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47話 レバドスの平原 (5)

翌日。グラベルは片手に小さなエビが盛られた緑色の葉を重ねて作った皿を持ち、グランドマーケットの通りを歩いていた。


通りは陽が昇ってから時間が経っていたが、馬車と馬車の間を長い布でつなげてあったため、日光を避けることができ、陽を遮る布の色によってその下にさまざまな色の影が落ち、独特の雰囲気を醸し出していた。


昨夜、リブとケインが馬車に戻ってきて、グリックがグランドマーケットにいることを他の仲間に伝えた。もう石像を狙わないと言っていたそうだが、相手は金に動く善悪の区別がない者だとディアラは知っていたので、時間を置いて慎重に状況を見極めた後、グランドマーケットから離れることにした。


『イリスが馬車を守ってくれているから、グリックが馬車の位置を知って襲ってきても心配はないんだけど……一人で歩き回るのはちょっと申し訳ないな……』


グラベルはしばらく馬車を一人で守っているイリスの姿を思い浮かべた。


『帰る時にこのエビを買って行こうか。それともさっきの水槽にロブスターもいたし、それもいいかもな。』


少し前、グラベルが一人で通りを歩いている時に出会った、馬車の中央全体が厚いガラスの壁でできた巨大な水槽馬車がある馬車食堂で、蒸したエビを一つ摘まんで食べながら考えた。


食堂馬車の水槽の中にはエビとロブスターでいっぱいだったが、客の注文に応じてすくい上げたエビやロブスターをその場で何の調味料も加えずに蒸し上げ、馬車の横に立ててある太い茎の木の葉を一枚()がして、店員が器用に皿の形に折って、蒸したエビとロブスターを客に売る屋台だった。


グラベル以外にも、水槽馬車の前を通りかかった数人の客たちがぼんやりと口を開け、水槽の中のエビたちの動きを忙しく目で追いながら、水槽を眺め、ゆっくりと歩みを進め、何かに取り憑かれたようにエビを注文していた。


『こっちの方に行けばグランドマーケットの中心部だったかな?』


いくつかの道に分かれた分岐点の中心で方向を見失ったグラベルが、周囲を見回しながら、昨日ディアンプが教えてくれたトレア商隊の八角闘技場に行くためにグランドマーケットの中心へ向かう道を探し回った。


『いっそ周りの店に行って聞いてみようか。』


道を尋ねるために近くの馬車たちを眺めている中、一つの馬車店がグラベルの目に留まった。


普通の馬車より三、四倍はありそうな大きさの馬車は、他の馬車とは違い、普通の村や街では見られない形の馬車だった。大きな屋根と複数の大きな窓が見え、馬車の内側へ続く大きな扉には大きな木の階段が置かれていた。そして馬車のあちこちには緑の葉の小さな植物が生えた植木鉢があり、屋根の上には長く伸びた芝のような細い草が屋根全体を覆っていた。


馬車の独特な外観もさることながら、グラベルの足を引いたのはその馬車の前に広がった屋台だった。


グラベルが近づき、屋台の一角の椅子に深く体を埋めて寄りかかって横になっている、犬か狼かわからない外見の獣人(じゅうじん)に声を掛けた。


「いい釣竿ですね!」


グラベルが馬車の前の陳列台に立てかけられたさまざまな大きさと長さの釣竿たちを見ながら、店の主人に声を掛けながら近づいた。


「いらっしゃいませ。スネークウッド、ランスウッド、パープルハート、グリーンハート……さまざまな素材の釣竿があります。お探しの釣竿はございますか?」


釣具店の主人が座っている椅子からグラベルを見上げながら言った。


「おすすめしていただけますか?」


グラベルがプロイクトンで暮らしていた間、時折川辺を通りかかった時、釣竿を持って魚を釣る釣り人たちを見て、『あんなのんびりした時間を過ごすのもいいなあ』と思ったことがあった。


しかし、当時はそんな余裕はなかった。新世界での適応、情報の収集、毎日続く冒険者ギルドの依頼、空中荘園の探索。慌ただしい日々が続き、いつの間にか釣りをしてみたいという思いも心の片隅に沈んでいた。


