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48話 レバドスの平原 (6)

「えっ? そういえば、八角闘技場(はっかくとうぎじょう)に行く道を聞いてなかったな?」


グラベルがふと立ち止まり、歩いてきた道を引き返し、トレア商隊の八角闘技場への道を釣り具店の主人に尋ねてから、やっと独特な食べ物の香りと音楽が響くグランドマーケットの中心街へと向かう道に入ることができた。


そして、そんな強烈な日差しを背に受ける黒い影のような巨大な建造物が、グラベルの視界に入ってきた。


「うわあ! これは一体……」


ざっと見積もっても10キュビト(5m)から15キュビト(7.5m)ほどはありそうな巨大な馬車が、グラベルの眼前で佇んで(たたずんで)いた。


その大きさに相応しい重厚な馬車の車輪が見えたからこそ、途方もない大きさの馬車だと分かったが、車輪がなければ誰が見ても馬車だなどと想像すらできない、まるで城のような馬車を目の当たりにしたグラベルは、歩みを止めてその場に立ち尽くし、その光景を眺めていた。


木板と金属板、鉄製のリベットがそれぞれ継ぎ接ぎ(つぎはぎ)のように加えられた外壁は、一目で改造と修理が繰り返された痕跡が歴然(れきぜん)としていた。


馬車は複数階層で構成されており、上層と下層が絡み合うように重なり合っていた。外壁のあちこちには木製の狭い階段や梯子、斜めに置かれた傾斜通路が複雑な網のように絡みつき、各階を繋いでいた。外壁に沿って張り巡らされた木板の通路には天幕や垂れ幕がかけられ、商売の気配を漂わせ、その下では客や商人がびっしりと行き交い、絶え間ない話し声と値切り声が混じり合っていた。濃い茶色のローブを着た獣人たちの商隊員たちは、各階に散らばって休む間もなく動き回り、荷物を運んだり客に応対したりしていた。


上層の欄干(らんかん)の端では滑車装置(かっしゃそうち)がガラガラと音を立てて大きな木箱を吊り上げており、下では別のローブ姿の商隊員が大声を張り上げ、手振り身振りで指示を出していた。ある区間では誰かが樽を転がし、別の場所では品物の値切り声と笑い声が混ざり合って溢れ出ていた。


あちこちの梯子や即席で組まれた板の道は二階、三階へと続き、人々の移動を生み出し、一部の客たちは欄干に身を寄せて下層を眺めたり、馬車に付属した小さな露店で珍しい品物を興味深げに吟味したりしていた。馬車全体が、巨大な浮かぶ市場のように賑やかで活気に満ちていた。


「トレア商隊の馬車を初めて見たのかい? クックック。」


大きく丸い黄色の目。鋭い鋸歯(きょし)の歯、ぬめぬめした質感の皮膚、細い指の間に張られた水かき(みずかき)


グランドマーケットの通りを歩きながら見た魚人の外見をした獣人が、いつの間にかグラベルの傍らに近づき、声を掛けてきた。


「ええ。グランドマーケットに来たのは今回が初めてなので。」


「ほうほう? それじゃあ、俺が説明してやるよ。ああいう大きさの馬車が八台あるんだぜ……。外側には店が階ごとにあちこちにあって、その内側にはトレア商隊の名物である八角闘技場があるんだ。」


首を曲げて突き出すような姿勢の魚人が、水かき付きの尖った小さな爪の先でトレア商隊の大型馬車を指しながら言った。


「闘技場か……。名物だというなら、ぜひ見ておかないとな。」


「俺もちょうど向かうところだったから、一緒に行こうぜ。あ、そうだ。俺はローサン族のカロットだ。」


「あ……人間族(にんげんぞく)? 人族……のグラベルです。」


「パハハハ! 愉快なドランケ(人間)だな!」


グラベルがカロットが差し出した手を軽く握って握手し、拙い自己紹介を終えた。そして二人は八角闘技場へと足を運んだ。


カロットは、グラベルが自分を人間族だと名乗ったのが気に入った。大抵の人間たちは自己紹介の際に自分が人間族だとは言わない。


大陸の人口の多くを占める種族だから当然と思うかもしれないが、傲慢さと謙虚さの違いは、会話の態度や小さな一言の差から生まれるものだ。だからこそ、グラベルのそんな拙い自己紹介はカロットに良い印象を残した。


