64話 二つの話
番外編 : クイルロブ
鋼と鉄を叩く職人たちの国、ティアト王国。この王国には二人の王子がいた。長男の王子タウトは人々の前に姿を見せず、ただ永遠にその名を残す一本の剣を作ると言い、王宮に閉じこもっていた。そんな兄タウトに代わり、次男の王子クイルロブは王子としてのすべての責務を一人で担っていた。タウトはただ一本の剣だけを望み、自分自身だけを愛していた。一方、ティアト王国の軍を率いる指揮官であり、王国のすべての人々のために生きるクイルロブは、兵士たちの敬愛を受け、ティアトのすべての人々から愛される王子だった。
ティアト王国のすべての人々が、タウトではなくクイルロブ王子が王位を継げば、いや継ぐことができさえすれば、未来のティアト王国はより堅牢で繁栄した鋼の帝国として生まれ変わるだろうと信じていた。
ただ一人。クイルロブだけがそう思っていなかっただけだった。王国のあちこちから聞こえてくる根拠のない噂たちが、二人の王子の仲を遠ざけようとしたが、クイルロブは未来の国王であるタウトに忠誠を尽くし、唯一の兄弟に友情を守り、世間の噂や視線など意に介さず、毎日兄タウトが時間を過ごす王国の鍛冶場のある別宮へと足を運び、王国外の話をして聞かせ、兄タウトが必要とするものなら何であれ手に入れて与えた。
時間が流れ、多くの人々の願いとは裏腹に、タウト王子が王位に就いた。そして、いつものように新しく建てられた王国の鍛冶場にいる国王タウトのもとに、隣国から送られた様々な色の蝋で封印された文書を丸い黄金色の盆の上に載せて、クイルロブが鍛冶場に姿を現した。
「ウィシャ( 国王 )、クイルロブです。」
「ウィシャ。」
クイルロブは慎重に足を進め、壁にかかった古い槌に指先を軽く触れるようにした。
埃が舞った。
「ウィシャ~!」
姿を見せないタウトを探すように、クイルロブが部屋の中をあちこち回りながらタウトを呼んだ。
王宮の鍛冶場はいつものようにむっとする熱気で満ちていた。着ている鎧が息苦しく感じられ、何度も部屋を回ったクイルロブの額からはいつしか汗が流れ落ちていた。
「こちらだ、クイルロブ。」
金床を叩く小さな音とともに、奥の部屋からタウトの声が聞こえてきた。
音が漏れ出る扉に向かって、クイルロブは慎重な足取りで近づいた。
扉を開けると、中の鍛冶場は熱い熱気と鉄の匂いで満ちていた。
その中央で、タウトは小さな矢じりを鉄のトングでつまみ上げていた。
火の光に映った彼の目はトングの先に集中し、手先には微かな震えさえなかった。
クイルロブはその眼差しに一瞬息を呑み、慎重に手に持っていた黄金の盆を彼の前の頑丈な作業台の上に置いた。
盆の上には隣国から送られた、様々な色の蝋で封印された文書が整然と積まれていた。
盆を置く重みとともに響く微かな金属音が、鍛冶場の静寂を揺らした。
彼はすぐにタウトの前に膝をつき、頭を垂れた。
「お時間に余裕がおありでしたら、お読みくださいませ、ウィシャ。」
「兄に言う言葉じゃないから、そんなに固く言うのか、クイルロブ。」
「ウィシャは、私の兄上である前に、この国を治める国王であらせられます。」
「周りには誰もいないぞ。」
「見聞きする者の問題ではございません。ウィシャ。」
「ふうう……好きにしろ。それより、こんな形の矢じりは、どう思うか?」
タウトが先端が鋭く、鋸歯のある矢じりをクイルロブに見せながら言った。
「ウィシャがお作りになったものなら、きっと欠点のない完璧なものでございましょう。工房に伝えて大量生産いたします。」
「そうだな。王国内に閉じこもって金床ばかり叩く役立たずだからな。こんなものもたまには作らないとな……。そうじゃないか?」
「ウィシャ! どうしてそんなお言葉を……」
クイルロブが深く頭を垂れ、タウトに言った。