そして時間が経ち、再びこのグランドマーケットの屋台に並んだ釣竿たちを見た瞬間、再びあの時の気持ちが蘇った。


「ふむ……見たところ、長年釣りをした釣り人って感じじゃないし……。それじゃあ……」


釣具店の主人が席から立ち上がり、陳列された釣竿たちを眺めながら歩いた。


「さっきも言ったけど、ここにスネークウッドで作った釣竿やグリーンハートで作った釣竿がいいんじゃないかな、どうです? スネークウッドは3金貨、グリーンハートは5金貨です。」


「二つの違いは何ですか?」


グラベルが店の主人が手で指して通り過ぎた濃い茶色の釣竿と、淡い緑が混じった明るい茶色の釣竿を指しながら、店の主人に尋ねた。


「スネークウッドは柔らかくよくしなるから、小さな当たりも逃さないし、湿気(しっけ)にも強くて保管がしやすいんです。グリーンハートはちょっと固いけど、すごく丈夫な木だから、大きいのが食いついても折れる心配がないのが利点ですね。」


説明と共に再び釣竿を指しながら、店の主人が説明を続けた。


「値段が高いと思ってらっしゃるでしょ? 他の釣竿に比べて何倍も高い値段だから、そう思われるのは当然です。でもこれ見てよ。こうして釣竿の(ふし)が分離して、今腰に差してる剣より短くなるでしょ? それにうちの店のすべての釣竿は全部俺の手を通したものだから、品質は安心してくださいよ。見習いや弟子に客に売る物を作らせる他の工房の品とは次元が違うんですよ。」


釣具店の主人の言葉が速くなり、グラベルに自分が作った釣竿に付いた高い値段の理由と、物を作る職人としての自負(じふ)を覗かせた。


どうやら客のグラベルが釣竿をじっくり眺め、悩むように顎に手を当てている様子が、品物は気に入ってるけど値段で迷ってるような仕草に見えたため、相手が最初に言った3金貨や5金貨という釣竿の値段を聞いても背を向けて逃げなかったのは、ある程度の金貨と物を買う意志はあるというサインだと店の主人は知っていた。


そんな時は値段を値切るなんて言うより、品物の品質と高い値段がついた理由を話すのがいいと思ったから、店の主人は休む間もなく客の前で釣竿についての説明を続けていたのだ。


「あそこにある釣竿は何ですか? 青い色の……。いや、紫が少し混じった青い色のあの釣竿ですよ。」


グラベルが陳列されている釣竿のうちの一つを指しながら言った。


ほとんどの釣竿には少ない量のマナではあったが、マナが宿っていた。店の主人が言った通り、高い値段がついた理由もその説明を聞く前、釣竿たちに宿っているマナの気配に気づいた瞬間から納得していた。


そして続く店の主人の言葉を聞きながら他の釣竿たちをしばらく眺めている瞬間、他の釣竿たちとは明らかに違うほど多くのマナが宿った釣竿がグラベルの目に留まり、その釣竿について主人に尋ねたのだった。


「ウィヴル・ネストっていう木で作ったものなんだけど……。つっ……。これがかなり珍しい木だからね。値段がちょっと……。いや、かなり出ちゃいますよ。」


「いくらですか? 値段くらいは聞いてもいいですよね?」


グラベルがにっこり微笑みながら言った。


「30金貨。ん……まあ、特別に2金貨くらい引いて28金貨でどうです! それに糸を巻く歯車(はぐるま)リールと釣り針の束も付けますよ。それらを入れる鞄も付けます。」


長い商売の経験が『目の前のこの客はこの品物を買う気だ』という予感を釣具店の主人の頭に掠めさせた。目の前の男は熟練した釣り人ではないようだったが、物を分かる目はある。だから値段も2金貨引いて他の用品まで付けるという破格の提案をしたのだ。


「買います。」


「え……? 本当ですか?」


迷いのない短い返事に店の主人が慌てる。一、二プンじゃない、30金貨、いや引いたから28金貨とはいえ、釣竿にかけるにはとても大きな金だ。


もちろん特殊な素材のウィヴル・ネストを使い、作るのに一季節かかる上、大陸一の釣竿職人である自分が自負を持って作った品だからその値をつける理由は多いが、そんな隠れた価値までもこの客は分かったのか? 釣具店の主人の心に小さな疑問が浮かんだ。


最高の釣竿だ、それを売る自分にも疑問が残らないように売らねば。『いっそこっちからそんな高い値段がついた理由を話そう。』心の決意をした店の主人が釣り糸を巻く歯車リールを長い革鞄(かわかばん)に入れながら、グラベルに声を掛け始めた。