二人が巨大な八角闘技場の馬車に近づくと、大きな文字が書かれた木の看板の前に大勢の人々と獣人たちが立っていた。



[ 二部 試合対戦表 ]


-スクリーチャ vs 30人の囚人たち-


-デュバラン vs 7人の闘士-


-ニア vs ドアジュ-


「おおお……期待してた試合が二部に集中してるじゃないか。デュバランの試合と、小さなドロコまで……これは見応えがありそうだぜ。」


カロットが闘技場の入口の対戦表を見ながら呟いた。


グラベルとカロットは木の看板を通り過ぎ、八角闘技場の入口へと歩いていった。


フードを鼻まで深く被ったトレア商隊の門番に入場料の銀貨5枚を支払い、入口を抜け、暗い馬車内の軋む音を立てる木板を踏み、両肩が廊下の壁に触れそうで触れない狭い廊下を通ると、頭上の木製天井から埃の雨がパラパラと降り注ぎ、歓声と歓呼の声が聞こえてきた。


「おおおお! 今日は観客が多いみたいだな! 楽しみだぜ、楽しみ。」


カロットが服に降り積もった埃を払い落としながら階段を上り始めた。階段の終わりまで上がり、再びカロットとグラベルは狭い馬車内の廊下を歩いていく。


少し歩くと明るい光が見える出口に出ると、先ほど聞こえていた観衆の歓声がより鮮明に耳に響いた。


「うわあああ!!!」


「うおおおお!!」


「逃げるな!」


「ハハハハ。あいつ見てみろ! 怖がって動けなくなってるぜ!」


「今焼いた肉干し(にくぼし)ですよ~。一枚5銅貨~ 5銅貨で甘くて香ばしい肉干しですよ~。」


「スクリーチャって奴、そんなに恐ろしい奴だったのか?」


「デュバランはいつ出てくるんだよぉ~」


「黒獅子はいつ出てくるんだよぉ~!」


無数の声が八角闘技場の中心に向かって歓声を上げていた。そして大小さまざまな声が混ざり合い、闘技場内は活気で満ち溢れていた。


さまざまな種族と多様な服装の人々が混ざり合って座り、声を上げながら試合を観戦していた。


一方で、闘技場の観客席を回る食べ物を売る商人を呼び止めて食事を摂る観客たち、闘技場内の出来事には全く興味がないように観客席の隅に集まり、互いの酒杯を満たしながら酔っぱらっている集団も見えた。


「こっちに座って見ようぜ!」


「ええ。」


カロットが観客席の数段下り、グラベルを手招きして呼んだ後、二人は席に着いた。


「少し遅れたか? 第一試合が始まってから時間が経ってるみたいだな……。まあ、これを見に来たわけじゃないから関係ないけどよ。」


カロットの言葉を聞きながら、グラベルが闘技場の中心に向かって首を回して見つめた。


闘技場の中心の床には黒赤い血痕が土に混ざって染みつき、黒い色の怪物が闘技場を駆け回っていた。


馬のような四本の脚の上に頭のない人間の胴体が合わさったような怪物だった。頭はないが、胴体に付いた大きな口から奇怪な声を上げながら、地まで垂れ下がった長い腕を使って逃げる囚人たちを掴み、地面に倒して踏み潰したり、そのまま長い腕の先の大きな手で掴んだ囚人を握り潰して殺したりしていた。


「ケヘヘ~ 囚人たちの中にこんなのを放っておいても面白くねえよな~。だから賭け金も張られない試合は退屈なんだよ。なあ、そう思わねえか、グラベル?」


「ハハ。ええ、そうですね。」


カロットの問いに答え、グラベルは首を回してスクリーチャの動きに集中した。


スクリーチャが一人の囚人を襲うたびに、闘技場に大きな歓声が爆発する。


そんな歓声に飲み込まれ、絶望に満ちた悲鳴と苦痛に歪んだ囚人たちの泣き声は、闘技場外の観客たちには届かなかった。


スクリーチャが闘技場内で叫び声を上げながら、逃げる囚人たちを狩るように追いかけ、駆け回っていた。


闘技場内には死体があちこちに転がり、地面に落ちたさまざまな武器の中から、古びた槍を手に震える脚を抑えきれず、槍を突き出してスクリーチャに近づく一人の囚人が、怪物に届かない槍を落として潰された体を力なく地面に落とすと、残り少ない囚人たちが四散して逃げ、闘技場の壁にしがみついて哀願(あいがん)しながら叫んだ。


