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60話 赤い鱗のドロコ (9)

「ぐぅわぁぁぁむ!」


ニアは置いてあったピスクの串を手に取り、一番肉厚な(どう)の部分に眉間にしわが寄るほど口を大きく開けて、がぶりと噛みついた。


パリッとした皮の食感。次に舌を包む皮の油と魚の脂の濃厚な旨味が広がり、淡白な白身の味に振りかけられた塩の刺激が口いっぱいに満ちる。


「くぁぁぁむ! 美味しだる!」


ニアは真紅のザクロジュースに、ドワーフの濃い火酒を慎重に混ぜた。二つの液体が混じり合い、淡い薔薇色に染まる。その色合いだけで食欲をそそられた。ニアはそれをたっぷりと口に含んだ。舌先を(かす)める甘くほろ苦い味、続いて燃えるような蒸留酒の勢いが口いっぱいに広がった油をきれいに洗い流し、喉を通るときには熱い息吹さえ伴った。


口の中が痺れるように熱くなり、喉を伝って落ちた火酒の力が腹の底まで熱く染み渡る。硬い木の椅子が柔らかな毛皮のクッションの上に座っているような感触に変わり、火酒の熱がニアのお腹から全身へ広がっていった。


夢中でピスクを噛みちぎっているうちに、いつの間にか手に持った串には魚の骨だけが残っていた。


『レルが持ってきた干し果物の欠片を振ってみだる。』


ニアは三本の指で、皿の上にある色とりどりの干し果物の欠片をつまみ、ピスクの焼き魚の上に振りかけた。


まだ温かい焼き魚の上に干し果物の欠片が乗ると、異国情緒あふれる果物の香りがニアの鼻をくすぐった。甘い香りに誘われて素早く一口かじると、舌と口の中を過ぎて広がるピスクの味、そしてそれに混じって舌を刺激する果物の風味が、魚の身の味と溶け合い、先ほど食べたピスクとは違う新しい味わいを生み出した。


冷たいザクロを混ぜた火酒との相性も抜群で、二匹目のピスク焼きもあっという間に白い骨だけを残して皿の上に置かれた。


しばらくして満足げな食事を終え、ニアは微笑みを浮かべて席を立った。


「お越しくださってありがとうございます。またお越しくださいなオ~」


会計を済ませたレルの店員の送り言葉を受けながら、ニアは路地の方へ歩き出した。


「うーん! これでキシャの羊まで歩く元気が出ただる。その前にドワーフのドラムに、試合で勝ったって知らせなくちゃだる。」


膨らんだお腹を軽く叩きながら、ニアは軽やかな足取りで道を進んだ。





*****



ニアの足取りは軽やかだった。吟遊詩人が歌いながら歩くような、しなやかな歩みで、時には膝を高く上げて歩いたり、地面をなでるように素早く歩いたりしながら、様々な大きさや形の馬車が並ぶ路地を進んでいく。


馬車の横や前に置かれた露店の主人たちが声を張り上げて客を呼び込み、またある商人は無言で微笑みを浮かべ、自分の商品である小さな短剣を片手に持ち、もう片方の手でそれを指し示しながら通りすがりの客に見せている。


