレア商隊の闘技場に戻って荷物を急いでまとめ、すぐにまた馬車が停めてある場所へ向かったこと。そしてそこでグランドマーケットを発つ一行の馬車を発見し、何も言わずに彼らを追って出発したこと。
そして一緒にフムシャを食べながら話した、グラベルが探しているという仲間たちを再び見つける手助けをしたいと言った。
ニアの荷物を馬車の荷台に積んだ後、ディアラの隣に座ったニアとグラベルの会話は続いた。
「ニア。昨日お礼に美味しい食べ物を奢ってもらったんだから、それで十分ですよ。私の仲間たちを探すのを手伝う必要はない。」
「いやだる。カルカ、グラベルがいなかったら、私は今ここにいられなかっただる。」
「ニアは闘技場の闘士じゃないですか。私のことを手伝ったら、いつまで続くかわからない長い時間旅をしなくちゃいけないのに。」
「関係ないだる。カルカを手伝うのがもっと大事だる。」
ニアの決然とした表情と、月光に反射して澄んだ輝きを放つ瞳が、確固たるニアの心をグラベルに示していた。
「ふう……。どうせ拒否してもずっとついてくるんですよね?」
「もちろんだる。」
グラベルが眉間に手を当ててため息をつきながら言った。
「それなら、一つだけ約束してください。いつでもニアが闘技場に戻りたくなったら、そうしてもいいんです。私の仲間たちを探すのはいつになるかわからないことだから。」
「そんなことはないと思うけど、そうするだる、カルカ。」
ニアが口を固く結び、頷きながらグラベルに答えた。
そうして、いつ終わるかわからないグラベルの旅に、小さなドロコのニア・カラゴンが合流した。
後でイリスにニアの同行について意見を聞かなかったのが気になり、グラベルがイリスに遅ればせながら意見を尋ねたが、「グラベル様の決定に私の意見を聞く必要はありません」という言葉と、「グラベル様をお仕えする家臣は多いほど良いですが、ニアの実力が不足しているようですから、私がニアの鍛錬を担当させてください」という言葉を付け加えた。
グランドマーケットの路地でニアが出会った老婆が語った予言の歯車の一つが動き始めた瞬間だった。
Extra
「よろしくお願いします。私はグラベル様をお仕えしているイリスと言います。そして……ニア・カラゴンとおっしゃいましたか?」
イリスが走る馬車の傍らに馬を寄せて近づき、ディアラの隣に座るニアに声をかけた。
「そうだる。カルカの剣術の師匠、イリス。」
ニアがイリスに向かって体を向け、微笑みながら言った。
「あの……そう呼ばないでください。ただイリスでいいです。」
「わかっただる。イリス。」
「闘技場の闘士だって言ってましたね?」
「そうだる。イリス。」
「グラベル様を従うことにしたんですよね?」
「カルカ、グラベルは私の命を救ってくれた恩人だる。カルカに役立つことなら何でもするって決めただる。」
「何でもする、良い心構えですね。それなら……馬車を止めて少し休む時に、ニアの剣を私に見せてください。」
ニアの答えが気に入ったのか、イリスがにこりと微笑んだ。
「剣なら今見せられるだる。ここ……」
ニアが体を回して座っていた場所の後ろに横たえていた「180金貨」を取り出し、イリスに差し出して見せながら言った。
「あ……あの……私の言い方が悪かったです。すみません。ニアの剣術の実力を見せてほしいという意味でした。」
「あ! わかっただる。」
「それと、ニアはグラベル様をお仕えする家臣の中でも一番末席の家臣です。でも私たち家臣の間には地位の高低がないので、別に格式ばる必要はありません。」
「わかっただる。イリス。」
口を固く結び、目に力を入れて頷きながら、イリスの言葉をニアが集中して聞いていた。
「グラベル様もニアの鍛錬を許してくれましたから。明日から始めましょう。覚悟しておいてください。」
新しい仲間、ニアの登場です




