54話 赤い鱗のドロコ (3)
フムシャの準備に少し時間がかかりそうだと店員が言ったので、代わりに出されたハーブの葉が浮かぶ温かいお茶をニアは静かに持ち上げ、口元に運んだ。そして周囲のキシャの羊の様子をゆっくりと見回した。
白い湯気が立ち上るスープを受け取り、喜びに満ちた笑みを浮かべてパンに浸して食べる客、バターと卵を加えて炒めたご飯の上に薪火で焼いた鶏の肉を乗せて食べる客、一方の手で本を持ちながら小さなカップに注がれた熱い飲み物を飲んでいる客。
それぞれの料理と飲み物を楽しみながら一日を始めている客たちの様子を一度眺め、料理の炎が立ち上る厨房の方へ視線を移して、そこを眺めながら自分が注文したフムシャという名前の料理は、あの中のどれだろうか?と思いながら時間を過ごしていると、ニアを席に案内した店員が再びニアに向かって近づいてきた。
「ご注文のフムシャ3人前とパン、それにレモンを入れた冷たいレモン水です。3人前を一人でお召し上がりになるとおっしゃったので、大きな器にまとめて盛りましたが、よろしいでしょうか?」
「うん。いいだる。」
店員がニアの前に、茶色と赤色の調味料が溶け込んだ肉汁と肉が入った巨大な楕円形の器を置いた。そしてニアの頭よりも大きな平たいパン3個と、カップの表面に小さな水滴が結露するほど冷たいレモン水が入った大きなカップを置いた。
「それではキシャの味を、ゆっくりと、そしてたっぷりお楽しみください。」
店員がニアに軽く挨拶した後、首に巻いたキダシをもう一度整えてから、再びキシャの羊に入ってきた客を迎えに走っていった。
「ふあぁ! おいしそうな料理だる!」
柄が太く底が深い大きなスプーンを手にしたニアが、濃厚なフムシャの肉汁を一匙すくって味わった。小さなサイズの玉ねぎとじゃがいもの欠片が肉汁とともに口の中に入り、濃い味の肉汁とじゃがいものコク、玉ねぎの甘みがニアの口の中で調和する。
「うぅぅん! おいしい! 今度は肉を食べてみるだる!」
ニアが手を伸ばし、フムシャが入った巨大な器の真ん中に置かれた大きな肉の塊をフォークで刺して、すぐに口元に運んで味わった。
尖った歯を使う間もなく、舌で口の中の肉を上顎に軽く押しつけただけで、肉の繊維がすっとほぐれて散るほど柔らかかった。淡白な肉の風味が口いっぱいに広がり、肉に染み込んだ調味料と混ざって唾液腺を刺激した。
フムシャの肉の味に目を見開いたニアが、左手にはスプーンを、右手にはフォークを握り、目の前のフムシャを食べ始めた。肉汁をすくって飲み、もう片方の手では大きめに切られた調味料の染みた肉の塊をフォークでプスプス刺して口に運んだ。
「ふぁ! フムシャ、フムシャ! 味のいい料理だ! 今度はパンも一緒に食べてみるだる!」
手にしたフォークとスプーンを置き、大きなパンを手でちぎってフムシャの汁に浸して食べてみる。濃い赤色の汁がパンに染み込み、淡白でコクのあるパンの味に胡椒の刺激的な香り、塩の塩辛さとライオンヘッド豆の辛みが混ざって新しい味となり、ニアの口の中をいっぱいに満たした。
パンを浸して食べるだけでは満足できない。さらに大きくパンのかけらをちぎり出し、平たいパンのかけらの上にフムシャの羊肉の塊、汁とともにすくった豆とじゃがいもを乗せて口の中に運ぶ。頰がぷくっと膨らむほど口いっぱいに食べ物を詰め込み、噛みながらフムシャの味を味わう。そしてレモン水を飲んで口の中をさっぱり洗い流す。
「くぅぃぃぃ! 最高だる!」
冷たいレモン水の爽快感が喉を通って落ちていく。再び始める。
パンのかけらをまたちぎり、その上に羊肉と具材までスプーンいっぱいにあふれそうにすくって乗せて食べる。
肉が柔らかいのでフォークさえ必要ないことがわかった。ちぎったパンのかけらを手のひらに平らに広げて置き、その上にフムシャを一匙すくって乗せて食べるのをやめられなかった。スプーンに載る無秩序な組み合わせがパンに乗るたびに、その味が変わる。
ライオンヘッド豆が多く載れば口の中がピリピリし、大きなじゃがいもの塊が乗ればコクが増し、時にはスプーンからはみ出して垂れそうな大きな羊肉の塊が乗れば、調味料の染みた独特の肉の味が口の中を楽しませる。
