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62話 赤い鱗のドロコ (11)

青緑色の明るい光の筋が、ニアの左腕を掴んでいたグロングの背中を貫いた。


ブシュゥッという鈍い音とともに、胴体(どうたい)の肉片と皮が裂け飛ぶ音が響き、グゥルルル……と血の泡混じりのうめき声を上げて、一体のグロングが崩れ落ちた。


そして、倒れたグロングの背中を突き抜けた光の矢は勢いをゆるめず、さらに遠くのトラカ木の太い幹をへし折り、ようやく森の闇を切り裂いていた青緑の輝きが消えていった。


「一体何が……ぐぅっ!」


慌てて光の正体を確認しようと首をねじった瞬間、銀色に輝く剣先がワルロンの背中を貫き、胸の前でその姿を現した。


「ぐぐっ……! こんな……!」


背中を貫いた剣先が目の前から消え、代わりに真っ赤な血が噴き出した。苦痛に歪んだ顔で胸の傷を手で押さえながら、ワルロンは背後から現れた襲撃者の正体を確かめようと体をひねった。


まっすぐに伸びた長い剣身(けんしん)(つか)の先端に飾られた独特な獣の意匠(いしょう)。垂れた青い紐、そしてその柄を握る、華麗な細工の青い宝石が嵌められたガントレット。その瞬間、ワルロンの視界に飛び込んできたのは、自分の首めがけて飛んでくる襲撃者の剣だった。そして、襲撃者の黒い髪が覆うフードの隙間から覗く瞳。


──チュワァァック!


ワルロンの頭が、かぶっていたぼろぼろの布帽子ごと切り飛ばされ、ニアの前方へ転がっていった。


「(おっ、ディリットの魔法矢・貫通型も命中したな)……すまない、ニア。事情をもう少し把握しておかないと、俺に迷いが生じてしまうから、少し遅くなってしまった。」


足首まで覆う黒いフード付きのクロークを纏ったグラベルは、ニアの腕に嵌められた金属の拘束具(こうそくぐ)の隙間に剣先を滑り込ませ、錠の継ぎ目を断ち切って両腕を解放した。


「これは……予想外だな……?」


ウェイララはダーク(Dirk)を握り直し、姿勢を低くして木と茂みの影へと後退しながら言った。


「尾行されていたのか?」


「まさか。何度も確認したはずだぞ」


「Rwoook! ワルロン! プロラク!!」


突然現れた襲撃者の姿を見たクールトとその仲間たちは、腰の(さや)から剣を抜き放ち、グラベルに向かって構えた。


最後に残ったグロングも、床に倒れた動かない仲間たちを見て、腰の武器を抜き出した。


「ふむ……逃げたり降伏したりは、なさらないでしょうね? こうも躊躇(ちゅうちょ)なく魔法と剣を振るえる相手は、そうそういませんから」


穏やかな微笑みを浮かべ、静かで柔らかな声でグラベルが言った。


『まずは毒に侵されたニアの解毒を……周囲は木や草が多いし、火や雷属性は避けたいな……それでも使える手はまだいくつかあるが……どれが最適だろう)』


グラベルは思案(しあん)しながら、ニアに向かって左手のひらを広げ、解毒の呪文を唱えた。


「ありがとう……だる。」


アルディド鳥の毒が体から抜けていくのを感じたニアが、グラベルに礼を述べた。


「グラベルです。闘技場での試合、よく見ていましたよ。印象的な剣技でした」


「私も……手伝うだる」


ニアが体を起こし、地面に投げ出されていた自分の剣を拾い上げながら言った。


「ここは私が片付けます。解毒は済んだでしょうが、まだ体を休めていたほうがいい」


もう一度ニアに向かって手を広げ、回復魔法をかけ、傷が癒えるのを確認した後、グラベルは仲間を二人失って一人残ったグロングに向かって歩き始めた。そして歩きながら、マナ脈にマナを流し込み、循環させ始めた。