-ワン! ワンワン!!-


店主のいない露店を守っていた黒と灰色の毛が混じった犬の吠え声に、ニアは足を止め、音のする方へ歩みを変えた。


「店主はどこに行ったんだる。」


-ワン! ハッハッハッ!-


片膝を地面につけて姿勢を低くしたニアが、露店を守っていた犬の背中を撫でながら言った。


ニアと目が合った犬の尻尾が、左、右、左、右と素早く激しく振れる。


「くひひ! 俺が泥棒だったらどうするつもりだる。」


犬は体をひっくり返して腹を見せながら横になり、ニアが胸と腹を掻いてあげると気持ちよさそうに尻尾をさらに激しく振った。


「ニア・カラゴン?! 闘技場の闘士、ニア・カラゴンさんですよね?」


男の声がニアの背後から聞こえた。


「うーん?」


犬を両手で撫でていたニアが顔を上げ、自分の名前を呼んだ声の主を確認した。


「やっぱり! 長い両手剣を持って歩いている赤い鱗のドロコは珍しいですからね。ドアジュとの試合、しっかり見させてもらいました!」


快活な声の男だった。ごく普通の服装に暗い灰色のマントを羽織り、短い茶色の髪の人間だった。


一つ変わった点は、振り返ったニアに握手を求める手にあった。奇妙な獣の刺青(いれずみ)が刻まれた手の甲、そして傷からできた多くの瘢痕(はんこん)が見えた。


「試合を見てくれたのか。ありがとうだる。」


体を起こして男の手を握り返し、上下に振って握手しながらニアは言った。


「ええ~、とても近くで見てましたよ。正直、ドアジュが勝つと思っていたんですが、試合中盤でひゅんひゅんドアジュの攻撃をかわすところから、なんかニアさんが勝つんじゃないかって直感がビビッ! と来たんです!」


その瞬間の記憶が蘇ったのか、男は拳を強く握って見せながら、熱のこもった口調でニアに語った。


「まだまだ練習が足りない。今日は運が良かっただけだる。」


ニアは謙虚な言葉で男の応援に答えながら、腰に()いた自分の剣『180金貨』を優しく撫でた。


「それにしても、試合が終わってそんなに時間も経っていないのに回復が早いですね? 確か肩に……」


男は首を少し傾げながらニアの肩をちらりと見て質問した。


「闘技場の治療浴槽ですぐに治療してもらっただる。なんとかきの粘液(ねんえき)だったかな。よく覚えてないだる。」


「おお! なるほど。そういう設備があるのも納得ですね。試合後ってみんな傷だらけですから。」


-ワン! ワン! ワンワン!-


二人の会話に割り込むように、ニアの横にいた犬が大きく吠えた。気を引きたがるような吠え声だと察したニアが手を伸ばし、犬の頭を撫でた。


「そういえば、名前を聞いてなかっただる。」


片手はまだ犬の頭と顎を交互に撫でながら、男との会話を続けた。


「え? あ……俺の名前はクールトです、クールト・ベインです。」


クールトは明るく笑顔を浮かべて自己紹介した。


「じゃあクールトはグランドマーケットに闘技場の試合を見に来たのかだる?」


「あ、いや。闘技場は仲間と待ち合わせる前にちょっと寄って見ただけで、本当はある品物を手に入れるためにここに来たんです。」


「おおん。それで、その品物は手に入ったのかだる?」


「はい、手に入れました。ただ、品物を渡してくれた商人がなかなか値引きしてくれなくて、一時間近く他の品物まで買ったのに少しも妥協してくれなかったんですよ。」


クールトの口角が下がり、顔の笑みが薄くなっていった。そして数歩、ニアに近づいた。


ニアの横にいた犬が低く唸って近づくクールトを警戒した。


ニアはその様子を見て、クールトは時々動物たちとあまり仲良くなれないタイプの人だと思った。


「だから苦労して手に入れたのが、このアルディドという鳥の羽です。」


クールトは青みがかった黒い小さな羽を(ふところ)から取り出して見せた。


「アルディド鳥の羽に宿る毒は、巨大なムールムックですら気絶させる強力な麻痺毒だそうです。獲物を殺さずに麻痺させるだけなので、俺たちみたいな人間が使うにはかなり便利な毒なんですよ。」


説明を終え、クールトが懐から取り出した小さな鳥の羽は、いつの間にかニアの右手の甲に突き刺さっていた。


一瞬のことだった。ニアの視界がぼやけていく。


横で犬が激しく吠える声が徐々に小さく聞こえる。


腕と脚の感覚がなくなっていく。


「おい~ロンド~、これちょっと一緒に持ってくれ~」


クールトの声が聞こえる……そして見えるすべてのものが暗くなりぼやけ、クールトの声が次第に弱まっていくのを最後に、ニアの耳には何も聞こえなくなった。





*****



グランドマーケットの外、ずっと南。長く伸びた草原の草を越え、馬で駆けてもかなりの距離があるところに、鮮やかな緑を誇る常緑樹(じょうりょくじゅ)の森が現れる。


トラカ木の群生地(ぐんせいち)。数十本の太い枝が広く長く伸び、枝に沿って生えた広い葉が陽光を遮り、昼間でも森の下は薄暗い。多くの枝が集まるトラカ木の幹は、大きな城の礎石(そせき)の上に立つ石柱のように雄大さを誇っている。