一つの料理の中で感じられる多彩な味。どう食べてもフムシャの味だが、少し辛めのフムシャ、甘めのフムシャ、じゃがいもとパンに染みたコクのあるフムシャ。
夢中で手を動かしながらニアが料理を食べた。今ではスプーンさえ使わない。手にした平たいパンのかけらを手のひらに握り、器に入った肉を包むように掴み、パンを汁に少し浸し、肉とともに豆とじゃがいも、玉ねぎを一緒にすくい上げて食べる。
今では残ったパンも一つ。レモン水でピリピリした口を落ち着かせ、口の中のフムシャとパンを噛みながら鼻から吐く息に、口の中で噛み砕いたライオンヘッド豆の辛い香りと甘い肉汁の香りが感じられる。
「ふぅぅ~ふぅ! 味がいい。フムシャ、すごくおいしいだる。」
残った一つのパンがあっという間にニアの口の中に消え、山のように積まれていたフムシャの大きな肉の塊はなくなり、今ではその器の中に汁だけが残った。
ニアが両手を使って器の両端を掴み、口に向かって傾けて残ったフムシャの汁を残さず飲んだ。あれほど大量のフムシャをどれほど素早く食べたのか、器にはまだ料理の温もりが残っていた。
「お! お客さん! それを全部お召し上がりになるなんて、すごいですね。私なら半分も食べられずに鼻から噴き出るくらいの量ですよ。一体その小さな体に、あれほどのフムシャがどこに入ったんですか?」
ニアの向かいに座る客たちに料理の入った器と飲み物の入った杯を置いた後、ニアの卓に店員が近づきながら言った。
「ありがとうだる。腹いっぱいフムシャを食べただる。腹がぱんぱんだる。」
ニアが片手でお腹を叩きながら、フムシャをおすすめしてくれた店員に感謝の挨拶を伝えた。
「それでもデザートはお召し上がりになるべきですよ。甘いデザートは消化を助けますからね。」
店員が空になった器たちを一か所にまとめながらニアに言った。
「それなら食べるだる。今度もおすすめのデザートを持ってきてくれだる。」
ニアがぱんぱんになった自分のお腹を一度眺めた後、長く息を吐きながら店員に言った。
「はーい! それでは、すぐにお持ちします。少々お待ちください。」
体を素早くくるりと回してニアから離れ、厨房に向かった。少し後、店員が戻ってきてニアの前にデザートの入った小さな皿と、湯気が立ち上る熱い飲み物の入った杯を置いた。
「さあ! 蜂蜜漬けのイチジクとバラ水と羊乳を使ったプディング、それに濃い紅茶です~! そしてこの蜂蜜棒は紅茶に入れてかき混ぜて紅茶を甘くして飲んでもいいし、飴のようにそのまま食べてもいいですよ。」
「うぅん! ありがとうだる。」
ニアが皿の横に置かれた小さなスプーンを使って、ねっとりした蜂蜜に包まれたイチジクをすくって口に入れた。
舌の上に置かれたイチジクを歯の上に移してゆっくり噛む瞬間、蜂蜜と混ざったイチジクの香りが口の中から鼻に向かって上がってきた。
舌がじんじんするほどの濃い蜂蜜の甘み。続いて紅茶の入った杯にふーふーと息を吹きかけて口元に近づけ、冷まして一口飲む。濃い紅茶の苦みが甘みでいっぱいだった口の中を整えてくれる。
『蜂蜜棒を紅茶に入れてみるだる。』
ニアが小さな棒の上に黄金色の結晶のように固まった蜂蜜棒を紅茶に入れてぐるぐるかき混ぜた後、半分溶け出した棒の蜂蜜を口に入れて蜂蜜の塊を棒から剥がした。
『くぅぃぃ! 今度はプディングも食べてみるだる。』
丸い小さな器に入った白いプディングを一匙すくって食べる。蜂蜜の強い甘みとは違う柔らかな甘みが舌の上で溶けて口の中を回り、喉を通って落ちていく。
スプーンで食べるのは物足りないと感じたニアが、プディングの入った器を逆さまにして口の中に流し込んだ。残った蜂蜜漬けのイチジクと紅茶を飲み干すのには、それほど長い時間はかからなかった。
「ふあぁぁ~ ごちそうさまだる。」
背もたれがないので体を完全に回して卓に背を預け、ニアがお腹いっぱいの満足感から出るため息を長く吐いた。
*****
啄木龍。イクスターンのドワーフたちが時々ドロコを呼ぶ時に使う言葉だ。ドロコの顎と口の中の器官から出る木を叩くような音を出す様子から、そのあだ名が付けられたと言われている。
トントン。トン。タン! タンタン。トン。トン。トド。タン タダン。トン!