『このマナ脈の効果は相当だな……レプルサとパボルにマナを循環させるだけで、足から全身に力が漲る(みなぎる)感覚だ……今回、この誘拐犯たちを相手に、もう少し複数同時維持しながら戦ってみるか……イリスの言う通り、実戦で制御しながら維持するのが大事だから』


足を止め、右手のソード・オブ・イースト・エンド(東端の剣)の柄をより強く握り直し、左手の拳を固く握りしめながら、グラベルはマナ脈から湧き上がる力を全身にさらに増幅させていた。


一陣の突風が吹いたかのように、グラベルの裾がはためき、周囲の草木が揺れた。


「Gwooh!」


残ったグロングの一体が、顎の下を大きく膨らませて咆哮(ほうこう)を上げ、姿勢を低くして両足と剣を持たない手で地面を突き、グラベルに向かって跳躍した。


「ふむ……」


迫り来るグロングに対して、グラベルは体を横向きにし、左腕を差し出した。


その奇妙な行動に、跳びかかったグロングは目を大きく見開き、一瞬ためらったような気配を見せたが、すぐに決断したのか、持っていた剣をグラベルの腕めがけて振り下ろした。


「ぐぁあっ!」


しかし、グラベルの腕を斬ろうと振り下ろしたグロングの剣が折れる音とともに、グラベルは素早く差し出していた腕を折り畳み、手の甲でグロングの胴体を打ち据えた。


その背後から隙を狙っていたクールトと仲間たちは、目で追うこともできないほどのグラベルの速さに息を飲み、動きを止めて目の前の光景を理解しようとした。


折れたグロングの剣……身に着けていた金属製の胸当てが大きくへこんだ跡、そして地面に叩きつけられるように飛んでいき、首を力なく垂らして動かなくなったグロング……一番前にいたクールトが、仲間たちに手で合図を送り、グラベルを取り囲むようにさせた。


『ふむ……武器を包むシンギング・ウェポンの原理を応用して、体を覆うように試してみたが、効果は上々だな……確か、トルド伯爵がくれた本にも似た記述があったはずだが……とにかく、これを極めれば別途防護系魔法を張らなくても済みそうだ』


周囲の敵の気配を気に留めず、グラベルは左腕を折り畳み、グロングの剣を折った箇所を確かめていた。


「魔法だ! あいつ、体を護る魔法を使ってやがる!」


「いいアームガードを着けてるんじゃねえのか?」


「腕を見てみろ! 剣を防いだ部分を!」


仲間の問いに、クールトが叫んで答えた。もし良い金属製の護腕を着けていたなら、グロングの剣が当たった部分の布は破れていたはずだ。しかしグラベルが羽織る黒いクロークの袖部分は、糸一本ほつれていないのを見て、そう説明したのだ。


そして、グラベルが最初に姿を現したときに二体のグロングの一体を貫いた魔法も合わせて、グラベルが魔法の力で体を護っていると確信した。


「うーん。攻撃をためらっているようだな……(今回は吟遊詩人王ウルリヒの剣を試してみるか……)」


グラベルは手に持った自分の剣を見ながら考えた。


「(いや、こういう時はむしろ召喚魔法を!)それでは、私の召喚獣をお相手願います」


グラベルは剣をゆっくりと鞘に収めると、静かに片手を地面に向かって伸ばした。指先から広がったマナが地表を伝い、精緻な魔法陣(まほうじん)を描き出した。


瞬間、魔法陣が明るい黄色の光を灯すように揺らめき、周囲の闇を押し退けた。


魔法陣の中心から、灰色の粒子が音もなく立ち上った。それらは不規則に浮かび上がり、互いに衝突し、ぶつかり合い、やがて形を成し始めた。


粉のような小さな粒子が集まって小さな物体になり、さらにそれらが集まって動物の後ろ脚のような形が生まれ、その後には胴体ができた。右の脇腹(わきばら)と左の肩の上には、鋭い牙とその奥に見える紫色の舌を持つ奇怪な口が付いていた。


