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63話 赤い鱗のドロコ (12)

「武……器ィィィィィ~!」


「武ゥゥゥゥ! 器ィィィ!!」


息を吸い込みながら発するような奇怪な音を出し。


キギギギクと笑い声を上げて笑うクイルロブの体から生まれた四番目の腕が、止まった男の剣を握る手の上を覆っていた。


男の頭上には、すでに息絶えた仲間の断片となった体から出た血と肉片が、チャプチャプと音を立てて降り注ぎ、着ていた鎧と皮膚と筋肉が引き裂かれる音を立てて、剣を握っていた腕が肩ごと引き抜かれた。


苦痛の悲鳴を上げる暇もなく、四本の剣が男を斬り下ろし、立ったまま切り倒した。


「うわぁぁ!」


「ひぃぃ! 怪……怪物……」


「ありえない……ありえない……どうして……どうしてあんな怪物が……」


肉片が飛び散り、骨が切断される凄惨(せいさん)な音とともに、仲間の体が剣に押されて二つに裂かれ落ちた。その恐ろしい光景の前に、クールトと残った二人は、まるで粘つく恐怖に足を貼り付けられたように、目は見開いたものの全身は凍りつき、逃げようとする本能さえ彼らの脚を動かすことができなかった。


恐怖による思考の停止。血の気を失った蒼白(そうはく)な顔で、目に涙を溜めながら、近づいてくるクイルロブを凝視(ぎょうし)していた。その(まばた)間、遠くからウェイララの声が聞こえてきた。


「どけ! この馬鹿ども!」


-パチパチ、パチパチジジジ!-


紫色の雷を両腕に巻きつけたように纏ったウェイララが姿を現した。


腕を覆った雷の筋が集まり、鋭い爪を持つ獣の前足のような形を成していた。


ウェイララが体を屈め、力を集め続けると、周囲の地面に放電する雷の枝がどんどん増えていった。


『私のすべてのマナを集めた一撃だ! ライトニング・クロー!』


ドンと落雷のような音とともに、ウェイララが高く跳び上がり、腕に纏った巨大な雷の爪を先頭に、グラベルに向かって落下した。


「纏ってる魔法の鎧なんか、ぶっ壊してやる!」


落下するウェイララの体が大きく膨らんだように全身の毛が逆立ち、見開いた目と牙を剥き出しに、ウェイララが叫んだ。


「大丈夫です。」


突進してくるウェイララに向かってニアが剣を抜こうとしたが、グラベルがニアの肩に手を置き、大丈夫だという言葉とともにニアの行動を止めた。そして続けて、手のひらをウェイララに向け、魔法陣(まほうじん)を展開した。