お腹いっぱいにおいしい食べ物を食べ、キシャの羊を出たニアが、啄木龍というあだ名にふさわしいドロコたちだけが出せる独特な音を出しながらグランドマーケットの道を歩いていた。
「Kaaa~Taaa~da~rrr~TaTaTaTa~TaTar~ TaTa。」
そしてその音に合わせてニアが歌を歌い始めた。歌声とともに道を歩くと、その足取りが一層軽くなる。ドロコたちの頭の中の楽器はいつでもドロコと共にある。
頭の中の器官だからではなく、誰かの誕生を祝う時も、新しい縁の始まりにも、偉大な赤い龍カタダルを讃える時も、戦場の熱気が極限に達する時も、音楽のような音を出しながら歌う。大切な誰かを失う時も共にある。頭の中のこの楽器と別れるのは死以外にない。もちろんおいしい食べ物を食べてお腹がいっぱいで気分がいい時も、今のニアのように陽気に演奏と歌をしながら道を歩く。
そうして歌いながら歩いてドラムの鍛冶屋に着いた。
鍛冶屋に現れたニアの姿を見たドラムが、作業台の上に置かれたニアの両手剣を持ち上げ、作業が終わったと言いながらニアに手渡す。
整備が終わった自分の大切な剣を受け取ったニアの表情が明るい。『一度試してみますか?』というドラムの言葉とともに、長い丸太の欠片をニアの前に置いた。
―スパッ、シュッ―
よく研がれたニアの両手剣が丸太を斬り裂く音と空気を切る音が響き、斬られて裂けた丸太が床に倒れる。柄を巻いた革の感触がざらざらしているが、手が痛むほどではない。
「うぅん! 気に入っただる! ありがとうだる、ドラム!」
「クヘヘヘ! いえいえ、いただいた分にちょっとだけ力を入れて仕事しただけですよ。」
ドラムが冗談めかしてニアの言葉に答えた。
「他の闘士たちにもドラムの鍛冶屋をおすすめするだる。ドラムが紹介してくれたキシャの羊もおすすめするだる!」
ニアが自分の剣をまだあちこち空中に振り回しながらドラムに言った。
「お~そういえば、食事はおいしく召し上がりましたか?」
「うん! おいしく食べただる。試合が終わったらまた行きたいくらいだる。」
「へへへ! 気に入っていただけたならよかったです。」
「それじゃ私は闘技場に戻るだる。」
ニアが長い鞘を腰に下げ、手を振って挨拶しながらドラムの鍛冶屋を出て言った。
「はい! 絶対勝ってください! そしてまたいつでも来てください!」
ニアを見送るように数歩ついて歩いたドラムがニアに挨拶した。
「今晩は俺もキシャの羊に行ってみるか……ニオミラに一杯おごる約束もあるしな。クフフフ。」
ドラムが空に向かって腕をぐっと伸ばして伸びをした後、金床に向かって歩きながら言った。
「よしよし! それじゃ、おいしい食事の時間まで仕事するか!」
フムシャ」3人前をあっという間に平らげるニアの食べっぷり、いかがでしたか? デザートは別腹なのは、ドロコも同じみたいですね