太く短い首に載った頭部には、巨大な眼が一つだけあった。鼻、耳、口——通常の顔に備わるべき器官はなく、顔の半分以上を占めるほどの大きな眼が魔法陣の中で形を成すやいなや、素早い動きで周囲の存在を探ろうとした。


「わははは! 召喚失敗かよ!? 腕のない怪物なんて何に使うんだ?」


クールトの一味の中で一番の大男が大声で笑いながら言った。そして右手に持った剣をくるくる回しながら、グラベルの前に立つ怪物に近づいていった。


「おい! 魔術師よ、これちゃんと再召喚し直したほうがいいんじゃねえか?」


怪物のすぐ前まで来た男がさらに大声を上げた。そして剣を高く振り上げ、怪物に向かって振り下ろそうとしたその瞬間——


チュワァァックという鳥肌が立つ音とともに、怪物の体から蛇のように長く細い腕が飛び出した。その腕は血まみれの地面を這うように探り、腹に穴の開いたまま倒れているプロラクの傍らに落ちていた剣を掴み取った。


そして反対側の、首のないワルロンの傍らに落ちていた剣にも、新しい腕が餌を捕らえるトカゲの舌のような動きで剣を拾い上げた。


「ぎゃああああっ!」


続いて男の悲鳴が上がった。


怪物のひらひらと揺れる腕に付いた長剣が男の腕を切り落とし、もう一本の剣が男の体を刺し貫いて持ち上げた。


「武……器……武器を……俺に寄こせ……」


「武器を寄こせ!!!!!」


切り落とされた男の腕に握られていた剣を別の腕が生えて拾い上げ、怪物の体に付いた二つの口が森中に響く大声で叫んだ。


タウトの徴武官(ちょうぶかん)『腕切りクイルロブ』。


グラベルがソード・オブ・イースト・エンドに関連するクエストを進めながら得た召喚魔法で呼び出せる召喚獣だ。


ゲームの設定によると、ソード・オブ・イースト・エンド入手前はこの召喚呪文はマナを消費するだけの無意味な魔法だったとグラベルは認識していた。


『ん? そういえばクイルロブを実際に召喚したのは俺が初めてか……この魔法を異世界で使うことになるとはな……それにしても、挿絵(さしえ)よりずっと不気味な姿だな……』


目の前に立つクイルロブの姿に呆然(ぼうぜん)と見入るニアの隣に並んで立ち、グラベルはクイルロブの姿を眺めていた。


「腕……腕が生えてきたぞ!」


「攻撃しろ! 今がチャンスだ!」


ドサドサと赤い血が地面に降り注ぐ音。


「うわあああ!」


クイルロブの剣に体を持ち上げられた男の胴体に、さらに二本の剣が次々と突き刺さった。刺さった傷口から血が流れ、命の火が消えかけた男は、続けて刺さった衝撃に体をびくびくと痙攣(けいれん)させるだけだった。


そんなクイルロブを見て、クールトの仲間の一人が隙を突いて突進し、剣を構えた。


「怪物め! 首を落としてやる!」


突進してきた男の体がクイルロブの巨大な眼と正面からぶつかった瞬間、凍りついたように止まった。全身上を締めつけるような凶悪な殺気(さっき)。後ろ首を噛みちぎられるような殺気、心臓を握りつぶされるような悪意がクイルロブから放たれている。


クイルロブの体に付いた口たちの口角が吊り上がり、先端が尖り、ぎざぎざの牙を見せて不気味に微笑んだ。

ご一読ありがとうございました。 グラベルの魔法とクイルロブのビジュアルが、読者の皆様にうまく伝わっていれば幸いです。 次回の更新もどうぞお楽しみに。

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