「お願いだ! 早く引き上げてくれ! このままだとあの怪物が俺たちを皆殺しにするぞ! 皆殺しだ! お願い! お願いだ!」


涙ぐむ囚人の哀願にも、壁の上に座る観客たちは笑いながら、彼の後ろを指さした。


全身の毛が逆立つようなスクリーチャの不気味な悲鳴と共に、囚人の体が壁に押しつけられて潰された。


血が噴き出し、怪物から逃げる囚人たちの泣き声混じりの叫びが観客たちに聞こえた。


「そろそろ終わりそうだな。どうだ? 面白くねえだろ? 少なくとも闘技場なら闘士たちが出てくるべきだと思うんだがな、こんなのを好む奴らもいるからよ。」


カロットが不満を交えた口調で顎を支え、姿勢を正しながらグラベルに言った。


「スクリーチャという怪物は初めて見ました。だから僕にとっては見物としては十分面白かったです。」


グラベルがカロットとの会話を交わしている間に、闘技場に残された死体たちとスクリーチャが前脚を踏み鳴らして叫んだ。


鼓膜を刺すような鋭い声に、近くの観客たちが皆両手で耳を塞ぐほどの大きな音だった。


怪物の咆哮(ほうこう)に混ざって、八角形の闘技場の片側の面の扉が開く音が聞こえた。壁面の巨大な板扉が開き、巻き上がった土埃の向こうに、銅色の金属鎧を着た男が闘技場内に入ってきた。


薄茶色の長い髪を束ねて結い上げ、窪んだ大きな目と角張った強靭な顎、身の丈は2キュビト(1m)ほどはありそうな男だった。


男が肩に担いだ武器は、槍と言えば刃の大きさと長さが両手剣に近く、両手剣と言えば柄の長さが長すぎる独特な形状の武器だった。


男は一瞬目を閉じて鼻で深く息を吸い込み、闘技場の片側に立つスクリーチャに向かって疾走を始めた。走る男の顔には笑みが満ちていた。怪物が自分の存在をより早く気づくようにと、大きく声を上げて笑った。


そんな男の願い通り、男を発見したスクリーチャが再び大きく叫びながら男に向かって走る。


「ああ! もう用済みの怪物をお片付けするか!」


言葉を終えた男がスクリーチャに向かって大きく一歩踏み出し、肩に担いだソウドランスを大きく振り回した。


武器の柄の端を掴み、大きな円を描くように振り回した男の一撃で、スクリーチャの胴体が裂けた。続いて再びスクリーチャの体を裂いて通り過ぎたソウドランスの刃が、再び怪物の体の上から突き刺さった。


二歩の歩みと二度の攻撃。スクリーチャの体が地面に向かって裂け、分かれて落ちた。


「ワハハハ! 怪物は片付けたぞ、さあレバドス平原の観客たちよ、このデュバラン様の戦いを、闘士の戦いを見せてやろう!」


デュバランが豪快に笑いながら武器を高く掲げて叫ぶと、闘技場の観客席から爆発するような大きな歓声が沸き起こった。


嵐の中に立つような拍手と歓声の雨を浴びながら、目を閉じて柔らかな笑みを浮かべ、空を見上げて闘技場の中央に立ち、自分に向けられた観客たちの熱狂を楽しむデュバランの姿が見えた。


拍手と共に爆発した歓声を聞き、デュバランが手を振ってそれに応えた。その間に、いつの間にか闘技場内に入ってきた掃除人たちが新しい砂と土を撒き、地面に置かれた裂けたスクリーチャの死体と囚人たちの死体を片付けていた。


拍手が静まると、デュバランが再び観衆に向かって話し始めた。


「さあ! それじゃあ、今日このデュバランと戦う七人の馬鹿者たちを紹介してやろう!」


デュバランの叫びに合わせて、闘技場の片側の扉が開いた。そしてその開いた扉を通って入ってくる七人の闘士たちがいた。

巨大な八角闘技場と、それを包み込むグランドマーケットの喧騒を描いてみました。活気に満ちた市場の裏側で繰り広げられる残酷な試合の対比を感じていただければ幸いです。

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