「ああ、そうだ……クイルロブ。パナラティ族を知っているか?」
「南の国境外の遊牧民のことでしょうか?」
「あの遊牧民たちから受け取るものがあるんだが、お前が取ってきてくれないか?」
「何をお望みですか? 今日にでもすぐに行ってまいります。」
「ナファヒームの宝石というパナラティの宝だよ。今私が作っている剣を飾るのに、それ以外の宝石が思いつかないんだ……」
「それは……」
「お前が鍛えた王国の騎兵たちと一緒に行かないとな。素直にナファヒームの宝石を渡すはずがないからな。」
タウトが手に持ったトングの先の矢じりを鉄のやすりで整えながら、横目でクイルロブの反応を窺い、言葉を続けた。
「困るか? 貪欲に狂った王の命令が、自分さえ堕落させるかと怖いのか?」
少しの間答えを躊躇するクイルロブに、タウトが叫んだ。
「いいえ。ウィシャ。このクイルロブ、王国の将軍として、ウィシャの弟としても、いただいた命令をいつでも忠実に遂行いたします!」
クイルロブが床に頭を叩きつけ、平伏しながらタウトに答えた。
少しでもタウトに躊躇を見せた自分の姿に、腹の中の臓腑を握り絞るような怒りが頭頂まで上がってきた。
「私は……毎日毎日悪夢を見るんだ、クイルロブ。眠れず、金床の上の鋼を叩いても振り払えない悪夢を。目覚めている今も悪夢を見ている気分だよ!」
タウトが自分の襟元を掴み、部屋全体が響くほど叫んだ。
「クイルロブ。お前がいつか兵士たちとともに、私の座と首を狙ってこの部屋に押し入る悪夢だ。だから……だから……。」
「兄上!! 絶対に! このクイルロブが兄上に向かって反旗の剣を掲げることなどありません。この言葉に疑いをお持ちなら、私の両腕を切り落として、永遠に剣を握れなくしても構いません!」
ドンと大きな音が響き、床に頭を叩きつけたクイルロブがタウトに言った。
「そうだ……私がお前を疑うのはいけないな。私の弟よ。私の将軍よ。私の友よ……すまない、少し興奮しすぎた。許してくれ。」
震える顎と涙の溜まった目でクイルロブに近づきながら、タウトが言った。
「いいえ。すべて私の過ちです。ですから、ウィシャのお心を安らかにするものであれば、どんなことでも私にご命令ください。今すぐパナラティの宝を取りに発ちます。ウィシャのお心を不快にさせるすべてを排除いたします。お望みのどんな宝でもお持ちいたします!」
喉が詰まるような絶叫。クイルロブがタウトに向かって頭を床に押しつけ、平伏したまま言った。
「はははは。嬉しいぞ! クイルロブ。ありがとう。私のためにそんな……そんな気持ちで、私のティアトのために……。」
「…………」
「怪物になってくれ。」
番外編 : クイルロブ -終わり-
番外編 : レバドスの平原でのグリック
レバドスの平原の夜は暗い。空の上の月さえ雲に隠れ、地面に長く伸びた草たちが黒い波のように風に揺れ、ササラと音を立て、狩りに出た狼の群れの影だけがぼんやりと見える草原のどこかに、数個の赤い光の炎が舞うように忙しくあちこち動いている。
止まっては動きを繰り返す小さな炎の動きに合わせて、静かな草原の夜には似つかわしくない、金属の物体同士が衝突する耳を刺す鋭い音が止むことなく何度も聞こえてくる。
「新しい依頼じゃなくて、私が依頼対象だなんて、貴重な経験だな、くふふふ。」
乱れた髪と右手と左手の揃わないガントレット、調和の取れない適当に羽織った鎧。グリックと彼の部下らしい軽装の鎧を着た長い髪の男が、互いの背中を合わせ、口と頭を覆面で隠した集団に囲まれて戦闘中だった。
囲んだ集団たちは片手に剣を、もう片手に松明を持っていたり、短い剣、投擲用の短剣、あるいは小さな小型盾を持っていたりした。
「グリック。今頃グランドマーケット内のてめえの部下どもも、毒入りの酒と食い物を食らって処理されてるはずだぜ。」