「(トクトゥラの岩拳) Toktura Kaihari Dutse!」


グラベルが呪文の名を叫ぶと、明るい黄色の光を放つ魔法陣の中から、ウェイララの姿が隠れるほど巨大な、赤い光を帯びた茶色の拳を握った形に彫られた岩が姿を現した。


「うぅぅっ!」


姿がぼんやりと潰れたように見えるほどの速さで飛んだ岩の拳がウェイララに命中した。


その衝撃とともに、ウェイララの体を覆っていた紫色の雷が力を失ったように、強い風前の蝋燭のように光を失い、散らばった。


トクトゥラの岩拳とともに、枝葉が覆い影の濃い方向へ飛ばされ、ウェイララの姿が消えた。


続いて、ウジウジと音が連続して何度か聞こえ、最後には雷鳴のような岩の割れる音が遠くから聞こえてきた。


『惜しいな……トクトゥラの大地属性魔法は繊細(せんさい)で美しい彫り模様が特徴なのに……速すぎて見物もできなかったな……』


「麻痺の気配は完全に消えましたか?」


「……ん? あ! 今はもう何ともないだる。」


ぼんやりとグラベルが放った岩拳の通った方向を見ていたニアが、グラベルに答えた。


「レ……レルだよね? さっきの黒い毛の……」


「そうだる。猫に似たレルだ。」


「うん。とにかく、倒したみたいです。」


視力強化のマナ脈の能力で、遠くの割れた岩の破片と折れた木々のある場所に、生命の気配なく横たわるウェイララの姿を確認したグラベルが、ニアに言った。


「クイルロブももうほとんど片付けてるようですね。」


ウェイララがグラベルを攻撃している間に、クールトと残った二人の仲間も、ウェイララの勢いに応じてクイルロブに向かって駆け出した。


クイルロブの頭上から攻撃しようと木に登っていた一人は、クイルロブの手に持った刀に木ごと刺され、赤く木を血で染めながら倒れ、愚直(ぐちょく)にクイルロブに向かってまっすぐ直線で走っていた男も、地表と水平に振るわれたクイルロブの二本の剣に腰が断ち切られ、脚が崩れるように折れ、体が二つに分かれて地面に倒れた。


最後に残ったのはクールト。クイルロブが武器を持った者だけを狙うと思ったクールトは、手に持った剣を地面に置き、クイルロブに向かってうつ伏せになった。絶望的な状況で思考を回転させ、ようやく思いついた策だった。


『武器を欲しがってるなら、ここに私の剣を捧げます。』


『私はあなたに抵抗しません。』


クールトが言葉の通じないクイルロブに向かって体を低くし、額を地面に着くようにうつ伏せになった。


「フゥゥゥ~」


息を吸いながら発する、身の毛もよだつクイルロブの息遣いがクールトの耳に聞こえた。


そして、粘つく沼の泥をかき回すようなクイルロブの眼球が動く音が聞こえ、うつ伏せになっているクールトの前に置かれた剣を拾い上げた。


『静かだ……通じたのか……?』


目の前で持ち上げられた剣を見た後、息さえ慎重に吐き、痙攣(けいれん)する顎を落ち着かせながら、ゆっくり頭を上げた。


頭を上げたクールトの前には、七本の剣が迫っていた。


クイルロブにとってクールトは、ただ武器を持っていた敵が武器を置きうつ伏せになった敵になっただけだった。


肉片と骨が切断される音と、クールトの短い悲鳴だけが静かな森に広がった。


しばらく後、与えられた仕事を終えたクイルロブがグラベルに近づいてきた。手に持った剣たちを前に置き、熱い火のそばの蝋燭のように体が溶け、地表に溶け込みながら消えた。





*****



グラベルとニアがグランドマーケットに戻る道。薄暗いトラカ木の森を抜けると、日が沈みかけていた。


森を抜けた後も、長い草の間を掻き分けながらかなり歩いた後でようやく、大市場へ続く馬車の車輪跡のある道に入ることができた。


「カルカ、グラベル。気になることがあるだる。」


黙ってグラベルの横を歩いていたニアが、沈黙を破ってグラベルに尋ねた。


「はい。言ってみてください。」


「どうして私を助けたのだる?」


ニアが横を歩くグラベルに顔を向け、上目遣いに尋ねた。


「うん……クールトという人と話している最中に誘拐されるのを見たからでもあるし……ニアの姿が昔の友人を思い出させたからでもあるし……そして決定的には、遠くから彼らの会話を聞いたからでもあるよ。」


グラベルが何かを思い出すように沈みゆく空を見上げながら答えた。


「カルカにもドロコの友達がいるのだる?」


「多分ドロコじゃないと思うよ……竜に似たサウール種族の中でも一番小さいグレッカーだよ。」


「聞いたことのない種族だる。」


「うん。ラヴィルーン大陸にはいない種族です。私が知ってる人とニアが似てる点は外見だけじゃないよ、腰に差したその剣のように長い武器を使う点も同じだよ。ただ、ニアの剣のように真っ直ぐな両刃剣じゃなくて、片側にしか刃のない曲がった刀を使うっていうのは少し違うけどね。」