「お客さんはこの釣竿の素材のウィヴル・ネストの名前の由来を知ってますか?」


「いや。さっきおっしゃった他の木の名前も今日初めて聞きましたよ。」


「それにデウシも初めて見たんですね?」


自分の尖った牙を見せながら、店の主人が言った。


「はは。ええ……」


「存分に見てくださいよ。28金貨の釣竿を買ってくれるお客さんなんだから、ちょっと見られたくらいで減るもんじゃないですよ。」


グラベルが袋に物を入れる主人の様子を見ながら言った。そして今日初めて出会ったデウシの外見を、失礼にならない程度に眺めていた。


人間とは違い、小さな前歯と大きな牙を持ち、全身には灰色がかった長い毛で覆われていた。二本足で立つ狼の姿だが、野生の狼が単に二本足で立ったのとは姿が違う。人間の手のように手が発達していて、細かな動きが可能に見える毛で覆われた指に鋭い爪がある形だ。あれこれ物を詰め込む釣具店の主人の手が慎重に動くのが見えた。そして物を詰めながらも言葉を続けていた。


「東の障壁の向こうのキルビアにはウィヴルっていう小さな飛竜がいるんです。このウィヴルっていう飛竜は、鱗の下の小さな器官から毒を噴き出すのが特徴の奴らですよ。そしてこいつらが巣にする木がウィヴル・ネスト、今その釣竿の素材になった木の名前のまんまですよ。本来は別の名前の木だったけど、その名前は忘れられて、人々はただウィヴル・ネストと呼ぶんです。この木以外じゃこいつらの毒に耐えられなくて枯れちゃうから、ウィヴルたちも選択の余地がないんですよ。クハハハ。」


大きな牙を見せながら、店の主人が再び説明を続けた。


「まあともかく、キルビアにはこのウィヴルたちを専門に狩る狩人たちがいて、彼らの話によると、たいていはウィヴルたちが巣で餌を食べてる時に捕まえるんだそうです。その時にウィヴルを捕まえながら巣にした木も一緒に伐って持ってくるんですって。」


釣具店の主人が少し言葉を止めて、顎の下を慎重に手で掻きながら言葉を続けた。


「そうして伐ってきたウィヴル・ネストの木は、俺たちみたいな物を作る職人に売る前に、木に染みた毒気(どくけ)を抜かないといけなくて、この時間が80日くらいかかるんですよ。アナランの実の種をすり潰して作った粉を水に混ぜて練り物を作ってウィヴル・ネストを包み、80日くらい土の中に埋めて毒気を全部抜いた後で、俺たち職人の手に渡るんです。」


店の主人はグラベルに話を聞かせながら、釣竿を分解して鞄に入れた。


「面倒な素材ですね。高い値段が分かりますよ。」


「クハハハ。分かっていただけるなんて、物を売る商人としても作った職人としてもありがたいですよ。長く使ってみれば分かると思いますが、ウィヴル・ネストは弾力性(だんりょくせい)に優れてて、湿気にも強く、冬の乾燥にも強くて割れませんよ。キルビアでは弓の素材として最高に評価される木だって言うんですから。」


長い革鞄の紐をぎゅっと結びながら、店の主人が言った。


「ここに28金貨です。一日でも早くこの釣竿を使ってみたいです。」


肩の一方に袋を掛け、もう一方の手で金貨を渡しながらグラベルが言った。


「いい道具が手に入ったら、早く使いたくなるよね。その気持ち、分かるよ……。あっ! アナランの油を入れ忘れた。すみません。ちょっとここでお待ちください、お客さん。」


慌てて後ろの馬車に駆け寄りながら、釣具店の主人が言った。そして戻ってくるまでそれほど時間はかからなかった。


茶色の無地の小さな瓶を持ってきてグラベルに渡し、10年に一度くらいは釣竿に塗ると保存と性能維持に役立つと教えてくれた。


その後も釣具店の主人はグラベルに、狙った場所に釣竿の弾力を使って遠くに釣り針と浮きを飛ばす方法。狙う魚によって使う針と糸を交換する方法を教えてから、やっとグラベルと彼の釣竿に別れの挨拶をした。

ついに念願の釣竿をゲットしたグラベル。新しい趣味が彼の旅路路にどんな彩りを添えるのか、次回もお楽しみに!

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