グリックを囲んだ集団の中の金属の仮面をかぶった男が、手に持った剣の先でグリックを指し、凶報を伝えた。
「だったら復讐は確実にしねえとな。ついて死ぬほどの義理はまだねえよ。鉄仮面、てめえが行って俺の言葉を伝えてくれりゃいいさ。くははは!」
一瞬口元と目に笑いが消えていたが、再び髭の下に歯を剥き出しに笑みを浮かべたグリックが、仮面の男に言った。
「おい。デルレイ、どうだ? まだやれるよな?」
グリックが地面にうつ伏せに倒れた男をちらりと見下ろしながら言った。男の背中と腕には剣で斬られた傷から流れ出る血が地面まで滴り落ち、男の下に溜まっていた。
「くっ……もちろんですよ、親分。血が少し出て疲れた以外は何の問題もありません。すぐ立ちますよ。」
痛みを堪える呻き声を上げながら、傍に立っていたグリックともう一人の仲間から支えられてようやく立ち上がった男が、手に持った斧を握り直し、構えを取った。
「うわぁっ!」
その隙を狙ってグリックに向かって駆け寄ってきた集団の中の覆面をかぶった鉄仮面の一人が、グリックが腿の短剣入れから抜いて投げた短剣を胸に受け、倒れながら叫んだ。
「おい。あの仮面に似合わねえ花の紋章。ヌマスミレだろ? 前回依頼に来た白い髭の爺さんも同じ紋章の指輪をはめてたぜ。馬鹿が素早く指輪を回して隠したのが、かえって頭に鮮明に残っちまったよ。」
腿からもう一本の短剣を抜き、その短剣の先で自分の頭を指しながらグリックが言った。
「どうせ今日てめえは生きてここを抜け出せねえんだから、教えてやっても構わねえよ。俺たちはカビル大公の直属監察隊ルピナスだ。大公閣下は後患を残したくねえそうだぜ……」
仮面に塞がれてくぐもった声で男が言った。
「公爵ともあろうものが、心が貧乏すぎるんじゃねえか? 広い度量を持ってくれりゃどうだよ、伝えてくれねえか?」
「黙れ!」
仮面をかぶった男の手振りに合わせて、男の部下たちが四方からグリックと彼の部下二人に向かって駆け寄った。
一番先に駆け寄った三人が、グリックと傍のデルレイの剣に斬られ、バランスを崩して地面に倒れた。
「ラチェック、てめえはどうだ? 続けられんのか?」
「えー、何の問題もないですよ、親分。あいつらさっさと全部殺して帰りましょうよ。」
ラチェックが長い髪をなびかせ、包囲中の敵たちに向かって駆け出した。
自分に向かって飛んでくる攻撃を素早い動きで避け、周囲の敵たちを斬り倒す。
「うう……くそっ。一体何人いるんだよ!」
しかし、駆け出したラチェックの周囲にさらに多くのルピナスの暗殺者たちが集まり、ラチェックの背中と脚を斬り、傷を負わせる。
「くくく、死ぬんじゃねえぞラチェック。お前騎士になるのが目標じゃねえか。俺よりいい貴族の下でそいつに仕えて、いい騎士にならねえとな。」
グリックがラチェックに近づく数人を後ろから追いかけて斬り倒し、ラチェックはその隙を突いて包囲を突破し、再びグリック、デルレイ、ラチェックがルピナスの暗殺者たちに囲まれる状況が続いた。
「金にならねえ剣振りは、全然やる気が出ねえんだよな、親分! ふうっ。ふうっ!」
苦しい息を吐きながら、デルレイが地面に膝をついた。血を流しすぎたせいか、痙攣する腕でようやく斧の柄を握りながら、デルレイが言った。
「こりゃあ当分酒も飲めねえな、くふふふ。」
デルレイとラチェックの様子を横目でちらりと見たグリックが、自分の腕にできた傷から流れる血を見て、しかめ面と口元に苦笑いを浮かべながら言った。
「さあ……もっとかかってこいよ。この体を殺すならトールマンくらい雇わねえとな。だろ?!」
グリックに向かって飛んでくる数十本の剣。月光を背に、グリックの剣刃に反射した光が血を飛び散らせながら閃く。
番外編 : レバドスの平原でのグリック -終わり-
今回は、二つの短い物語をお届けしました




