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57話 赤い鱗のドロコ (6)

八角闘技場(はっかくとうぎじょう)を横切る巨大な帆布(はんぷ)


強烈に照りつける日差しを遮るため、闘技場の馬車と馬車の間の広い空間をまたぐように張られた巨大な黒い帆布が、大きく影を落としていた。それでも空全体を隙間なく覆っているわけではないので、その下の客席や武舞台(ぶぶたい)の上には、強い日差しが容赦なく降り注ぐ場所もあった。


日差しが頭上に照りつける客席の観衆たちは、次の試合を紹介するために武舞台の中央に立っている濃い茶色のローブを着た男と、その隣に立つ巨漢の男を見るため、眉の上に手のひらを広げて額に当て、眩しい太陽を遮っていた。


「いぃぃぃ〜っ! イクスターンの赤き龍! 無敗の野牛鉄槌(てっつい)ドアジュを打ち倒すために、闘士たちの聖地! ラウドの神聖な円形大闘技場に舞い降りた、赤い鱗の闘士! ニィィィィア! カラゴォォォン!」


闘技場の控室(ひかえしつ)の向こうから、自分を紹介するような声が響き、同時に武舞台へと続く分厚い木の扉が開いた。


「うっ、眩しいだる……」


目を強く細め、顔に降り注ぐ光を片手で遮りながら、ニアは武舞台の上へとゆっくりと歩を進めた。


新しく土と砂を敷き直したばかりだが、直前の試合で飛び散り、武舞台の壁に染みついた血の匂いが、ニアの鼻を強く刺激した。久しぶりに嗅ぐ、馴染み深い匂い……暗い朱色の錆が浮かぶ、錆びた鉄の匂い……


一歩一歩踏み出すごとに緊張が高まっていた心が、そのぼんやりと漂う闘争の香りを嗅ぐと、まるで矛盾するように、次第に落ち着きを取り戻し始めた。


「おお! ドロコの闘士が本当にいたじゃねえか! しかしドロコってのは元々小さいのか? 思ったよりずいぶん小せえな? さあ、このドアジュにまた一つ勝利を献上してくれるドロコの闘士、早く武舞台の中央まで来いよ!」


巨大な鉄兜(てつかぶと)に響き渡る声の主、ドアジュがニアに向かって叫んだ。


兜の目部分には五つの丸い穴と、その周囲に十二の小さな穴が並んだ独特の意匠(いしょう)が刻まれていた。厚い鉄板が頭全体から首までを覆い、視界は狭いが顔と目は完全に守られている。継ぎ目のない滑らかな金属表面の下に、ドアジュの頭は完全に隠されていた。


長い柄の先に、丸く平たい南瓜(かぼちゃ)のような形の大きな鉄塊を嵌め込んだ独特な鉄槌を右手に。長く鋭い棘が生えた盾を左手に。右肩には厚い鉄板を当てた肩当てを着けていた。


右側に比べて左肩は防御を放棄したように、日焼けした濃い色の肌が露わになっていた。胸当ても身に着けていない。暗い土色の肌と小柄な体躯(たいく)に似合わず、異常に太く発達した前腕と肩の筋肉。太ももから膝までを覆う鉄板入りの靴。


不均衡(ふきんこう)で荒々しい姿のドアジュが、ゆっくりと歩み寄ってきたニアの前に立ちはだかった。


「ニア・カラゴンだる。よろしく戦おう。」


ニアがドアジュに挨拶した。ついに、待ち望んでいた一対一の、真の闘士同士の決闘。獣との戦いではなく、名誉と技を競い、観衆の歓声と拍手を全身で浴びる場所。これまで何度も夢の中で描いてきたその場所に、今、自分は立っている。


だからドアジュに言葉を掛けるニアの声は、わずかに震えていた。


「へっへっへ。よし。よろしくな、ニア・カラゴン。俺の名はドアジュだ。ドアジュ・ラマヌサ。」


ドアジュは鉄槌を高く掲げ上げ、地面に力強く叩きつけて挨拶を返した。


「それでは両闘士、対決を開始せよ!」


試合開始を告げる声とともに、闘技場内に太く低い角笛の音が大きく響き渡った。


「期待して見守ってくれている観客たちに、失望させてはならねえぞ。ニア・カラゴン!」


——ドゥンッ!


ドアジュの言葉が終わるのと同時に、ニアの頭上に鉄槌の濃い影が落ち、一気に頭めがけて叩き下ろされた。


ニアは素早く鞘の留め具を足で蹴り飛ばし、剣を抜くと同時に身を翻して攻撃をかわした。


「おお! これはかなりの腕前だな。その小さな体躯に似合わず動きが速い……。確かに闘士との対戦経験はないと言っていたはずだが。」


いつの間にかドアジュの右腕を覆っていた厚いガントレットの金属が深く斬り裂かれ、隙間から血が滲み出していた。内側にめくれ上がった鉄板の間から、鮮明な刃の跡が刻まれた皮膚が見えた。