陽が当たらず風も吹かないため、湿った空気が漂うトラカ木に囲まれた森の中央に、暗い濃い灰色のマントをまとった一団が立っていた。


五人とも同じ色のマントを肩に羽織り、地面から突き出たトラカ木の根の上に腰掛けたり、木の幹にもたれかかったりしていた。


「目標のニア・カラゴンを連れてきた。まずは約束のものを渡してもらってから話を始めよう。」


小柄で茶色の髪の男——クールトだった。


他の四人を後にして前に進み、空地の中央へ歩きながらクールトが低い声で言った。


静かな森の真ん中だったため、それほど大きな声ではなかったが、周囲にははっきりと聞こえた。


「Gwook! ここに約束の金貨だ。分けやすいように五つの袋に分けて持ってきたぞ。」


苔のついた茶色の外套の下からぬめぬめとした緑色の肌を見せるグロングが、水かきのついた丸くて短い指で、五つの革袋を振りながらクールトに見せた。


「これはこれは。こんなに気を使ってくださるとは、感謝します。」


クールトは自分の右側、濃い木陰の中にいる三体のグロングの方へ歩きながら言った。


「数えなくても大丈夫ですよね?」


「もちろんだ。」


クールトの言葉に、指の間に通した紐を滑らせて革袋をクールトの手に渡しながら、緑色のグロングが言った。


グロング特有の、口の中で丸く響くような声だった。


「えー……。じゃあ、レルのお姉さんも約束のものを渡してくれますよね?」


クールトはグロングから受け取った革袋を片手ずつ別の手に移しながら、残りの四人の仲間に投げ渡した。


チャラチャラという音を立てて、それぞれの袋がクールトから少し離れた場所にいた四人の仲間の手に渡る。


「ナイトスターの中くらいのを二つ持ってきたけど、投げて渡そうか? あの蛙どもみたいに気遣いはできないから、分けるのは自分でやってくれ。」


もう一本のトラカ木の後ろから姿を現した黒い毛並みのレルが、黄色い眼光(がんこう)を闇の中で光らせながら現れた。


「え? いや、俺がそっちに! うぐっ!」


クールトが答える間もなく、レルの手から放たれた森の闇の中で輝く二つの緑色の丸い玉が、クールトに向かって飛んできた。


慌てて両手を頭の上に掲げ、飛んでくる小さな石ほどの二つのナイトスターを何とかキャッチしたクールトが、大きく安堵のため息をついた。


「それにしても……実物は初めて見るな。これがナイトスターか……」


クールトは手のひらを開いて、明るく輝く二つの小さな球体を眺めた。


夜を照らす宝石ナイトスター。油も必要なく熱くもなく風にも揺れない光。宝石としての美しさと実用性を兼ね備え、価値が高いと聞いた記憶が蘇った。


「ふぅーん? 値が足りないんじゃないかって心配? むしろ約束の額より多いはずだよ。疑わしいならあの蛙どもに見せてみな。見た目は気持ち悪いけど、宝石のことならよく知ってるからさ。」


長い尻尾の先をゆらゆらさせながら、レルがクールトに言った。


「Gwooouk! レル! 誰が気持ち悪いってんだ!」


顎の下を膨らませて、緑色のグロングの横にいたもう一体のグロングが叫んだ。


「まあまあ、落ち着いてくださいよ。レルのお姉さんがそこまで言うなら、別に確認はしませんよ。」


クールトはナイトスターを懐にしまい、咳払いをした。そして再びグロングとレルの間で会話を続けた。

勝負に勝って兜の緒を締める暇もありませんでしたね。得体の知れない男、クルトの目的とは一体何なのでしょうか。

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