「うぅむ……じゃあ、その友達はカルカ、グラベルほど強かったのだる?」


「うん。とても強かったよ。時々二人で冒険に行く時は、魔法使いの私は後ろに、その友達はいつも前に立って私を守ってくれてたから。」


グランド・ワールド・オンラインでは、グレッカーは近接職をするにはあまりにも不利な種族だった。体格が小さく、同じレベルの他の種族に比べて近接職に必要なステータスが圧倒的に不足し、敏捷さと小ささで斥候系や盗賊系の職業がより適した種族だった。


龍刀帝(りゅうとうてい)ドロロ。すべてのグレッカーの欠点にもかかわらず、大陸の東側で長い時間を冒険し名声を積み、東方の皇帝から龍刀帝という名を受け取るほど、グランド・ワールドではユーザーとNPCたちに実力と経験でその名を広く知らしめたプレイヤーだった。


グラベルと縁が繋がり、時々会ったり連絡を交わしたりしながら親しくなったグラベルの数少ない友人。グラベルの目にその友人の姿がニアの姿と重なり、懐かしい昔の時間を遡り、あの時の楽しかった時間を再び思い浮かべていた。


『そういえばドロロさんにソード・オブ・イースト・エンドをようやく手に入れたって自慢もできずに異世界に来ちゃったな。きっと一緒に喜んでくれたはずなのに……』


腰に差したソード・オブ・イースト・エンドを触りながら、グラベルが苦笑いを浮かべた。


「カルカ。グランドマーケットに戻ったら、美味しい料理を私が奢るだる。」


ニアが頭を下げて地面を見ながら歩くグラベルに言った。おそらくグラベルのどこか寂しげな表情がお腹が空いたせいだと思ったのだろう。お腹が空くと悲しい。歩みに力がなくなる。


「お? 美味しい料理か。とても楽しみだよ。」


「キシャの羊という食堂だる。カルカにもフムシャを味わわせてあげたいだる。」


「フムシャ? 料理の名前かな? はは。期待してるよ。早く味わいたいね。」


明るくなったグラベルの表情を見て、やはり自分の予想が当たっていたと確信したニアが、グラベルに続いて大きく笑い声を上げた。丘陵地の最も高い丘の上に登ると、遠くにグランドマーケットの姿が見えた。


だんだん暗くなる草原に、一つ二つと勤勉な商人たちが灯した火の光が生まれた。草原の上に生まれた色違いの小さな灯りが、とても美しく見えた。


「カルカ。カルカは魔法と剣の両方を上手く使うなんてすごいだる。私もいつか魔法を学びたいだる。」


「はは。褒めてくれてるのかな? 剣は学んでからそんなに経ってないよ。ニアのほうが剣にはずっと慣れてるはずだよ。そして魔法は騎士たちが修練するスチール・パスのマナ脈を鍛えるのと同じくらい学ぶのが難しいことだよ。」


「マナ脈? それ何かわからないだる。」


「うん? じゃあ、スチール・パスって言葉は?」


「初めて聞くだる。」


生まれて初めて聞く言葉にニアの目が大きくなり、歩みを止めて目を瞬かせながらグラベルを見つめた。


グラベルも、八角闘技場で見たニアのレベルなら、スチール・パスという言葉は知らなくても当然マナ脈の存在と修練法は知ってるはずだと思っていたので、続けて言う言葉が頭の中で絡まり方向を失い、ただぼんやりと目を見開いたままニアを凝視するだけだった。


「うん……まずはマナ脈について勉強しないとね。そして魔法を使うにはマナの総量も少ないだろうし、それも……私もマナ脈の修練を始めたのはそんなに前じゃないから、そんなに役に立てないと思うよ。」


「大丈夫だカルカ。カルカ、グラベルが教えてくれるなら、何でも学ぶだる。」


ニアが固く握った拳を見せ、決意の心を示した。


「じゃあ、グランドマーケットにあるニアの言った食堂まで歩きながら基本的なことを教えてあげるよ。あ! それとさっきから気になってたんだけど……カルカって何の意味だい?」


「命の恩人という意味だる。」


ニアがにっこりと微笑みながらグラベルに答えた。

クイルロブの無慈悲な戦闘シーン、いかがでしたか? クイルロブの異質さが伝われば嬉しいです

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