「へっ。ガントレットがなかったら、腕ごと斬り飛ばされていたな。」


ドアジュは裂けたガントレットから滴る黒赤色の血を見て呟いた。


攻撃の瞬間こそが、一番大きな隙が生まれるとき——


誰も教えてくれなかったが、数え切れないほどの試合を見てきたニアは、その理屈を体に染み込ませていた。そしてその剣術が、今、ドアジュの腕に傷を刻んだ。


『もっと速く……もっと速く……。剣も、俺の動きも、もっと速く。』


控室で十分に体を温めてきたはずなのに、ニアの腕と脚はまるで足枷をはめられたように重かった。


「それじゃあまた行くぜ! うぉぉむ!」


ドアジュがニアに向かって突進してきた。再び頭上から地面めがけて打ち下ろされる鉄槌。


ニアは軽やかに地面を蹴って後退し、攻撃をかわす。


続く第二撃。打ち下ろした鉄槌を素早く持ち上げ、右に振りかぶり、右足を踏み込んで放たれた一撃は、最初のものよりも遥かに速く、猛烈だった。


だがニアは素早くドアジュの左側に飛び込み、これもかわした。そしてかわすのと同時に、長い両手剣がドアジュの太ももに届きかけた瞬間——


「はっ! 引っかかったな!」


豪快な叫び声とともに、尖った鉄棘(てつとげ)の付いた盾がニアに襲いかかった。


筋肉隆々の腕の力を乗せた盾の攻撃。本来の防御ではなく、飛び込んでくる敵を邀撃(ようげき)するような突進攻撃だった。


「くっ!」


急いで剣の向きを変えて盾を受け止めたが、棘の先端がニアの肩と腕に深く食い込んだ。


着ていた鎧は棘を防ぎきれず、開いた穴から赤い血がにじみ出ていた。


「普通なら肩を貫通するはずだったが……ドロコの鱗は頑丈だな!」


盾の棘先に付いたニアの血を見て、ドアジュが言った。


「それじゃあまた行くぜ。よく耐えてみろよ、ドロコ!」


ドアジュは響き渡る叫び声を上げながらニアに向かって駆け出した。


左手には棘付き盾、右手には鉄槌。休みなく続く猛攻。


『左手の盾を絶対に忘れるな。避ける。避けながら攻撃するだる。』


しかしドアジュの連続攻撃はニアに通じなかった。振り回される盾は虚空を切り、打ち下ろされる鉄槌は地面を抉る。外れた攻撃は、そのぶんの代償(だいしょう)をドアジュ自身に払わせた。


ドアジュの腕、脚、脇腹……深くは斬れなかったが、血がにじむほどの傷が次々とニアの剣によって刻まれていった。


相手の攻撃をかわすと同時に生まれるわずかな隙を、的確に斬りつける正直で堅実なニアの剣術に、ドアジュの体は少しずつ削られていった。


避けられない攻撃は受け流し、隙が短すぎるなら無理をせず次の瞬間を待つ——その剣術が、兜の中でドアジュの額に太い汗を浮かべさせた。


獣相手や集団戦では目立たなかったニアの剣術が、ドアジュを相手に初めて本領を発揮し始めていた。まだ粗削りではあったが、着実に相手を追い詰めていた。


『これは……まいったな。確かに闘士になってまだ日が浅いと聞いていたが……』


兜の中で苦笑いを浮かべながら、ドアジュはニアの動きを見据えた。


『俺の間合いに慣れてきやがった!』


戦いながらも、この小さなドロコの闘士は剣の速度を上げ、かわしと反撃の動きをより鋭く、速く変えていった。


『もう、余裕をかましている暇はねえな。』


ドアジュは力を込めた鉄槌を斜めに叩き下ろした。


——ゴォンッ!


地面が大きく抉れ、土埃が巻き上がった。


ニアは顔を覆って後退し、その隙にドアジュも距離を取った。


「このドアジュの真の鉄槌を見せてやるぜ!」


両腕を天高く掲げると、闘技場全体が観衆の歓声に包まれた。


ドアジュが腕を下ろすと同時に、左手の盾を右手の鉄槌の先に重ね合わせた。盾の部位が折り畳まれ、鉄槌を包み込むように柄へと集まり——四方八方に棘が突き出した、巨大な合体鉄槌が完成した。


「これでようやく振り回しやすくなった!」


軽くなった左手を地面に伸ばし、再び拳を強く握り締めると、ドアジュの肌が黒光りし、筋肉が赤く膨れ上がった。


「ぐぁぁぁっ!」


抑えきれない力を爆発させ、両手で巨大化した棘付き鉄槌を振りかぶり、地面に叩きつけた。棘が土に刺さるが、軽く引き抜き、何度も虚空に振り回す。


「さあ! もう一度始めようぜ、ニア・カラゴン!」


ドアジュは高く跳躍した。両手で鉄槌を頭上に掲げ、全身の体重を乗せてニアめがけて叩き下ろす。


『もっと大きな武器は、より遅いだる。』


ニアは横に回り込んで攻撃をかわした。しかしその刹那(せつな)の油断が、大きな代償を招く。


「ぐえっ!」


かわしたと思った瞬間、巻き上がった土埃の中から、信じられない速度で棘付き鉄槌がニアの眼前まで迫っていた。


急いで剣を立てて受け止めたが、衝撃は強烈だった。鈍い金属音とともに、ニアは短い呻き声を上げながら土の上を滑るように押し出され、バランスを崩して転倒した。


『危なかった……かろうじて防いだが、危なかっただる。』


土埃の中で素早く立ち上がり、姿勢を整えた。観衆の歓声と、笑い声混じりのドアジュの足音が近づいてくるのが聞こえたからだ。


考える時間はない。立ち上がったニアの目の前に、すでにドアジュが迫っていた。


「続けようぜ。ドロコ!」

これこそ男の武器! 合体武器!

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